赤い星座出身系主人公モノ   作:シグこれ

19 / 27
十八話

 雨が降って地が固まったということで。

 既に一日の原動力となる朝食(もちろん、これも地の物である食材が使われている。非常に美味だった)もいただき、気力を充実させていた僕等は昨日と同じ様に、女将から受け取った士官学院の紋章入り封筒の中身を改め、依頼を消化するため動き出す。

 特別実習最終日。

 オットー老人は僕達が今日、トリスタに戻ることを考慮した上で依頼を回してくれたらしく、本日は二件とやや少なめであった。

 達成必須の物もない。

 肩透かしをくらった気分である。

 

「トリスタ方面の最終便は夜の九時くらいまであるはずだ。早めに終わらせて、夕飯はウチで食べてから列車に乗るといいさ」

 

 そのうえ、女将はさらに好意を提示する。リィンさん達はそれを素直にありがたく受け取った。

 うーん。

 サラさん主導の割にはどうにも緩すぎて逆に不審感が湧いてくる。

 これではほぼ小旅行と変わらず午前中で終わるんじゃないか? と疑問が浮かぶが、特別実習で赴いた場所での主導はあくまで現地の協力者であることを思い出す。

 それに便が夜まであるとはいえ、列車に揺られる時間を含めれば早めの方がいいのか。トリスタまでの距離はすごく遠いというほどではないけれど、慣れない地で慣れない事をしているのだから疲れも溜まっているかもしれない。早急に帰らせ自分の部屋で疲れを癒せるように。なんて思惑があるのかもしれない。

 

 ふむう。だとするならば、張り合いがないが仕方ない。

 女将が言うようによく気がつく人である。さすが商売人をまとめる元締めと言えよう。まあ僕は問題無くピンピンしてるんだけど。慣れっこなので。

 大陸各地をを転々とする事の多い少しキツめのお仕事です。

 アットホーム(死)な職場があなたを求めている。

 

「女将さん、大変大変!」

 

 全員で話し合い、今日の方針を決めたところでにわかに店先が騒がしくなり、誰かが店の中へと駆け込んでくる。

 駆けこんで来た人物――この宿の給仕であり看板娘でもあるルイセさん(昨日名前を聞いておいた)その人は、女将と僕等の前で息を整えると、堰を切ったようにまくしたてた。

 

「事件ですよ! 大市に出てる屋台が夜、バラバラに壊されちゃって、商品も盗まれちゃったんだって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、太陽がまぶしいなあ」

 

 空を見上げる。

 雲一つない快晴である。

 

「いやあ、晴れてよかった。雨の中、外を走り回るのもだるいし、特別実習も最終日ってことで空も空気を読んでくれたんですかねえ、あはは」

 

 まあ昨日から天候が悪くなる予兆はなかったから不思議でもないけれど、夜中のうちに急に曇りだす時もあるからね。

 そう考えると視界が悪いわ体力が奪われるわなんてことにならなくてよかったと思うのだ。傘なんて持ってないし。いや傘くらい売ってるだろうけど、さしながら戦闘なんてできないし。

 

「そう思いませんか、エリオットさん」

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないよ!?」

「そんなこととはつれませんねえ。僕と同じく穏やかな気性を持つエリオットさんであれば、同じことを考えていると思ったのに」

「君みたいに事件を目の前にして今日の天気を喜べるほど、僕は達観できてないから……」

 

 僕は達観しているのだろうか? これといった興味も脅威も感じないだけなんだけど。

 視線を問題の中心へ飛ばす。

 女将は大市の事は気にしないで自分達の実習に取り組めと言ってくれたがまあ、リィンさん達が気にならないはずもなく。近くだし実習を始める前に様子を見に行こうとなったのだ。

 で、大市どころか町中に響き渡らんばかりの聞き覚えのあるやかましい争い声につられ、ひとまず野次馬にまぎれて眺めに向かう。

 

「おっと、すみませんね。今日の大市はまだ……おや、昨日の学生さん達ではないですか」

 

 入り口付近まで近づくと、一般客が立ち入らないよう制止している商人がこちらに気付いて声をかけてきた。現状についてリィンさんが尋ねると、どうやら被害者の商人達がが随分揉めに揉めているらしい。

