そして、ヒナタは真実を知り、シズさんと共にリードのもとへ向かい、俺達は邪魔されないよう全員を足止めするのであった。
コダマスイカアームズとタカウォッチロイドに導かれ、シズとヒナタは森の中を進んでいた。
その途中、ヒナタはシズからリードが得た力がどのようなものなのか聞き、言葉を失っていた。
ヒナタ:「‥‥‥」
シズ:「ごめんねヒナタ、今思えば、リード君のお願いを無視してでも、あなたに教えるべきだったのに…」
ヒナタ:「…いえ、シズ先生は悪くありません」
(悪いのは、あの子を一人にさせた私の責任)
ヒナタは、母親からの遺書の文を思い出していた。
日向へ、これを読んでるって事は、あなたは聖司に会えたのね。そして、私はもうこの世にいないということね。
あなたがいなくなって、私はますます宗教にのめりこんでしまったの。現実を受け入れられなくてね。
だけどある日、聖司が涙を流しながら、寝言でこう言ったの、「お姉ちゃん、どこ。寂しいよ。会いたいよ」って。
それを聞いてやっと私は気づいた。このままじゃいけない。せめて聖司だけでも守らないといけない。本当に駄目な母親ね。その事に今さら気づくなんて。
それから私は、宗教をやめ、あの子のために必死に働いたわ。
聖司が十歳の時、私は再婚したの。私に従兄弟がいたみたいでとても驚いたわ。その人の名前は、時魔
だけど、そんな中、聖司が時魔家の稽古に参加するようになったの。生傷は絶えず、意識を失うなんて結構な頻度であったの。何度も辞めるように言った。向こうの息子さん達に頼んで辞めさせるようにしたわ。だけど、あの子は辞めなかった。
理由を聞いたらあの子、笑って答えたの、「母さんと姉さんを守れるようになりたい。それと姉さんに強くなった自分を褒めてほしい」って。それだけで、もう止められなくなってしまったわ。
しばらくして、聖司はあっという間に強くなったわ。私はいっぱい褒めたけど、やっぱりあなたに褒めてもらったほうが嬉しいみたい。その証拠に、あの子、あなたと同じ髪型にしたの、一瞬あなたと間違えてしまう程よく似てたわね。
それから五年経ち、私はとても重い病気になっていたことがわかったの。担当医師になってくれた生夢君でも治せない程のね。私の心残りはあの子を一人にさせてしまう事。
だから日向、聖司と再会したらあの子を褒めて上げて、背が伸びた、強くなった、なんでもいい。とにかくあの子を、聖司をいっぱい褒めてあげて。私からのお願いはそれだけ。
そして、私はいつまでも、あなた達の事を愛しているわ。
母より
ヒナタ:(お母さん…)
ヒナタは、宗教にのめりこんだ母があそこまで変わった事に、嬉しさもあった。
弟を守れるのは自分だけだと思っていたヒナタは、その弟を一人取り残してきた事にずっと心残りであった。
しかし、母は変わり再婚もしたことに驚き嬉しかった。
それなのに、弟が向こうの世界で死んで、最凶の力を得たばかりに、苦しい思いをしてきたのだと思い出すと、自分が憎くて仕方がなかった。
そして、森の先に広がる草原、そこの真ん中にある池の前で、リードが大量の酒を飲んでいた。
ヒナタ:「
シズ:「待ってヒナタ、まずはリード君の気持ちを聞くべきでしょう?」
ヒナタ:「シズ先生…はい…」
シズ:「私に任せて。イフリート、ヒナタの気配を消しておいて」
イフリート:「了解した」
イフリートが小人サイズで実体化し、ヒナタの肩に乗ると、自身とヒナタの気配を森の中に完全に消した。
それを確認すると、シズはリードに近づいていった。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
池の前で、酒の入った樽を傾け一気飲みをする。
シズ:「生夢君が知ったら、すごく怒ると思うよ」
リード:「…多分、
飲み終えた樽を投げ、新しい酒を開ける。
投げられた樽は、山のようになった空き瓶や樽が積み重なっていた。『状態異常無効』を完全に切っているのになかなか酔えない。今日ほど、自分が酒に強い事を恨んだ日はない。
シズ:「やけ酒なんて珍しいね」
リード:「飲まずにいられませんよ、シズさんだって見たでしょう?暴走した俺を…」
シズ:「アレは、リード君の限界が───」
リード:「俺が感情を制御していれば、ああならなかった!リムルと煉武義兄さん、それにシュナがいなかったら、俺は…間違いなく罪の無い
シズ:「リード君…」
リード:「それに…俺は煉武義兄さんの腕を…」
シズ:「‥‥‥」
リード:「俺が感情を制御し、抑えるべきだったんだ!そうすれば、あんなことには!」
『聖魔眼』で、確認したから間違いない。おの時の煉武義兄さんの左腕は、スキルで作った偽物。
