り、リル様! わ、わ、私…………私と手を繋いで下さい!
あぁ~。やらかした~。ヘタレてしまった。後悔してももう遅い。口から出た言葉はもう戻らない。リル様は此方を不思議なものを見る目で眺めている。
「そんなことでいいの?」
駄目ですぅ。なんてことも言いたくはない。何故ならば私の欲望によってリル様に嫌われたり、悪い印象を持たれたりするかもしれないからだ。嘘。言い訳だ。ヘタレただけ。
私の褒美、というか願いを叶えるためにリル様が手招きをする。あっ。私が行くんですね。先程の選択のことから頭を切り替える。ポジティブに考えよう。リル様の柔肌に好きなだけ触れられる。何か元気出てきた。そんなことを考えているうちにリル様の前まで来てしまった。
「ほら、好きなだけ触りなさい」
私にリル様の手が差し伸べられる。緊張で汗ばんできた手を服で軽く拭きながら両手で割れ物を扱うように優しく包み込む。
スベスベでモチモチだ。それに冷たい。手が温かい人は心も温かいと言うけれども正直どっちだっていい。心が冷たくてもリル様が私を個人として認識してくれれば別にいい。欲を言えば楽しい記憶を辿ると私が居るみたいな立ち位置がいい。もっと欲を言うと生涯を添い遂げたい。だがそれも叶わなくてもいい。それにしても人と手を繋ぐ行為は心が温かくなるなぁ。
それから三十分程経っただろうか。私はリル様の手を撫でてみたり、揉んでみたり、この世界には無いけれどお互いの指と指を絡み合わせる恋人繋ぎをしてみて一人で心を踊らせる。リル様のお手手可愛いなぁ~。大きいなぁ~。私がリル様の手をずっと握っていたせいでお互いの手の温度が同じくらいになり嬉しさを感じて楽しんでいた。このまま繋がってたいな。
「もういい?」
流石に長過ぎたのだろう。リル様は少し強めの口調で私に尋ねる。何時までも握っている訳にはいかないので渋々許可を出す。あっ。リル様の手が離れていく。先程まで存在していたものが無くなった寂しさに覆われる。つい名残惜しげに離れていく手を眺めてしまう。そんな私を見ていたリル様の表情は何処か微妙そうに自分の手を見ている。はて? どうしたのだろう。気付いてしまった。汗がついている。私がずっと手を握っていたせいだ。怒っているのかも。急いで褒美をくれたことに対する感謝の言葉を述べ逃げるように自分の部屋に走っていく。
リル様はそんな私のことなどお構い無しにただ自分の手を眺めていた。
バタンっ。扉を勢いよく閉めすぎたのだろう。大きな音を立てるので思わず体が震えてしまった。ヘタレちゃったし、手を長く握りすぎたし嫌われてないかな。今日あったことを思い出しながらベットの上で仰向けになりながら一人反省会を開催する。それにしても……。自分の手をじっと見てしまう。先程の温度が残っているせいで両手の掌を重ね合わせるとリル様と手を繋いでいるような感覚に陥る。
久々に人と触れ合ったな。最後に何時誰かと手を繋いだだろう。暫く思考に耽っているとふと、枕が濡れていることに気が付いた。何故枕が濡れているのか気になったが感覚ですぐに理解できた。頬から何かが滴り落ちていくのが分かる。涙だ。完全に頭で理解した瞬間に視界が涙でじわじわと滲んでいく。すぐさま止めようとするが涙は溢れ出すように零れ落ちていく。ヒック、ずるずる、ヒックヒッ。自分の意思とは反してしゃくり上げるような声と鼻水をすする音が部屋全体に響く。感情の制御が出来ない。
涙の理由はすぐに分かった。前世の記憶を見たせいで中途半端な常識や知識を身に付け、年不相応の振る舞いをしてしまい、周囲からは気味悪がれ、虐げられていた。親にも捨てられずっと孤独だった。
必死に好かれようとした。お手伝いをした。言い付けも守った。でも殴られた。石を投げつけられた。罵倒された。お父さんとお母さんに娘として認められたかった。村の皆に人として認められたかった。諦めたくなかった。
