目覚めると、そこは白い眩い光の中だった。
死んだのか……? ここは部屋なのか……? わからない――
情報がいつまでも完結せず、留めど無く溢れてくるこの疑問に終止符を打ってくれる人は誰もいなくなった。
「ああ……だめだ、もうわかんねえし、疲れた。何も考えたくねえ」
「いや、それは困るよ、君には今から起こることを説明しなきゃいけない」
見ると、白い……いや黒いのか……? 色彩の感覚もはっきりとは言い表せないそんな存在が自分に話しかけていた。
もう、何が何だかわからない。考えるのも疲れてくる。それ故に、蜜柑は幻を見るかのような……夢を見るかのような感覚で、その存在を見ていた。
多分、俺は死んだのだろうか……PCが爆発したとか? 馬鹿みたいな死に方だな……。
などと心の中で軽口と愚痴の混ざった言葉を吐くも、本気でそう考えているわけじゃない――
「ここはどこだよ……」
「おっと、話が早くて助かるね、ここは仮想現実」
「……そうか」
「それで、ちょっと君は特殊なんだよ」
特殊……そう言われても特に気に留めることなく、受け流すのはもう色々とめんどくさかったからだ。適当に聞くだけ聞こう。頭がバグりそうだ……ん? バグる……?
「君の検索履歴を見てみるとね、なんでかな……“普通”じゃ“辿り着けない”ところまで来れている……それってどういう意味かわかるかな?」
「……しらね」
考える素振りも見せずにそういった。
そんなこと聞かれても、考えたところでわからない。だからそう即答する……。そんな蜜柑に彼は、呆れたような反応を見せるのだった。
そんな彼に蜜柑は心の中で疑問を抱くのだった――姿がはっきりしない……と言うかバグったような――
「なあ、なんで俺、ここに居られるんだ?」
「は?」
「いや、疲れたから考えないようにしてたけど……なんで俺、こんな変なとこに居られるんだ?」
「あのね……」
ため息をつく彼の存在は、本当にわからない……。敢えて言うのであれば“シルエット”とでも呼称しようか――
そう、彼はシルエットだった。
その白い空間の中で、白くも黒くも、何色でもない“この世に無い色”を纏った彼のその姿に、蜜柑自身『バグったような』とふざけ半分に例えていたわけだが、本当にバグっていたのだった。
「まあ、ここにきてそんな反応するのは君が初めてだよ」
「そうか……………………そうなのか」
「まあ、君も自ずと察しただろうが、改めて言わせて頂こう、君は“適合者”となったとね」
「なんだそれ」
「君はVtuberを知ってるだろう?」
「ああ知ってるさ、お前と今ここに居るのもそれがきっかけだからな」
「じゃあ、VtuberがVtuber同士で争っているってことは?」
「何言ってんだ?」
「言葉通りだよ、Vtuberという概念が誕生して数年、その存在の数は指数関数的に増え続けている……」
――すると、どうなるか。
自然と“争い”が起こってしまう。
再生数や登録者数の奪い合い、自身の個性や技術のぶつかり合い、そう言った「争い」が自然と生まれた。しかも、チャンネルBAN寸前まで行く際どい企画も増えてゆく。
最初は小さな衝突の連続だった、しかしそれがある時を境に強大な大戦へと発展した。
それが、自身の知名度と個性を力として具現する『ライバーシステム』の登場だ。
いつ作られたのか、いつ誕生したのかわからないこのライバーシステムを使い、今存在する全VtuberはVtuber同士で自身のVtuber人生を掛けて戦っている。
ライバーシステム自体は、もう仕組みはわかっている。しかし誰がどうやって作りだしたのかは未だ、わかっていない――
「だが、この大戦はそう遠くないうちに、悲惨な結末へと導かれる」
「――」
「そこで、君にはこのライバーシステムを使いVtuberとなって、食い止めてほしい」
「――なんで、俺が戦わなきゃいけねえんだ?」
しかし、ここで出した蜜柑の言葉は、拒絶を孕んだ質問だった。
何故、自分がやらなければいけないのかを聞きたいのではない、それは単純にやりたくない故の答えだった。
「俺がVtuberになったところで弱小ってことには変わりはない。有名になれる下地もなければ、強くなって食い止められる保証もない」
「それじゃあ、君はこれからも自分の推し達を見送り続けるという事なんだね」
その言葉に、蜜柑は酷く揺らぐ――
「君は、今まで仕方ないと思ってきた。それは彼女ら自身に原因があるからと考えてきたからだ」
「……」
「言い忘れていたが、その大戦で負けたVtuberはVtuberの頃の記憶を失い、適当な原因を捏造され“あった記憶”としてでしか残らない。魂である当人は覚えていないし活動していた記録も当人の記憶から消え去る。それは実質、彼ら彼女らは死んだということ……それでも君は阻止しようとは思わないのかい?」
「……そう言ったってな」
「じゃあ見過ごすということかい?」
「見過ごす?冗談じゃねえ、やるよ――やってやるよ。Vtuberとして、食い止めてやるよ」
蜜柑は、立ち上がって、その存在に決心の声を告げる――やってやるよ仮面ライバーとして……。俺が――!!