赤い星座出身系主人公モノ   作:シグこれ

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十話

「もう日が暮れたか……」

 

 暖かい場所に長くいたおかげで少しばかり火照った体を冷たい風が撫ぜていく。それが実に心地良い。

 リィンが学生会館に入った時はまだ夕方だったというのに、あの全てが紅に染まった世界は今は見る影も無く真っ暗で、インクをぶちまけたように夜は黒く染まっている。

 いくら春と言ってもやはり、日の短さも夜の身を切るような寒さもそんなにすぐには変わらない。

 

「……はあ、でも参ったな」

 

 リィンは一人ごちると頭をかく。

 

「結局、学食でトワ会長に夕食まで奢ってもらったし、本人はまだ生徒会の仕事があるって言ってたけど……」

 

 あの後、レイヴェルが教室から出て行くのと入れ違いにやって来たサラ。

 彼女に頼まれた学院生活を送る上での必須アイテムとやらを全員分受け取りに、学生会館二階の生徒会室へ足を向けたリィンはそこで、入学式の時に校門で出迎えてくれた少女と二週間ぶりに再会した。

 平民生徒の証である緑の制服に身を包んだ彼女――トワ・ハーシェル。

 迎える側だった事から一つ上の学年だろうとわかってはいたが、その容姿は改めて見ると、下手をすればレイヴェルやフィーよりも年下に見えた。だが実は、彼女こそがこの学院の生徒会長と聞いてリィンは思わず大声で叫んでしまうほど驚いたのだった。

 

 しかしその幼い外見とは裏腹に、この名門校の生徒会長というだけあって能力は確かな物――というより、教官達から頼りにされ、通常生徒がするような仕事で無くとも引き受けこなしてしまう程に優秀である。

 頼まれた学院生活必須のアイテム――Ⅶ組専用の学生手帳の編集も彼女が行ったのだ。

 学生手帳には戦術オーブメントの説明書も載っているわけだが、他の一年生とは違い、Ⅶ組は最新の戦術オーブメント――ARCUSだ。当然操作説明もかなり違い、今までと同じレイアウトは使えないがために、少し時間がかかってしまったらしい。

 それが渡すのが遅れた理由と謝罪されたが、本来ならⅦ組担当の教官であるサラがするべき仕事なのだ。リィンとしては、むしろ恐縮しきりであった。

 そして疑問に思い、尋ねてみた。それは明らかに生徒会の仕事の範疇を超えているのではないか? と。

 トワは答えた。サラ教官もいつも忙しそうだし、他の教官の仕事を手伝う事も多いから今更って感じかなあ? なんて答えを、特に苦にも思っていない表情で。

 

 そう。

 トワ・ハーシェルという少女を真に特筆するならば。

 途方も無くいい人であると言う事。

 それ一点に尽きるだろう――

 

(人は見かけによらないというのは、あの二人でよくわかったつもりだったが……やはり驚いたな)  

 

 特に片割れの赤い方を思い浮かべながら、灯りがともる生徒会室の窓を見上げてみる。

 今もあの大きな机にちょこんと座りながら、頑張っているのだろうか。

 あの小さな生徒会長は。

 

(まあ、これからはできるかぎり俺も手伝うし――)

 

 と、そこで。

 鳴り響いた呼び出し音に、リィンはARCUSを取り出す。

 何と言って出ればいいのやらと多少逡巡したものの、無難に自分の名前を告げればいいだろうとようやく耳に当てた。

 

「えっと……リィン・シュバルツァーです」

『グーテンターク。我が愛しの教え子よ』

 

 多少芝居がかった声と言い回しで聞こえてきたのは、リィンを生徒会に行くよう指示した人物の声だった。

 

『どうやら会長に夕食を奢ってもらったみたいね?』

「…………」

 

 普段から時たま見透かしたような事を言う人であったが、こればっかりはなんで知ってるんだと思わず周りを見渡してしまった。だが、すぐにその行動の無意味さに気付いたリィンは引き続き、通信を続ける事にする。

 

「……その愛しの教え子をだまし討ちしてくれましたね。どういうつもりなんですか?」

 

 せめてもの仕返しに、皮肉を交えて質問を返してやる。

 リィンの言うだまし討ちとは、トワが言っていた生徒会で処理しきれない、手の回らない仕事を手伝うという話である。

 もちろんリィンはそんな事をこれっぽっちも聞いていない。ただ生徒会から物を取って来いと言われただけだ。

 だと言うのに、なんでもⅦ組全員の生徒が『特化クラス』の名にふさわしい生徒として、自らを高めようと張り切っているらしいから生徒会の仕事を回してあげて――という旨を、サラ教官からバッチリ聞いていると。

