「それで……私達はこの青年を殺すということで……よろしいかな?」
「ええ……少々手強いでしょうが、大丈夫でしょう」
仮想空間に作られた、ANYCOLOR本社――そのビル街の細い路地裏で、二人は待ち合わせをしていた。
「しかし、今回はただ事ではないな」
「油断は禁物……なんせ今回はあの“ナンバーズ0”」
「何故あの青年が、普通の新参が持つはずのない――特秘開発ライバーシステムを持っているのか……」
そう、思慮深い声で花畑チャイカは、目の前のピエロに視線を向けると、それに返事をするかのように、フッと口角を絶妙に上げ、視線で返す。
「もう既に開発は終了しデータすらも、特殊コードで持てる者は限られているという話です……当然、私達がこの世界へ足を踏み込む時には、もう無くなっていたらしいですがね」
そう、やや嘲笑気味に言う力一は、仕草こそ大袈裟でないにしろ、あらゆる感情を織り交ぜたような複雑な笑みを浮かべ、ただ両の手をポケットに入れ汚い配管の通った壁に遠慮なく寄りかかっては軽く首を振る――『とうとう始まった』「――始まった?」
そうつぶやく力一に、一瞬驚くチャイカだったが、しかしすぐに本質を理解したかの如く、微笑み返して軽く頷き、目線を靴に向ける――
『この終わりなき安寧が瓦解する――“[[rb:大どんでん返し > ・・・・・・・]]”の時代が』
――時を同じくして、とある荒野……そこは彼女が創り出した仮想世界。
足場は悪く、水たまりも数か所ありながらその丘の上に、一人の機械の下半身を纏った少女が空を仰ぎながら風に吹かれ、ただ憂いの表情を浮かべ立っていた。
空は、雲一つない晴天で。
風は冷たくも無ければ暑くもない、丁度良い塩梅で。
気分も不思議なことに晴れやかで――
「――」
ふと、その時勢いよく吹いた風に圧され、なびいた短い髪が舞い上がり――血にまみれた彼女の顔面が露わになって……。
彼女の周りにはおびただしい数の新人がアカウントBANにより亡骸となって、倒れていた――
静寂に包まれながらも、風の音だけが耳に響く、その静かになった荒野の中、途端に通話の着信音が鳴り響く――
『にゃっはろ~』
「あ~みこち、丁度いいタイミング~終わったよ~」
その言葉を発するとともに、彼女の顔に柔和な笑顔が灯る。
『お~ピッタリじゃん、何人やったの』
「う~んざっと数えて50人は越えてるんじゃないかな?」
歩きながら、通話を続ける。
静かな荒野の中、敵地なのにも関わらず彼女は、笑みを浮かべ通話に集中する。
『お~!!こっちは7人くらいだね~凄くね?』
「ふふ~ん凄いでしょ~」
『それじゃあいつ頃合流する~?』
「あ、みこちの方が良かったら、今でも大丈夫だよ~」
その答えに『え!ほんと!じゃあ今行く!』と気持ちが声に現れて通話が切れると、すぐさま、彼女も端末をしまう。
ベルトのカバーを外して変身を解き、空を右手で薙ぐ――すると、次第に荒野の風景がヘキサゴン状のピースと形を変え、雪崩れるようにして天から地へ、風景が一旦白い空間へと変貌してゆき、瞬く間にまた同じようにして空間が入れ替わる――
「やっほー」
「へーい」
と、その入れ替わった先へと彼女たちは同じ空間へと移動する――彼女達が移動したそこは、仮想空間に作られたホロライブ事務所「あ~二人ともおかえり~」と、真っ先に二人の帰還を察知したのは、白上フブキだった。
彼女はそう言うなり、事務所に全員いるのを確認すると。
「みんな今日もノルマ達成ありがと~と言うわけで、ときのそらちゃんからの伝言で、今日のお仕事はおしまい!みんなあとはお好きにどうぞ~」
と、解散の旨を宣言するなり、各々はそれぞれの反応を示しながら事務所を去ったり、まだ居続けたり、お茶を淹れたり、ソファに寝転んでゲームをしたりとそれぞれ違った――そんな風景を横目に、白上フブキは事務所を去るとすぐさま一人の男へと通話を起動する。
