人々がごった返すスクランブル交差点を歩く蜜柑とFamilia
「とにかく、家の中に居ても外に居ても変わりありません……」
「つっても、あいつらの居場所を電撃訪問するって正気なのかよ」
「それがもっとも効率が良いですし、被害も最小限に済みます――」
「まあそうなのかもしれんが……けど、あいつらの居場所なんてわかるのかよ」
「はい、もう既にハッキング済みですよ」
「怖いねえ」
そう、二人して会話をしていたその時だった。
――楽しそうだね
『――なッ』
瞬間、空間が歪み、いつの間にか電脳世界に引き込まれていた「おい、またかよ!!変身――」と叫んだ時だった。
Familiaの姿が見えず、代わりに傍らには、ローブを着て、所々ピクセル状に体がバグっている一人の存在がそこにいた。
顔は隠れているが身長はそこまで高くない――
蜜柑が『変身』との声を叫んだ、次の瞬間だった。突如として蜜柑の身体の内からは痛みとも苦しみとも言えない異変が起こった。
『これは――バグ――ッ?』
『やめときな……ボクは君と戦うつもりはないよ』
その女とも男とも取れるような声が聞こえた瞬間、蜜柑の五感が狂う。
搔き毟るかのような聴覚に、平衡感覚の失った割れた鏡のような視覚、触覚や嗅覚なんてのも感覚が正確に行き届いていない――
『いずれ来るべきラグナロクに備えて――』
『お前――その手に持ってるのは!!』
カチャリと、歪んだ視界の中でも蜜柑はその手に持つものをはっきりと視認した――それはさっき見たばかりの代物で、忘れるはずもなくて。
そのベルトのバックルに似た、それでも特徴的な形をしており、“ライバーシステム”を起動することのできる数ある内の一つで――それは紛れもなく箱推し専用ドライバー「MIX」だった――
『なぜ……どうしてお前がそれを持っているんだ!!手下か!?』
『ボクは敵でも味方でもないよ』
『日本語わかるか……?どうしてお前がそれを持っているんだよ!にじさんじのライバーか?』
『ふふ……これ以上は何も言わないよ、君には期待しているんだ、がっかりさせないでよ』
『何を――言って……』
『[[rb:頂点 > 上]]で待ってるよ……Familiaをよろしく頼むね、きっと役に立ってくれるだろうから』
『おい待て!!まだ話は終わってねえぞ!!』
その声を叫んだ瞬間、酷い頭痛と吐き気、視界のよろめきや平衡感覚の喪失などに襲われ、その症状に呻く暇も与えず、空間が歪み始めた――勝手に呼び出しといて、今度は強制退去かよ――
空間が吸いだされるように歪み、そして引きはがされるようにして、現実へと意識が切り替わる……。
スッと治まったものの、どこかまだ気持ち悪い感覚が残っているかのような感覚にどこか気持ち悪く、蜜柑はその交差点の中心で立ち止まって、俯き唸り声を出す
これは――VR酔いか――?
「だ……大丈夫ですか!?」
「あ……ああ……」
咄嗟に、俯く蜜柑の身体を支え、足早に交差点を渡り終えると、歩道に備え付けられたベンチに彼を座らせた――
「いきなりどうしちゃったんですか」
「いや……すまない……話すと長くなるからおいおい……な……」
「まあそれなら……」
数秒間の沈黙が続く――その中で蜜柑は、いつもと変わらぬ口調で、しかし、何かを含ませ、彼に聞く。
「……お前、俺の敵だったりするのか?」
「敵……?」
しかし、彼はこれと言ってピンと来ていないような表情をするのみで、これ以上はやめておこうと、心の底で思ったのだった。
「……いやなんでもない、悪いな……変な事を言った」
その後、数分かけて、事の全てを簡単に説明する。
いや、それしか分からなかったという方が近い、あれは幻覚か、それとも現実か――
それすらも、今の蜜柑には定かではなかった――瞬間、不自然に開けた人混みの中、二人の奇抜な大男がそこに居た。
「ふむ、貴様らがかの新人か」
「いやあ、本当に申し訳ないのですがね、こちらも生き残るためですので――」
異様に鍛えられた体格に見合わぬメイド服を着たエルフに、奇抜なメイクを施し白いスーツを着たピエロ。
この人混みの中にも関わらず、まるで二人が舞台の主役に立っているかの如く、不自然にも、しかし自然に見えてしまうくらいに、その中に馴染んでいて――
「――まさかッ!!」
「[[rb:道化師化粧のヴェール > ドリームパレード]]――「もう遅い、貴様らはこちらの術中にはまっているのだ、『『変身!!』』
※※※※※
「何か御用ですか――委員長」
「ええ、是非とも力一さんの力をお借りしたく」
「いいでしょういいでしょう……しかし、タダでというわけにはいきませんから……何か――」
「では、遂行した暁には、こちらをお渡ししましょう――」
『話が分かる人で大変頼もしい』
――では、私は早速、仕事に取り掛かります。
そう言い残し、ピエロは早々に彼女に別れを告げ、一人歩を進めた。
「力一さん、彼はそう一筋縄ではいきませんよ」
そう一人で呟く彼女は感じる視線へ目だけを動かし「――居るのはわかっているんですよ」と背中で呟く……。
「おう、バレとったか――美兎ちゃん」
「私にはバレバレですよ、楓さん」
「しかし、おもろいことになったなあ……」
「フフ……そうですね、とても賑やかで……」
『――しかし委員長、あいつははっきり言ってマズイで、はよ釘打たんと[[rb:うちら > にじさんじ第一期生]]でも敵わんくなると思うで』
『それもそうですね――しかし、現段階では計画の内です……私達はにじさんじの始祖、そして開闢の箱庭を制するのは真の理を知った者です……二兎を追う者は一兎をも得ず、まずは地盤を固めるのが勝利の鍵ですよ、楓さん』
『ホロライブ……か』
『まずは盤上を整えることが最優先です』
『まあ、私らももとはと言えば敵同士……しかし、今は美兎ちゃんについていくで――』
そして二人も、また暗闇へと消えていくのだった。