そこでは束の間の平和が訪れていた。
今回は、それより時間を少し遡り、ファルムス攻略に向かっていったグレイド達の話をしよう。
ファルムスに向かう中、馬車に乗っていたグレイドは無惨にも生きた肉塊に変えられたエドマリス王達を見て、興奮していた。
グレイド:「流石はリード様、俺の回復魔法が一切効かない。これはおそらく人体の構造の法則そのものに干渉しているのだろう。つまり魔法による法則の変化ではなく───」
ディアブロ:「兄上」
グレイド:「おお、スマン。それじゃあ、まずコイツからだ」
ディアブロの声に正気に戻ったグレイドは力業でレイヒムを元に戻そうとする。凄まじい悲鳴をあげるが、グレイドは特に気にせず作業を進める。
グルーシス:「…あっちの馬車の捕虜三人、無事にファルムスに辿り着けるか?」
ミュウラン:「シゼンやリード様の尋問(?)を受けた時点で無事じゃないと思う」
並列して走っている馬車に乗っているグルーシスは、捕虜が心配になったが、リード達のあの光景を目にしたミュウランの言葉にヨウムは顔色を悪くして頷く。この状態にグルーシスはどれ程恐ろしかったのか察してしまった。
レイヒム:「あ…ああ…感謝します!感謝しますぞ!グレイド殿!!」
グレイド:「黙れ汚物」
ディアブロが素早く毛布を投げつけ、レイヒムは端に座る。
グレイド:「さて次は…」
ラーゼン:「わしよりも王を…王を元の姿に…」
ディアブロ:「ああ、そういえば捕虜の一人は貴方でしたね。ラーメン…ではなくラーゼンでしたね」
グレイド:「…小僧、敗戦国の者であるお前が、俺達に願いをいうなら代償は高いぞ」
ラーゼンは、グレイドを見た時いやそれを従えるリードとリムルの姿を見た時に悟った。ファルムスは眠れる獅子を目覚めさせてしまったことを、そして竜種以上に危険な存在を顕現させるきっかけを作ってしまったということを。
数千年前、ファルムス以上に栄えていた国があった。
その国の中心で
その後その土地は、二千年以上雑草すら生えない死の土地へとなった。
ラーゼン:(何故、記録があれだけだったのか…今なら分かる)
単純な理由、恐ろしかったのだ。理不尽な暴力と言ってもいい強さと冷徹なまでの効率的な行動力。
この悪魔だけでも恐ろしいのに、更にもう
もはやラーゼンの選択肢には、テンペストと戦うという選択肢がなかった。
元の姿に戻り、ラーゼンはその選択の行動に出た。
ラーゼン:「儂を…いえ、私を貴方様達どちらの下僕の末席に加えてください。今後、この身命の全てを捧げます。ですからどうか、エドマリス王にお慈悲を…」
忠誠を誓う事で、ファルムスの民を守る。これが数百年ファルムスを守護してきた宮廷魔術師の答えであった。
グレイド:「…ディアブロ、お前の意見は?」
ディアブロ:「…まぁいいでしょう。使い道がありそうです。後でちゃんと元に戻しますよ。ただし、リムル様に対する不敬は二度と見逃しません」
グレイド:「無論リード様にもだ。今後もし叛意を見せたら、数千年前のように、今度はファルムスを死の土地に変えてやる」
ラーゼン:「無論です。私の忠誠は貴方様達のために」
レイヒム:「わ、私も!私も何でも致しますぞ!!私は西方聖教会の大司教です!きっとお役に立ちますとも!!」
ラーゼンとレイヒムがグレイドとディアブロに服従の意を示したのを見ていたエドマリス王はあることを思い出していた。
それは、魔王リード=テンペストによって、この姿に変えられた時、去り際に言った言葉であった。
リード:『他に道はなかったのか?』
アレは、欲望のままに動いた自身にこうなる事を予測出来なかったのかという問いだったのだと理解した。
同時に、リードがどれ程優しいのかも思い知らされた。
エドマリス:(あの方、いやリード様の言葉には重みがあった。王として国を豊かにしたいと思うあまり、最も大事な事を今になって思い出すとはな………ましてや敵国の兵を思うとは………)
