思えば三年前の夏。
君に出会ったことが全ての始まりだった気がする。
あの日、僕は友達と川に遊びに行った。
当時は橋の上から飛び込みをするのが流行ってた。
橋から川までは直線距離で10mはあったっけ。
飛び込めない奴は体の弱い奴か、臆病な奴に二分された。
だからみんなこぞって飛び込みをやったんだ。
僕はその中では一番度胸のある存在だった。
みんな僕をあがめ、周りには人が集まる。
そう、いわゆるガキ大将的存在だった。
君は教室の隅でポツンと座ってたっけね。
まだ転校生で、しかも物静かな女の子だったものだから
周囲となじめてない。
心臓が弱いから体育はいつも休み。
そんな君を周囲は冷たい目で見てた。
人間心理は不思議なもので
一つでも周りと違うものがあると、修正本能が働いて
いじめに発展する。
いじめてる本人は全然気が付いちゃいない。
ただ、修正しようとするだけ。まして当時は僕らは小学生。
遊びの上での修正本能と言ったものかな。
もちろん僕もいじめた。
どこかで言われたはずの道徳心や正義感なんてものは
いじめという快楽に負けた。
やがて月日は流れて
君はいじめに耐えかねて転校し
僕らはそれを忘れていった。
三年後、君はもう一度転校してきた。
すらりと背が高くなって、髪ものびて綺麗だった。
当然男子はほっとかないだろう。
君に猛烈なアタックをしてた。
君がどう思ったかは分からないけれど。
ある日の事だった。
「一之瀬君…だよね?」
珍しく君は僕に話しかけた。
「山野さん…?」
僕も君に話す。忘れているのだろうか。昔した仕打ちを。
「やっぱり!なんか似てるなって思ってたの。三年前、飛び込みやってて、一之瀬君、有名だったから。」
「覚えてたの?でも…僕は君に話す資格なんか…」
「確かにあの時はツラかったよ。でも過去は過去。やってしまったことや起きてしまったことは嘆いててもしょうがないの。前を向いて生きなきゃ。」
「許してくれるのか?」
「許すも何も、私はいい経験だったよ。逆にお礼が言いたいの。」
綺麗になった君の瞳は輝いていて、自分のツラい過去も忘れそうだった。
「それで、何か用か?話すことがあるんだろ?」
「そうそう。あのね、ちょっと渡したいものがあるんだけど…」
そういってスカートのポケットから取り出したのはリストバンド。
「このリストバンドがどうかした?」
「覚えてない?一番初めに転校した時に、一之瀬君がくれたリストバンドよ。」
そういえば思い出した。確かお気に入りのバンドを、友達だって言ってプレゼントしたっけ。
いじめたのはそのあとで…
「そんなに暗い顔しないで。実は私、このリストバンドが一番うれしかったの。」
「それで…今日もってきた理由って…?」
「実は私、もうそんなに長くないの。心臓の持病でね。後一年持つかどうか…。」
初耳だった。彼女の容体がそこまで悪化してたなんて。
「心臓移植もドナーがないから受けられない。だから最後に、一之瀬君に会って話がしたかった。もっというと、私が死ぬまでの一年間、私と付き合ってほしいの。」
僕は動揺した。かつてのクラスメートとはいえ、いじめの主犯と付き合おうなんて…
「このリストバンドはいつも身に着けてるの。その理由は秘密。だから私が生きてる間その答えを見つけて。私は勇気を出して一之瀬君に頼んでる。というかもう告白ね。お願いします。」
僕はOKした。
自分の犯した罪が消えるわけはない。ならばせめて、彼女と最期の時までこの身を捧げる覚悟だった。
三年前の夏が思い出される。
飛び込んだ水しぶきの感触を思い出す。彼女はあと何ヶ月笑えるだろう。
僕はその手助けをしなきゃならない。
そう心に誓った。