狩人になった私の話。   作:ぽんぱたあすか

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モンスターハンター3
27~30


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27.行く先は一つ

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 見慣れない構造の建物が並ぶ小さな村。紅葉、というらしい立ち並ぶ木々の、赤く染まった葉が何とも言えず美しい。

 何よりも、そこかしこに湧き出て溜まる温かな湯が心を癒す。湯気に白む景観が愛おしい。

 ああ、早くこの身を浸したい!

 

 「おお、いいところじゃない、ユクモ村!」

 「ご主人が元気になって、良かったニャ」

 「さっきまで全財産を置いてきた悲しみに浸ってた人間とは思えない満面の笑みだニャー。カグラは現金だニャー」

 場所を変えてもリュウは優しい。天使のようだと思う。その隣に悪魔が並んでるのを許せるわけもないので、ナタリーはリュウの半径100メートル以内に近寄るのを即刻止めろ。

 私の血と汗と努力の結晶(ななひゃくじかん)がオジャンになった絶望は計り知れない深度であるが、考えてみれば今更嘆いたところでどうにもならない事実である。涙を枯らしたところで私の心が癒えるものではない。

 ならば、温泉にでも浸かって酒でも煽って心を癒し、新たな気持ちで次の仕事に取りかかるのが一番じゃなかろうか。私はそう思う。

 どうせ次の仕事つっても同じことなんだけどね。ハンターだし。以前の繰り返しですよ。歴史は繰り返すものだ。

 これから毎日あの癒しに浸れると考えれば、この引っ越しは決して忌むべきものではない──と、相変わらず血の涙を流す内なる自分をひたすら誤魔化して、村長さんに紹介された新居に向かう。足取りは心なしか重い。自分を誤魔化し切れていない証拠である。

 畜生。人ってそんなにすぐさま気持ちを切り替えられるほど器用にできてないんだ。仕方あるめえ。

 ところでユクモ村の村長さんは若くて綺麗な人だから、クエスト受けに行くのがちょっと楽しみだよね。

 いや、ポッケ村の村長さんに思うところがあったわけじゃ決してないんだけど。

 

 「おお、新居!いいじゃな──あれ」

 キッチンがないんだけど、食事はどうしたら良いの?

 「ニャー、カグラ」

 「ナタリー、何」

 今、人間の3大欲求の内2番目に大事なものの有無について考えるのに忙しいんだけど。

 「こっち、銭湯に繋がってるニャ」

 ああ、今キッチンがどうでも良くなった。食事がなければ酒を飲めばいいじゃない。

 どこかのお姫様もパンがなければお菓子食えよって言ってたし、温泉にでも浸かって酒飲んで腹満たそうぜ。

 「カグラは駄目人間だニャー」

 「お食事はしっかり取らないとお身体壊しますニャ」

 「大丈夫!私にはこんがり肉という強い蛋白源がいるから、大丈夫!」

 浮き足立って銭湯に向かう。タオルとかは別にあっちで借りれるんじゃないかな。

 個人宅から集会浴場に繋がってるって物凄い斬新な構造だけど、自分に利があるなら喜んで許そう。

 のれん、なる薄い布を跳ね上げて銭湯に入り──そうか、浴場が集会所扱いになってるからハンターん家が直結してんのか、繋がってる謎が解けた──番頭のニャンコへの挨拶もそこそこに服を脱ぎ捨て。

 

 「あ、アザミちゃん」

 「あれ、カグラちゃん」

 見知った顔がお湯から生えていた。ふと見回せば、他にも浮かぶ見慣れた顔の数々。

 

 まさかのハンター大集合。

 

 「単なる民族大移動じゃねェか……」

 「モンスターいなくなるのも時間の問題だよね」

 

 

 

 

 

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28.はじめてのわんこ

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 今日も元気だ一狩り行こう。

 さて、先日住居を変えて家財の一切合切を没収されて気落ちしていた私だが、早速一狩り出かけてみたところ、ハンターの血が騒ぐ騒ぐ。あっさりと気を持ち直して新たなモンスターを求める毎日である。

 自分以外のハンターを見ていると、夜な夜な獲物を求めて徘徊する新種のモンスターみたいでちょっと怖い。私も他人から見ればあんな感じなのか。自重したい。でも心騒ぐ衝動を抑えきれない複雑な乙女心。

 だって、見たことないモンスターが見たことない動きで襲いかかってきて、見たことない素材を落としていくのである。加工屋の爺ちゃんに渡すと、またしても見たことない武器防具を作ってくれるときた。

 これで心躍らないハンターがいようか。いや、いまい。

 無感動にこの事態を享受するハンターなど、ただの殺戮魔だ。ハンターとは認めん。

 いつの間に自分がこんなに染まっちゃったのかと考えると涙が出そうになるが、人生に生き甲斐を見出すのは悪いことじゃないと思う。

 

 気を取り直して目の前のアオアシラに向き直った。

 今回のクエストはハチミツ取ってこいとのお達しであり決して討伐クエストじゃないんだが、森の中でくまさんに出会ったからには狩らねばならぬ。近代のお嬢さんがスタコラサッサと逃げると思うなよ。人は日々進化する生き物なのだ。

