「ここをこう行って、次にそう行って、最後にああ行くとそこに着く。わかった?」
「ふんふん、ここをこう行って、次にそう行って、最後にああ行くとそこに着けるんだね、わかったよ」
「じゃあ行ってみて」
「オッケーオッケー余裕余裕。こっちに行って――」
「ちがう」
あれえー?
現在、元来た道を引き返す傍らこのダンジョンの道順を教えてもらっているが、どうも成果は芳しくない。
意気揚々と踏み出した第一歩目から訂正を入れられることにも慣れてきた。
「真面目にやって」
「僕はいつだって真面目だよ」
「存在がふざけてる」
生まれ変わってやり直せと?
「もう無理なんだってこんなことしてもさあ。僕の迷子はどうにもならないんだよ。もはや呪いと言ってもいいくらいだよ」
「だからって一歩目で間違うのはおかしい」
「進む道のことを考えてたらこう、頭がワーッて感じになってきてあれ? こっちだったよね? みたいな感じ。苦手分野で似た様な経験ない?」
もっと複雑な事でも理解できるのに、その分野になると何故か大した事ないはずの物がわからなくなる。
故に苦手分野。
誰だって一度はあると思うんだけどなあ。
「それでも一歩目からは無い」
「うーん、せめて地図があれば」
「逆さに見てた、ってオチがつく?」
「あまりバカにしないでよ。そんなこと片手で数える程しかないよ」
「冗談が通じない」
僕はいつだって真面目だから。
「まあそんなことより。フィー、誰か来るよ?」
「ん、わかってる」
前方から人の気配。
聞こえる話し声と足音から、僕は四人と推測する。
全員男性のようだ。
「こっち来て」
「お? おおぉ?」
彼等がこちらに来たら自己紹介でもしようかとそのまま突っ立っていた僕の手を引っ張ると、近くにあった隠れるにはお手頃でうってつけとも言える柱の陰へと連れ込んだ。
「行きの時も思ってたんだけど、なんで隠れるわけ?」
「黙ってて」
フィーはしー、と口に指を当てこちらを一度だけ振り返ると、また顔を少し出して彼等の様子を窺っていた。
僕としては別に見つかろうが見つかるまいがどちらでも構わないので完全に手持無沙汰である。
仕方がないので柱に背を預けてボーっと横目でフィーを眺める。
いきなり大声でも上げてわざと見つかってやろうかな。
でも確実に怒られるだろう。
髪の毛がまたピンチだ。
そうだ、髪の毛と言えばフィーの髪はいい匂いが、というか彼女自身からいい匂いがするのはなぜだろう?
女の子だから?
それともフィーだからなのか?
どちらにせよ、自分のとはまるで違う、仄かに甘い香りが好きだと思えた――そんなどうでもいいことを考えていると。
「ふうん。結構鋭いね」
どうやら見つかってしまったようだ。
◇
「あ……!」
「あの銀髪と赤髪の……」
「よかった。無事だったか。……と言っても、その様子じゃ心配することもなかったかな?」
既にバレているのだからいつまでも隠れる意味はないということで、姿を現した僕達へ様々な反応を見せる彼等。
「うん、必要ない。わたし小柄だし結構すばしっこいから。盾もあったし」
「なるほど、僕の視界にキミの言う盾が見当たらないのはアレか、自分のことは自分で見れないってことなのかー」
「哲学的だね」
「ぶっ飛ばすぞ」
「盾なのに矛にもなるとか。まさに矛盾」
「なに? なんでちょっとうまくまとめたの?」
大体キミに盾なんか必要ないだろ? 腹立つくらい躱すくせに。
「はは……仲がいいんだな?」
「あ、すみません」
目の前で繰り広げられる不毛な議論に置いてけぼりにされ、所在無さげにしていた四人のうちの一人が声をかけてきた。
今、話題沸騰の(僕の中で)肉布団系男子である。
どんな状況でも自分の上に乗らせるとかなんとか。
「僕はレイヴェル。レイヴェル・オルランドです」