エドマリスは王として、人としてリードに負けていた。ゆえに、エドマリスは王としての最後の責務を、正しい選択を行った。
エドマリス:「余は…ファルムス最後の王として……ディアブロ殿とグレイド殿の…望むように…協力すると…約束…しようぞ」
グレイド:「…だそうだ。頼むぞディアブロ」
エドマリスからの言質も取り、グレイドから許可が降りるとディアブロが微笑みを浮かべる。
ディアブロ:「…御安心を。私達に従うならば、悪いようにはしませんよ」
ディアブロが呟くと、エドマリス、レイヒム、ラーゼンはディアブロのユニークスキル『
ヨウム:「おおーい、ディアブロさん、グレイドさん。捕虜達生きてるよな?」
グレイド:「安心しろヨウム殿。それとしっかり休んでくだされ」
ディアブロ:「直にファルムスの領内です。国盗りのような些事。さっさと済ませてしまいましょう」
ヨウム:「お…おう」
ディアブロの言葉に表情が引き攣るヨウムはそう答える事しか出来なかったのか。
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ファルムスの王城内は恐怖と混乱に包まれていた。
二万の軍勢からの連絡が途絶え、戻ってきたのは、レイヒム、ショウゴの肉体を奪ったラーゼン、そして見るも恐ろしい肉塊になったエドマリス王であった。
騒然とした王城内でラーゼンは皆を落ち着かせ、ある
ファルムスは自分たち三人を残して全滅そしてその理由は、
貴族:「ぼ、ぼぼっ、ぼ…暴風竜の復活だとぉ!?」
貴族:「ら、ラーゼン殿、それは本当なのでしょうか?」
貴族:「西方聖教会も完全に消滅したと発表したではないか!」
ラーゼン:「否、それは違いますぞ。ヴェルドラは確かに消滅していましたが、“竜種”は滅びませぬ。世界の何処かで、新たに誕生するのですじゃ。ただし、このように短い期間で、ましてや近場で復活するなど想定外でしたがのう」
ラーゼンの言葉に、カルロス卿は表情を強ばらせるが協力者であるミュラー侯爵はその話を信じると皆の前で言った。
丁度そのタイミングでヨウム一行が現れた。
ヨウム:「遅くなってスマンな。だけどなんとかあの人達の説得に成功したぜ」
ヨウムの事は、貴族達も認知していたが、その態度に反発するものは勿論いた。
カルロス:「何じゃ、貴様は!平民風情が無礼であろう!」
この言葉に慌てたのはラーゼンである。普段ならその対応は正しい。しかし、状況が悪い上に刺激してはいけない相手が二人もいる。その為、急いで仲裁に入る。
ラーゼン:「お待ちください、カルロス卿。このこの者達こそ、我等を救ってくれた者達ですじゃ」
貴族:「ラーゼン殿達を助けた、ですと?」
貴族:「どういう事ですかな?」
レイヒム:「それは私からお答えしましょう」
そして、もう一人の生存者であるレイヒムが貴族と疑問に答えた。
戦場では数で上回っていたが、地の利がある魔物達に苦戦し、互いに多くの犠牲が出た。
それがきっかけで暴風竜が復活し、生き残ったラーゼンとレイヒムは死を覚悟したが、その竜種の前に立ち塞がった者達がいた。
ここまで話し、ラーゼンはディアブロとグレイドを見ると、満足そうに頷いていた。
そして、レイヒムと共に話を進める。
ラーゼン:「それが魔物達の主リムル様とリード様だったのです」
レイヒム:「リード様は自身の強大な力でヴェルドラを抑え、その隙にリムル様が説得して下さったのです」
貴族:「竜種を抑えただと!?」
貴族:「それに会話が成り立つとは…」
騒ぐ貴族達にラーゼンは更に森の管理者である
ヴェルドラを抑える事が出来るリードに説得が出来たリムル、彼らの国を進攻し、ヴェルドラを使って反撃に出られては勝ち目は無い。
ヨウム:「ああ、皆さん。その点については安心して欲しい。俺はよ、