 しかしまあ、弱い。いや、私が強いのか。一度言ってみたかったんだ。お前は決して弱くない……ただ私が強かっただけのことだ。

 隙を狙う必要もなく、無造作にびしびしと数十回切り付けただけで退散してしまうとは情けない。

 ううん、やっぱりアシラが弱いのか。今後はそのプリティーな打たれ弱さに免じてアシラたんと呼称してあげよう。

 「まあ、当然かなー」

 当然の結果なのである。

 右も左もわからなかった新米ハンターだった自分とは違う。

 こちとらシャクレトルム──じゃない、ええと、スコップ、いや、シャ……シャって付かなかった気もするな。何だっけ。そんなニュアンスの凶悪モンスターすら葬ったのが自分なのだ。

 新米ハンターとは根っこからして違うというのに、村長さんたら新米用のクエストしか回してくれなかった。徐々に実力を計っていくおつもりらしい。

 そんなんいいから、血沸き肉踊るクエストに連れてってくれよ。一瞬の油断が命を刈り取るほどの絶望感を私は求めている。嘘だけど。

 さくさくと罠を仕掛けて、ノコノコやってきたアシラたんを誘う。おいナタリー、どこ行くんだ。こっち来い。

 「ギャアァァアアアアアアンッ!」

 アシラたんゲットだぜー、と感慨もなく勝ち誇ったところで。

 

 「ンニャ?追加クエストのお知らせですニャ」

 「危険な気配がギュンギュンするのニャ!」

 リュウ、追加クエストって何。ナタリーは何の電波を傍受したの。ゲーム違う。

 上空高くを漂う気球がチカチカ光る。真剣な面もちで光を見つめるリュウをぼんやりと見つめた。

 何あれ。モールス信号の一種?

 「周囲にもう一匹、危険なモンスターがいるとのことですニャ。調査依頼なので、どんなのか確認したら帰っても良いらしいですニャ」

 調査ときた。そんなん詰まらない。

 「どうせだから狩ってきゃ良いじゃん」

 「狩れるなら狩っても良いニャ」

 「何その嫌らしい含み。ナタリー嫌らしい」

 「失敬な!ボクはスカッと弾ける爽やかさがウリのアイルーニャ!」

 「炭酸飲料みたいな売り文句だなあ。爽やかってのはリュウみたいな子を指す言葉なんだから、お前みたいなのが汚すんじゃねェよ」

 「ぐぬぬ。反論できぬ己が憎らしい」

 「自覚はあったのか。何よりだ」

 「ご主人、あんまり騒ぐと」

 大地を揺るがす轟きが空気を吹っ飛ばした。鼓膜が悲鳴を上げる。ふと上空にかかる陰。え、何。

 見上げる間もなく、衝撃波の手で転がされた。脳天を大地に打ち付ける激痛。ああー、真っ暗な瞼の裏で煌めく星が実に綺麗ですね。

 「気付かれちゃいますニャ」

 リュウ、控えめなのはお前の美点だけど、生きとし生けるものには声高に主張せねばならん時がだな。

 再度の咆哮。涙の滲む顔を上げて、私をこんな目にあわせた憎き生き物を視認する。

 「……なにあのこわいの」

 「ジンオウガだニャー。雷光虫と共存する心優しきナイスガイニャ」

 心優しきナイスガイは、いきなり人を吹っ飛ばして脳天に小山を築きあげたりしない。

 馬鹿でっかいけむくじゃらの図体が見えた。その割に小顔である。狼的な種族なんだろうか。なるほど、イケメンであることは認める。

 得てして見栄えの良い奴ってのは性根が腐ってることが多いわけだが──いや、決してゲリョスやフルフルが天使のような性格をしていたと口にしているわけではないが──果たしてこいつはどうなのか。

 目があった瞬間答えの模索を放棄した。性根が腐ってるかどうかすら分からんほどの殺意を一身に浴びたので。

 

 「野郎ども、ずらかるぞ──!」

 「おーおー、全力撤退我らが指揮官の大いなる空回りを脚力に変えてぱぱらぱー」

 ナタリーが思いの外余裕そうだったので、遠慮なく囮に甘んじて頂くことにした。

 蹴倒してリュウの尻尾をわし掴んでネコの逃亡術を如何なく発揮。

 飲んでて良かったにゃんこドリンク。

 

 聞くところによると、引っ越し道中であいつに襲われた不幸なハンターもいたのだとか。

 何その新たなる始まりのオープニングムービーみたいな展開。

 おめでとう主人公。その役目が私じゃなくて良かった。

 

 

 

 

 

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29.みんなと一緒:ルナ登場

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 巨大な卵を前に呆然とする背中を見付けた。

 輝く金糸、すらりとした佇まい。あの秀麗な姿は間違いなく友人である。美形はファンゴフェイクでも被ってろ。

 「ルナちゃーん、久しぶり」

 「あ、カグラちゃん、久しぶりー」

 ルナは冷たそうな見た目に反して、やたらと人懐こいわんこのような子だ。そのギャップが良いのだという人間が後を絶たないので怖い。この魔性の女は、どこぞへ幽閉しておくのが正しかろう。