「今回もノルマ達成しました――Yagoo」
『ありがとう、では私はこれから仕事がありますので失礼――』
宙に浮いた通話画面を消して彼はいつもの如く意味深な笑みを彼女に向けて、止めていた話を再開し始めた――
「いやあ、申し訳ないねえ新人採用面接なのにも関わらず……仕事は大事だからねえこれが大事な案件だったらば見逃すことになってしまう……違うかい?」
「いッ、いいえ!お仕事は大事かと!」
「そうだねえ……嗚呼そうだ、仕事は大事だ――」
「ははは……」
「ならば、こちらも仕事は遂行しないとねえ……?」
「はは……え?」
その次の瞬間彼の表情から、完全に笑みが消えた時の事だった「[[rb:BAN > 殺れ]]」と、その顎に当てていた右手を鉄砲の形に変え、彼女達へと向け――
Ok――
どこからか、返答が聞こえた次の瞬間、片方の子の胴体が消失する。それは突然の事で、傍らに居た子はわけが分からず、ただただ男の方へと振り返る……。
「面接は以上で終了となります――ありがとうございました」
それが最後に聞いた言葉だった。
何が何だかわからないままただ、真っ暗闇にへと引っ張られるような感覚だった――その次の刹那の間に、自分は、ホロライブに入れるという餌に釣られたのだと、理解した頃にはもう死んでいた。
データが消えゆくそのほんの少しの間では、この恨みを感じ取れるほどの余裕などあるはずもなかった――
「Thank you――Gura」
「No problem」
さっきまで、二人が座っていたそこには、サメの服を着た女の子が代わりに堂々と腰かけていた――
Yagooはすぐに翻訳プログラムを起動すると話し始めた。
「いやいや、お見事でした……しかもチャンネ――」
「御託はいいわ、さっさと初めて頂戴」
「――分かっておられるでしょうが、遂に例の人間がこの世界にへと参入してきました……」
「ふーん……ようやくKeyの登場ね、待ちくたびれたわ――ね、皆?」
「――な、まさか!!」
「ええ……ここに来る前からホロライブの皆とは通話を共有してるの……Yagoo、チェスと将棋……取られるのが前提のと、取るのが前提だと戦略も違ってくるものよ……しかも[[rb:王 > King]]はいつでも変動する……あなたは盤でしかないのよ……?もっともプレイヤーは誰なのか――私か……それとも皆なのか、でも戦いはいつも想定外を予想するものよ?そうね……例えば――そのKeyとか……」
「成程……分かりました――お望み通り、手を引きましょう……」
「いいのよ、それで」
ふふ、と微笑んで彼女は高らかに画面越しの仲間へと声を張る
「いい?数年前に始まったこのVtuber 同士の大戦、その巨大な転換期が今訪れようとしているわ……そう、彼によってね――今までもそうだったけど、これからが本番よ――今度こそ、チェックメイトが誰の手に渡るかは定かじゃないわ、さあいきましょう……Vtuber ランキングは見たかしら、その上位を占めてるのが私たちホロライブ……私たちなら覇者へと成りあがれる――」
ひっくり返すわよ――世界を。
同時刻、あらゆる企業箱内にて、彼と言う存在が知れ渡る――あらゆる“座”へと腰を下ろす八百万のVtuberが、皆口を揃えてそれを言う――
『重い腰をあげる時が来たようだ』と――
※※※※※
――あらゆる思惑が交差する最中、舞台の流れは巨大な変換期へと突入しつつあった。
それは、音も無く何も見えず、ただ各々の背後の影でしか分からない。
あらゆる歴史に時代の区切りという壁が無いように、宇宙から見た地球と言う天体に地平線は無いように、静かな繁栄と崩壊と滅亡の静かな波は確かに迫りつつあるのだった。
ラグナロクか戦争か――終末か永劫か