狩人になった私の話。   作:ぽんぱたあすか

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06~08

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06.歴史は繰り返す

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 フルフル相手にするにはやっぱり火属性が必要だよね。

 思い立ってイャンクック狩りに出掛けてきたのはいいけれど、奴は意外と強いから困る。

 近寄れば突っつくし、遠ざかれば私に恋してるかのような全力フライングボディプレスを食らわせてくれるので、攻めあぐねて数十分。めんどくさくなって落とし穴を仕掛けて乱舞連打で顔面を切り刻み続けたら、泣きを見たのか逃げちゃうし。

 ペイントボールの効力を切らせてしまった自分の迂闊っぷりにはほとほと参った。でもまあ、多分あの様子では巣に戻って寝こけていると見て間違いなかろう。

 「ああ、ホラいた」

 武器を構えて突進する。雑魚掃除?なにそれ、おいしい?いいんだ、どうせあと数回乱舞叩っ込んだら死ぬんだから。乱入されてもこっちが死ぬことはまずないさ。

 瀕死になるとカルシウムでも流出するんだろうか。途端に怒りっぽくなる怪鳥に辟易する。

 素早い動作に何度か巻き込まれて、それでも攻撃を掻い潜って必死で二つの刃で顔面を削った。

 努力は報われるものだ。特に、私みたいに日頃の行いがいいと。

 最後に一声高らかに鳴いて、巨体──恐ろしいことにこれでも小柄な部類だと聞いた。ハンター辞めたい──が地に沈む。

 あっちこっち移動されて、戦ってる時間よりも探していた時間の方が圧倒的に長かった奮闘がようやく終わった。

 「よーし、お待ちかねの剥ぎ取りターイム!」

 腰に下げたサバイバルダガーをイャンクックの頭蓋に思い切り突き立てる。鼻歌が出るのは仕方ない。だってそりゃ上機嫌にもなるだろう。

 クチバシが綺麗に残っているようなら持って行こうか。耳ズタボロになっちゃったから、持ってっても加工して貰えないかな。

 贅沢な悩みを思考に展開しながら刃を動かした。

 途端。

 「あうっ」

 ランポスの突進に引っ掛かって転んだ。

 あのね。私、今、物凄く大事な作業してるの。ちょっとあっち行っててくれないかな。勿論口で言ってもわかろうはずもないので、そこは男らしくボディトークで語らせて頂いた。いや女だけど。

 「もー、私の幸福な時を邪魔しないでおぅふっ」

 再びダガーに手を掛けて作業を再開──する前に、また別の固体に邪魔された。ヨロヨロと立ち上がる。爪に引っ掛かれた背中が命の大事さを教えてくれるのを、ありがたいとは思わない。

 そんでまた排除して、そしたらまた邪魔を食らった。

 「………………」

 双剣を引き抜く。じりりと間合いを詰めるランポスに、ふふっと般若の笑顔を浮かべて。

 「仏の顔も三度までだコラー!」

 鬼人化、切り払い、切って切って乱舞。一匹ずつ丁寧に、怒りに任せて葬っていく私は、うっかり大事なことを忘れていた。

 

 「カグラ、クエストクリアだニャー」

 「帰るニャー」

 「え、あ、ちょ、ちょ、まだ剥ぎ取れてな……っ!」

 ──TIME UP。

 

 

 

 

 

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07.目から鱗

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 「どうだったニャー?」

 「……駄目だったニャー」

 あからさまに馬鹿にした態度で溜息吐くな。この馬鹿ネコはどうも自分の立場を把握してないようで憎たらしい。心配そうにして治療セット取りに行ったリュウを見習えってんだ。

 

 二度目のフルフル狩猟挑戦の結果、問答無用でやっぱりボコられた。

 骨の髄まで冷えるような咆哮に身を竦めた間に電撃ブレスをおもくそ食らって、痺れた身体に連続でまた電撃ブレス食らって、果てたところに電撃体当たりで死体に鞭打たれる始末。この屈辱、この溜まった鬱憤をどこにぶつければいい。