「フィー・クラウゼル。フィーでいいよ。もう半分は超えてるからその調子で行けばいい。それじゃあ」
一息に言い切ると踵を返して歩き出すフィー。
えっ、ちょっ、もう行くの? まだ相手の名前聞いてないんだけど? と僕は引き留めるため声をかけようとする。
だがそれより早く。まあ当然とも言うべきか、マキアスさんと紅茶髪の男子が彼女を心配して引き留めようと声を上げた。
だがそれを慣れてるの一言でにべもなく切り捨てると。
「先に行くね」
走り出し、壁へ向かって跳び上がる。
そのまま行けばただぶつかるだけであっただろうが――
「なあっ……!?」
「す、凄い……!」
壁を蹴り、さらに上昇。
軽々と上に見える通路へ降り立つと、そのまま駆け出して行った。
僕には真似できない、軽い身のこなし。
さすがである。
いやさすがっていうか。
僕、置いてかれてるんだけど。
どうしろというんだ。
迷子になれというのか。
泣くぞ。割と簡単に泣けるぞ僕は。
「って、あれ? 君は行かないの?」
「いやあ、追いかけたいのは山々なんですが……」
まだそちらの名前を聞いていない。
これから二年間、共に過ごすであろう人達なのだ。できれば円滑に、円満な人間関係を築きたい。
一方的に言うだけいって立ち去るというのも礼儀的にアレだし。
遠ざかる気配に不安を覚えつつも、今はこの場に留まる事を決めた。
「よくわからないが……置いて行かれたというなら、僕達と一緒に来るか? さっきの彼女が大丈夫なのはよくわかったが……やはり女子一人は心配だ」
僕を見ながら言うマキアスさん。
確かにフィーがいくら強くても見た目はちっちゃい女の子。
そう思うのも無理はないのだろう。
あと、そのお誘いは非常にありがたいんですが、
「――いや、その必要はなさそうだ」
「なに?」
「ガイウスも感じるなら俺の感覚も間違ってないみたいだな」
「二人とも何を言ってるの?」
「……なるほど、確かに鋭いなあ」
徐々に遠ざかっていたフィーの気配。
その速度がゆるやかに落ち、ついには止まる。
今は動かず、立ち止まっていることがわかる。
さながらそれは。
待ってるからさっさと用を済まして追いかけて来いと言うかのようだった。
…………。
じゃあ最初からここにいろよ!
「とにかく、名前を聞かせてもらってもいいですか? 今のところ把握してるのマキアスさんとユーシスさんだけなんですよね」
「ん? なんで僕とあいつなんだ?」
「いやさっき上で色々あったじゃないですか」
「ああ……」
マキアスさんの顔が面白いように歪む。
それほど嫌な事だったのか。
「そ、それじゃ僕から。僕はエリオット・クレイグだよ」
「自分はガイウス・ウォーゼルという」
「リィン・シュバルツァーだ。よろしくな」
「改めて言っておくが、マキアス・レーグニッツだ」
ふんふん、紅茶髪がエリオットさんで褐色の長身がガイウスさん。
で、噂の黒髪がリィンさんか。
マキアスさんは把握済み、と。
「さっきも言いましたが僕はレイヴェル・オルランドです。レイヴェルって呼んでください。えーと、何か聞きたい事とかあります?」
「あ、じゃあいいかな?」
はい、と手を上げるエリオットさん。
どうぞどうぞ、何でも聞いてください。
「君って年はいくつ? あの銀髪の子もだけど、同い年には見えないから」
「あはは、フィーってほんと小さいから仕方ないかー」
「君も同じくらい小さいじゃないか」
「マキアスさんって絶対Sですよね……」
「なんでだ!?」
本当の事は言っちゃだめなんだよって教わらなかったのだろうか。
「ま、質問に答えると僕と彼女は十五歳ですよ」
「十五歳……」
「ふむ、十五であの身のこなしは見事だな」
「ですよねー、僕もそう思います。ほかになにかありますか?」
「……僕もいいか?」
マキアスさんがなぜか控えめに確認してくる。
全然構わないですよ?