 まあ、それはよくわかる。

 元締めであるオットー老人が仲裁に来ているらしいが抑えきれていないらしい。

 まあ、それもよくわかる。

 野次馬がこれだけいるのによく通る声はさすが商人かと僕は無駄に感心。

 

「あの……俺達に行かせてもらえませんか?」

 

 そして我等が隊長殿がなんて言うのかも僕はよくわかっており、まあそうだろうなと脇を走り抜けた先の真正面。

 商品を陳列するためだったと思われる台座らしき物は割れ、何かを飾り付けるためだったか、はたまた商品を吊り下げる物だったか長い物干し竿にも似た棒は折られ、おそらく商品を収納していたのであろう木箱は一つ残らず破壊されていた。

 そしてそれらは骨組みだけは無事だった屋台の下にすべてぶちまけられ散乱しつくす、酷い状態であった。

 

「商店のリフォームとしては大成功だけどね。どの屋台よりも全力で目を引くよ、あはは」

 

 まあ事前に聞いた通り売るべき商品は盗まれているようだけれど。

 しかも根こそぎ。

 ブチ切れるのも致し方なしと言える。

 

 どうやらまた被害者らしい、昨日(さくじつ)の焼き直しのように元気に騒ぐ二人の商人の説得はリィンさん達に任せ、僕はとりあえず手前にある問題の屋台の一つを検分する。

 ええっと、今日この場所を使うのは確か外部から来た身なりのいい商人の方だったか。

 この調子であれば本日店に並ぶのは木材、端材、廃材、といったところかな、と僕は今まで培った猟兵としてのスキルを総動員して推理してみる。

 犯人の手掛かり? そんなものが見つかるなら僕は自力で兄さんを追ってるよ?

 

「――そこまでだ」

 

 こちらへ近づく複数の気配。静かであるが有無を言わせぬ重圧感を伴った制止の声に全員がそちらへ目をやった。

 野次馬の群れをクモの子を散らすようにして突き進んでくるのはこの地の守護者――青い軍服をまとったクロイツェン領邦軍である。

 

「こんな早朝から何事だ! 騒ぎを止めて即刻解散しろ!」

 

 先頭に立つ、実に立派なチョビひげを生やした領邦軍隊長に一喝されると、ヒートアップしていた商人達もさすがに噛みつく事も出来ずひるむしかなかった。その様子にフンと鼻を鳴らすと元締めであるオットー老人に何があったか説明を求める。説明役に抜擢されたオットー老人は長ったらしく一から十まで説明することなく、簡潔に、要点だけを押さえた、その場にいた既に事情を知る僕達でさえ改めて頭の中で情報整理させられるような実にわかりやすい状況説明を披露してくれた――のだが。

 

「ならば話は簡単だ。おい、二人とも引っ立てろ」

 

 理由としては、いがみ合う商人二人が同じ事件を同時に起こしたと考えたら辻褄が合うかららしい。

 被害者二人は当然のように抗議するが聞く耳持たず、黙らなければそのように処理をすると冷たく言い放つ――そこまで言われてしまえば弱者に選択肢などあるはずがない。

 泣き寝入りを強要され、うなだれるしかない様子にいやらしい笑みを浮かべながら、領邦軍は来た時と同じく、ぞろぞろと部下を引き連れて去っていった。

 うん。まあ。

 オットー老人が二人を慰め、リィンさん達が口々に領邦軍の横暴さを憤る中で大変申し訳ないのだが――なんとも懐かしい光景だと感じてしまった。団を飛び出してまだ半年も経っていないはずなのに。

 強者が弱者をいいように踏みにじる世界の縮図は、生活が変わった今だからこそ、僕を現実に引き戻してくれた気がした――

 

 ていうかこれ絶対犯人あいつらだろ。

 僕の勘が既にビンビンなのを差し置いても怪しさ炸裂である。

 

「さて、それじゃあいい加減、壊れた屋台をなんとかしませんか? 騒ぎが収まってもこれじゃあ開けるに開けられませんよ」

「そうじゃな……二人とも、言いたいことはあるだろうし、拳を振るいたくなる怒りもよくわかる。色々腑に落ちんじゃろうが……今は互いに頭を冷やすべきじゃ。すべきこともあるじゃろう」

