体勢を立て直し、うまく着地する。
下へ滑り落ちるとそこにはさっき上にいた人達が倒れていた。
まあ、落ちて来たばかりだから当たり前なんだけど。
「もう、フィーってば何で急に離すかなあ」
自分の行為を棚に上げて僕は怒る。
いや、悪いとは思ってるんだよ? でもちゃんと僕は僕に対して抵抗したんだよ?
結果より過程を見てよ! 僕の努力を見てよ!
そんな誰に対してかわからない言い訳をひたすら思い浮かべる僕。しいて言うならフィーかサラさん。
というかどう考えても両方だった。ごめんなさい。
「……ふぅ」
心の中で二人に謝っていると(直接は言わない)フィーが遅れてやって来た。
「あ、フィー」
「ん。結構広いね、ここ」
「だねえ」
ざっと周りを見渡すと、上の階と同じくらいの広さはあった。
「しっかしサラさんも何をさせる気なのやら」
「なんであれ、めんどくさいことは確か」
めんどくさいこと……。
「この先に軍の一個小隊でも潜んでるのかな……」
「それはめんどくさいとかそういう話じゃない」
「この先に猟兵団でも潜んでるのかな……」
「死ぬから」
わたし達以外が、とフィーは言う。
いや僕達もヤバくない? 確かに強さはピンキリだけどさ、素手だよ? 何の装備もないよ?
「道具なら持ってるよ?」
「あれ? そういえばさっきもワイヤー使ってたっけ。校門で預けなかったんだ?」
「まあね。レイもいるし、なんとかできる自信はある」
「そ、そうなの? えへへ、その信頼は素直に嬉しいけどさあ」
「盾にもなるし、囮にもできる」
「道具としての信頼なの?」
わたし達じゃなくて確実にキミだけ生き残る気だよねそれ。
何? 運が良ければ?
なめんな。
「ほかには何を持ってるの?」
「あらゆる場面で役立つ物。ポーチに色々忍ばせておくのは乙女の嗜み」
「嗜みですか」
「特に爆薬と閃光弾は必須とも言える」
「過激な乙女だなあ……」
さすがの優秀さである。
でもね?
キミの言う乙女の正しい読み方は猟兵だと思うよ?
特にすることも無かったのでそのままグダグダと雑談を続けていると、黒髪の男子と金髪の女子で一悶着あったが、ようやく全員立ち直った様だ。
「ていうかさっきのアレって肉布団ってヤツだよね? すごいなあ、僕初めて見たよ」
「わたしも。でも、あれなら普通に添い寝した方がいい」
「あのお兄さん息苦しそうだったもんねー」
やっぱり雑談を続ける僕達であったが、突如鳴り響いたARCUSからの呼び出し音に気付き、それを開ける。そこから聞こえるサラさんの声に他の人達は随分驚いていた。
僕とフィーはこれの機能についてあらかじめ聞いていたので特に驚きはなかったが、それでもすごいとは思う。
通信機なんてどこかに設置して使うくらいだったのに、手のひらサイズで携帯して使えるようになるなんて。
すごい、エプスタイン財団すごい。
ヤバい、ラインフォルト社ヤバい。
ていうか通信機自体すごい仕組みわけわかんないヤバい。
『――それぞれ確認した上で、クオーツをARCUSにセットしなさい』
それっきり聞こえなくなったサラさんの声にハッとする。
……え? 話終わり?
「フィー、フィー。 サラさんなんて言ってたの?」
「? 聞いてなかったの?」
小声で尋ねる僕に不思議そうな顔で答える。
「うん。エプスタイン財団のすごさとラインフォルト社のヤバさについて考えてたら話終わってた」
「……やれやれ。真剣な顔で聞いてるのかと思いきや……」
溜息を吐いて、こちらをジッと見つめるフィー。
いつも瞼が閉じ気味で、眠たげな感じがする彼女。
でも今はもう少し閉じられていて、まるでバカとでも言いたげな目だなあ。
「バカ」
「!?」
でもちゃんと教えてくれました。
いつもありがとうございます。
◇
自分の荷物が置かれている場所へと向かう。
とりあえず預けていた武具にサッと目を通し、置かれていた自分の物では無い箱を開けてみる。
あれあれ? これはあれじゃあないですか?
