仮面ライダーVirtual   作:mikan-neko

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仮面ライダーVirtual 4話

 目の前が真っ白になる。

 それは比喩でも走馬灯でもなく、ましてやミサイルが爆発した時の煙でもなかった――

 

『  』

 

 もう、思い出せない。

 その名を口にしても、その名前が音として、空を漂うことなく泡となって消えてしまう。

 たった五文字のその名前が、たったそれだけなのに呼びかけることはできなかった。

 

――これが、最後だから……生きて

 

 その声は聞こえなかった。

 けれども確かに彼女は最後の最後、そう言い残して宙へと消えていったのだった。

 

 白いドーム状の、バリア。

 これが、彼女の最後の贈り物だった。

 力なく、彼女の名を心の中で連呼する……忘れないよう、覚えていようと。無謀だとも知らずに、その内で空を見上げながら必死に覚えようとする――けれどもダメだった。まるで、砂を手に取ってそれが零れ落ちるかのように、彼女の記憶が風化していくのだった。

 

 たった数秒の出来事、瀕死の自分を助けてくれた、天使と悪魔のハーフの女の子――

 

 薄く、まるで走馬灯の景色の中に住む住人だった。

 自分の目の前で、微笑んでそして消えていくその姿は、まるで彼女の名を具現化したような光景で――

 

 もっと話したかったよ……君と、そうか――君だったんだね。

 

 彼女が言うには、負けたVtuberは、消えてなくなるらしい。けどいたじゃないか、もうここにはいないけど、でも確かにいたじゃないか……。

 そう遠くを見つめる。ここで死んだら、現実の俺はどうなるんだろうか――ここで死んだらVtuberという存在が消えるということ……なら、今の俺が死んだところで、なんともないわけだ……Vtuberなんて正直どうでもいい、もういっその事やめて《死んで》しまおうか――

 

 そう黄昏ていた最中の事だった。

 

 ふと目線をずらすと、どこかで見た事のある光景が広がっていた――

 

「どっかで……」

 

 それは、確か……。

 懐かしい記憶だった、確か……いや、どれくらい前の出来事だったか……もう2、3年も前の事だった。記憶ももう無くなりかけている。もう彼女は存在しないのも同然だ――なのにどうしてだ。

 

「なんで、こんなはっきりと覚えてんだよ」

 

 それは、彼女の配信画面と似て、構築された世界だった。

 鮮明にも、その時の――あの時の新鮮さに、口元が震える。そして同時に、手のひらに違和感を感じ、それを見てみると、一つのカセットが握られていた。

 

「これは――」

 

 それは、紛れもなく、彼女の……『天魔マリナ』の“アカウント”だった。

 何度と呼んだ名前、そして初めて忘却を望んだ名前――

 

――ずっと、そこに居たんだな

 

 何かを悟ったような表情で、笑った。

 

『後は――嗚呼、もう大丈夫だ……任せろ――俺がやってやる』

 

 その声に呼応するかのように、その白きバリアが溶け落ち、その中心にいたのは、かつて絶望していた男の姿だった。

 正義を語るには、愚か過ぎて。平和を語るには、滑稽過ぎた。

 だが、その信念はだけは本物だった。

 

「止めてやるよ――一緒に……力を貸してくれ!!」

 

 変身――気高く叫ぶ男の姿は、反逆者か、それともヒーローか。

 

――舞台の幕が“今”上がる。

 

※※※※※

 

 白い幕が下がった瞬間、ケリンは察した。

 とてつもなくやばいものが来る――それは、単なる強さなどではなく、それは不死身だとかいう何度も蘇る類のやばさで――

 

 その中心に立つ、男は気高くもそのバグって、正体の見えない、“アカウント”を自身のライバーシステムにもう一本差し込んだ。

 瞬間、その行為……と言うか、彼のベルトの構造にケリンは驚愕する。それは一見、新人が扱う個人勢専用ドライバー「first」……。けれども、通常であれば、刺せるアカウントのスロットは一つ……。

 その時、ケリンにとんでもない考察が過る――

 