 

 先程までは誰の説得も意に介さず聞く耳を持たなかった彼等であったが、今度は素直に頷いた。それを見届けるとオットー老人は集まっていた商人達に急ぎ手分けして当たるよう声を掛けていく。既に遅れが出てしまっている影響は外の野次馬が物語っていた。

 

「俺達も手伝います」

「すまんが、助かる」

 

 もちろん率先して申し出るリィンさんに続いて僕等も片付けを始めていく。

 

「ああ、アリサさん達は手を出さなくてもいいですよ? お召し物が汚れちゃいますからね、あはは」

「あのね、服が汚れるからなんて理由で手伝わない訳がないでしょうが。こんな時につまらない冗談はやめなさい」

「あはは、ならせめて大きい物は全部回してもらえます? これくらいは男の僕に任せてくださいよ」

「……あなたって時々、本当に紳士よね」

「ああわかります。紳士すぎて思わず惚れちゃうのも仕方ないですよね」

「そこまで言ってないわよ!」

「おまけにクールでハンサムでナイスガイですもんね」

「臆面もなく言い切ったわね!」

「さすがあの兄にしてこの弟あり! って感じですよね」

「私は弟の方しか知らないけどそうね、お兄さんも頭を痛めてそうだとは思うわね!」

 

 なんて話しながらも時間が押しに押していることから決して手を休めることはせず、テキパキと協力して片付けていった結果、なんとか大市を開けられるまでにはできた。詰め寄っていた客がなだれ込んでくる様に、待ち構えていた商人達も慌ただしく活動し、徐々に賑やかになっていく。大市にいつもの喧騒を取り戻すことはできたようだった。

 

「お前さん達にはまた世話になってしもうたの……。どうかね、良ければまた少し、この老いぼれと茶に付き合ってもらえんかの?」

「えへへ……そんな大したことができた訳じゃないけれど……」

「その申し出、ありがたく受けさせて頂こう」

 

 まあ、今日の実習の方はまだ何も終わってはいないが、量も手間もそうかかりそうなモノでもないし、少しくらいなら大丈夫ではあるだろう。あのうまい茶がまた飲めるのだから僕もやぶさかではない。特に差し支えなければ誘いを断る理由も見当たらないのだけれど――

 

「…………」

 

 ふむ。

 

「リィンさん、いいですか」

 

 片付けをしている最中からだんまりと口を閉ざすリィンさんを僕は傍に呼び寄せ、ぼそぼそと小声で話しかける。訝しみながらもリィンさんは黙って耳を傾けてくれた。

 

「申し訳ないんですがオットーさんの家にはリィンさん達だけで行ってくれませんか? 大市が開けられるくらいにはできましたけどまだ全部終わってはないし、僕は残って最後まで片付けてきますんで、よろしく言っておいてください」

「待て。それならレイヴェル一人に任せる訳にはいかない。俺も残って……」

「いや、そこは建前に決まってるじゃないですか」

 

 そういう気遣いはいらない。面倒な押し問答を避けるため、こうしてわざわざリィンさんだけに聞こえるよう言っているのだから、そこは察してほしい。

 

「適材適所、ですよ。隊長なら体を張る仕事はそれしか能のない僕に命令して、リィンさん達は話をまとめてきてください。こっちもこっちで準備を進めておきますから」

「準備って……なんの?」

「なんのって」

 

 首をかしげるリィンさんにこちらが首をかしげたくなる。

 あなたがそれを聞くのか。

 特別実習とはいえ、他者の領分へ自発的に首を突っ込むなどあるはずもないというのに。

 誰かがこちらへ働きかけないかぎり。

 誰かが僕を必要としないかぎり――

 

「もちろん、反撃の」

 

 

 

 

 あらためて見上げれば日は高く。今しばらくすれば頂点に達することだろう。

 タイムリミットは2100時。

 本日最後のトリスタ方面行き列車が発車してしまうまで。

 リィンさんはまだ何も言ってはいなかったが、今までの彼の行動、人となりを顧みれば大体何をしたいか、何を言い出すかはおのずと察しはついた。

 