カルロス:「おお!では、その方が間に立って、我等の要望を伝えるのだ。内容については追って沙汰する故、別室で控えておれ」
ヨウム:「おいおい、待てって。普段ならあの人達も気さくだし優しいけどよ、今は違うぜ。その理由はあんた方が良く知ってるだろう?」
カルロス:「何だと?」
ヨウム:「あんたら、リムルさんとリードさんの国に戦争吹っかけただろう?あれで仲間に犠牲が出たもんだから二人とも、特にリードさん方がスゲェ激怒しちまってるんだわ。この国を滅ぼしかねない程の怒りをな」
カルロス:「何を言うか、平民風情が!リムルとリードとやらに顔が効くなら都合がいい。取り成すのも英雄の仕事であろう、何とかせよ!」
カルロスの無礼な言葉にディアブロは怒りのオーラが溢れ、グレイドは僅かに目尻が痙攣していたが、ディアブロの肩を掴み、耳元で呟くとディアブロの怒りのオーラが消えていく。
ラーゼンは大量の汗を流し、慌てて制止させようとする。
ラーゼン:「か、カルロス卿、控えるのじゃ!!」
ヨウム:「いいか、先ずは俺の話を聞け。使者も送らず、宣戦布告をせず、“異世界人”を好き勝手暴れさせたらしいな?俺は戦争の仲裁に出向いたんだが、それを聞かされて唖然としたぜ。だがよ、俺もこのファルムス王国で生まれた者だ。祖国を滅ぼされるのは忍びないし、何とか怒りを静めて交渉してもらえないか頼み込んだんだよ」
カルロス:「国家の大義を貴様如き平民が語るでないわ!良いか!儂は絶対に認め───」
ラーゼン:「控えろと言っておろうこの馬鹿たれがぁ!!事情を知らぬ者が出しゃばるでないわ!!」
ラーゼンは魔法で強引に黙らせる。
これ以上、ディアブロとグレイドを刺激するのは、ファルムスの民の命が危険に晒されると考えての行動である。
ラーゼン:「良いか皆の者。今のヨウム殿言葉は真実じゃ。我等は敗北し、生き残ったのは儂と、レイヒム殿、そして暴風竜の魔素にあてられ、かような姿になったエドマリス王のみ」
先程のラーゼンの行動で貴族達も、信じざるを得ない。
魔物の国に敗北し、更に暴風竜を敵に回す恐れがあるという事実に、こうなれば自ずと結論は出る。
ミュラー:「提案を受け入れようではないか。のう、皆の者」
ミュラー侯爵の提案に、大半の者が同意の意を示すように頷く。
ここでようやくディアブロ達が動いた。
ディアブロ:「クフフフフ、賢明な判断です」
グレイド:「それでは約束通り、この国の王を解放しよう」
近衛兵:「な、何者だ!いつの間に王の側へ」
グレイド:「がら空きだったから来たそれだけだ。俺の名はグレイド」
ディアブロ:「私の名はディアブロ」
グレイド・ディアブロ:「「偉大なる我が(王リムル様/主リード様)の忠実な(
ディアブロが持っていた
ディアブロがさりげなくフルポーションの宣伝をすると、グレイドはある羊皮紙を取り出した。
グレイド:「さて、ファルムスの王よ。我らの主達より、伝言がある」
エドマリス:「…聞こう、魔物の国の使者殿」
グレイドは主達からの要求という名目で戦争締結の条件を読み始める。
グレイド:「三つの内の選択肢を選べ」
一つ目、王が退位し戦争賠償を行う事。
二つ目、我が国の軍門に降り属国となる事。
三つ目、戦争の継続。
グレイドが読み終えると貴族の中から「無茶だ……」という呟きが聞こえてきたが、ディアブロとグレイドにとってはどうでも良いことであった。
グレイド:「───以上だ」
ディアブロ:「それでは一週間後までに、答えを用意しておいて下さい」
貴族:「ま、待ってほしい!それではあまりにも時間が───」
ディアブロ:「黙りなさい。私は気が短いのです」
貴族:「しかし、地方の貴族も召集せねば───」
グレイド:「何故俺達がお前達の都合を考えねばならない?」
グレイドの地を這うような低い声に皆黙って聞くことしか出来なくなった。