「君と、さっきの子の身分が聞きたいんだが……その、一応、貴族かどうかは知っておきたくてね」
視線を四方へ彷徨わせ、最終的に下を向いて申し訳なさそうというか、随分聞き辛そうだった。
僕的にはそこまで気にする事でもないので逆にこっちが申し訳ない気持ちになりそうである。
しかし貴族。
貴族ねえ。
「僕もフィーも、そういう方々とは遠い存在だと思いますよ」
主に大陸西部を本拠地としていたが帝国に住んでいる、というわけではなかったし、ここで生まれたのかどうかも定かではないのだ。
フィーの出自は詳しくは知らないが、少なくとも高貴な血が流れているのであれば、僕と彼女はあんな
僕達に最初から身分なんてなかったのかもしれない。
といっても、貴族でないなら、自動的に平民になるんだろうか。
まあ、僕達みたいな奴等が『平民』と呼ばれるのもおこがましいというか、甚だ可笑しな話だ。
「そうか……いや、含む所は無いんだが、安心したよ」
「そうですか、それは何よりです」
含む所はないけど安心するんだ。
「っと。申し訳ないですがそろそろ失礼しますね。また後で会いましょう」
フィーを待たせていることを思い出した僕は会話を切り上げ、ペコリと頭を下げてから彼等に背を向ける。
よし、とりあえずこれで大丈夫だろう。
早く追いかけるとしよう。
気まぐれを起こして先に行かれたら困るしね。無いとは思うけど。
……でもフィーって僕に対して妙に厳しいというか冷たいところあるからなあ。
反応を見て楽しんでるだけかもしれないが。
助走をつけて壁を駆け上がり、縁に手を掛けると一気に体を引き上げその勢いで柵を飛び越し着地する。
うーん、やっぱりフィーのような身軽な動きはできないな。
手を使わずに上るとか僕もやってみたい。かっこいい。
そして一度だけ振り向いて彼等に手を振ると僕は走り出した。
なんか「君もか!?」とか聞こえたけど、はたしてそれは何に対しての突っ込みなんだろうか。
◇
フィーとの合流を果たすとまた誰かを探して歩き出す。
無駄だと思うが一応道順のレクチャーを受けながら。
「ねえフィー。なんで隠れたの? なんで先に行ったの? なんで人を避けようとするの? ねえなんで?」
「………………めんどくさい」
げんなりした顔。
それがすべての答えなら万能性が計り知れないね。
めんどくさい。
困ったときはめんどくさい。
「ちがう。レイがめんどくさいって意味」
「質問を全部無視して僕に一点集中のめんどくさいなんだね。心が痛いよ?」
せめてオブラートに包んでほしい。
もっと僕に優しくしろ。
「優しいよ? すごく優しい」
「えええ? どのへんが?」
「今も会話してる」
「本当は言葉を交わすのも嫌だったの!?」
キツい一言だった。
立ち直れそうにないくらいに。
「冗談。本当はレイのこと、嫌いじゃない」
「え……えへへ。そっかあ嫌いじゃないかあ。えへへへへ」
立ち直れた。
ところでフィーさん。なんで顔を隠して俯いてるの?
なんでプルプル震えてるの?
チョロい? 何が?
「ふう……行きは急いでたし、単純にあとで顔を合わすからいいと思った。めんどくさいし」
「ん、ああ、そうなんだ。じゃあさっきのは?」
「あれはただの興味本位。どれくらいできるかなって」
「興味本位……まあいいや。あの人達の名前聞いといたから教えるけど、次からは言うだけ言って逃げたりしちゃだめだからね?」
「えー」
「だ・め・だ・か・ら・ね?」
「レイうるさい……」
「うるさくない!」
耳を塞いでべー、と舌を出すフィー。
まったく、フィーはまったくまったくと嘆息する。
「そんなことより」
「そんなことじゃないよ!」
「そんなこと。もうレイの迷子は諦める。だから次は手加減」
「はあ?」
「あそこ」
スッと指さすその先。
そこには背中から羽の生えた、猫のような魔獣がいた。
こちらにはまだ気付いてないらしく、呑気に宙を漂っている。
「飛び猫か……」
どこの地域でも見かける比較的ポピュラーな種。
発達した後ろ足での蹴りを得意としており、早くはないがフワフワとした動きが戦いなれていない人にとっては捉えづらいかもしれない。
とはいえ、一般人でも十分に倒せるレベルである。炭鉱夫のような力自慢であれば余裕だろう。
つまり雑魚。
ちなみにあまり可愛くはない。
「ミッション。アレを殺さずに無力化、つまり手加減すること」
「…………」
フィーは僕に淡々と言う。
どうせお前には無理だろうと言外に告げるかのように。
ふむ。
本当に僕は手加減がわかっていないと思われているのか。
確かに僕は自分の事を賢いと思った事はない。むしろバカだと思う。でも、そこまで言うほどバカでもないと思うんだ。
