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リムルがドワルゴンへと旅立った後。
「何を、したらいい?」
リムルに言われた通り、みんなの言う事を聞こうと聞いてみるも、特にやることは無いようだった。
「いやはや、リムル様の妹君であるエルノア様のお手を煩わせることなどありませぬ! 我らに任せ、どうぞゆっくりしてください!」
「うん……わかった」
リグルドにそう力強く言われ、本当に何もしないままに一日が過ぎた。
翌日からはハルナに手を引かれ、リグルドが建て直した小屋を見ているエルノア。
ただ眺めているようにし見えないが、実際にはスキャンを行い一瞬で測量を行っていた。
なぜこんな事をしているかと言うと。
三日目の朝になり、初日からずっと食事も小屋で取り、リムルが村を出て以来全く人前に出ないエルノアの元へと来たのはゴブリナのハルナであった。
「エルノア様、おはようございます。あの、ご気分はいかがですか?」
「おはよう。データは、正常、だよ」
それを聞き、ニッコリと微笑んだハルナ。
ハルナはエルノアによく懐いていた。
今はともに村で暮らす仲間だが、牙狼族の襲来は本当に恐ろしい事だった。
ハルナの両親は狩猟の最中で斥候であった牙狼族に殺されており、あの夜は誰よりも気が気でなかった。
だが、大丈夫ですよと言う女神の声と、大丈夫と教えてくれたエルノア。エルノアにとってはなんとも無い事であったが、ハルナにとっては大きな事。焦る様子など微塵もなく、リムル達の勝利を全く疑っていないエルノアから勇気をもらい、毎晩震えていたハルナは襲来の日だと言うのにも関わらず初めて震えが止まり、安心できていたのだった。
そのため、彼女はエルノアのお世話をしたいとリグルドに直談判し、リムルが戻るまでと、エルノアが許すのであればと言われやってきたのだった。
「リムル様がお戻りになられるまで、私にエルノア様のお世話をさせてください!なんなりと!」
「……うん」
「良いのですか!?」
お世話と言うものが、どこからどこまでを指すのかいまいち理解していないままにコクリと頷いたエルノアに、ハルナは満面の笑みを浮かべている。
「ただ僕も、リムルからみんなの言う事を聞くように、と言われてるから、何をしたらいい?」
「うーん……そうだ! ひとまず村の中を見て回りませんか?」
と、言われて外に出て、建築中の現場を見ている今に至る。
「エルノア様、これはどうでしょう?」
「あの柱。地面を4cm、低くした方が、いい」
指を指してみせるエルノアに対して、ゴブリン達は「はっ!」と言うとせっせっと柱の下を掘り始めた。
グラリと倒れ始めた柱に、遠目で見ていたハルナの悲鳴が重なる。
「危ないっ!!」
思わず目を背けて最悪の光景を想像するハルナだったが、想像とは違い、トンッと言う軽い音がしたのみであった。
「…………ごめん。急には、危ない。ゆっくり、支えてから…ね」
エルノアの右手によって支えられた柱。それをまるで軽い枝でも支えているかのように、右腕一本で3mを越す太い丸太の動きを止めていた。
「す、すみませんエルノア様……ありがとうございます」
「うん。もう十分、かな」
ずしりと置かれた柱は一度強く大地へと押し当てられ、他の柱と水平となったところでエルノアの手は離れた。
「すごいすごい!すごいです!エルノア様!!」
「……? なにが、すごいの?」
「片手でバッて! 消えたように! かっこよかったです!」
自分が悲鳴を上げた時は、確かに隣にいたエルノアであったが、気づけば倒れかけた柱を支えていた。
ありえないスピードと不可解な地面の焦げ跡が気になるが、それよりも一体どうやったのかと、リムルと同じくやっぱりすごい方だとハルナは感激していたのだった。
その後も側できゃーきゃーとしているハルナに対して、どう対応していいかわからずただ突っ立っているエルノアであった。
○・○・○
──エルノア
「エルノア様、ゴブリン族の族長達が来ております。なにやら傘下に入れて欲しいとのことなのですが……」
リムルがいなくなって5日目。
初めはハルナだけだったのが、いまやゴブナやゴブルのような若いゴブリン達に引っ張られる毎日を過ごしていたのだが、今日はリグルドがやってきた。
なんでも、このジュラの森の各地から、他のゴブリン村の長達が来て、リムルの部下にして欲しいと言っているらしい。
「……?」
「リムル様がご不在の今、エルノア様にお会いしたいと言ってきておりまして」
「僕が、会えばいいだけなら、いいけど」
それで何をしたらいいのだろうか。
リムルの傘下に入りたいのであれば僕に会う必要は、なに?
