その後、私達はイングラシアで、それぞれ一晩過ごすのだった。
一方、我々の協力者であるヨウム集団には新顔が三人もいた。
「それで、よく怖い夢を見てヒナタに額にキスしてもらって、一緒に寝たり」
「シズさんそれ以上やめてください!俺の男のしての沽券に関わるので…!」
俺の心はもう瀕死だった。
シズさんが姉さんに聞いた話は俺にとっては黒歴史もので、しかも全部話してるな!
もうコレは引きこもり案件だよ…
「そう?ところで、ヒナタには会いに行くの?」
「……………」
シズさんの問いに、俺はただ首を振って答えた。
「え?どうして?」
「………姉さんは人類の英雄、俺は世界が恐れられる魔王の称号を持ちました。俺と姉さんの関係が世間に知られたら姉さんの今の地位を奪ってしまう。そうなるくらいなら、俺は会いに行きませんし、絶対に正体を明かしません。だからシズさんもこの事は誰にも言わないでください!」
俺は頭をさげ、シズさんに懇願する。
これは、あの時から既に決めていた事だ。俺みたいな巨大な爆弾を抱えた魔物いや魔王が、仮に弟だって名乗っても信用されないだろうし、仮に信用されたとしても、その後は姉さんの立場を奪う事になってしまう。
そんなことになるくらいなら、俺は…
「………わかった。でも最後に教えてくれない?」
「………何ですか?」
「お母さんは元気?」
「…っ!」
…やっぱり、姉さんは母さんの事も…
「亡くなりました。俺が十五歳の時に…」
「…そう、だったんだ……ごめんね。辛い事思い出させて…」
「いえ、もう四年も前なので!」
シズさんに気を使わせないよう俺は笑顔で答えた。
それに嘘ではない。
「シズさん、聞きたい事があるんですけど…」
「何?」
「シズさんのところにいた時の姉さん事教えてくれませんか?」
「………もちろん!じゃあまずね…」
それから一晩俺は、シズさんから姉さんの事を詳しく聞いた。
やっぱり『世界の本棚』で調べるよりも、親しい人から聞くのは気分がいいな。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「それじゃあリムル、俺とコウホウは一足早く
「ああ、気をつけてな」
「我が主お気をつけて」
「何から何までありがとう、リード君」
早朝、まだ夜が明けきれてない時間に俺とコウホウは赤兎に乗り、イングラシアを出発することとなった。
子供達に別れを告げないのは、俺の準備がまだ残っており、なるべく早く帰るつもりでもあったからだ。
でも、お土産はしっかりと渡しておく、子供達人数分とシズさんにファイズフォンXを渡してある。
これは連絡手段としてでもあるが、身を守る事も出来、さらには所有者以外が触れれば電気が流れる仕組みになっている。
「それじゃあ、ベニマル達にはあとひと月くらいでリムルが帰って来るって伝えておくから」
「ああ、それまで頼んだぜ!」
………なんだろう、リムルのこの笑みは何か企んでいる時の顔なんだけど何故?
「ウォズ、貴様はここで教師を永遠にやっていても良いのだぞ?」
「君みたいな脳筋に秘書の仕事をこなせる訳ないだろう」
「はいはい、喧嘩しない!帰るよコウホウ」
「はっ!」
俺とコウホウは赤兎に乗って、
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「………ゲリオン」
「はっ!」
「後ろにいるその四体は?」
「我が同士達です」
コウホウに頼んで、フルスピードで
これは虫嫌いな人から見れば地獄だな…
部屋の隅でホウテンが
「
と、部屋の隅でぶつぶつ何か言っていた。ゲリオン達を連れてきた時もああなっていたが、まあいいか。
「リード様、このもの達を配下の末席に加えていただけませんか?」
「「「「お願いします」」」」
ゲリオンが頭部を動かせるだけ動かして頭を下げ、他のヤツらも頭を下げる。
「………裏切る可能性は?」
「ご心配なく、俺達はゲリオンの事を兄のように慕い、そのゲリオンがあなたを主として慕っているなら、俺達は決してあなたの信用を裏切りません!」
蠍の魔物が代表で答える。
確かに、ゲリオンの部下にしていれば大丈夫かな…
「わかった。じゃあ順番に、キッカー、パンカー、スコード、ドライガン」
すると、俺の魔素の三分の一が消費したがまだまだ全然動ける。
「「「「ありがとうございます!リード様!!」」」」
四体の感激の言葉はあまりの大きさで耳に響いた。
すると、レミンとベルンが降りてきた。
「なにかすごい声が……成る程そういうことですか」
