ウマ娘は、ヒトよりも丈夫な身体をしている。
「だからって……! こんなの、あんまりだろ……!」
「あぁもう、うるさいわね!」
呆れたように言って、マルゼンスキーが俺に近づいてくる。
「ちょっとトレーナー君、しっかりしてよ? あなたには、まだやるべきことがあるでしょ?」
そう言うと彼女は、俺を軽々と持ち上げた。
そしてそのまま、医務室へと運び込まれる。
そこで治療を受け、ベッドの上で目を覚ましたときには、すでに日が落ちていた。
「う……」
ぼんやりとした意識のまま、俺は起き上がる。
するとすぐそばから、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あら、目が覚めたみたいね」
「マルゼン……」
彼女の顔を見た瞬間、記憶が蘇ってくる。
─────数時間前
「マックイーン!アタシとデュエルしろ!」
「はぁ…今度はいきなり何を言い出すかと思えば… ゴールドシップさん、いい加減にトレーニングをしてくださいまし!」
「関係ねぇ!デュエル!アタシの先行だ!」
「もう、仕方ないですね… デュエル!!!」
いつものように始まったゴルシとのデュエルだったが、今日のゴルシはどこか様子がおかしい。
妙に攻撃的でそれでいて冷静な、まるで何かに取り憑かれたかのような戦い方をしている。
─────
───
─
「…」
「(ゴールドシップさん、いつもはあそこで誘いに乗って攻撃宣言をするのに…一体何があったんですの…?)」
「アタシのターン、ドロー!アタシは手札から、『ハーピィの羽根帚』を発動!」
「ふふっ、本当に発動していいんですの?」
「あぁ、だってアタシにはこれがあるからな!チェーンして、手札を1枚捨てて『超融合』を発動!!」
「超融合!?し、しかし、こちらのフィールドにモンスターは…」
メジロマックイーンのフィールドにモンスターは居ない。伏せてあるカードが4枚あるのみ。
超融合は相手と自分のフィールドのモンスターを素材として融合召喚をするカード。
普通なら、相手のフィールドのモンスターを素材にして、相手のモンスターを減らすように使うはず…
ゴルシは何を考えているんだ?
「知ってるかマックイーン!?超融合の相手のフィールドを使う効果なんてのはオマケなんだぜ!アタシはフィールドの『アネスヴァレットドラゴン』と『エクスプロードヴァレットドラゴン』を融合!」
「させませんわ!リバースカード…」
「おっとマックイーン、それは出来ないぜ!超融合の効果で、お前はこの効果の処理が終わるまで効果を発動できない!」
「な… そこまで考えていたんですの!?」
ゴールドシップ…
いつもはすぐ攻撃して攻撃反応型トラップに泣いていたのに、カードのメインではない効果を十分に活かしている!
一体何があったんだ!?
「チェーンの処理だ!まず超融合の効果で『ヴァレルロード・F・ドラゴン』を融合召喚!」
「攻撃力3000… きついですわね…」
「そしてハーピィの羽根帚の効果でお前のフィールドの魔法・トラップカードを一掃だ!」
「…かなりまずい事になりましたわ…」
「更にトラップカード、『タクティカルエクスチェンバー』を発動!フィールドのコドモドラゴンを破壊し、デッキから『ヴァレット・トレーサー』を特殊召喚するぜ!」
「ゴールドシップさんが展開している…!?」
「アタシは墓地に送られたコドモドラゴンの効果で、手札から『シルバーヴァレットドラゴン』を特殊召喚!」
ゴールドシップのフィールドにモンスターがどんどん増えていく。
「手札からクイック・リボルブを発動!デッキから『シェルヴァレットドラゴン』を特殊召喚するぜ!」
「ゴールドシップさんのモンスターゾーンがモンスターで埋まりしたわ…」
「手札から、『スクイブ・ドロー』を発動!シェルヴァレットドラゴンを破壊し、2枚ドローするぜ!」
「ドローまで…こっちが何も発動できないのをいいことに好き放題やられて、これは次のターンが怖いですわね…」
「っといけねえ、忘れるとこだった!スクイブ・ドローにチェーンして、ヴァレットトレーサーの効果を発動!フィールドの表側表示のスクイブ・ドローを破壊し、デッキから『メタルヴァレットドラゴン』を特殊召喚!」
「(自分フィールドの表側表示のカードを破壊という効果を魔法カードを対象に選ぶ事で損失なしで効果発動… 少し前までのゴールドシップさんなら絶対できないコンボですわ…!)」
「フィールドの『ノクトビジョン・ドラゴン』と『アブソルーター・ドラゴン』、そして『スリーバーストショットドラゴン』を素材としてリンク!