『エルノア様を籠絡し、リムル様に取り入りたいと言うことではないでしょうか?』
そう言うものなのか。
機械族以外の事は未だによくわからない。
「私達の主は、リムル様と、エルノア様でございますから」
そう言ったハルナと、うんうんとうなづいているリグルド。
そこには、納得しているんだ。
「そう。でも、決めるのはリムル、だよ。僕はみんなの言う事を聞くだけ。だから、主はリムルだけでいい」
主とは、ある集団のトップであると言うこと。それは1人じゃないと組織がブレるのではないのだろうか? それに、僕はそう言うことには向いてない。
なにも、わからないのだから。
だから、会うだけ。
リムルが帰ってくるまで、待っているようにと。
僕と、同じように。
「「そんな事はございません」」
「?」
「我々はリムル様と、もちろんエルノア様にも忠誠を誓っております。例えエルノア様に断られようとも我らはエルノア様にリムル様と変わらぬ忠誠を捧げております」
困った。
どうしたらいいのか。
『捧げられたのであれば折るわけにもいきませんし。ルールにもある仲間内で争わない事、にも触れます。ここは、うなづいておくのが良いかと思います』
わかったとシロマに返事をしつつ、提案通りにしておく。
「……うん。じゃあ、ひとまず会うよ」
話を聞いて、要点をまとめて、リムルが帰ってきたら聞いてみよう。
リグルドの判断に任せるのも、良いかもしれない。
「はじめまして。僕は
軽い歓声と共に頭を下げる四人のゴブリン。
雌が1、雄が3。いずれも敵意は無い。
それと、村の外にこの四人の配下であろう、進化前のゴブリンが約400。
「は、はじめまして! 長であるリムル様がご不在の中、妹君であるエルノア様にお願いを申し上げたく……この度はどうか、我々を貴女様方の配下に加えて頂きたく、こうして参りました!」
「…………(ちらり)」
リグルドを見ると、腕を組んだまま。
ハルナを見ると、後ろに手を組んでニコニコとしたまま。
『助け舟は無いようですね。エルノア様、ここは先程の考え通り、リムル様を待つようにと伝えておきましょう。あとは、この人数ですと村に入りきれず、外になってしまうとエルノア様はお出になれませんので、リムル様が帰られる前に村を広げておくのも良いかもしれません』
「………エルノア様、我らはお二人のご命令は何なりと聞く所存です。何卒……」
「決めるのは、リムル。だから帰ってくるまで、待つといい。村は広げておくから」
「!!! ありがとうございます!守護竜様の加護が無くなり、滅びる運命であった我らをお救いいただきありがとうございます!!」
守護竜の加護。ジュラの大森林を守護していたヴェルドラが消えたため、大森林の各地で覇権争いが起き始めた結果、弱小種族であるゴブリン達では抵抗も出来ず、蹂躙される道しか残されていないという事、だそう。
「まだ、決まってない。よ。リムルが戻ってからだから。ね」
平伏す様にしている四人にそう声をかけた。受け入れるとは言ってないのだけど。
「エルノア様も、リムル様がお受けになられるとお思いなのですね!早速村の拡張に取り掛かりましょう!!」
「エルノア様、ありがとうございます!!」
なんだか予想と全く違うのだけど。
『エルノア様、慣れ。です。私の予測演算でもこの結論は出ませんでしたから……』
「エルノア様、ありがとうございます。エルノア様もリムル様もお優しい方ですから、きっと受け入れるのだろうと私は思っておりました!」
シロマとハルナからそれぞれ正反対の事を聞きながら、自分が言い出したということもあり周辺の土地を広げるのを手伝うことにした。
この世界、いや。
生きていく上での事をリムルほど教えてくれる人はいないし、早く帰ってきて欲しい、な。