「あはは、リード様お帰りなさいませ。コウホウもお帰り」
「ただいま、ベルン、レミン」
「今帰った」
ベルンは、キッカー達の姿を見てすぐに状況を理解し、レミンを苦笑いで同意していた。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「それじゃあ、リムル様はもう少ししてから帰って来るのですね?」
「ああ、それまで頑張るぞ」
「俺はあなたが少しでも休んでほしいのですがね…」
「それを言うならお前もだろ…」
執務館でベニマルに報告を済ませ、俺は自分の仕事を片付けていた。
本当は休みのはずだったのだが、じっとすることが出来なかった。
「そう言えば、ヨウム達が今朝街に来たんですが、新顔が三人も増えてまして」
「新顔?」
「何でも失言したヨウムを一瞬で叩きのめしたそうなのです」
「えっ!?あのヨウムを!?」
おいおい、今のヨウムはあまく見ても
そのヨウムを一瞬で倒すなんて…
「その新人って戦士系?」
「ええ、格闘術で戦うらしいんです。名前は確か____」
「………え?」
この時、俺はリムルのあの笑みの意味がわかった。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
仕事を置いて、俺はヨウム達がいると聞いた訓練場に飛んで向かっていた。
もし、本当にあの人なのか。違っていたらどうしよう。
期待と不安を抱えながら訓練場に着き、着陸すると目の前を灰色の何かが横切り、岩に直撃した。
横切ったものを見ると、それはユーラザニアから来ていたグルーシスだった。
「へぇ~、今ので腕の骨がイカれると思ったんだけど、思ったより頑丈だな」
「………っ!?」
後ろから、遊び人のような口調の声が聞こえいろいろな感情が混じって爆発しそうだったが、なんとか堪えて後ろを振り向く。
「…って、おいお前どこか怪我してないか!?」
黒と紫の交わった髪に二メートルを越える大柄で筋肉質な身体、そして大きな手で優しく触ってくる温かさ。
(
「ん?なに泣いてるんだ?」
「え?あっ…」
「お~いシゼン!」
「シゼン様!!」
俺は慌てて涙を拭っていると、ヨウムとエメラルド色の髪をした女性と兎の耳をした獣人が来た。
「流石にやり過ぎよ!」
「なぁにここの回復薬ならすぐだよ。ところでなんでリードの旦那がここにいるんだ?」
「え?コイツがリード・テンペスト!」
俺の事を知ると
あっ…
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
(やっぱりこうなるんだな…)
訓練場で、俺と
そして
本当に強そうなヤツと力比べをしたい癖は治っていないな。
「お前も早く準備しろよ」
俺はジオウウォッチと起動させていない最後のウォッチ『アギトウォッチ』を起動させた。
「!?」
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「なんすか、これ…」
「うそだろ…」
「ほう、あの人間なかなか出来るようですな」
「出来るのレベルじゃないだろ」
最初は軽い気持ちで見ていたゴブタ達、そして予想外の展開に興味津々のベニマル達。
彼らの目線の先は、自身の二人の主の片割れとヨウムのところの新人が
戦いの余波で、地面にはいくつものクレーターが地面をへこませ、衝撃波で訓練場の樹木が薙ぎ倒されていた。
そして、この現状を作り出した本人達は、息を切らさず格闘を続けていた。
シゼンは絶え間なく攻撃し続けていたが、リードはシゼンの攻撃を流し隙をついてカウンターを仕掛ける。
(やっぱり
俺は冷静に
以前の
だけど今の
それほどまでに、
リードが冷静に分析をしている中、シゼンは内心大きく動揺していた。
(この動き、そしてこの戦い方、まさか…)
自身のユニークスキル『
『破壊者』の権能は、身体強化、絶対破壊、魔力感知の三つ。一撃必殺の技を体力が尽きるまで何度も使うことが出来る。
次に『武踊者』の権能は、思考加速、詠唱破棄、身体操作、解析鑑定、超速再生の五つ。自身の補助を行えることで自身にかかる負荷を激減させ、さらにこの世界に来たことで肉体が全盛期以上の動きと力が獲得していた。
にも関わらず、一向に勝てる道すじが見えてこない。こんな経験は、兄弟達と実戦稽古をしていた時しか経験していなかった。
故にシゼンは、ある可能性を考えていた。
(試してみるか…)
シゼンは相撲の四股に似た体勢を変え、全力を
(!?…来る!