 ならば部下である僕は黙って隊長の方針――隊の任務遂行に向けて動くだけだ。

 

 サラさんは自分の分野じゃないからと他人任せにするなと言ったが、こうなればそうも言ってられない。時間が無い。犯人も居場所も特定していればただ殲滅するだけで済むが、何もわからない状態から半日で解決するつもりなのだから、うまく事が運んだとしても、本日受け取った依頼をこなす暇があるとは思えないくらいの時間の無さだった。

 ……まあ、犯人にしてはあの領邦軍だと僕は当たりを付けてはいるが、証拠もないままボコにするわけにもいかないだろう。あとで怒られるとかそんなんではすまないことになってしまう。

 じゃあ僕が適材適所とか言って、戦う事もせず、頭を使う事も放棄して、いったい何をするのかというと、何をするというほどでもない。

 

「すみません、ちょっと聞きたいんですけど」

 

 と、普通に足を使って聞き込みをするだけである。

 工夫も無く、真っ当な選択である。

 被害者とかその周りとか抑えるべき場所を先に潰しておいて、あわよくばリィンさん達と合流するまでにうまく推理できる有用な情報があればいいなーと、なんかもうそれくらいの、ほぼ駄目元な感じで聞き込みを続けていたのだけれど、

 

「怪しいやつぅ~~? ヒック、見たよぉ」

「くっさ! 酒くさ! え、マジで!?」

「あぁ~~、おじさんの話ぃ聞いてくれるかい? やたら赤いお嬢ちゃん」

「やたら赤いのは合ってるけどお嬢ちゃんじゃないです」

「つーか、聞いていけぇ。ついでに酒を奢れぇ。もうこんな俺には見てるだけで目が痛くなるお嬢ちゃんしか残ってないんだぁ!」

 

 昨日から街の西口で座り込んでる酔っ払いがあっさりとそんなことを言った。

 いや僕も残らないし、さすがに今はそこまで赤くもないし、お嬢ちゃんじゃないって言ってんだろ。

 上は赤でも下は黒を履いている。

 上は女でも下は男がついているのだ。

 所詮はただの酔っ払い。手掛かりが無さすぎて、もしかしてとヤケクソで聞いてはみたが、やはり、あまり期待してはいけないな。

 こいつらが垂れ流すのは基本的に妄言とゲロだけなのだから。

 

「おじさんはなぁ、そこのルナリア自然公園ってとこの管理人をしてたんだよぉ~。ものすごーく頑張って仕事をしていたんだよぉ。それなのによぉ、いきなりクビだよクビ。わかる? 解雇だってぇ。じょ~~だんじゃねえよなぁ。自然公園の管理は俺の生きがいだったのによぉ、いきなりクロイツェン州の役人がやってきて言うんだもん。あんなチャラチャラした若造達よりおじさんの方が絶対いい仕事するだろぉ? そう思うだろぉ? なぁ? だっておじさんはものすご~~くお仕事頑張ってたんだからさぁぁ~~」

「う……うざっ!」

 

 大半のどうでもいい情報から抽出すると、昨日の夜半に管理職の服を着たその若造達が木箱やらなんやらを抱えて西口から出て行ったという事である。

 それだけを聞くために無駄な話を延々と聞かされた。酒臭い息を拭き掛けられながら。

 ぶん殴りてえ。

 しかしまあ、ことのほか有用な情報が得られたから良しとする。盗まれた商品の行方は十中八九ルナリア自然公園ということだろう。昨日の依頼の一つで近くまで行った時は門番がいて入れない状態だったが、なるほど、そういう事だったのか。

 しかしそうなると、犯人は領邦軍ではないのか? それとも領邦軍がなりすましているのか?

