18~20
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18.モンスターハンター2G
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風の噂に、娘が上位ハンターになったのだと聞いた。立派な出世振りについ目頭が熱くなる。豆粒のように小さかったあの子が、今ではどうだ、上位ティガレックス2頭を相手に勝利を収めてしまえるような猛者に成長したという。もしかすると自分の背丈さえも越える図体になってくれているのではないだろうか。
「そんな思いを胸に帰ってきたのだが」
「今すぐにやや光速で出て行け」
現実にはそうでもなかったらしい。
20センチは低い目線。睨む眼光は鋭いが、元々の顔立ちが普通すぎて全く怖くもない。別に上腕二等筋が極度に発達している様子はないし、腹筋がティガレックス顔負けに割れているわけでもなく、娘──カグラは、外見からしてみれば新米ハンターにしか見えなかった。
「何を期待してたかは知らんけどな、舌打ちすんな、オッサン」
「パパと呼べと昔から言っておるだろう!」
「呼ばねえよ!何考えてんだ、50過ぎの眼光鋭いオッサンが!帰れ、帰れよ!」
何が気に食わなかったというのか。急に地団駄踏み出したカグラがわけのわからないことを喚きだした。こういうところは昔のまま子供だと思うと少しだけ懐かしく、嬉しくもあるのだが。
帰れって、こうして帰ってきた父に一体何を言い出すのだ。ハンターになって筋力が発達しすぎたため、脳が退化したのだとしたら由々しき事態。至急村長に相談しなければ。叩いたら治るかどうか。
踵を返したワシの襟首を、そうはさせじと掴む腕があった。細腕が見た目に似合わぬ力を発揮する。なんということだ。190センチ以上85キロ以上のこの身体を、片腕一本で止めるとは。
さすがワシの娘!
「あー、もー……ッ!」
褒めたというのに何が不満だ。しまいには頭を抱えてしゃがみ込んだ姿に眉を顰めた。顔面を大きく動かすと、左目を跨ぐ古傷がピリリと痛む。
「カグラ、体調が優れんのなら寝ているのがよかろう」
「だからな──いや、いい。わかった、寝てる」
子供は素直が一番だ。うむ、と一つ頷くと、カグラの発する殺気が一瞬膨らんだ気がした。気のせいだろう。親に殺意を露にするような子供がこの世に存在しているはずはない。
「そうだ、安心して休むがいい」
くしゃり、と跳ねた髪をかき回す。仏頂面の娘の頭をそのまま掴んでベッドに放り投げて、上掛けを重ねてやった。……何故人の親切に烈火のごとく怒る。何も悪いようにはしていないだろうに。
「ワシもハンターを目指すことにしたからな。お前が休む間、簡単なものであればワシが仕事を引き受けよう」
「……は?」
聞き返すほどに感激だったらしい。父親譲りの琥珀色の瞳を見張って上体を起こした身体をもう一度寝かし付ける。さあ、もう寝ろ。娘が風邪を引くのは親として忍びない。
「だからな、ワシもハンターになる、と」
「────ッ!」
20数歳というのは難しい年頃らしかった。急激に顔を真っ赤にしてババコンガのようになった娘が、傍らにあった軍刀を引っ掴んで振り回す。慌ててそこらを歩き回っていた豚を盾にした。一体何が逆鱗に触れたというのだ。わからん。
ところで、ワシの名前はディーという。
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19.初心者の館
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オッサンことディーが弓を構えてううむと唸る。唸りたいのはこっちだクソ野朗。何で私が教官の真似事せねばならんのか。気まぐれに作ってみた軍刀で背中からバッサリやったらすっきりするかな。するかもしれない。やってもいいかな。いいんじゃないかな。
「うむ」
「さっさと武器を決めろ、オッサン」
いい加減イライラしてきた。即断即決がウリのような非常に男らしく渋い顔と声をしているくせに、何を10分以上も使用武器に悩んでいやがるんだ、この野朗。
「オッサンではない、パパと呼べ。仕方がなかろう。今まではモンスターは素手で殴り倒すものだと思っていたのだ。……とはいえ素手ではババコンガやイャンクックが限界だったがな」
「それこそありえないだろ!何でババコンガやらイャンクックを素手でボコれるってんだよ!?」
前々から我が親ながら只者ではないと思っていたが、想像以上だったらしい。過去苦戦した巨大生物を殴り倒す姿を想像して──ぞっとした。嵌り過ぎる。全体的にティガレックスの擬人化と言って間違いないような筋肉を持つこの中年には、その情景はあまりにも嵌り過ぎる!
