けたたましく鳴り響くブレーキの音。
半ば捨てるようにして自転車を乗り捨て、慌ただしくこけそうになりながら、店へと入った。
「す、すいません……待ち合わせなんですが……」
「え、えっと……あ、じゃあこちらに……場所大丈夫ですか?」
「あぁ……大丈夫です……すいません……」
肩で息をする彼の姿に、思わず店員の人も困惑している――この文字化け野郎が……。
慌てて店に入ってすぐ、備え付けの時計を見る――13:15
よかった……間に合った。
そう安堵するも、表情に出るのは疲労だけで――店内を見回しながら、10番……10番と探す中、手を挙げる人影があった。
Vtuberが現実で会うとかどうなんだよ……と内心眉をひそめつつ、できるだけ笑顔で、接するように心がける。自分の半身……いや4分の3……9割型、人質に取られているようなものなのだ……。まったく……たまったもんじゃねえよ……。
そう心の中でぶつくさ言う割には彼の表情はとても好意的なそれを完璧に演じていた――そんな心内で「ったく、どんなロクでなしかその顔を見てやる」なんて心で、本人の顔を見た時、思わず彼は小さく「――えっ」と呟いてしまった……。
何故なら想像していたものとは全然違っていたからで――
それは、白金色の髪を伸ばしたとても綺麗な……男と言っていいのか女と言っていいのか区別のつかない中性的な……声的に美青年だった。
「やあ……蜜柑猫君――よろしく」
「……ど、どーも」
かなり拍子抜けした感覚で、差し伸べられた手を握って、握手を交わす――
見た感じ、文字化け野郎――いや、美青年はかなりこちらに好意的で、なんだかぎこちなくなってしまった……。
「さて……一応だけど、ボクの仮の名前だけでも決めた方がいいよね」
「まあ……僕にも本名はあるので……」
「そうだね……じゃあ、僕の事はFamiliarって呼んでもらえれば」
「あ、分かった……」
独特なセンスだな……どんな意味なんだろう。
「さて……この大戦の情報なんだけどね……君が知りたいことをなんでも教えられるって訳じゃないだ……」
「それだと話が違うじゃないか」
「これは取引だよ、蜜柑君――ボクと君で不可侵条約を結ぶんだ、そうしなければ情報交換はできない……そうだろ?」
「まあ……それは理解できるが……」
「よし……じゃあ、これからは協力者としてお互いWin-Winな関係を築いていこう」
「と言ってもどうすりゃいいんだ?俺がやれることは限られてくるぞ……」
「そういうことなら、役割はもう考えているよ。ボクは君に情報を提供するそして君はボクの仲間として、ボク盾として体を張る……これでどうだい?まあそうは言っても君に選択肢は限られてるけど」
「いやらしいな……まあでも、別にその提案は悪くない――どうせ俺の特性は把握してんだろ?いいぜ、その提案乗るよ」
「じゃあ改めて――」
そう差しだされた手を握った直後だった。
――瞬間、辺り一面が灰色一色に染まる。
その異常事態に、二人して驚くも一方は状況を飲み込む――しかしもう一方は中々整理できずにいたのだった。
空間自体はさっきまで居たところと何ら変わらない――
空も青い――
雲もある――
外の景色もいつも通り――
――なのにどうしてか違和感を感じるのだ。
そしてその違和感は、周りの色だけでなくその店の中にまで及んでいた。
「人が居ねえ!!いままであんなに居たのに!?」
そう辺りを見渡し歩き回るが、さっきまでほぼ満席状態だったにも関わらず、客はおろか店員までもそこにはおらず、まるでその店の中に閉じ込められたような感覚で――
「Familiar……これは、一体――」
「――なるほどね、こうやって油断した新人たちを狩っていたわけか」
「つまり!?」
「――蜜柑君……戦いだよ」
瞬間窓ガラスを割って入ってきたのは――
『どうも――にじさんじライバー……剣持刀也です』
にじさんじライバーの一人、剣持刀也だった。
※※※※※
「ど、どういう事――!?」
『蜜柑君、今は取り敢えず変身だ――』
Familiarはベルトを取り出し『変身』と叫び、続けて蜜柑も叫ぶ――
途端に、二人からは変身音と共にそれぞれの音声が鳴り響く
『ライバーシステム「Zero」セット!!スロット1!『Orange-Cat』』
『ライバーシステム「Zero」セット!!スロット1!『コピー.exe』スロット2!『犬山たまき!』』
「え!同じシステム!?しかも犬山たまき!?」
「――少し、特殊でね――」
――ガシャン!!