グレイド:「小細工を弄するのはやめておけ、返事の先延ばしも受け付けん。一週間後に返事がなければ『戦争の意思あり』と受けとる………いいな?」
グレイドが一方的に宣言し、ディアブロと共にその場を去った。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
リムル:「てな感じで揺さぶりをかけて、その後
俺は、生夢と釈迦人にファルムスとのやり取りを話していた。
一通り話し終えると生夢は言葉を失い、釈迦人は少し引いていた。
生夢:「それで賠償金はどれくらいですか?金貨五千枚くらい?」
リムル:「………
生夢:「ぶーーーーー!!」
釈迦人:「………っ!?」
あまりにも予想外な金額に生夢はコーヒーを吹き出し、釈迦人もクッキーが口からこぼれた。
生夢:「星金貨一万枚ってボッタクリもいいところですよ!!」
釈迦人:「………ああーー、成る程そういうこと」
生夢がツッコミをいれると釈迦人はどうやら気づいたようだ。コイツは物事をゲーム感覚でみる癖があるからディアブロ達の考えに気づいたみたいだな。
生夢:「何かわかったのか釈迦人?」
釈迦人:「生夢、
生夢:「え?そんなの………そういうことか!」
どうやら生夢も気づいたみたいだな。
三つの選択肢と言うが答えは一つしかない。
釈迦人:「戦争の継続は三上さんと
生夢:「王が退位して賠償金を支払う。けど星金貨一万枚なんてとてもじゃないが払えない。その責任を武力を持たない先王とその派閥に擦り付ける」
釈迦人:「その先王派の奴らがなんの憂いもなく取り入れることが出来るのが、ヨウム達ってことだ」
生夢:「そうなれば内乱が起き、ヨウム達がそれを鎮圧したら、ファルムス王国の人達はなんの違和感もなくヨウムが王になる事を受け入れる事が出来る」
釈迦人:「そういうことですよね三上さん?」
リムル:「ああ」
ホント、お前達はスゴいな。俺なんてリードとディアブロ、それに
すると、ヴェルドラが慌てて執務室に入ってきた。
ヴェルドラ:「リムルよ匿ってくれ!!」
俺が返事をする前に、俺の机の下に隠れると、怒りのオーラを解放させたリードが静かに入ってきた。
リード:「リムル、ヴェルドラどこ?」
リムル:「え、え~っと……」
釈迦人:「三上さんの机の下」
あまりの恐ろしさに、言葉がつまるが、釈迦人があっさりと喋った。
ヴェルドラ:「う、裏切ったなシャカト!!」
生夢:「ヴェルドラが怒らせる事をしたんでしょう?受け入れた方が楽になるよ」
ヴェルドラ:「くっ…!」
ヴェルドラが窓から逃げようとすると、リードが指先に小さな何かを生み出し、ヴェルドラの足に当てるとヴェルドラが突然倒れた。
ヴェルドラ:「うげぇ!」
リードはすかさず、ヴェルドラの首根っこを掴み執務室から出ていく。
リード:「ほら、まだレミンの故郷吹き飛ばした分とルミナスの正体を暴露した分、それとグレイド達の仕事を邪魔した分のお仕置きが残ってるんだから逃げるな」
ヴェルドラ:「ま、待てリード話せば分か───」
リード:「ん?」
ヴェルドラ:「ひぃ」
リードの圧に反論出来なくなり、目で俺に助けを求めるヴェルドラ。しかし、全身から怒りのオーラが出ているリードに逆らうのは危険なので無視し、そのまま連れていかれた。
生夢:「なあ、釈迦人今のって………」
釈迦人:「
生夢:「まさか、初代当主様の技を全て体得するなんて」
リムル:「ヴェルドラ、反省するかな?」
生夢・釈迦人:「「あのタイプの性格はまたやらかしますね」」
ヴェルドラ…君の事は忘れないよ。
しばらくしてヴェルドラの悲鳴が響いてきたが、これは深く関わらないでおこう。
こうして、ファルムスの内乱を起こさせる準備が整った。
西方聖教会の方も騒がしいことになっているが、それはまた別の機会に