何を言ってるかわからないと思うがつまり、いい加減過小評価はやめてもらいたい。
ということで。
「いいよ。そこで目をかっぽじってよく見ときなよ!」
「心の目で見ろってこと?」
飛び猫に気付かれるよう、わざと音を立てながら走り寄る。
当然気配を察知し、外敵の存在を視界に映すと一度動きを止め、羽を大きく羽ばたかせると猛然とこちらへ突っ込んできた。
だが僕は、その場で足を止める。
己の武器も出さずまま。
「はン」
相手は文字通り、飛び蹴りの体制に入っている。
二秒後には棒立ちの僕へ直撃するだろう。
「ぬるいね」
逆に前へ踏み込み、相手の側面へ滑るように躱すとカウンターでガラ空きになった腹を蹴り上げる。
めきり、とあばらが軋む音。
くの字に曲がった体から声は上がらず、空気だけが吐き出された。
致命的な隙、追撃チャンス。
「これが」
素早く肩からケースを下ろし、ぐるんと体を翻す。
ケースの中身は自身の得物。それも結構な重量だ。
出さなくともそれ自体が武器となる。
そんな代物に遠心力を乗せてやり。
「手加減だ――」
飛び猫が地面に落ちる前に横合いから殴り飛ばす。
先程自分で突っ込んできた時とは比べ物にならないスピードで弾き飛ばされ、壁に激突。そのままずるずる滑り落ち、ビクンビクンと痙攣していた。
完璧だね。
僕はフィーに向かってどやりと笑い。
「ふふん、ちゃんとわかってるでしょ!」
「わかった。レイはなにもわかってない」
解せないね。
「わたしは手加減してって言ったはず」
もう一度、飛び猫を見る。
相変わらずビクンビクンと、いや、ピクピクと痙攣している。
「どう見ても生きてるけど?」
「どう見ても虫の息だけど」
今生きているだけじゃ意味がない、とフィーは言う。
呆れたように。
「どこが手加減?」
「得物を抜かずに八割くらいで殴りました」
「なるほど、確かに手加減。これが世間一般でいう手加減の結果だとしたら、どこの国も軍を維持することすらできないね。教会が大忙し」
「ろくに戦争もできなくなって平和な世の中になっちゃうね? よかったよかった、あははは!」
うんそうだね今のは僕が悪い、うんうんそうだねわかってる。
わかったから僕が悪かったからその手を離して話し合おう。
「レイの髪は長いから掴み易くていいね。一つにまとめてるし」
「別に掴まれるために伸ばしてるわけじゃないよ……」
「褒めてるのに」
フィーは肩を竦め。
「まあ」
と言うと。
「手加減自体はできそうだから及第点、かな?」
「えらく低い合格ラインだなあ……」
再び歩を進めながら、脱線した話を元に戻す。
「でも、武器を使わないのは露骨すぎるからだめ」
「なんで?」
「目に見えた手抜きは不愉快に思われるかもね」
「…………」
想像してみる。
真剣にやってる傍ら、年下が明らかに手を抜いている状況を。
自分に置き換えてみる。
「……一理ある」
いや。
一理どころか、その可能性は大いにある。
むしろ道理であると言えよう。
誰だって苛立つ。
僕だって苛立つ。
根が真面目な人ならブチ切れるんじゃなかろうか。
「第一印象で言うならマキアスさんとか怒りそうだなあ」
「マキアス?」
「眼鏡のお兄さんだよ。ってあの時キミもいたから知ってるでしょ」
「へえ、そうなんだ」
「そうなんだって……」
なぜ他人事のように言う。
「第一印象で言うなら、もう一人いた」
「え、誰かいたか――ん?」
フィーは少し先に見える分かれ道まで足を進め。
「あの人」
複数の気配――三人か。
その中で一際背の高い。
僕がしているよりも高い位置で一つにまとめた青い髪。
彼女を指してフィーは言う。
「そなた達は――」
垂らした髪を尻尾のようにゆらゆらと揺らしながら、僕達とは真逆の方向から歩いてくる。
「……ああ」
凛とした雰囲気。
ピンと伸びた背中。
きりっとした表情。
可愛い、というよりかっこいい。
僕等を見つめるその眼差しはどこまでも真っ直で、その人の性根まで簡単に窺えた。
あまり馴染みのないタイプ。
もしかしたら初めて出会う人間かもしれない。
まあ。
なんにせよ。
「割と納得」
すごい怒りそう。
「ふむ、では自己紹介といこうか」
対面した僕達はひとまず無事を確認し合う。
お互い異常無し。
それが終わると件の青髪の女子はそう言って腕を組み。
「私はラウラ・S・アルゼイド。レグラムの出身だ。よろしく頼む」
人に名を訪ねる時は自分からとでも言うように。
彼女――ラウラさんは薄く微笑みながら名前を告げた。
それに続いて今度はラウラさんの右隣――僕から見て左に見える、髪を一本の三つ編みにし、眼鏡をかけた女子が丁寧にお辞儀をしてから口を開いた。