その秘められた激アツパッションをアタシに見せてくれ!リンク召喚!『ヴァレルエンド・ドラゴン』!!!」
「も、もうエースモンスターですの!?」
「驚くにはまだ早いぜ。リンク素材となったノクトビジョンの効果でアタシは1枚デッキからドロー!更に墓地に送られたアブソルーターの効果でデッキから『ヴァレット・リチャージャー』を手札に加える。
そしてヴァレットトレーサーとシルバーヴァレットドラゴンをチューニング!現れろ!『ヴァレルロード・S・ドラゴン』!!」
「(ぼ、妨害カード!?そんなものをデッキに入れる脳がこの方にあったんですの!?)」
「こいつの効果で、墓地のスリーバーストショットドラゴンをこいつに装備!攻撃力は1200上昇し、ヴァレルカウンターを3つ乗せる…」
「(3つ… つまり3ターンも1妨害を喰らうなんて…)」
「フィールド魔法『リボルブート・セクター』の効果で、手札から『エクスプロードヴァレットドラゴン』と『ヴァレット・シンクロン』を守備表示で特殊召喚!
そして手札から儀式魔法『ヘヴィ・トリガー』を発動!フィールドのエクスプロードヴァレットドラゴンとヴァレットシンクロンを破壊し、手札から『ヴァレルロード・R・ドラゴン』を特殊召喚するぜ!」
「(相手のフィールドに攻撃力の高いモンスターが何体も… かなり手強いですわ…!)」
「お前が言いたい事はわかるぜ。痛い程にな!」
「えっ!?」
「アタシだって思ってる!まだヴァレルロード・X・ドラゴンが足りないって!」
「まだ出す気ですの!?」
「アタシは手札から、『ヴァレット・キャリバー』をヴァレルエンドのリンク先に特殊召喚し、そしてヴァレットキャリバーとメタルヴァレットでエクシーズ!現れいでよ!『ヴァレルロード・X・ドラゴン』!!!」
「っ…!」
「あははははは!!強いぞー、カッコイイぞー!!」
すでにゴールドシップは勝ち誇った顔で笑っている。
メジロマックイーンとの対戦は、いつもマックイーンが勝っていた。
マックイーンには堅実に勝利を目指す精神があったからだ。
「負ける…!?」
「ダメだ!まだ続ける!アタシは攻撃せずにターンエンドだぜ」
この状況を打破してみろと言わんばかりに、ゴールドシップはドヤ顔でターンを渡す。
「ぐっ、メジロのウマ娘も舐められたものですね…!わたくしのターン!ドローですわ!」
メジロマックイーンにターンが渡ると、彼女はほくそ笑んだ。
「手札から、サンダーボルトを発動しますわ!」
「あ、それ無効ね。ヴァレルロードSドラゴンの効果でヴァレルカウンターを1個消費して無効にしちゃうゾ☆」
無慈悲にも、彼女の希望は潰えた。
「ナ、ナンデスッテー!?」
「マックイーン、お前演技が下手すぎってよく言われない?」
「言われませんわ!」
「あ、そう。続けて」
「わたくしは手札を1枚捨て、『一撃必殺!居合いドロー』を発動しますわ!」
『一撃必殺!居合いドロー』だと!?
「へへっ、面白くなってきたじゃねえか!!!」
「ゴールドシップさんのフィールドのカードの数だけ…つまり7枚のカードをデッキの上から墓地に送り、1枚ドローする…
それが『一撃必殺!居合いドロー』なら、フィールドのカードを全て破壊して、その数×2000のダメージをゴールドシップさんに与えますわ!」
「こういうおもしれぇ展開ってのが、遊戯王の醍醐味だよなッ…!」
「いきますわ!!!運命のドロー!!!!」
その一瞬、勝利の女神も夢中になる程の幸運がフィールドを揺らがした。
なんとメジロマックイーンが引いたカードは、『一撃必殺!居合いドロー』だったのだ。
ゴールドシップのフィールドには5体のモンスターと2枚の伏せカードが存在している。
『ヴァレルエンド・ドラゴン』は効果では破壊されないが、それを差し引いても破壊するカードは6枚。
よって合計ダメージ量は12000!ゴールドシップのライフを削りきれる数値である!