 

 初耳である。

 当事者であるのにだ。

 

『――詳しくは言えないけど、来週伝える”カリキュラム”にもちょっと関係してるのよ。誰か一人にそのリハーサルをやってもらおうと思ってね。生徒会が忙しすぎるのも確かだし、一石二鳥の采配だと思わない?』

「会長の仕事を増やしているのは教官達な気もするんですが……」

 

 トワが他の教官の手伝いもよくしていると言っていた事を思い出す。

 

「……まあ、趣旨はわかりました。明日の自由行動日に生徒会の手伝いをすればいいんですね?」

『あくまで君の判断に任せるわ。特定のクラブに入るつもりなら無理にとは言わないわよ?』

「いえ、それは構わないんですが――」

 

 リィン自身はいまだピンと来るものがなく、手伝う事自体もやぶさかではなかったので、それに対しての文句や問題はない。

 

 ――だが、気になる事が一つだけあった。

 

「どうして”俺”なんですか?」

『…………』

 

 その言葉にサラは沈黙する。

 

 ひっかかってはいたのだ。

 あの時サラは、誰かに頼みたいことがあるのを忘れていた。と言って教室に戻ってきた。

 最初からリィンを指していた訳ではなく、まあ誰でもよかった訳だ。

 そして教室に残っていたのはリィン、エリオット、ガイウスの三人。

 だがエリオットとガイウスは共に吹奏楽部、美術部とクラブに所属しており、何も予定がなかったリィンがその頼みを引き受けた。

 というのが一連の流れ。

 別におかしいところは無いように見えるが――それならなぜレイヴェルにも声を掛けなかったのだろうか。

 レイヴェルが出て行ったのとほぼ同じタイミングでサラは入って来た。

 完全に入れ違いだったのだ。

 ならばあの瞬間、なぜレイヴェルも呼び止めて四人に話さなかったのだろう?

 

 普通の人なら考え過ぎか、で終わる。リィンも普通ならそれで終わる。

 だがこの人なら――サラ教官なら、それくらい見越しているんじゃないだろうか?

 担任教官であるがゆえ、エリオットとガイウスがクラブに所属している事も知っている。レイヴェルが何処にも所属していない事を知っている。

 もしかしたら、それら全てを踏まえての事だったのではないか?

 リィンはそう考えた。

 そしてその考えを決定づけたのは、先程サラが言った『来週伝える”カリキュラム”にもちょっと関係してるのよ。誰か一人にそのリハーサルをやってもらおうと思ってね』という言葉。

 

「クラス委員長はエマだし、副委員長はマキアスですよね? 身分で言うならユーシスやラウラのような真っ当な貴族出身までいる――なのに何故、俺なんですか?」

『…………ふふっ』

 

 そこまで言うと、サラは楽しそうに、本当に愉快そうにくすりと笑い、理由(ワケ)を話す。

 

『それは君が、あのクラスの”重心”とでも言えるからよ』

「え……」

 

 それは、思いもよらぬというか、一言で理解することは難しい物であった。

 

『”中心”じゃないわ。あくまで”重心”よ。

 対立する貴族生徒と平民生徒。留学生までいるこの状況に置いて、君の存在はある意味”特別”だわ。それは否定しないわよね?』

「それは……」

 

 思い当たる節があったのか、リィンは顔を曇らせ、言葉を詰まらせる。

 

『そしてアタシは、その”重心”に、まずは働きかけることにした。《Ⅶ組》という初めての試みが、今後どうなるかを見極めるために。それが理由よ』

「…………」

 

 つまり、サラが言う自分、つまり”重心”の行動がⅦ組の今後の指針を決める上での要因になるとでも言うのだろうか。

 考えてはみるが、リィンはやはりいまいち意味がよくわからなかった――

 

『――ってぇ! なに人がいい話してる隙に逃げようとしてんのよアンタ達はぁあ!!』

「いっ……!?」

 

 突如響いてきた大声に驚いたリィンは咄嗟にARCUSを耳から離し、手元に下ろす。

 

『ぎゃー! バレたー! っていだだだだ!! だからなんでみんなして僕の髪の毛掴むの――って、ああっ、何一人で逃げてるんだよフィー! 仲間を見捨てるの!? 助けてよ!』