しかしその割に、さっきから手に取ってるのが遠距離武器ばっかってのはどういう了見だ。拳が武器なら、普通は近接武器にするのが普通だろう。脳みそまでティガレックスなのか。それともディーの拳はロケットパンチなのか。
まあ、そんな疑問は心底どうでもいい。遠距離武器選んでも合わなきゃ後で変えりゃいいだろ。だから。
「どうでもいいから早く決めろオッサン」
「パパと呼べ」
そうやってあんまりうるさいから、おとうさんから略されてオッサン呼びに落ち着いたんだよ。
あんまり埒が明かないので、最終的には襟首引っ掴んでギアノス狩りに放り出してきた。
そういや弓の使い方教えてないけど、まあ、大丈夫だよね。
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20.どうしてもガンナーにしたかった
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ディーが来て──意地でも「帰ってきた」とか言いたくない──3日になる。元々の実力があるのだから当然だけど、村長からの依頼をサクサクと片付けているのにむかっ腹の立つことこの上ない。
早速渡されたドスギアノスの緊急クエストに出掛けた父を待って結構な時間が経つ。ここまでは簡単とはいえ、どんな依頼でも行ってきますからただいままで太陽がそう動かないうちに片付けていたことを考えると多少……ほんっとに、雷光虫一匹程度に、心配になってきた。
弓にはまだ慣れてないんだっけ。ギアノスが中々死なないとか愚痴っていたのを右から左に聞いた気がする。そりゃ、あんだけ威力弱いんだから時間もかかることだろう。こらえ性のない私には、初期の弓でチマチマ撃ってるのは耐えられない苦行だ。ナスカ尊敬してるっつうの。拳一撃で敵を葬ってきただろうあのオッサンが、何でまた弓なんぞ抱えて行ったのか未だにさっぱり理解できない。
そういやあの人って、ドスギアの爪ごときで皮膚が傷付いたりすんのかな。
「ただいまー」
「……ん、ああ、おかえ……ううん、いらっしゃい」
おっとしまった、うっかりおかえりとか言いそうになった、危ない危ない。ディーが傷付いたような顔をしたけれど、そんなもん知ったこっちゃない。ここは私の家だ。そして間違ってもテメェの家じゃねえ。
ふー、と満足げな溜息を零しながら、玄関先にドサドサと大荷物を落とすディー。それ自分で片付けろよ。あと靴の泥は玄関マットでしっかり落としてから上がりなさい。
「時間かかったじゃない、よそ事してたの?」
雪に塗れた頭にタオルを投げて落とす。何を考えたものか、髪を拭うべきものをそのままほっかむりのように顎下で結んだ行動の意味が、不明すぎて突っ込むに突っ込めない。今から泥棒にでも転職するのか。
「弓はいかんな」
マフモフシリーズは防寒にはもってこいだけど、雪に濡れると乾かすのが大変なのと、弱すぎて一回か二回くらいで新調しなきゃいけないのが全然良くない。所々千切れてしまっている弱い素材を脱ぎ捨てた父親の身体に、けれど全く傷はなかった。
いや、待てって、おかしいだろ。服ざっくり切れてるだろうが。何で掠り傷一つないの。
「ふん。あんな脆弱な爪でワシの玉のお肌が切れると思うてか」
「普通に怪物だよアンタ」
で、何で弓がよくないって?
「弱い」
そりゃ最初から私、言ってたでしょうに。攻撃力弱いよって。人の話を聞かんイノシシだな。
顔を顰めて見返すと、ホレ、と弓を渡された。ホレって、あんた。
「折れてるじゃねえか」
「弱くてならん。ちょっと力を入れたらこれだ」
弦が切れたとかそういうレベルじゃなく。本体が真ん中からポッキリと折れていた。これは修理もできないだろうな。この野朗、人のお古だと思って悪びれもせずに返しやがった。死ね。
「そりゃオッサンの馬鹿力で弓引きゃ折れたりもするだろうよ、この考えなし」
「それは違うぞ、カグラ。別に引いたら折れた訳ではない」
じゃあ何だよ。他にどうやったら折れるってんだ。まさか弦に自分がつがって引いたら空を飛べるんじゃないかとか、そこまでメルヘンじゃあるまい。ていうか止めて。一応私の父親らしいから、血縁としてほんと止めて。
ふん、と鼻息荒く口を開く。
「チマチマ撃っていても中々死なんでな。途中から矢で切る戦法に切り替えた頭良いワシだが」
その発言が頭悪い。近接に切り替えるなら初めから近接武器持ってけよ。
「うっかり弓を収納するのを忘れたまま切りかかったら、折れてしまったのだ」
「ば……ッ」
ばーっかじゃねえのこのオッサン!?言葉が飛び出る前に、ふと視線が戦利品に固定されて息を呑んだ。
あれに見えるのは、もしかしてドスギアの頭じゃないのか。何第一戦目から良い物ゲットしてやがるんだ。私があれ手に入れるのに、一体何回白でかいランポスを大虐殺したことか。
わかってんのかこのやろう!
「物欲センサーの馬鹿野朗──ッ!」
「何をトチ狂っとるんだ」
言っとくけど、怒りの方向性は摩り替わったものの対象は変わってないんだぜ。
勢いのままに振り下ろした軍刀は、信じられないことにディーの玉のお肌に弾かれて刃毀れして終わった。
いつか殺す。必ず殺す。