 とりあえず手近なところで、生意気ナタリーの尻尾をわし掴んで、悲鳴を上げる微笑ましい姿に気を紛らせておくことにする。

 いたた、ばか、放すから爪立てんなって。

 「カグラさん、回復セット持ってきたですニャ。ほら、服脱いで……何遊んでるんですニャ」

 「だってこいつが生意気だから!」

 「カグラがバカなんだニャ!」

 ブレイクブレイク、と呆れたネコ目で諭されて、渋々お互い身を引いた。うーん、我ながらいい子を雇ったもんだ。リュウはしっかりしてるなあ。どこぞの馬鹿ネコと違って礼儀正しいし。

 小さな両手に抱えた箱を置いて、ベッドに寝転んだ私に指示を飛ばしながら回復薬を開ける。全身痛むことだし大人しく従うのが吉だろう。

 ハイネックのシャツをぎこちなく脱いで、後ろを向いた。

 「酷いニャー。これ痛いのニャ?」

 「ば、ばか、触るなイテェ!お前爪立てたままだろ!」

 「おっと、これは悪いことしたニャ」

 いいか、ニヤニヤ笑いながらの謝罪ってのは、侮辱と同意だと今この場で覚えろ。

 ざっくり裂けた背中の傷を、未だわきわきと狙う肉球から庇いながら睨み付ける。涙目だからきっと迫力はないだろう。その通りだったようで、怯える様子もなくまた近付いてきた。

 来るな、いいから来るな。あの痛みはちょっとしたスペクタクルだったから。

 「ふざけてないで治療するのですニャ!」

 「あ、うん、ごめん。お願いします」

 ぐっと構えて痛みに備える。でき得る限り優しく触れてきたリュウの手は、それでも痛覚にばっちり響いてきた。覚えてやがれフルフル。てめぇにもこの痛み、満遍なくくれてやらぁ。

 痛い痛い痛い。痛いってことはこれは夢だ。そうに違いない。なぜなら現実なら痛くないと私が信じてたり信じてなかったりでもやっぱり信じてたりするからだ。そうだ、夢である証拠に空が青いし世界が何となく自分に優しい気がするじゃないか。ほら夢だ。そうに違いない痛い。

 自分を可能な限り騙しながら治療から意識をはぐらかす。しかし痛いもんは痛くて、シーツの上を彷徨った手が偶々双剣に触れたので、全力で握って拠り所にしてみたりもした。あんまり効果はなかったけどね。

 大体、あの咆哮さえなければこんな酷い怪我は負わなかったんだ。確か前回もそうだった。逃げるのは得意なんだから、電撃ブレスは余裕だし、体当たりだって脅威でも何でもない。

 やっぱ耳栓スキルは必須かなあ。ガードないもんなあ。でも耳栓付く防具ってあんま良くないんだよなー。

 中々終わらない治療に、しまいにはハンターらしい思考にまで発展した。意外と思考回路はハンターに向いているのかもしれない。

 「……双剣以外は使わないのかニャ?」

 「へ?」

 いつの間にか駄々漏れだったらしい。見た目だけは非常に愛らしい馬鹿が、つぶらな目で私を見ていた。

 「片手剣ならガードも付くニャ。何も双剣しか使っちゃいけないってルールはないのに、どうして双剣しか使わないのかニャ」

 目から鱗だった。

 そういえばそうかもしれない。かっこいいし攻撃速度がハンパないから双剣ばっかり作って使ってたけど、よく考えればそうだ。

 パンがなければお菓子を食べればいい。ガードがなければガードの使える武器にチェンジすればいいじゃない!