俺を止めるために、再生よりも攻撃を選んでくれた。一歩間違えれば死んでいたというのにあの状況で…
暴走した俺を止めるために、煉武義兄さんは片腕を引き換えにした。あの時、俺が怒りに呑まれなければ、あんな事は起きなかったんだ。
だから、だからこそ…
リード:「だからこそ、
シズ:「リード君…」
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
サーレ:「魔王リードの前世が、
煉武から告げられた事実にみんな驚きを隠せなかった。
それもそうだ。そんな事、誰も予測出来る筈もない。
みんなが驚くなか、煉武は言葉を続ける。
煉武:「あの子は、たった一年で私と肩を並べる程強くなった。しかし、それ故にあの子は優しくなった」
リティス:「どういうことですか?」
煉武:「強い自分が耐え、弱者を守る。そう考えるようになった。強い自分がもっとしっかりしていれば、あんな事にならずに済んだと、おそらく今も自分を責め続ける。明らかに自分が被害者でもな」
煉武は、視線をレナードの向けると、レナードの顔色は真っ青を越え、真っ白と言ってもいいくらい悪くなっていた。
レナード:(私は…私はなんという事を…)
レナードは、煉武がタロスと名乗って戦った経験のある者の一人ゆえに、わかってしまった。
あれだけの強さを一年で得るのにどれだけの苦痛と努力があったことか。
それを、自分のせいで、最悪な形でそれを披露をさせてしまったことに、悔いていた。
すると、この場ですすり泣きをする者がいた。
龍影:「‥‥‥」
虎白:「リード様は…いつも僕達の事を考えて…いつも自分が最も負担になることばかりして…こんなに優しいお方なのに…どうして大好きな姉と戦うなんて辛い思い…しないといけないの…?…僕…そう思うと悲しくて…」
龍影:「…そうだなコハク。その通りだ」
リュウエイは泣くコハクを優しく抱きしめ、落ち着かせようとするが、先ほどコハクの言葉が、配下全員の気持ちを代弁してくれたいた。
カリュブティスの時も、変身解除され落下するという無防備になる危険を犯してでも斬り、ファルムス襲撃時には、最悪な選択を迫られ、そして、今回も、姉と戦うという辛い決断をした。
一体どれだけ、リードが辛い思いをしなければいけないのだ。
レナード:(‥‥‥ああ、そうだったのか…)
レナードはここで、煉武の言葉の意味に気づいた。
煉武:『貴様はこれから死ぬまで、ある罪を背負ってもらう』
煉武は、リードがレナードを責めない事を知っていた。しかし、それでも事実が変わるわけではない。
だからこそ、自分がやったことを忘れるなと、煉武はレナードに伝えたのだ。
アルノー:「…では何故、煉武殿はルベリオスに残ったのですか?あなたはヒナタ様と俺たちの報告を聞いた時に気づいたのでしょう?」
煉武:「おかしな事を言うな」
アルノー:「?」
煉武:「
煉武の覇気に、アルノーは何も言えなくなる。
そして、煉武はヒナタ達が行った方角に視線を変え、本当の意味で再会出来ることを祈っていた。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
シズ:「リード君、それだけの理由だけで、ヒナタに会おうとしないの?」
リード:「…どういう意味ですか?」
シズ:「他にも、理由があるよね?お願い、教えて」
リード:「…一年前、ミリムがこの町にきた時、予知夢を見たんです」
シズ:「………」
俺の話にシズさんはただ黙って聞いてくれた。
リード:「あの人に…姉さんに刺し殺させれるのを、体験しました」
シズ:「!!」
リード:「そして、この前、姉さんが大量の血を流すところを見たんです」
シズ:「‥‥‥」
リード:「一年前の予知夢の時は、あのまま会いに行けば殺されてしまうという意味だと思っていましたが、違いました。アレはファルムス襲撃時の俺が、自分の命を対価にしたという漠然の情報だったんです!」
シズ:「…そうなんだ…」
リード:「そしてこの前の予知夢の時は、俺が庇わなければ姉さんが…ああなるという事だと、後から気づきました」
けど…それだけじゃない。それだけの理由じゃない。
リード:「…それに、俺は前世でも、人を殺した!そしてこっちの世界でも多くの命を奪った!」
シズ:「…でも、あの時は…」
リード:「そして何より!実の弟が魔物になった…俺はあの人の枷になりたくなかった…」
組織構成が人間である以上、七曜のような輩がいないわけがない。
仮に、自分の事を信じてもらっても、それは弱みになる。そうなったら、姉さんは今の地位を追われる。
