「まさか――!?」と彼は内心発狂しながらも呟くが遅かった。
そう、それは紛れもなく蜜柑猫と言う一人のVの真価が宿り、正真正銘、仮面ライダーとして“完全体”へと昇華した証明で――
――アイデンティティ発現『[[rb:虎の威を借る狐 > シン・[G]ODzi[R]a]]』――
「いいだろう……ケッチャコ――?!」
剣持の言葉を待たず、その拳を彼の顔面へと振る――それに剣持は受け止めるよりも、本能的に避けることを選択した。
受け止めてはダメだと、彼の無意識の中で途端に回避を促した――
避けた――この僕が!? 有り得ない! こんなやつに何を恐怖してるんだ。
安心しろ剣持刀也、こいつは新人……そうっ、新人なのだ! この瞬間、たまたまアイデンティティが発現しただけの、まだ名も知られていない新人――ッ!!
何を怖がる必要がある!! この僕が敵わないわけがない! そうだ、こいつはただの虚勢だ、虚勢だけで何も恐れることなどないのだ!!
こんな……こんなので、くたばってたまるか!!
心の内で、自身を鼓舞し必死になって自分の怖気づいた、心にどうにか虚勢を張る――『超ロリコンマッチ!!アイデンティティ!ギバラアゴ!』合成音が鳴り響く。
一撃必殺をもう一度食らわせればすぐだ――!!
その瞬間だった。
『タイマン買うぜ……剣持ぃ――』
――何が、何が起こった? 何が起きた、僕は今何を見ているんだ?
見ると、その一撃必殺が始まろうとしたその直前、突如として目の前に蜜柑猫が現れ、ベルトを鷲掴むと、技が強制終了させられ0距離でそう笑ったような声で囁く。
――見えなかった、何も。一瞬過ぎて、何も見えなかった。
「お前ごときに!お前ごときにぃぃぃい!!!」
「遅いッ!!」
叫びながら、切りかかる剣持よりも蜜柑の拳が早く、しかもそれは、予想外で、有り得ないことに、とんでもない破壊力で彼の胸が凹み――周りに強大な衝撃波が渡り、空間が大きく断裂した瞬間、まるでおもちゃの人形のように、無造作にそしてまるで生きていないものかのように、吹っ飛ぶ――
――クッソ、動けねえ――
仮面は正面の半分しか残っておらず、半纏も中のパーカーもはだけ、ぼろ衣のような長袖シャツに、スウェットパンツも元の姿を忘れ、半ズボンの丈へと短くなり、また甲冑デザインのナックルグローブは、殴った方が衣装同様、気づけば無くなって殴ってきた衝撃に吹き飛んだらしい。
反射してきた衝撃に、全身の装備が大破してボロボロになってしまった。
故にそれは、蜜柑の全力からの結果で、その殴った後の体勢のまま、しばらく動けなかった――
「……やったか?」
そう遠くへ吹き飛んだ剣持へと、掛ける声は、疲労に包まれていた。その声に返答はなく、数十秒の静寂が場を漂う――
『危ねえ……』
「――!?」
しかしながら、まあ予想していたものの、やはりそれが現実に起こってしまうのは中々に辛い。
『あと一歩のところで巻き込まれるところだったぞ――』
そう、視界の外から現れた剣持刀也の姿に蜜柑は静かに、後ろに居るFamiliarに声を掛けた――
「これは……どういうことだ?」
「恐らく……いや、これは『御伽原江良のアイデンティティ『[[rb:幻の清楚 > シンデレラ・リテイク]]』』自分をダミーに切り替えることができる江良ちゃんのもう一つのアイデンティティだね――」
「なるほどな――」
――シンデレラはそれまでいじめられていた、しかし魔法使いにドレスとガラスの靴を与えられ、貧相な姿から華やかな姿へと昇華した。
「Familiar、シンデレラって灰で汚れた姿を継母達が「灰まみれのエラ/シンダーエラ」と馬鹿にしてからかった事からって知ってるか?」
「へ~そうなんだ、なんで知ってるの?」
「俺、江良ちゃんのファンだったんだ――」
そう背中で語りかける蜜柑の姿はボロボロでもう戦えるような恰好ではなかった――しかし、その声からは今尚、その「覇気」は途絶えず燃え続けていて、そんな彼に剣持は苦い顔をしながら、こちらに向かって歩む――
「よお……俺は何回でもいけるぜぇ――」
「ハッタリか――そうじゃないかは僕でもわかるぞ」
「なら試してみっか――」
『――』
その蜜柑の自信に満ち溢れた声に、少し立ち止まって考えた素振りを見せると――
「おい待て!!逃げるのか!?」
「逃げるが勝ちなんだよなあ!!」
その言葉を放った瞬間、空間が隔離し始める。
「おい待て!!お前俺の推しを使った事許さねえからな!!」
そう、雄叫びを上げながら剣持の方へと、走るが距離が縮まらないどこか、空間が歪みどんどんと引き延ばされ、しまいには地面さえもなくなり、暗闇へと身が包まれると次第に意識がブレ、世界がバグり始め視界ピクセル状にモザイクがかかると次第に解像度が荒くなって――完全に暗闇に取り残され、そして「プツリ」と、電気回路がショートするような音を立て消える。
そして、場面が変わるように気づけば意識が現実へと戻っている事に気づく――
※※※※※
――気づいたかい? その声にハッと、意識がこちら側に戻っていたことを知った。
「どれくらい経った?」
「そこまで変わってないよ、電脳世界とこちらの世界の時間経過は違うんだ」
そう、焦りながら見た時計に示された時間は13:20――
「そうか……いや、それもそうだけど、聞きたかったのはここに戻ってきてから、意識が向くまでの時間を聞きたかったんだが……」
「ああ、十数秒くらいだったかな……そこまで変わってないよ」
「そうか……そうか――」
そう惜し気に呟きながら、どっと溢れ出す疲労にソファに深く腰掛け天井を眺めると、窓を見てただただ「逃した――」と独り言を呟くのだった。