『戦略的撤退。昨日の友は今日の敵、それが戦場の常。……レイ。さらば』

『てめえ! 後でおぼえあだだだだ!! だから、いてえっつってんだろーがあああ!!』

 

 何かが暴れるような音と金属音、そして時折聞こえる罵声は筆舌につくしがたく、最終的に何度か鈍い音が流れ、しばらく静かになる。

 およそ一分にも満たない時間であった。

 

「…………」

『――ま、あんまり深く考えずにやってみたら?』

「さすがに流せませんよ教官!」

 

 知った声が二人分聞こえて来た事もあるが。

 確実に誰か一人床に沈んでる状況に、突っ込まざるをえないリィンであった。

 

『ダイジョーブ、ダイジョーブ。ちょっと酒瓶で黙らせただけだから。それにここ寮だし心配ないわよ』

 「なにがどう大丈夫なのか何一つわからないんですが……! 他に誰か帰ってたらまずいでしょう……」

『あーもう、とにかく』

 

 サラはわざとらしく咳払いをする。

 

『どうやら”何か”を見つけようと少し焦ってるみたいだけど……。まずは飛び込んでみないと”立ち位置”も見出せないわよ?』

「…………!」

『ふふっ、それじゃあね。寮の門限までにはちゃんと帰って来るのよ~?』

 

 その言葉を最後に通信が切れた。

 リィンは何も言わなくなったARCUS見つめると、ほどなくして懐にしまう。

 そして星が輝く夜空を見上げると、サラのアドバイスを胸に一人、物思いに耽る。

 

(色々突っ込みたいけど……教官の言う事ももっともだ。そうだよな、何かを見つけようとするなら、飛び込んでみないとな)

 

 いまだ答えは闇の中。

 自分の足元すらおぼつかない、真っ暗闇の旅路の途中。

 それでもこの学院で過ごせば、そこに至る道が見出せるかもしれない。

 手を伸ばせば、無数に輝く星の一つを掴み取れるかもしれない。

 

「よし、まずは行動してみるか――」

 

 リィンはそう呟くと前へと歩き出す。

 具体的に事を為したわけではない、小さな前進。

 だがそれは、後の英雄へと繋がる大きな大きな始まりの一歩だった――

 

「……とりあえず薬を買っといてやろう」

 

 が、くるりと回れ右をすると、もう一度学生会館へと踏み入れる。

 目的は購買部。

 無かったはずの存在によって英雄が生まれる事はなかった――

 ……なんてことは無いのであしからず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぐっんぐっ、プハー! やっぱ若者は悩んでナンボよね~」

「…………」

 

 フィーがいなくなり、広くなったソファでサラさんは酒を呷る。

 まだ飲むのか。

 ほんと何事もなかったように過ごすなこの人……。

 

「それにしても」

 

 僕は言う。

 サラさんを見上げながら。

 

「”中心”じゃなくて”重心”ですか」

 

 先程サラさんが言っていた、リィンさんを指したあの言葉。

 中心では無く、あくまで重心という言葉を考える。

 中心は真ん中。物事の集中する場所。

 重心は均衡、バランスを保つはたらきをするもの。

 

「それ、どっちみち中心に立つのは変わらないんじゃあないですか?」

 

 ちょっと笑える。

 物は言いようとはこの事か。

 

「さあ、それはどうかしらね。重心と言えるだけだし、案外端の方で重石になってるかもしれないわよ?」

「言い方があんまりだ……。でもそれはないでしょう。リィンさんって上に立って引っ張って行くタイプだし」

「へえ? よく見てるわね」

「別によく見なくてもそれくらいわかります。隊長向きですよね。決断力とか、思い切りの良さとか」

 

 オリエンテーリング時の――なんだっけあの竜、ガーゴイル? 戦を思い出す。

 あの時、皆を指示し、扇動し、中心に立っていたのは――間違いなくあの人だったと思う。

 

「たまにいますよね。力とか、恐怖とか、規律とかで統率するんじゃなくって、人柄だけで人を使うと言うか、魅了する人」

 

 具体的に言うと父や、西風の団長も持っていたであろう、無条件で人を惹きつける能力――いわゆるカリスマと呼ばれる物の一つなんだろうと思われる。

 特に心酔している者の、個々の能力を十全以上に引き出させたりするのがすごい。あと厄介。

 

「だからって僕には関係ないですけどねー」

「いやいやアンタも攻略されるかもよ~?」

「攻略って……ないですよ。それにそんなことしなくとも、僕は僕を使う(・・)人には従うだけです」

「…………」

 