記憶で見た幸せな家庭を夢見ていた。普通の家庭。少年がやんちゃをし怒られたり、家族でご飯を囲ったり、お互いのことで真剣に向き合ったり。特別なことは要らない。ただ、流石は私達の娘だ、将来が楽しみだ等と甘やかして欲しかった。褒めて欲しかった。時には叱って欲しかった。
でも誰も私の側には居ない。私と進んで関わろうとするもの等居ない。私と彼らに一つの壁が、とても分厚い壁が隔たり立っているかのように。十年位だろうか。それでも何も変わらなかった。だから私は諦めた。何もせず、何も言わず、ずっと人形のように動かなかった。そして雨の降っている日、役に立たない私は捨てられたのだ。
目覚めた時は誰かにおんぶされ、運ばれている最中。とても温かい背中。助けてくれる優しい人。意識が朦朧としていたのですぐに気を失ってしまったが。
次に目覚めた時はこの部屋の中。助けてくれたお礼をしようと広い部屋に入り、リル様。リルスアール・ヴァイオレット様に拾われたのだと説明され理解した。そして二回の任務が終わり手を繋いで貰った。
何故手を繋ぐことを願ったのか? それは私が無意識のうちに繋がりを求めていたのだろう。この世界と繋がりを。人との繋がりを通して。いくら気丈に、明るく振る舞っても私はまだ十数歳の少女。我慢し胸の内に留めていた想いの防波堤が今日の出来事により決壊してしまう。涙が止まらない。
声を上げて泣いた。みっともなく。ただ幼児が駄々をこねるみたいに。
『この悪魔め!』
お父さんが怒鳴り付け、私を殴ってくる。
『私の娘を返して!』
お母さんが泣きながら訴えかける。私が娘なのに。
『あんたなんて生むんじゃ無かった!』
『俺の娘だと? 嘘を言うな!』
■■さんと■■さんが私に告げる。全部本当なのに。
『なんだその顔は! 俺達の娘を騙るな!!』
ピキッ。心にヒビが入る。心が痛い。
『お~い、悪魔が来たぞ~』
少年が大声を上げる。子供達は皆此方を眺めている。
『悪魔退治だ! 石を投げろ!』
■■が大きな石を投げてくる。それにつられ■■■も石を投げる。
『見ろ! 逃げてるぞ! 悪魔の血も赤いんだな!』
ワッハハハハ。■■が笑い■■■も馬鹿にしたように笑う。身体が痛い。
『あれが』 『何で居るのかしら』 『迷惑掛けないで欲しいわぁ』 『目を合わせると呪ってくるらしい』
ヒソヒソと知らない大人達が話している。私が向かうと
『キャ──』 『来るな! 悪魔!』
『俺達に何かしてみろ。殺してやるぞ!』
■■■は一目散に離れていく。鉈や鍬を向けられる。バキッ。何が痛いか分からない。
分からない分からない分からないでも、痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイタイイタイイタイイタイ
暗闇に沈んでいく。苦しい。殺して。
救済を求め沈んでいく私を誰かが引き留めた。
冷たい、でも温かい。嬉しい。心地良い。幸せ。
痛みは消え感情に彩りができる。周りが明るくなっていき私を安心させる。
ありがとう。私は誰かにそう言った。
ん。目が覚める。眩しい。太陽の光が窓から差し込んできていた。どうやら寝てしまったみたい。何時もどうり全身鏡の前に立つ。あ……超ブサイク。目は腫れていて鼻の周りには鼻水が付いている。顔全体が涙などで湿っている。身体も汗でぐっしょりだ。でも気分は悪くない。悪夢でも見たかのような見た目だが、いい夢だったのかな? あれ? チャームポイントのアホ毛の元気が何時もより無いようにへにゃへにゃだ。まあいいか。
取り敢えず身嗜みを整えてリル様に会いに行きますか。リル様ー!
シリアス難しい。
次、遅くなる