 僕の勘はいまだ領邦軍を指しているためわからなくなってきた。過程をすっ飛ばして結果だけを示す弊害である。

 

「まあ、こんなものか……」

 

 貰ってからまだ一度も使ったことのないまっさらな学生手帳に、伝えるべき情報を記載してから懐へと戻す。

 

「おおぉい、聞いてんのかぁ!? まだおじさんの話は終わってないってのに、お嬢ちゃんも最近の若造だったのかちくしょおお!」

「ぎゃあ! ひっついてくんじゃねえ!」

 

 必要以上に絡まれる前に退散しようと思ってはいたが、最終的に思わず出てしまった顔面パンチ(手加減ミス。ちょっぴり)で意識と前歯を持って行ってしまった。

 ……せ、正当防衛。

 命に別状はない事を確認して、僕は全力でそこから逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おそらく、実行犯は別の、外部の人間なのだろう」

 

 領邦軍が犯人だと仮定して考えるなら、とラウラさんは言う。

 

「あのプライドの高い連中が自らの手を汚してまで事を起こすとは考え難いからな」

「えええ、そんな理由で?」

「領邦軍は貴族が多い。皆がそうとは言わないが……あの態度を見れば、選民意識の強さはわかるだろう」

「ふうん。じゃあ何でこんな事件を起こしたんですかね?」

「それはたぶん、増税取り消しの陳情が原因じゃないかな」

 

 僕の疑問に続いて答えたのはエリオットさん。

 裏付けは取れてないけれど、と前置きしながら。

 

「領邦軍が関わってるなら、これは計画された物だったのかもしれない。クロイツェン領邦軍の所属はアルバレア家。被害者二人の商売許可証に同じ場所を書くのは難しくないよね? そうしていがみ合わせた上で今回の事件起こしたと考えれば……」

「んん? 嫌がらせのつもりならその時点で十分な騒ぎにできましたよね? 手を汚したくないくせに、わざわざ計画して、ここまでする必要があるんですか?」

「――もっと大きな騒ぎにできたでしょう。店を失った二人を、元締めでも止められないくらいのね」

 

 ふむ、それは確かに。と僕はアリサさんの答えに頷く。

 しかし、それでも僕はまだわからない。

 ただの嫌がらせにしてはどうにも手が込み過ぎているというか、プライドが高い領邦軍であるからこそ腑に落ちないというか。

 領邦軍へのリターンが割に合わない気がする。

 と、僕のまだ理解しきれていない顔に気付いたアリサさんは、ピンと指を一つ立てて説明してくれた。

 

「つまり、騒ぎを領邦軍なしでは収められないほど悪化させる。でもその領邦軍は騒ぎをまともに取り扱うつもりはない。ようはさっきみたいに泣き寝入りを強要される訳ね。で、そうやって事態を強引に収拾することで自分達の存在をアピールし――大市全体へ、陳情を取り下げざるを得ない状況を作ろうとしたのよ」

「なんと」

 

 そんな事情だったとは僕にはさっぱり見抜けなかった。

 上層部がドロドロのぐっちょぐちょの真っ黒だなんて話、珍しくもないからそれはどうでもいいんだけれど、僕が驚いたのは彼等が少ない情報からそこまで推測できたことの方である。

 すごい。

 やっぱり頭の良さが僕とは段違いだった。

 たぶん作りとか違う。

 

「まともに考えようとせず聞いてばっかりだったじゃない」

「ちゃんと最初に犯人は領邦軍だと思いますって言ったじゃないですかー」

「理由は『なんとなく』でしょ? まったく、リィンが領邦軍の不審な点について説明しなきゃ話にならなかったわよ」

「あはは、僕がいくら頭をひねったってそんなもんですよ。代わりに情報収集、頑張りましたし!」

 

 ちなみに不審な点とは、近頃はまったく大市の問題に駆けつけてこなかったのに、今回に限って出張ってきたことである。

 そうだったのか。

 

「まあ本当なら確実な言質が取りたかったんだけど、レイヴェルの言う通りなら軍の内部に犯人――実行犯はいないし、証拠である商品がいつ処分されてもおかしくはない状況だ。調査の段階を飛ばせたのは本当によくやってくれたと思ってるよ」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう! わかりましたかアリサさん! 僕はこうやって身体を使い、成果を上げていくのです!」

「……というかそれ、必ずしも一人でやる必要はなかったと思うんだけど。まったく、勝手に動いてくれちゃって……」

「……その辺りがやっぱりレイヴェルだよね」

 