「こ、これが……わたくしの勝利へのピースですの……! さぁ、ゴールドシップさん!これであなたの」
「スピードローダードラゴン」
「え?」
「スピードローダードラゴン」
「…っ」
《スピードローダー・ドラゴン》
効果モンスター
星6/闇属性/ドラゴン族/攻2400/守 600
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分が効果ダメージを受けた時に発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
その後、自分が受けたダメージと同じ数値分のダメージを相手に与え、
与えたダメージの半分だけ自分のLPを回復する。
「嘘ですわぁ〜〜〜!!!!」
「いや、ホントだって。あ、それと手札のヴァレットリチャージャーを捨てて墓地からヴァレットトレーサーも召喚ね。」
「…完敗ですわ。」
結果は、ゴールドシップの圧勝。
LPの差は26000。
ロマン砲をたった1枚で覆す、希望潰しの鬼。
そしてゴールドシップは、一部始終を見守りながら小声で実況解説していた俺のほうに歩いてきた。
「オメー、さっきから何見てんだ!!!喰らえ!!!ドロップキック!!」
「ぶべらっ!?」
俺は吹っ飛ばされて壁に激突。
そのまま気絶してしまった。
─────
「あぁ、マルゼン。全部思い出したよ」
「あら、トレーナー君が忘れっぽいのはいつもの事じゃない?アタシとの大事な約束も忘れるくらいなんだから!」
「いや、違うんだよ……」
「ん?」
「実はな……昨日、ゴルシとマックイーンがトレーニングコースで遊戯王してたんだけどさ……」
俺は、その時の事を詳しく話した。
ゴールドシップとメジロマックイーンによる決闘が行われた事。
そして、それはもう見事なまでにゴールドシップが勝利したという事。
俺が気絶した後の出来事も聞いたが、まあ予想通りの展開だったので割愛させて頂く。
しかし、それを聞いたマルゼンスキーは何か納得いかない様子で首を傾げた。
彼女は金色に輝く車の鍵を手に持つと、保健室で寝ている俺をよそにどこかへ行ってしまった。
─────数十分後
「トレーナー君!痛みもそろそろひいてきたんじゃない?痣はまだ残るみたいだけど…」
彼女は戻ってきた……が、彼女の手にあったのは紫色のカードケースだった。
中には大量のカードが入っているようで、かなり膨らんでいる。
しかもその全てが丁寧に、それも別々のスリーブに入れられていた。
俺が不思議そうにしていると、マルゼンスキーはそのカードの事を教えてくれた。
「このカードたちが気になる?…そうね、そろそろトレーナー君にも教えておかないとね。」
マルゼンスキーは話し始める。
「これはね、私がまだヤングな頃に、タッちゃんと一緒に峠のライディングデュエルでやんちゃしてたときに…アンティルールで手に入れたカードなのよ。今はもう、辞めちゃったけどね」
「アンティルール…!?」
アンティルールとは、デュエルで負けた時に相手にデッキのカードを1枚選ばせ、それを譲り渡すという──
──つまるところの、賭けデュエルであった。
「それでこの量… 勝率はどれくらいだったんだ?」
「モチのロンで100%よ。相手に負けた事は1度もないわ」
「す、すごい…」
昔の遊戯王と言えど、賭けデュエルをするなんてのは相当自身の腕に自信のあるやつだけだ。
「ただ、そのせいで私は…」
「え?」
「私は強かった。いえ、『強すぎた』。だから『デッキの殺し屋』とか、そういうヤな噂が広まって誰も峠に来なくなっちゃったの。」
「……でも、それでも諦めなかったんだろう?」
「うん!だって私は、誰かに勝ちたかった訳じゃなくて、誰かと走りたいだけだったから。決闘はそのオマケよ」
「…………そうか」
きっと、俺には想像できない程の葛藤があったのだろう。
ただ走る事が好きなだけの彼女が、なぜこんなにも強くなりすぎてしまったのか。
「ねぇ、トレーナー君。あの子達は……同じなのかしら?」
「え?」
「ほら、今度のレースに出るっていう……『メジロ家の令嬢』さんと、その子に付き添う『暴れん坊』…」
「……そうだな、彼女達も同じだよ。勝つ事に執着しているわけじゃない。
ただ、負けたくないだけなんだ。」
マルゼンスキーはしばらく黙っていたが、急に立ち上がってこう言った。
「アタシもちょっと走ってくるわね!!」
「あぁ、久しぶりに俺も乗せてくれないか?」
「いいわよ!でも、無理しちゃダメだからね!」
俺はベッドから起き上がる。
体の節々が痛むが、我慢できる程度だ。
「それじゃあ、行きましょう!レッツゴー!!」
「あぁ!行くぞ!!」
マスターデュエルで再熱して、自分が組んでたデッキ思い出して組み直したりして遊戯王をまた始めたんだよね
まあマスターデュエルは変なバーンデッキにワンキルされて辞めたわけだけど