書いていたのが消えた時の絶望が凄かった。
おっは~。
目が醒めた。昨日の疲れがまだ少し残っているが許容範囲だ。まだベッドで寝ていたい気持ちを鋼の精神で我慢し起き上がる。
こいよぉ~。こっちこいよぉ~。
ベッドが私を誘惑している。まるでどこかのデュラハンみたいだ。
だめっ! 私にはリル様がいるの!
よし。茶番もこのくらいにして着替えますか。固まった身体を伸ばした後クローゼットの横に立ててある全身鏡に自分を映し出す。
そこそこの美少女がいた。100人がいたら70人ぐらいが可愛いと言いそうな。黒髪黒目でおっとりとした顔立ちの。クラスでいうと2番目か3番目位にモテそうな。綺麗というよりは可愛いが似合う少女。そして頭のてっぺんから生えているアホ毛がチャーミングな少女。そう、私です。
そんな私だがコンプレックスがある。私は少々ロリぃのだ。身長が小さく大体145cm位で胸がほぼ無い。おっぱいが無い! 大事なことなので二回いいました。おかしい。胸を揉んでいたら大きくなると聞いていたのに。しょうがない、リル様がロリコンなことを祈ろう。そもそもリル様は同性が好きなのか? まあ、落としてしまえば関係ないんだけどね!
取り敢えず服はどうしようか。よく分からないしゴスロリでいくか。でもなぁ。動きづらそうなんだよなぁ。普通に動きやすそうな短パンとかでいいか。着替えも終わったし、リル様が部下達を呼んでいたから早く行かないと。
いっけなぁ~い。遅刻遅刻~~。
「遅い。何していたの」
遅刻しちゃった☆皆もう跪いてるし。何て言おうか。あっ、そうだ。昨日の事を言い訳にしよう。慣れていないのに晩御飯を作ったせいで疲れてました。完璧。これでいこう。
慣れていないのに晩……
「もういいわ。早く跪きなさい」
遮られてしまった。怒らせちゃったかな? 急いで跪く。
それにしてもえろい格好ですね、リルの姉御。ぐへへ。眼球を動かしリル様を視かんする。ああ、スラッと伸びる足がスベスベしてそうだ。舐めたい。
などと考えつつ話を聞く。今日も襲撃ですか。大変だなぁ。下っ端たちは。
えっ!? 私も行くの? 新人だから? やだ。リル様と一緒にいたい! やーだー。地面に転がり駄々をこねる私を呆れた様子でリル様が見ている。
「さっさと行きなさい。期待してるわよ」
冷えきった声と目を向けられそう告げられる。
期待してるわよ
頭の中でその言葉が何度も反響する。期待をしている? 私に? リル様が? ふへへっ。思わずにやついてしまう。
任せてください! 私が敵を殲滅してみせましょう!
早く期待に応えないと。そう思いつつ先に行った魔族達を追い越す勢いで走っていく。
「 チョロいわね。いい駒が手に入ったわ」
先程のやる気に満ちた返事。私の一言でこうも変わるなんて。
「生きて帰ってこれるかしら」
リルスアール・ヴァイオレットは一人、不敵に口角を上げていた。
ピースフルタウン
そこはもっとも治安がよいとされている。その都市は一般人だけでなく、冒険者や商人、出稼ぎにでた村人などが住みたい都市No.1の座を毎回といっていいほど争っている人気のある都市だ。
がやがやと賑わうメインストリートを歩いていると大抵は声をかけられる。
「へい。そこの可愛いらしい嬢ちゃん。新鮮な野菜はいるかい? 安くするよ」
「安いよ安いよ! ここのアクセサリーは都市一安いよ!」
少女はそれぞれの出店が必死になって宣伝しているのをボーッと聞き流しながら歩いている。少女はそれどころではなかったのだ。
聞いてない。何でこんなところに襲撃するの。馬鹿なの。私達は捨て駒なの。
不満を垂れ流しながら不機嫌そうな表情で少女は歩く。
この都市が治安のいい理由はちゃんとある。
引退して余生を過ごしたい元ダイヤモンド級の冒険者や、現役で安全意識の高い中堅の銀級冒険者が大人数住んでいること。都市の周りを囲っている壁が非常に硬く、壁を飛び越えるか検問所を通らない限りは都市内に入りづらいこと等々。他にも理由はあるが、直ぐに思い付くのはこのくらいだろう。
この都市の冒険者は常識人が多い。当たり前だろう。でかい態度でやらかしたりすると、大先輩の技量によりあっという間に制圧されてしまう。
昔、大勢の犯罪者組織が一斉に暴れだしたという事件が起きたが、近くにいた元ダイヤモンド級の冒険者により、直ぐに鎮圧された。それ以来この都市で犯罪を企てるものはいなくなったそうだ。
なのに何故リルスアールはこの都市への襲撃を命じたのか。彼女はもしピースフル都市を襲撃をし、被害が大きければそれで良し。あわよくば占拠できれば良いと考えていた。ピースフル都市を狙うことにより、安全な場所など存在しないと暗に市民や村人など力を持たないものに脅しをかけることが真の目的である。この脅しによりこの都市から離れていく人間も居るだろう。そうやって人間の数をバラけさせることにより、更に襲撃が容易になるのだ。
そんなことは露知らず少女はどのようにしてこの都市に被害を出すか考えていた。
魔族が襲撃するまで時間はある。今回連れてきた魔族は知能が低いからきっと特攻するに違いない。だが、数だけは多い。殲滅にそれなりの時間を要するだろう。その隙をつくか。いや、無理だ。中堅の冒険者はともかく元ベテラン冒険者や不意討ちに慣れている強者だったら返り討ちにあってしまう。
じゃあ市民や商人など戦う力の無い者を殺す? それも不可だ。必ず護ろうとするものが現れる。銀級冒険者だったら一対多でも戦えるが、逃げるための体力が持たない。
思索する。思案する。思慮深く模索する。考えを巡らせた結果。魔族を二手別けて、ピースフルタウンに侵入させた後隠れて火をつけてまわる事にした。
火事が起き、燃え移れば少なくはない被害が及ぶ。その為直ぐに火を鎮静させようと様々な人が躍起になりそこに人員を割かなければいけなくなる。それに顔が知られるのも良くないので、派手に動くのは悪手だ。方針は決まった。後は魔族の襲撃を待つだけだ。
「仮面売ってるよ~。今人気の、のっペラ仮面。安いよ~」
丁度いい。顔を隠すために買わせてもらおう。
「おっ、嬢ちゃん。買うかい?」
これは無駄な買い物などではない。隠密行動を意識がけるが万が一顔を見られたらたまったもんじゃない。そう、これは必要不可欠な物なのだ。決してただカッコよくて欲しいからという理由などこれっぽっちも存在しないのだ。
嬉しそうな表情で目を輝かせながら仮面屋にお金を渡す少女の事を周りの客は微笑ましいものを見る目で眺めていた。
べつにっ……カッコいいとかじゃないんだからねっ!