 なんて、僕の疑問に答え合わせをしながら歩き続け――ようやく現地に到着する。

 檻のような、柵状の。

 大きな大きな門の前。

 ルナリア自然公園である。

 近づいてみれば内側から掛けられた、大きくいかにも頑丈そうな南京錠が門を封鎖していた。

 中に誰かがいることは間違いないだろう。

 まあ、誰かというか。

 犯人が。

 

「フン」

 

 僕が戦斧を収めたケースを地面に突き立てるのと同時にラウラさんが剣を構えた。

 

「あれ、やるんですか?」

「ああ、私の剣なら何とかいけるだろう」

「いいですよ別に。こんなの僕に任せてくれれば」

「さすがに戦斧(それ)では狙いがつけにくくないか?」

「…………」

 

 うーん。

 先だけを当てるというのは難しい……かも?

 まあ、ちょっとだけ門が斬れたりひしゃげたりするくらいの破損なら問題ないと思うのだけれど。

 

「――いや」

 

 双戦斧を構えたまま、ひいふうみい、と指で目測を測っていると、

 

「俺がやろう。二人よりも静かにできるはずだ」

 

 とリィンさんが言った。

 近くで見るその顔つきは物凄く変わったとは言わないが、昨日と比べると違うように思える。

 有り体に言って自信に満ちている、覇気が感じられることに、なんとなく気圧された僕は無言で後ろに退(しりぞ)いた。ラウラさんも何かを感じ取ったのか「ほう……」と深くは聞かず構える事をやめ、後ろに下がる。

 

「――八葉一刀流。四の型・《紅葉切り》」

 

 鞘に収めた刀に手を掛け、静かに精神を集中していくかたわら、妙な既視感をその姿に覚えるなかで――

 

「――――な」

 

 きん、と。

 その瞬間――南京錠。

 一拍置いて南京錠が――ずるりと真っ二つにズレ落ちた。

 錠と門が打ち鳴らす金具の音で我に返る。

 リィンさんは完全に腕を振り切っている――斬ったのか。

 静かにというか。

 ほぼ音らしい音がしなかったぞ――?

 

「ふう、上手くいったか」

 

 ラウラさんが特別視していた訳を理解する。

 初伝クラス。初伝ってなんだっけ。

 

 

 

 

 ルナリア自然公園は公園と名は付いてはいるが、いざ内部に足を踏み入れてみるとそこは遊具があるような公園ではなく、澄んだ空気、鳥類の鳴き声、小動物が草木をかき分ける音が周囲から感じられる深い森――または深い山中といった印象を覚える様相であった。

 子供が砂場で土を掻いて作ったような谷状になった道は奥へと続き、それ以外の上部の方は、背の高い木や、とんでもなく幹の太い大木などが生い茂り、白い小さな石碑のようなモノがきちんと並べて置かれ、日の光が届き切らずやや薄暗くなった、正直通ることを遠慮したいくらい襲撃されやすい構造に、僕の身体は無意識に警戒レベルを上げていた。

 ……白い小さな石碑?

 

「あちこちにあるけど、なんですかねアレ。墓かな?」

「ええ!? お、お墓ぁ!?」

「ちょ、ちょっとやめてよね!」

「いや、たぶんこの地方にあった精霊信仰の名残だろう」

「へえー。ラウラさんは物知りですねえ」

 

 そんなものがあるとは初耳だ。

 大陸全土に広く分布し、十人に聞けば九人が空の女神(エイドス)を信仰していると言うであろうに違う宗教があったなんて驚きである。

 ちなみに僕は常套句として女神が~とは言うものの、教会で祈ったことすらない。

 

「時間も無い。犯人たちの追跡を始めよう」

 

 リィンさんが締めて、僕等は先を急ぐ。

 どこに犯人がいるかわからないため、気付かれないように大きな音は出さず注意する。ここの本来の管理人が酒を飲んでケルディック西口で寝てしまっている以上、魔獣がちらほら湧き出ているが、発見したとしても戦いは避けるように努めて行く。

 そうして薄暗い森だか山だかを進んで行く道中で、一時的に日が差し込む場所へと出た。

 

「あっ、川が流れてるよ!」

「なんだか、ほっとするわね」

 