「おい!!なんでお前がそれを!!」

「どうした……もう一回、倒せるもんなら倒してみろよ!!長耳野郎が!!」

「お前今なんつった!!う゛お゛お゛お゛お゛お゛!ぶ゛ち゛と゛ば゛!!」

 

 だがしかし、その浅すぎる煽りに反応したケリンは、すぐさま思考を放棄しミサイルを発射するも、瞬間蜜柑はその背中に生えた羽を大きく広げ、バリアで防ぐ――なるほどと、完全に蜜柑は理解した。

 自身に備わっている力を具現化すると、それは防御と固い拳になる……なれば、そこに彼女の力が加われば、鉄壁の羽となるわけだ――がしかし、煙にまみれて気付かなかったが、それなりに、ダメージを受けていた。

 持ってあと、2、3発といったところだろう。

 

――だが、今の俺は、俺だけじゃない……。彼女の力も分けてもらっている……。ならば!! 

 

『半身に天使を!そしてもう半身に悪魔を!』

 

 彼女のアイデンティティ9割発現――瞬間、蜜柑のフォームががらりと変わる。

 右半身は白く、左半身は黒く染まり、両手には彼女の羽を模した剣が握られて――

 

「うおおおおおお!すげえ軽くなった!」

 

 しかし代わりに、自分のアイデンティティである防御力の象徴でもあった半纏がなくなって、ナックルグローブもなくなってしまったが、今の力の関係では彼女の方が上回る……。

 

「防御力を捨てるなんて、馬鹿なんじゃないかあ?」

「紙の盾より、鉄の剣よ!!」

「ほう、そうか……じゃあ容赦はねえよなあ!?」

 

 戦える――彼女の意思を感じる、そしてそれを受け継いでいる感覚も、それ全てが力となって還元される……。

 これならば、とふと光が差し込んだ時だった。

 

 突如として、けたたましいエラー音が鳴り響き、二人は、その異様さに戦闘を辞めざるをえなかった。

見渡してみると、辺り一面が赤く染まり『ERROR』といった文字で埋め尽くされる異様な光景に、蜜柑はただ呆然と立ち尽くす中、ケリンはというと、白けた声で「あーあ、もう終わりかよ」と放った後の事だった――

 

 それは、一閃の光が目に捉えられぬスピードで、自信の横を通り過ぎていったのだ。

 あまりにも突然の事で、瞬間何が起きたのか分からず、痛みよりも先に混乱でいっぱいになる。

 

――斬られたのか……? 痛え、痛ええ……なんだ? 首がものすごく痛え……。

 

「安心してください、致命傷です」

「お前は……月の美兎?」

 

 その声は親の声よりも聞いていたほどには聞きなじみがあった……。というか致命傷って、死ぬ奴じゃん。え、俺死ぬの!? 

 彼女が――あの時の散っていったように、そのフォームもまた同様にして宙に散ってゆく。

 

「おっすおっす~ってそれ死ぬ奴じゃん!まだ殺すなって言ったじゃ~ん」

 

 その声はとても耳に刺さる甲高い声だった――輝夜月か? 

 首が全く言う事を聞かない所為で目の前で何が起こっているのか分からない――なんでこんなにも大きな存在が……。

 

「ちょっとちょっと~殺してないよね~アイちゃんから言われるのに~」

「ああ、多分大丈夫ですよ、死なない程度に切ったはずなので」

「えぇっと~それはちょっとアバウトすぎるというか……あ、のじゃー」

 

 蜜柑は何が起きているのかさっぱり分からなかった。

 と言うのも、それは聞いて分かる通り、あの有名な……知らない人間などいない、四天王がすぐそばにいるのだった。しかも、何故か月の美兎も……委員長もいる。なんだ? 何が起こっているんだ? 