 「ナタリー偶には頭良い!」

 「カグラが馬鹿なのニャー」

 そうと決まれば話は早い。早速訓練所に行って使い方教えて貰ってこよう。装備は貸してくれるだろうから、態々メルホア着込んで行く必要はなかろうな。

 「カグラさん、治療は」

 「後でー!」

 靴を突っ掛けて走り去る私に、掛かったのはいってらっしゃいじゃなかった。

 

 「服くらい着てった方がいいと思うニャ」

 気の利かない変態でごめんなさい。

 

 

 

 

 

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08.節約術

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 「回復薬ケチって死ぬなんて、カグラはババコンガにも勝る天才だニャ」

 「謝れ。天地を揺るがす聞き捨てならない暴言、誰が許そうと私だけは絶対に許さん。跪いて謝れ」

 「ごめんニャー」

 あるかなきかのプライドが傷付くことに、高々ドスギアノスごときに一回負けた。

 確かに驕りたかぶっていた私を叱ってくれと泣き付いたのは私だけれど、あくまで泣き付いた対象は頼れるリュウであって馬鹿ネコナタリーじゃなく、しかも自殺を促すような残虐さで罵ってくれと頼んだ訳じゃない。ゆえにお前には泣いて許しを乞う義務がある。そんな心の入らない謝罪で慈悲が下されると思ったら大間違いだ。いい加減解雇すんぞ。

 ぶつくさ言いながらアイテムボックスを漁る私に、可愛い可愛いリュウは惜しみない同情をくれた。そっと渡された狂走薬が冷えた心に温かく染み入る。ナタリー死ね。

 「でも、回復をケチるのはよくないですけど、節約は大事ですニャ」

 ああ、この子はどれだけ可愛いんだろう!リュウ子供とか生んでくれないかな。そしたらリュウ2号と名付けて育ててナタリーは解雇して小躍りしながら喜ぶのに。

 「そう、私だって考えてるんだよ。今回はちょっとした手違いがあっただけで、いつもはちゃんと節約上手してるし」

 「信じられないニャー。どんなだニャ?」

 聞いて驚け。我ながら胸を張れる節約方法だ。

 「クエストが終わる前に、携帯砥石で絶対切れ味MAXにしとくんだよ。そしたら次回クエストで砥がなくていいでしょ!」

 まいったか、とナタリーを見返す。ネコは恐れ戦き目を見張って、涙ながらに自分の浅はかさを嘆き、生まれてきたことを後悔し──なかった。未知の馬鹿を見る目でこっちを凝視する。何だその究極に失礼な目。

 「……あの、カグラさん」

 「うん?」

 おずおずと実に愛らしい様子で片手を上げたリュウに発言権を譲った。

 そのう、非常に言い難いのですが、と躊躇する様も目の保養だ。隣で溜息を吐くナタリーは、何度も同じことを言うのはボキャブラリーが貧困なようで申し訳ないが、死ね。

 「あの、武器は、クエストが終わる度に加工屋のお兄さんが、その」

 口籠って続きを伏せたリュウに変わって、ナタリーが発言権を奪い取る。あ、止めて止めて、聞きたくないと私の第六感が顕著に告げているから。

 「契約上、加工屋のお兄さんが毎回メンテナンスしてくれてるニャー!カグラったらそんなことも把握してなかったのニャ!」

 アンタ馬鹿ぁ?とか心底馬鹿にしたセリフが聞こえてきそうな語調で宣言したナタリーの隣で、リュウが申し訳なさそうに目を伏せた。いいんだよリュウ、君が悪いわけじゃないからとフォローする余裕は今はなかった。

 ふらりと立ち上がる。ナタリーの尻尾を悪意の欠片もないよほんとだよ的無意識に踏み付けて、玄関に向かった。轟く悲鳴。ざまあみろ。

 「ど、どこ行くですニャ?」

 「……訓練所」

 「八つ当たりは止めるニャーッ!」

 ナタリーが涙声で吼えた。

 よくわかったな、私がイャンクックにライトボウガンで八つ当たりに行くのだと。

 

 

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