その音と供に――フォームががらりと変わる。
「じゃあ、僕も変身させていただきますよ!」
そう言って取りだしたシステムの違和感に早くも気づいた蜜柑は「なんだそのベルトは――」と零し、それに傍らに立つFamiliarが「あれは間違いなく――」と口にする。
――箱推し専用ドライバー『MIX』
「御伽原さん使わせてもらいますよ――」
「――ギバラ!?」
その名を聞いた、Familiarは納得した声色で呟く――
「そうか――これは御伽原江良のアイデンティティ!!」
「と――言うと!?」
「特定の相手を電脳世界に引き込む力――それがッ!!」『それが――彼女のアイデンティティ』
『――シンデレラタイムッ!!』
『――シンデレラタイム――』
彼の言葉にかぶせるようにして、剣持もその言葉を放つ――
次の瞬間、派手な音と供に剣持が勢いよくシステムを起動する。その時、金色と、紫――二つの懐中時計のスイッチを押す――『ギバラ!!』『アゴ!!』と二つの懐中時計からフォログラムが立体的に浮かび上がり、自信に満ちた声で「変身」と言うのと同時にシステムに差し込んだ。
『システム『MIX』from《[[rb:2:3: > にじさんじ]]》コラボ!ギバラアゴ!ロリコンマッチ!』
――それは、数多くのアカウントを所持している、V箱企業のほとんどが採用するシステムで、その特徴は1つ以上のアカウントを組み合わせて変身する機能『コラボ』――
「ってことは――どういうことだ!?」
「倍数的に力にバフがかかるということです――」
困惑しつつFamiliarに説明を求める――
蜜柑猫自身、何が起こっているのかまるで理解が追い付かず「取り敢えず俺はどうしたら!!」とFamiliarの方を見ていた時だった――それはよそ見を、剣持刀也から目を外していた一瞬の出来事で――
『うお!?』
「おい!よそ見すんなよお前ぇ!戦いに集中しろぉ?」
間一髪のところで彼の斬撃をグローブで弾く――
瞬間、二人して彼と距離を取るものの、狭い店内のためいくら間合いを取ろうとしても、あまり距離が取れない――
「おい!どうするFamiliar!!」
「――取り敢えず防御お願いします!」
『合点承知!!』
ガチン――ッ!!
両のナックルグローブの拳を合わせそう答えるや否や、防御に意識を振り切る――
瞬間、取っていた間合いを一瞬にして詰め寄る剣持に驚きつつも、降りかかる斬撃を受け止める――
「うおおおおおおおおおおおおおお!!無理ィ!!もう無理無理無理!!」
「耐えて!耐えて蜜柑君!!」
「うわあああああああああ!やばい!やばいッ!やばいってぇ!!」
繰り返される剣持による斬撃に、蜜柑は早くも限界に近づいていた――気合で踏ん張るが、しかしそれすらももう耐えられそうになかった。
剣で薙ぎ払われ、上体が右へ左へと、強固に構えられたガードを逆手に取られ大きく芯が揺れ、その度に蜜柑は全て気合いで立ち直ってきた……。しかし、限界に近づいてきた今、彼は心の内で悲嘆を孕んだ絶叫を上げていた。
クソゥ! 一体全体、このイケメン野郎は何考えてんだ!! 畜生おおおおおおお!!
「くっそ、渋てえな~コイツ!!」
――止まった!?
一つ一つが重く、そして目に見えない速さで迫る連撃がぴたりと止む。
まるで、それは音が止まるかのような「静けさ」を覚え――その一瞬の隙だった。
『取った!!』
その一瞬をFamiliarは見逃さず、そしてその一瞬こそ彼が待ち望んでいたもので――
瞬間、蜜柑の影から、縫うように剣持へと飛びこんだ。
「うわッマジかよお前!汚ねえぞ!!」
「奇襲をかけてきた人に言われたくはないな~」
「クッソ!うわ!!ヤメロォ!!」
そう叫ぶ剣持にFamiliarは容赦なく、攻撃をぶちかます――その両手には巨大なハンマーが握られ、その体を回転させながら振り回し、広範囲による攻撃のため、舞台は外へと移る――が、しかしそう一筋縄ではいかず十分な間合いを取られてしまい「畜生!お前今に見てろよ!!」と叫ぶと剣持は、システムにはめられたもう一つの懐中時計を回す――
『超ロリコンマッチ!!アイデンティティ!ギバラアゴ!』
そう合成音が鳴り響いた途端――重苦しい鐘の音が地響きのようにその場を揺らす。