俺はドライバーを回転させる。
『フィニッシュタイム!アギト!』
リードは力を右足に集中させるが、先に構えていたシゼンが動いた。
一気に距離を詰め己の全武力を
今のシゼンなら、並みの魔物は寸止めでも即死は免れず、あのカリュブティスの装甲を破壊できる威力にまでなっている。
それをリードは、
その風圧で後ろにいたゴブタやヨウムは吹き飛ばされ、ベニマル達は衝撃に備えた。
そんな中、シゼンは感じていたある可能性が確信へと変わった。
(間違いない、この技をこんな簡単に流すことが出来るのは…)
リードは、シゼンの流した力を左足から右足に流しその力をさらにあげた。
『グランド!タイムブレイク!』
左足を軸に、限界まで力を溜め込んだ右足を首目掛けてあげる。
そしてそこから起きる突風で、訓練場の回りの木が全て薙ぎ倒された。
「………俺の負けだ」
シゼンは自身の頬に寸止めでされたリードの足を見て、自身の敗北を認めた。
リードも足を下ろし、変身を解除する。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「リードさん、シゼンさん、わたくしが言いたいことがわかっていますか?」
「「は、はい」」
「お二人で片付けてくださいね」
「「はい…」」
シュナに怒られ、俺と
地面は俺の『
「………なあ、お前…」
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
シゼンは、リードに渡された紙に書かれていた場所に向かっていた。
(北にある小さな湖で待ってるっか…)
森をぬけた先にいたのは、一足先に酒を飲んでいたリードだった。
「……………」
「………まさかあんなに強くなってたなんて驚いたよ」
「!?」
リードは立ち上がり、シゼンに自分の宝物であるペンダントを見せた。
「久し振り、
「!?」
リードのこの言葉で、シゼンは大粒の涙を大量に流し走り出し
「
「うぉっ!!」
シゼンはリード・テンペストが死んだ自分の
「夢みたいだ!まさかお前に会えるなんて!!」
「俺も嬉しいよ、
リードは『痛覚無効』がシゼンの『破壊者』によって発動出来ずにいた。そのため両腕と背中に痛みを感じ、呼吸が難しくなっていく。しかし、シゼンはそれに気づかず、さらに力強くリードを抱きしめる。
「うぉぉおおおーーーー!!」
「い、痛いって言ってるだろ!この
リードは全力の肘打ちで、シゼンの抱擁を解いた。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
「再開した
「わ、わりぃ…」
「でも驚いたよ、まさか
「それは俺のセリフだよ、まさかお前が転生してなんて…」
「いつ、どうやってこっちの世界に?」
「ああ、実は…」
俺の命日に
そして
そしてドワルゴン、ファルムスでこの世界のことをある程度知った後、ヨウム達の仲間になり共の行動を共にしていたらしい。
話を纏めて推測すると、
「ところで
「ぶぅーー!!」
「…やっぱり」
「な、なっ!」
「相手ってあの鬼人のシュナって娘だろ?」
「い、いつから気づいてたの?」
「訓練場直してた時」
さすが、
「お前があの娘を見ている目は惚れたヤツの見る目だったからバレバレなんだよ」
「ううっ…」
「で、
「俺なんかがにシュナ釣り合わないよ」
「はあぁ!!」
(どう見ても、脈アリだろ!?)
「俺なんかよりも良いヤツはたくさんいるだろうし…」
「………お前さぁ、あの娘の為に一回でもキレたことある?」
「え?………うん」
「ふん!」
次の瞬間、
「うぉぉぉおおお!!」
『痛覚無効』が発動せず、兄弟一の石頭である
俺は激しく痛みで悶えた。
「ガチ惚れじゃん!そんなに好きならさっさと
「だからって何で、庭の岩を粉々にした頭突きをするの!?」
「あぁ?!お前のその腰抜け根性が気に入らねぇからだよ!」
「!それは…」
「たった二年で随分と腰抜けになったな」
「!?そ、それは………!?」
なんだ、この圧倒的な
はっきり言ってミリムと良い勝負だ!
こんな
「気づいたか
「
「ああ、今な…」
「
「………ほう、オレの気配に気づくとは、確かに実力はあるみたいだな」
森の影を抜け月明かりに照らされると、俺は今日が吉日でもあり、厄日だと直感した。
(長い赤い髪、そしてこの魔素は
そこに現れたのは、原初の
こうして、我が魔王は
しかし、一体魔王ギィの目的とは…
我が魔王の運命はいかに?