『クソォッ!!』
部屋の片隅で、机に拳を叩きつける男がいた――
彼女の――唯一彼女が居たという象徴が、アカウントが……彼女の手によって消去されてしまった。
それは、さっきまでの電脳世界での出来事――
天魔マリナという、ずっと応援していた娘が居た。その娘がこの大戦によって消えてなくなった……。
しかも、自分の目の前で……しかも自身の手には及ばない力の差を目の当たりにして彼女は破片として散っていったのだった。
――どうして俺が選ばれた
――どうして彼女が巻き込まれた
――どうしてあいつらが手を結んでいるんだ
あらゆる疑問がある中でも、彼の内には、彼女が――天魔マリナと言う一人の存在が消えてしまったことへの消失感の方が勝っていた。
ただ自分の無力さを後になってじわじわと心を蝕むようにして痛感するのだった。
※※※※※
「お久しぶりです、剣持刀也さん……あなたのアカウントをお返しにきました」
「お!お疲れ様です~え、どうでした?今回の新人は……やっぱり新人潰しはやっておかないとですからね」
彼はいつもの調子で笑みを含んだ声で彼女に話しかける。
「ちょっと、厄介なことになりそうですね……」
「へえ、まあ[[rb:僕ら > 箱]]には敵わないでしょwww」
「まあそうですね……」
彼女はそのドライバーを手に微笑む。
そして彼女は彼に告げた――
「剣持刀也さん……あなたの番ですよ」
そう言った直後だった――すかさず、月ノ美兎はその斬撃を躱し、その右手を彼の肩へと置く――「クソ雑魚斬撃が――お前は母には勝てないんだよ」そう、呟く彼女に対し、彼は聞こえる程の舌打ちを鳴らし、明らかに不快な表情を彼女に向けるものの、すぐさまいつもの嘲笑を含んだ顔に戻り「僕に指図しないでも貰えますか?」と彼女の右手を振りほどき、その場を去ろうと、彼女から離れていく――
「勘違いしないでくださいね?キズナアイさんからの命令とのことで……」
そう離れ行く彼に言うと、彼も足を進めながら指を鳴らして笑い飛ばす。
「ふーん……じゃあ[[rb:殺して > アカBAN]]も良いってことだよね」
――そして、彼がその場から去って一人取り残された、月ノ美兎は思う。
にじさんじ――それはVtuber業界の中でも1、2位を争うトップのV箱派閥……。
それに所属するだけで、自身のチャンネル登録にバフが掛かり、強さだけでも一級となる。
いや、それはにじさんじに限らず、どのV箱でも同じだ。
ホロライブ、ENTUM、774inc.……数多くのアカウントを所持し、トップに君臨し続ける企業勢が大きな勢力圏を持っている。
がしかし、最近.LIVEの均衡が傾きつつある――まあ、計画通りと言ったところか……。
まあしかし、昨今の大戦を見て転生を試みる者も大いが、大体が消滅する。愚かにも、“素質”というものに恵まれないらしい、それに“比較的上位のVだけがこの箱に転生”できるというのも知らないのも相まって……まったく愚かだと彼女は内心笑いを堪え切れなかった。
ああ、ダメだ――まだ笑うな――
まあしかし、箱もそれだけじゃ内部闘争も絶えない――いくらそこに属したからと言って、物事の根幹は蹴落とし合いだ。
表面上仲良くしているだけで、実情はそんなものだ。
私だって、本心で信頼している仲間など一人いるかいないくらいなのだ――
さて――蜜柑さん、この大戦を終わらせるキーマンになるか……。
それともただのかませ犬に成り下がるか……。
『とても見ものですね』
※※※※※
一方その頃、男は情報収集をしていた――
Vtuber同士のこの大戦。
何か核心に迫れるものは無いかと必死にネットの中を探し回っていた。
2ちゃんねるをはじめとした数々の掲示板や四天王、月ノ美兎、ケリンなど、あの時遭遇したVの動画を必死に探し回った――
しかし、いくら探せど見つかる情報はただの一般大衆に向けた動画に過ぎず、どれもこの裏の大戦のことなど、匂わせもせず、ただただ時間を浪費するだけに終わるのだった。
――そんなある日の事。
「……ライン?」
突然の出来事過ぎるが故に驚きよりも先に不気味さの方が強かった……。だって、登録していない、『迥ャ螻ア縺溘∪縺』という者からのメッセージで、奇妙と言うか至極不気味だった――しかし、その名前の下には『蜊泌鴨縺励h縺』と、明らかに文字化けをしており、普通なら開かない方が吉なのだろう。
けれど、彼にとってはこの大戦の情報が得られる絶好のチャンスに見えたのだった。
――だから開き、その文言をコピペして、翻訳サイトに掛けた。
『協力しよう』――
そう翻訳の結果が出た瞬間だった。
LINEを表示していたiPhoneの挙動がおかしくなる――嵌められたか!? と動揺する中、おかしな挙動を併発しながらも文字化けした文字が次々と直り、そして流れるようにメッセージが連投される……。
「開イた縺溘ネ」
「ぼ僕縺代←今、君の端末ヲはっきングググッグウしテ、文ジを打って?るルるるr」
「ボクはボクボク僕は、君ノ協力シャ谿コ縺でよ」
「残ザsa念なガらァ最譛?邨ら噪縺ォ」
「僕くゥのショ体イィィィィは灯明かセセン!縺斐a繧薙?Nえないンダ??????」
「これはこれはコレハ、自己防衛だッかカ/ら」
こちらの返答も許さず、そしてこちらの気持ちなど意に介さずその連投は続いた――
「さて、ココオ今ッの大戦」
「詳し縺ッジョ報ッwを」
「知りたければ縺ァソ繧モコでデ待って??る」
「君の蜊泌<!—近くの駅のカフェ-->鴨髢「菫系」
「タびぃダヴィンチダィィィ縺?縺九iのsEキにいる∃」
文字化け交じりのそのメッセージ。
一見、読めなさそうだが、よく見てみると――
『開いたね
僕は今、君の端末をハッキングして文字を打っている
僕は君の協力者だよ
残念ながら僕の正体は明かせないんだ
これは自己防衛だから
さて、この大戦
詳しい情報を
知りたければそこで待ってる
君の近くの駅のカフェ
ダヴィンチの席にいるよ』
と一応解読できる……。
ダヴィンチと言うのは、自分がよく利用するカフェだが――
しかし、これは信じていいのだろうか――一瞬渋ったが、しかし戦闘は電脳世界なので、外に行ったところで、何の問題も無い気がする……。
気になって、試しにメッセージを打ってみた。
『お前はどこまで知っているんだ?』
「全テ、あナたnO、GooglEアカウントの全てを知ってるE」
その思ってもみなかった事態に困惑し、思わずその手とそれまでの余裕が消え去った――これは普通にやばい、脅迫じゃないか!!
『これは脅迫か』
普通に、個人情報が握られているのがやばい!! そう返答を待つが、やけに遅い――こんなんで焦らしとか普通に要らねえから!! と思ってから多分5分ぐらいの間があったと思う。その末に帰ってきたのは「キどうかな」という返答だけ。
『13:15 10番席 待ってるから』
続けて送られてきたそのメッセージ見た直後に時計を見る――12:40
思わず、スマホを投げ捨て焦燥に駆られるまま急いで身支度を整え、自転車を走らせる――畜生おおおおおおおおおお!!