『それは《マスタークオーツ》よ』
まるでタイミングを見計らったように、再度サラさんから通信が入った。
『ARCUSの中心に嵌めれば
やっぱり、これがマスタークオーツか。話には聞いていたけど見るのは初めてだ。
箱の中に入っていたそれを取り出し、まじまじと見る。
今までのクオーツより少し大きく。紅耀石で出来ているのだろう、綺麗な紅色をしていた。
透き通るそれを覗き込むと中心には斧を模した紋様が浮かんでおり、灯りにかざしてやると中で光を反射してキラキラと輝いている。
…………あはは。
『紅』で『斧』か。
なるほど、僕にぴったりであると言えよう。まったく、気が利いているというか何というか。
さしずめ、このマスタークオーツの名前は『アックス』と言ったところかな? そのままだけどさ。
サラさんの粋な計らいに苦笑しつつ、ARCUSの中心部にアックスを嵌め込む。
すると、ARCUSと僕自身が輝きだし、懐かしい、と言うにはまだ早いだろうか。繋がっていく感覚が体を走って行った。
『君達自身とARCUSが共鳴・同期した証拠よ。これでめでたく魔法が使用可能になったわ』
うーん、そんなにめでたくもないんだけどなー。
個人の適性によって構造が異なる機械、戦術オーブメント。それは完全オーダーメイド品なだけあって出力も様々だ。
魔法への適性が低い人に高位魔法は扱えないし、保有できるエネルギー量も少ない。
逆に、適性が高い人は訓練次第でどこまでも高く扱えるし、エネルギー量も多いのでバンバン魔法を放てたりする。
だが、クオーツをセットすることによって得られる身体強化に差は一切無い。
ここまで聞くと、なんだか不公平な感じがするかもしれないが、元来魔法への適性が高い人物は直接戦闘にあまり向いていない
だからまあ、どっこいどっこいと言えるんじゃないかな? と思う。
ちなみに僕はめっちゃ低いです。適性。
身体強化以外活用してないです。昔から。
同期を終えると他にも面白い機能があるとかないとか気になる事を言いつつ、ようやく本題へと入る。
どうやらここから先のエリアはダンジョン区画となっており、割と広めで入り組んでいるようだ。
魔獣も徘徊しているようだが、それらを突破すれば旧校舎一階に繋がる階段へと辿りつけるらしい。
というかここ旧校舎だったんだ。こんなところで勉強してたとか昔の人すごい。もし魔獣が上がってきたらそれも授業として戦うのかな? さすが士官学院。普段から一味違う。
『――それではこれより、士官学院・特化クラス《Ⅶ組》の特別オリエンテーリングを開始する。各自、ダンジョン区画を抜けて旧校舎一階まで戻って来ること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ』
フィーはともかく。僕的には文句、特に無いです。
『何だったらご褒美に、ホッペにチューしてあげるわよ♡』
――――マジですか。
◇
立ち尽くす僕達。
円になり、全員で向かい合わせの状態である。
「え、えっと……」
「……どうやら、冗談という訳でもなさそうね」
紅茶髪の男子と金髪の女子が呟く。
ユーシスさんはそちらを一瞥すると、サッサと歩き出し先へ進もうとするが、マキアスさんに止められた。
「いきなりどこへ……。一人で勝手に行くつもりか?」
「馴れ合うつもりはない。それとも”貴族風情”と連れ立って歩きたいのか?」
先程の自分の発言で皮肉気に返され、言葉を詰まらせるマキアスさん。
どうでもいいんだけどさ、今のユーシスさんの『馴れ合うつもりはない』ってセリフ、めちゃくちゃかっこよくなかった?
いつか兄のようなクールでハンサムな男を目指す僕としては要チェックだ。今度使ってみよう。
「まあ――魔獣が怖いのであれば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族としてそれなりに剣は使えるつもりだ。
えーっと、つまり?