 困惑し続ける中、ただ一つ確信できたのはまだ自分が死んでいないという事だった……だがしかし、それでも大半が何も理解できていないのだった。

 

「おいおい……もう終わりかよ~新人狩りもっとしたかったぜ~?」

「私も混ざりたかたな~キュイキュイッ」

「ちょっとちょっと~この子はアイちゃんから殺しちゃいけないって言われてるんだよ~?」

「ええ!?まじか!!」

「な、なんか~特殊らしくて~のじゃ~」

「確かに……そういやこいつのベルト――」

 

『特秘開発ライバーシステム「Zero」firstと違ったライバーシステムに他者との融合というこれまでにない境地へと至ったシステム……今までは他者との共存という形でなら、二つ三つ四つ組み合わせたシステムも可能だったけど、融合という物はなかった』

 

 ケリンの言葉に覆いかぶせてきたのは、何とキズナアイだった。

 勢揃いかよと、思いながら、蜜柑はその言葉に耳を傾ける――

 

「なのになんで、君がそのベルトを持っててしかも、適合するはずもない君がこの世界に……この仮想世界にいられるのか……君の友達に直接聞きたいな~って」

「さっきから……黙って聞いてりゃ、お前ら全員自分のことばっか喋りやがって……」

 

 聞きたいことは山ほどあるが――

 

「一つだけだ……答えろ、お前らの目的はなんだ……お前らは全員争ってるんじゃなかったのか……この大戦で!」

 

 その問いへの反応は見てみないと分からない――生憎今は首が動かせないでいる。しかし、皆の反応は多分、失笑を含んだ表情だろう。見なくともなんとなく空気で察せられる。

 

「そうだよ、全員が敵」とミライアカリ

「けれど、ある程度チャンネル登録者が増えれば戦ってもお互い消耗するだけ」と輝夜月

「だから、一定数の数を持つ人は互いに不可侵条約を結んだ……のじゃ~」とのじゃろり

「そして今は増えすぎた」とシロ

『だから私たちはそれらを駆逐する』とキズナアイ

 

 その、あまりにも勝手すぎる、言い分に蜜柑は嘲笑を混ぜた声で言い返す。

 

「自分らで広めた癖に、今度は自警団気取りかよ、志は大層ご立派でますます憧れちまうよ」

「ねえ殺していい?いいよね?キュィィィィィイ」

「シロちゃん今はだめ、代わりにこの娘を取りに来たんだから」

「おい……やめろ!!」

 

 このためだったのか――!? 

ガチャガチャと、蜜柑のベルトをまさぐるのはキズナアイ――その抵抗も虚しく、彼女のアカウントを無理矢理ベルトから剥がされた……が、その瞬間塵と化し彼女の手から消えてしまったのだった……。

 それは、唯一、彼女の存在が確定する、唯一の視覚的な要素だった。

 彼女がいてくれる、お守りみたいなもので、現に彼女のおかげで自分はこの力を手にしたのだ――

 

「なに……してんだ――てめッゴフ」

「……ちょっと、手を上げるのはだめだと思うのじゃ~」

 

 その怒りと共に立ち上がろうとした蜜柑を蹴り上げたのはのじゃろり本人だった――何がどうなって……。いや、理解できないわけではなかった。ただ、理解したくなかっただけで――

 おぼろげに見えるのは、逆光に照らされ、シルエットになった7人の姿。

 

 にじさんじの月の美兎

 個人勢のケリン

 ドットライブのシロ

 奇想天外の輝夜月

 センシティブのミライアカリ

 バ美肉おじさんののじゃろり

 そして原点のキズナアイ

 

『さて、用も済んだことだし……帰りますか――』

 

 そう言って、7人は彼女の開けた亜空へと歩んでいく最中、蜜柑は力を振り絞って、彼女の名を叫び呼び止めるが、歩みを止めない。だから今ある疑問を全て投げかけ、そのワンチャンに賭けた――

 

 お前らは一体何者なんだ、

 お前らは何が目的なんだ、

 お前らは本当にそれでいいのか、

 

 お前らが行き着く先は、最後はどこなんだ――

 

すると彼女は立ち止まり、振り向きはしなかったものの、その口を開いた。

 

「もし、本当に止めたいのなら……[[rb:頂点 > 上]]で待ってるよ、じゃあね~」

 

 そして亜空が閉じると、自分の意識も薄れ――気づけば自室に戻っているのだった。

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