 切れ長の色っぽい瞳が流される。それだけで絵になりそうな一コマだった──右手に小さなタマゴを握りしめていなければ。

 「……なにそれ?」

 手の平に収まるほど小さなタマゴだった。真っ白い殻が光を弾く。白く細い指先が添えられたその風格には、名のある画家が挙って筆を振り上げそうな気品すら漂っている。嘘だけど。

 「ユクモの温泉タマゴだよ。村長さんに貰わなかった?」

 「いや、貰ったけど」

 聞きたいのはそういうことじゃないんだ。問題は、何でここで握りしめてるのかって話で。

 「巨大タマゴがくれたんだけど」

 「なにそれ」

 ぎょっとしてクルペッコでも出てくるのかという巨大なタマゴを振り返る。

 ジロジロと視姦する勢いでなめ回すように見ても、別に小さなタマゴを生み出すような変事は起きなかった。

 ルナちゃんの嘘吐き。

 「ホントだよ!日を改めればくれるよ!」

 「タマゴが?」

 「タマゴを!」

 タマゴがタマゴを産むのは置いとくとして、子供を提供すんなよお前。

 

 「ところで、これってどうやって使うんだろうね」

 タマゴを?

 「武器とか防具の素材なのかと思ってお爺ちゃんに話しかけても、別に新しいの閃いてくれるわけじゃないし……端材にもして貰えなかったしさあ」

 ルナは防具コレクターである。可愛い装備に目がない。世の中のハンターたちと伝書鳩で可愛くて使える装備なるものをひたすら研究しているらしい。使える神装備でも可愛くなかったら使わないほどの徹底っぷりは、いっそ尊敬に値する。

 「何に使うんだろうねえ」

 「食べるんじゃない?」

 思い付くままに口にした言葉に、きょとんとした目が返ってきた。

 私はそんなに不思議なことを申したか。

 「食べるんじゃない?タマゴだし」

 もう一度、自分が決して妙な発言をしているのではないという確認も含めて言う。

 ピンク色の唇を半開きにしたルナの目が、目から鱗がこぼれそうなほどに見開かれた。

 「盲点だった!」

 何でだよ。一番に思い付けよ。

 

 

 

 

 

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30.雪辱戦と新たなる旅立ち

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 ジンオウガと言えば、雷である。

 恥を忍んで、神がそうしつらえたかのように神秘的なまでに似合わないパピメル装備に身を包み、ヤク入りドリンク飲んで狩りに出掛けた。

 全身チョウチョである。あれほどの羞恥プレイってない。巨大な羽には脳髄が焼き切れるほどの強大な精神力を必要としたので耐えきれずに胴体だけネブラにしたけど、道行く人に笑われるんじゃないかと思って布団被ってった。鳥車に乗車拒否されそうになって泣きそうになった。

 そこまでして。そこまでして出向いたというのに。

 「馬鹿な……」

 目の前に横たわる巨体に、いっそ絶望した。健やかな眠りを永眠に変えてやりたい。

 

 弱かった。回復なんてほとんど必要じゃなかった。

 チウチクやってるとすぐ逃げるし、蓄電してる最中なんてずっと私のターンである。

 これが上位の年輪重ねたわんこならまた違う話なんだろうけど、とりあえず村長さんの依頼はあまりにもあっさりクリアできた──初めに私をビビらせた威圧感な一体なんだったというのか。見た目にビビって勝手に逃げただけだったのか。

 これなら当時の装備でもクリアできたはずだ。

 以上、自分がチキンであったという証明終わり。

 「ああああああああああああああ」

 もうレウスをチキンだとか馬鹿にできない。鶏肉大好きだよ!

 「ご主人、皆さん初見では全力疾走で退避してらっしゃいますニャ。みんな一緒ですニャ」

 みんなチキンってだけの証明だよねそれ。みんなで全裸になったからって恥ずかしくなくなるってわけじゃないんだよ。

 「『村クエちょっと簡単すぎるよね』『物足りないよねー』。プークスクス、笑っちゃうニャー」

 「おまえそのヒゲ引っこ抜くぞ!」

 「ぼくの殺戮の才能を妬むのは止めるニャ!」

 「何が殺戮の才能だ、人が立ってるとこをハンマーでボコスカ殴りやがって!おまえにあるのは裏切りの才能だッ!」

 こいつ、やけに私に向かって駆け寄ってくるんだぜ。

 こざかしさはモンスターを引き付けるだとか、良い方向に使用するがいい。ご主人を盾にして助かろうとするこざかしさは求めてねんだよ。解雇すっぞ。

 

 ちなみに。

 村に帰ったら、意味がわからないけど盛大なお祭りが開催されていた上、御輿の上に乗せられて晒し者にされた。

 何これ。新手の虐め?

 しかも後日、超目立つ音と光に誘われて、近辺のモンスターが異常に増えたんだ。この村には思考能力が欠如してる人しかいないみたい。

 いいけどね、楽しみが増えたし。おれたちの冒険(ハント)はまだまだ続く……!みたいな。

 

 実際こっからが長いわけで。

 

 

 

 

 

 

 

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