 アリサさんとエリオットさんが少し気を抜いて癒されている中で、僕はまず周りの気配を探った。

 

「この辺りには誰もいないようだな」

「ですね」

 

 ラウラさんと互いに頷き合い、僕は足元に転がっていた木の棒を拾った。

 対岸まで見通しが良い分、先に発見される恐れもあったがどうやら犯人達はさらに奥へと潜んでいるらしい。

 

「――八葉一刀流。四の型・《紅葉切り》」

「……それは俺の真似か?」

 

 なのでちょっと木の棒を剣に見立てて振ってみる。

 いいフォルムしてるなあ、この棒。

 たぶん伝説の剣(笑)だと思う。

 

「どうせだから参考にできないかなーと思ったけど、あの技は刀じゃないと無理そうですねえ」

「コレは正確には太刀だけど……驚いたな。レイヴェル、刀を知ってるのか」

「ああ、こっちじゃあんまり見ないですけどまあ、僕も使った事ありますし。相性悪くて全然使えなかったけど」

「なんだと?」

 

 ラウラさんが食い付いた。

 

「そなた、剣を使わないと言ったのは嘘だったのか」

「え、別に嘘じゃな……目が怖い! 剣術もかじってるってだけで、あくまでメインは双戦斧ですよ!」

 

 東方に行った際、相手のを奪ってブレードを使うように戦ったらすぐにダメになった思い出。

 双戦斧は我流を教えられ、剣術の方はどの流派でも大体共通する基本からちゃんと教えられたが、こっちは正真正銘の我流に近くなっている。

 剣を使う方々からは僕が振り回してるのは剣でも丸太でも変わらないと酷評された。

 

「いい剣ですよねー、刀。高い切れ味が素敵。使い方がまた違うみたいで難しいのが難点ですが」

「はは、この太刀は特別、名刀ってわけでもないよ。コレに比べたらレイヴェルの斧の方がいいと思うぞ」

「残念ながら、僕の戦斧はそこまで切れ味がいいこともないです。フツーです、フツー」

「いや切れ味というか……なんだろうな。よくわからないけど、見るたびにその戦斧からは妙な凄味のようなものを感じるんだよな……。結構な業物だったりするんじゃないか?」

「さあ? 僕専用のオーダーメイド品ってだけで、どこの工房産とか詳しくは知りません。貰い物だし」

 

 兄や従姉と同じく僕の為に武器を作ってくれると叔父が言うものだから言葉に甘えて、ただ受け取っただけである。

 超火力だったり、ギミックが内蔵されていたり、前述の通り切れ味が特に良いワケでもないので、基本的にはその辺の工房で売られているモノと変わらないと思うのだけれど。

 

「――でも、とてつもなく頑丈ではあるんですよね」

 

 折れず、壊れず、刃こぼれせず。

 どれだけ乱暴に扱おうとも、まるで手入れの必要が無いほどに。

 

 決して離れることはない、離すことなどできやしない。この二刀一対の双戦斧は。

 頑丈さ、という一点のみにおいてほかの追随を許さない――恐るべき性能を誇っていた。

 

「どこで作られたのかもわからないオーダーメイド品を貰っただけって……自分だけのものを作ってもらうなら、せめて工房くらいは聞いときなさいよ……。それなら銘くらいあるんじゃないの?」

「おお、さすがアリサさんお目が鋭い。確かにありますよ」

「ふうん、なんていうの?」

「この戦斧達の名前は――」

 

 小川に架けられた橋を歩いて向こう岸へと渡りきり、数多の戦場を共にした付かず離れず表裏一体の相棒の名を僕は、高らかに、誇らしげに謳い上げた。

 

「レー……、ディー……」

 

 …………。

 

「レイヴェルの双戦斧です!!」

「……信じられない」

「い、いや、普段名前なんて呼ばないから……あっ、なんですか皆さんその目は! 知ってますよ! そんな目をしたあとのフィーが僕のことをバカとかアホとか言うんだから! 別に忘れてません、刀身に刻まれてるから覚える必要がないだけで!」

『…………』

「……あとで見ときます」

 

 戦斧って名称があってそれでわかるんだから、わざわざ別の名前なんてどうでもいいじゃないか……。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。