 話が逸れたが。

 リィンさんが、他九名との間を繋ぎ、Ⅶ組の均衡を保つ存在と言うならば、結局はそうなっていくのではないだろうか。

 いや。

 あるいは既に、そこへ立っているのかも知れない――まあ、中立という意味でだけど。

 

「しかしなんですか。サラさんが言う、貴族生徒と平民生徒、留学生がいる中である意味特別な存在って想像がつきませんよ」

「そりゃ、普通じゃないから特別だしね」

「わかった。皇帝の隠し子だ」

「ある意味どころかめちゃくちゃ特別だわ」

 

 まあ正直な所、興味があるというワケでもないので、真面目に考えるつもりもないのだが。

 ぶっちゃけどうでもいい。

 基本的に他人の身の上話なんて聞いたところで、ああそうだったんですかー、あはは。くらいの感想で終わる自信と確信がある。

 特別ならその人の全てを隅々まで知り尽くしてやりたいと思わなくもないけれど。

 

「……アンタって人見知りでヘタレのくせに、結構女の子にちょっかいかけるわよね。矛盾してない?」

「待って待ってちょっと待って。なんですそれ? 人見知りでヘタレってなんですそれ?」

「言うまでもないでしょーが」

「いや、だから違いますって。わざわざ情けない感じに言うのは、というか僕をそんな子供みたいに表現するのは……」

「やかましい。大差無いうえ、実際子供でしょうが」

 

 え、もう十五歳なんだけど。

 

「フィーが言ってたわよ? 昔はあんな感じじゃなかったって」

「んん? 別に興味がなかったワケではないですよ? 目が向かなかっただけで」

「そうなの?」

「ええ。それに体だけが目当てなんで首から上はどうでもいいんです」

「アンタって割と最低のクズよね」

「体は自由にできても心は渡さない! が団を出てからのレイヴェル・オルランドのスローガンです」

「どこの乙女よ」

 

 バカな話。

 バカな話ですよ。

 

「まあまあ、でも理想と現実は違うモノですよね。訓練と実戦くらい違いますよね。蓋を開けてみれば意外と吐き気を催すって言うか、ブタにしか見えないって言うか」 

「確実に大言壮語だと思うけどニュアンスは伝わったから、本当に昔から興味あったの? と聞いてあげるわ」

「ありましたよ」

 

 今より何も見えない中で確かに見えたモノ。

 それがずっと頭にあったと僕は笑って――常日頃から浮かべている喜色だけの笑顔で断言できる。

 

「単にフィー以外目に入らなかっただけです」

「……それはそれは」

 

 どこまで乙女化する気なのよ。とサラさんはまた酒を呷る。

 それはどこか、イラつきを誤魔化すための動作にも見えた。

 僕はつま先から頭のてっぺんまで男なんだけど。むしろ漢のつもりなんだけれども。

 

「……ま、今の所はこの学院生活に不満も無さそうね」 

「はい?」

「ぬるくて溜まった鬱憤はアタシが抜いてあげるし、ほかにもなんかあったら言いなさいよって事。何も無ければそれでいいわ」

「……あはは。それ、悪徳業者の真似かなんかですか?」 

 

 これまでで既に多大な借りと恩がある。

 それらはいつか全て耳を揃えてきっちり返すつもりだが、だからと言ってこれ以上無駄に積み重ねるつもりもない。

 

「無用な気遣いはいりませんよ。フィーはともかく、僕は望んであなたについてきたんですから」

 

 過ぎた善意なんて、本人が損をするだけだ。

 僕は何も返さない。

 善意だとさえわからない。

 なにひとつ思う事なんてない。

 そう、なにひとつ――感じなどしないのだから。

 

「サラさんがあの時からどういうつもりでそこまでしてくれるかは知りませんし、ありがたい話でもありますがね。僕等は所詮、他人なんですから。お互い思う所も何も無い存在なんですから。そんなに気を回さなくとも結構です」

「…………」

「と言っても、それが遊撃士の性分(サガ)なんでしょうけど」

「……そんなんじゃないわよ」

「なら良かった」

 

 性分じゃないのなら、自覚さえすれば簡単に変えられるだろう。

 自分の根底にある物を変えることに比べれば容易い――

 

「つまり、もっともっと構えばいいのね。OK、理解したわ」

「おい僕の話聞いてやがりましたか、この教官野郎」

 