僕は貴族風情だけど剣が得意!
なに? 魔獣が怖いだって?
なら僕が君を守ってあげるよ! べ、別に貴族風情なだけなんだからねっ!
ってことだね。なるほど把握。三行で大丈夫です。
なんだ、言動はともかく普通にいい人じゃん。突っかかって来た人に向かってそんな事なかなか言えないよ――
なんて。
そんな風に素直に受け入れられるならケンカなんかしないか。普通に皮肉としか聞こえないし。
案の定怒ったマキアスさんは一人で行ってしまい、ユーシスさんもそれに続いて歩き出した。
呆気に取られた皆はしばらくの間無言だったが、再起動を果たすとこれからの行動について話し合っている。
さて、僕はどうしようか――
「レイ」
考えていると服の袖をちょいちょい引っ張られる。
はいはい、なんですかーって、用件はわかってるけど。
「先に行こっか」
どうやらフィーも他の人達と馴れ合うつもりはないらしい。
ちくしょう、かっこいいなキミ。口に出さず態度で表すのか。
「馴れ合うつもりはない」
「そ。じゃあね」
「ごめんごめん、嘘! 嘘だから!」
とりあえず僕は口に出してみると普通に置いて行かれそうになり、慌てて追いかける羽目になった。
このセリフはかっこいいけど僕には難しいみたいだ。仕方ない、封印することにする。
なんか後ろで声を掛けられた気がしたが、とにかく僕達は出発したのだった。
◇
「最終地点まで先行する」
振り返れば出てきた部屋の入り口がまだ見える場所。
「……なんで?」
どうせだらだら歩きながら進むのだろうと高を括っていた僕は、密かにケースの中へ仕舞い込んでいた三時のおやつを取り出そうか悩んでいた時の事である。
フィーは、歩きながら言葉を返す。
「順路と長さの確認。あと、危険な魔獣がいないかを確かめる」
「……大丈夫なんじゃないの? 下調べくらいしてるでしょ」
でもまだ三時じゃないんだよなあ。どうしようかなあ。
今日のおやつはスイートクッキー。
昨日買い物してる時に目についたのでなんとなく買ってみた。
「構造は大丈夫だと思う。けど、魔獣はいつ大物が現れるかわからない」
「……ある程度駆除してるだろうし、そんなすぐに出ないでしょ」
材料は小麦粉に卵、そしてハチミツだけ。
素材の質と作る人の腕によって味が左右されるであろうシンプルなタイプ。
「それでも、彼等への危険は最小限に抑えられるようにすべき」
「……うーん」
食べたくなってきたなあ。
別に三時じゃなくてもいいか。また買えばいいし。
食べよう。食べる事にしよう。よーし僕は食べるぞー。
「……サラにはお世話になってるし。これくらい、した方がいいんじゃないかな」
「むしゃむしゃ……ほうふぁね……ごくん。そうしようか」
うお、美味しいなこれ! サクサクしててハチミツの甘さがたまらない!
それにすごくあの……あれだ……美味しいなこれ!
「……なに、食べてるの?」
「え? スイートクッキー。食べる?」
「………………食べる」
二人で食べました。
「それで、何の話だっけ?」
「殴るね」
「ふふん、その貧弱な拳で僕にダメージを与えられいだだだだ!! え、なんで!? なんで髪の毛引っ張るの!?」
「この貧弱な拳ではダメージを与えられないから」
「正解ぃ!」
でもキミ殴るって言ったじゃん。汚いさすが猟兵汚い。
しかし僕の抗議も空しく無言で髪を引っ張り続けるフィー。
この年でハゲたくないんで力を強めるのやめてくれませんかね。
「冗談なのに……。ゴールまで先に着くようにするんだろう? わかってるよ」
「ん。ならいい」
手についた僕の髪の毛を息で吹き飛ばす姿に戦慄を覚えつつも話が丸く治まった(僕としてはまだ言いたいことはあったがやめておいた)ので会話を切り上げ、走り出す。
なんかすごいグダグダしていたが、やっとこさ探索が始まるのであった。