「初めまして。エマ・ミルスティンと申します。私はまぁ、帝国の辺境出身です。よろしくお願いしますね」
ニッコリと笑みを浮かべるその表情。
素朴で柔らかな物腰。
なんだか癒されるというか、暖かなものが感じられた。
この人もあまり馴染みのないタイプと言えるだろう。
そして最後に金髪の女子。
僕から見て右の方に佇む彼女。
輝く綺麗な髪を頭の左右で少しまとめ、残りは流す。いわゆるツーサイドアップというヤツだろうか。
リィンさんの手腕によって見事布団にさせられてしまった人だった。
「――アリサ・R。ルーレ市から来たわ。よろしく」
言葉少なで微妙に何かを躊躇う様子が見られたが気にしないでおく。
どう考えても隠した家名が原因だろーなーとかも思わないでおく。
あ、思っちゃってるな。
とまあ。
そんな具合に女子三名の自己紹介が終わった。
今度はこちらのターンだ。
相変わらず眠いのか眠くないのかよくわからない微妙に閉じた目で。
聞いてるのか聞いてないのかよくわからない、ボーっとした雰囲気を醸し出しながら僕の横にいたフィーが名乗り始める。
「フィー・クラウゼル。フィーでいいから。今後ともよろしく」
たとえ相手が誰であろうと崩さない簡潔でマイペースな口調も相変わらずである。
いや、いきなり敬語とか使い出してもビックリするけど。
何があったんだと心配になるよね。
逆に。
そしてフィーは次はお前の番だと言いたげに僕を見る。
ほかの三人もジッとこちらに注目していた。
僕はズイと一歩前に出ると。
「初めまして、僕はレイヴェル・オルランドと言います。レイヴェルと呼んでください。見ての通り皆さんよりも年下で世間知らずの若輩者ですが、仲良くして頂けると嬉しいです」
で、一礼。
ほう、とかへえ、とか。
なんとなく好印象っぽい呟きが耳に届く。
よしよし、いい感じだな。
僕は内心でほくそ笑むと、まず、アリサさんに向かって歩き出し、目の前で足を止める。
「な、なにかしら?」
困惑するアリサさんに向かって僕は右手を差し出し。
「よろしくお願いします」
「……ええ、よろしくね」
意図がわかったアリサさんも苦笑気味に右手を差し出す。
共に笑顔で握手を交わすと、そのまま左へ移動し、ラウラさんの正面に立つ。
「よろしくお願いします」
「うん、よろしくな」
僕は左手を差し出す。
一連の流れを横で見ていたラウラさんは淀み無く左手を差し出し、握手に応じてくれた。
そしてさらに左へ移動、最後にエマさんの前に立ち。
「よろしくお願いします」
「はい、よろし――え?」
「どうしました?」
「え、いや、あの……どうして頭を差し出すんですか?」
「お気になさらず」
両手を使ってしまったのでどうしようかと考えた僕。
まさか足を差し出すわけにはいかない。ならばどうするか。
簡単な話さ。
頭を使えばいいじゃない。
「さあ、僕の頭を撫でてください。少し変則的ですが、頭を握る手、つまり握手ということで」
「意味がわかりませんよ!? 撫でてる時点で握手じゃないし、普通に手を使えばいいじゃないですか!?」
「それはだめです! せっかくのアリサさんとラウラさんの感触が、ぬくもりが消えてしまう! さあ、お願いします!」
「や、やっぱり意味がわかりませんが……ええと、こうですか?」
「はい、そうですそうです。なかなか上手いですね……あ、もっと指に髪を絡ませてもらっていいですか?」
そんな感じで一通り頭をワシャワシャしてもらった。
お礼を言って、さっきと同じ様に注目されながらフィーの元へ戻る。
「僕、今日は手と頭を洗わない」
「上書き」
「ああああーっ!?」
瞬間、フィーは目にも留まらぬ速さで僕の両手を握り、頭をグシャグシャに撫でて行った。
なんという無駄に洗練された無駄の無い、無駄な動き。気付いた時に残るは優しく吹き抜ける一陣の風――
いやなんだソレ。
「ひどいよフィー! せっかくアリサさんとラウラさんとエマさんのぬくもりに包まれてたのに!」
「そこの三人、安心して。レイからちゃんと守るから」
「その言い方は確実に誤解を生むよ! まるで危険人物な扱いだけど何もしないからね! ううっ……全部上書きされちゃった……フィーに汚されちゃった……」
「なかなか良かったぜお嬢ちゃん」
そしてVサイン。
真顔でその冗談はシュールすぎる。
その様子を何も言わずに見ていた三人は。
「……世の中には色んな人がいるのだな。どうやら私はまだまだ勉強不足らしい」
「いや、あれはかなり特殊な部類に入ると思うわ……」
「あ、あははは……」
そんな目でこっちを見ないでほしい。