 いや聞いてないんだよね。聞いてないからそんなこと言うんだよね。

 少しのイラつきを滲ませて――体勢的にまったく凄味を感じないが睨んでやる。

 しかし当然ながら動じることもせず、サラさんはただ笑うのみ。

 

「レイヴェル。確か、見聞のために団を出たって言ってたわね」

 

 そして突然そんなことを言いだした。

 

「? いきなり何を……」

「正解よ。それ」

「はあ……正解ですか」

「ええ。アナタはずっと、迷いが生まれない方がよかったのかもしれないけれど。これ以上ない程にいい選択だったと思うわ」

「……えっと、ありがとうございます? じゃなくて、何が言いたいんですか!」

 

 今までの話を全部無視し。

 いきなり僕の決断を褒められても、困惑でしかない。

 話がいまいちどころか全然見えてこない。

 それでもサラさんはそのまま言葉を続ける。

 

「ここで色んな事を学びなさい。戦う事を忘れろとは言わないわ。

 ただ朝起きて、ご飯を食べて、今日もだるいなあ、なんて思いながら学院に向かって。共に学院に通う仲間におはようって言って、難しい問題に頭を抱えながら授業を受けて、放課後になったら誰かと遊んだり、クラブに顔を出してみたりして。そして夜になったらベッドに入ってこう思うの。ああ、今日も疲れたなあって。そんな、普通の生活をしてみなさい」

「…………」

「それがアナタの力を上げることに――自らを制御することに繋がるはずよ」

「…………」

 

 正直もう何言ってるのか、何の話をしてるのかさっぱり理解ができなかった。

 元から普通の生活はするつもりだったからそれはいいとして。

 何もしないで力が上がるはずがない。

 そんな事がありえるなら理不尽にも程がある。

 

「とりあえず、その何歳から止まってるか知らない精神年齢を上げましょうね~。って言ってるの」

「まるで僕がいい年こいて我侭ほうだいな大人みたいな言い方やめてくれません!?」

 

 さっきからずっと子供扱いだけど、見た目はともかくそれなりに大人だよ僕は。

 心だけはそれなりのつもりだよ。

 

「大人ねえ」

 

 と僕が言うとサラさんは。

 ハッ、と実に感じ悪く鼻で笑ってくれた。

 

「子供も子供、クソガキよアンタは。なーんにもわかっちゃいないわ。身体ばっかり強くなって心がこれっぽっちも成長してないわ」

「……? 精神力を鍛えるって事ですか? それにはもう結構な自信がありますよ? 痛みとか全然耐えられますから拷問でもバッチコイです!」

「まったくわかってないわね」

 

 あと今の状態と合わせて無性にMっぽい。とサラさんは言う。

 んー、僕はどっちなんだろうか。

 まあどちらでもないノーマルだよね。

 健康で健全な少年だよ。

 割とイイヤツだよ。

 

「ていうか、そんな事言うならいい加減なんとかしてくださいよコレ。もう十分すぎるほど相手は務めたでしょう?」

「わかった、わかったわよ。ったくしょうがないわねえ」

 

 そう言ってサラさんがソファから立ち上がろうとするがその瞬間。

 僕の近くにあった外へと繋がる扉が開き、

 

「ただいま――ってうおお、どういう状況なんだこれは……!」

 

 リィンさんがようやく帰って来たのだった。

 僕はそちらに向かってごろりと寝返りをうちつつ出迎える。

 

「あ、おかえりです。リィンさん」

「おかえりー」

「なんで二人ともそんな軽いんですか……? レイヴェルは縛られて床に転がされて平気なのか……?」

 

 そう。

 僕は逃げ出そうとして失敗してからずっと、どこから持ってきたか知らない縄で縛られ、寝たままの状態であったのだ。

 サラさんは普通に座ってるのにだ。

 何ともシュールな会話風景だったと思われる。

 

「まあ十五年も生きてれば、拘束されて地面に転がされることも何度かありますよ。慣れですね、慣れ。下が泥水なワケでもないし」

「何度かあるのか!?」

「リィンー、ちょうどいいから解いてやってー」

「教官はそれでいいんですか!?」

 

 などと話しながらもリィンさんは縄を解いてくれ、聞けばサラさんにボコられた僕のためにわざわざ薬まで買ってきたそうな。

 別に怪我なんかしてないのに。

 なんだこの人。

 Ⅶ組は変わった人が多いなあ。

 

 

 

 

 

 

 

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