それに、暴走したあの時の俺は誰がどう見ても化物だった。
そんな俺が、弟だって言って信じてもらえる筈がない。
リード:「あの人に…拒絶されたく…ないんです…」
シズ:「…それじゃあ、もし、もしだよ。もし、ヒナタに自分が弟だって言って、それで信じてもらったら、リード君は、ヒナタになにしてほしい?」
リード:「…誰にも言いませんか?」
シズ:「言わない」
リード:「笑いませんか?」
シズ:「笑わない」
やっぱりイングラシアで教師をやっていたのかシズさんの言葉はとても安心してしまう。
だけど今は、それに縋りたい思いでいっぱいだった。
リード:「優しく抱きしめてほしい…」
シズ:「…うん」
リード:「頭を撫でてほしい…」
シズ:「…うん」
リード:「何でも良い、褒めてほしい…」
シズ:「…うん」
駄目だ。泣きそうになって言いたいことが言いにくくなる。
リード:「…『リード』じゃなくて…『聖司』って呼んでほしい…」
シズ:「…うん」
リード:「…これだけです」
シズ:「それだけ?」
リード:「はい。これだけで充分です」
子供っぽい願いだろうけど、俺にはそれだけで良かった。
だって…だって…
リード:「だって、俺にも人間の心はあるから…」
シズ:「…そっか、聞こえたヒナタ?」
リード:「‥‥‥え?」
シズが後ろを向いて姉さんの名前を呼ぶと、俺もつられて後ろを向く。
そこには、確かに姉さんがいた。
⚪⚫⚪⚫⚪⚫⚪⚫
シズ:「ちゃんとやるんだよ」
ヒナタ:「…はい」
シズは、イフリートを回収すると森の中へ入っていった。今この場にいるのは、ヒナタとリードの二人だけである。
そして、ヒナタがリードに歩み寄り、リードは『思考加速』を最大限まで発動させた。
リード:(なんで姉さんがここに?いや、それよりも早く逃げないと!)
リードは『聖魔の翼』を出そうとするが、全く出る気配がない。
リード:(なんで!…まさか…)
『聖魔眼』を発動させ、上を見ると、森を囲むように結界が張られており、その結界を発動させている点は十ヵ所であるのを確認した。
リード:(
聖剣鬼衆の結界は、その聖剣の持つ力を元にして、他の聖剣がその力を強化しすることで成立している。
しかも、条件が細かく正確であるほど、その結界の精度は大きく上昇する。
今回は、『リードの逃走手段を封じる』という条件であり、今のリードを閉じ込める事は可能であった。
そして、ヒナタは、リードに更に近づいていく、
リード:「…っ!」
リードは距離をおこうとするが、後ろが池であることを忘れていて、バランスが崩れた。
リード:「しまっ…」
リードはこのまま、体が後ろに倒れ池に落ちると覚悟したが、それよりも早くヒナタがリードの手を掴み、引き寄せ、
リード:「…!」
ヒナタ:「ごめんね
リード:「!」
ヒナタは
ヒナタ:「あなたを一人ぼっちにさせてごめんね。辛い思いをさせてごめんね。私を恨まないでくれる事に嬉しく思ってごめんね」
リード:(違う…俺は…
「…やめて…謝らないで…」
ヒナタ:「…そうね。あなたが聞きたいのはこれじゃないわね」
ヒナタは、リードの顔が見えるように僅かに離れるがその手はリードを決して放そうとしなかった。
ヒナタ:「大きくなったね。強くなったね。私とても驚いたわ‥‥‥だから、だからお願い」
リード:「‥‥‥」
ヒナタ:「また、私の事を『姉』と呼んで…」
リード:「‥‥‥っ!」
ヒナタは、リードの目隠しを外すと、その瞳には涙があふれでていた。
リード:「…呼んで…良いの?」
ヒナタ:「当たり前でしょう。あなたがどんな姿になっても化物なんかじゃない。私のたった一人の『弟』なんだから」
リード:「…う、うぅ…姉さん…うわぁあぁあああーーーーーー!!!!」
リードは、大きな声で泣き、ヒナタに抱きつく。ヒナタも優しくリードを抱きしめた。
リード:「…寂しかった!…怖かった!…痛かった!…会いたかった!」
ヒナタ:「私もだよ。聖司、私も会いたかった」
ヒナタの目にも涙が浮かび、リード、いや、弟の聖司との再会を喜んだ。
その光景を見ていたシズは黙って立ち去っていった。
イフリート:「(良かったな)」
シズ:「うん、しばらく二人っきりにしてあげよう」
シズが振り返ると、一瞬だけ、二人を愛おしそうに見守っていた二人の男女が見えたが、すぐに消えてしまった。
しかし、シズはそれがなんなのか察し、小さく笑った。
シズ:(良かったね、二人とも)
そして、聖剣鬼衆に結界を解除させ、リードとヒナタの二人きりにするよう命じ、シズ達は、リムル達のもとへ帰っていった。
こうして、リードとヒナタは、本当の意味で再会を果たすことが出来た。
リード、今まで