○・○・○・○・○
「エルノア様!伐採していただいた倒木を集めました!!」
コクリとうなづいたエルノアは両腕をスッと肩の高さまで上げる。
「離れて、て」
「「はい!!!」」
ゴブリン達が増えて2日目。昨日からの森の伐採でも使用していたのでもはや手慣れたもので、全員は素早く離れていった。
『エネルギー収束。
「Rブレード展開。切る」
両腕のコアから放たれる赤い光。それは10m程度の長さで止まり、エルノアはそのまま両腕を素早く振るった。
踊るように、舞うように。
150cm程度しかない低身長のエルノアが、超高密度に圧縮されたエネルギーの塊を己にも周りにも掠ることもなく、振るい上げていく。
まずは枝葉を切り落とし、簡易なテント用なので倒木を簡単な木材へと焼き切っていく。
おぉー!というもう何度も聞いた感想を聞きながらも、ものの数分で加工は終わった。
「これで、ひとまずは、かな」
眺めていたゴブリン達はエルノアの動きに拍手したり、尊敬の眼差しを向けたりとしていた。
「はい!ありがとうございます! それで、この辺りの倒していない木々は我々で切り拓いていきましょうか?」
「エルノア様にお願いしたら直ぐに終わっちゃうもんね。私たちでやるよー」
リグルドとゴブナの言葉にエルノアは首を横に振った。
「うんん。これ以上人数が増えると、この場所も変えた方がいいかもしれない、から。間引いた木々の、間に建てるといい、よ」
シロマのアドバイスにより、街を作るので有ればこの場所はそこまでいい土地では無いとのことだった。そのため、エルノアは間伐を行ったのみで後はリムルが戻ってからという考えであった。
『私、森は好きです。機国も、他国も、開発に躍起になり植物と言うものは地下で必要最低限の数が育てられているモノ。という認識でした。資料映像でしか森を見た事はありませんでしたが、まさか実物がこれ程美しいものとは』
(そう。じゃあ、やりすぎないようにしないと、ね)
『はい! エルノア様、こちらの地面、空洞が出来ています。埋めておくほうが良いかと思います』
データ上でしか存在しなかったものがある世界だと、スキルとなったシロマは喜んでいる。そんな自然愛好家のようになったシロマの提案を聞き受けながら、両の掌を地面へとむけた。
『
ドンッと言う重い音が響く。
テスラリアクターからエネルギーを供給し、エネルギーを空気と混ぜる事により爆発させた推進力を掌から放出したのだ。
広範囲に渡り地面は少しだけ沈み、切り株を引き抜いた後の空洞は無くなったようであった。
「エルノア様、ここまでしてくださりありがとうございます。後は我々にお任せください!!」
ドンと胸を張るリグルドにうなづき、言われた通りに小屋へと戻っていく、小さなエルノアの背がさらに小さくなった頃にゴブリン達は次々と口を開いた。
「それにしても、エルノア様もリムル様と同じく凄いお方ですねー」
「当然だ!我らの主であるぞ!」
「あの物静かな雰囲気も、あの可愛らしい見た目に反してるのがまたかっこいいよなぁ…」
「ホラッ!話してないで、折角エルノア様が資材を作ってくださったんだから、最後のテントを建てるよ!」
エルノアが離れた後、ゴブリン達は揚々と自分たちの寝床を作っていった。
リムルが村を出て8日目。
本人は知らずともすっかりゴブリン達から慕われているエルノアだった。
○・○・○
──リムル
色々とあった。本当に色々と。
でも結果オーライ!
こうして俺たちは四人の仲間を得たわけだし!
凄腕の武具製作の職人、カイジン。
と、思わぬ収穫で付いて来ることとなった三兄弟。
防具職人のガルム。
ドワーフ随一の細工の腕を誇るドルド。
芸術や建築に詳しい器用なミルド。
腕の良い職人である四人のドワーフが俺たちの村に来てくれたら、もっと良い暮らしをできることだろう。
嵐牙狼族の脚でも行きは3日かかった。
ちょーっとした行き違いから拘束されて1日。
エルノアに悪いと思いながらも割と楽しめてもう1日だったが、その夜の揉め事でまさかの裁判沙汰になり、今日帰る事となった。帰りにも3日かかるとすると、到着は9日目の朝になるだろう。
エルノアは、この期間どうしてるんだろうか。
三位一体と言いながら、ヴェルドラは俺の中にいるし、エルノアはゴブリン達がいるとは言え一人ぼっちにしてしまった。
その事を、ヴェルドラは怒ってるかもしれない。でも、俺はなんとなくうまくいってる気がするんだけどな。
エルノアに限ってまさかとは思うけど、怒ってはないよな…?
「リムル様? どうかされましたか?」
おっと。考え事をしていたせいか、リグルに心配されてしまった。
「あぁ、いや、なんでも──」
「どーせエルノア様の心配してるんでしょ? オイラの事は忘れていたのに……でもオイラもはやくエルノア様に会いたいし、早く帰るっすよ!」
「そうでしたか。私も同感です。我々は大丈夫ですので、もう少し急ぎましょうか」
「主よ。我らは何夜であろうと駆け抜けます!!」
ゴブタのくせに……やけに感が良いじゃないか。リグルやランガも張り切ってきちゃったし。
「なぁ。リムルの旦那。そのエルノアってーのは誰なんだ?」
ただ、カイジン達は何のことだかさっぱりって顔してるな。
「カイジン殿、エルノア"様"です。エルノア様はリムル様の妹君なのですから」
「い、いもうと!?」
妙な目を向けてくる四人の考えている事はわかる。
スライムの妹を想像しているのだろう。
「あぁ。俺の、自慢の妹だ。"俺に似て"美人だから手を出すなよ」
「「「「・・・・・・」」」」
だが、実際は絶世の美少女だ。俺に失礼な目を向けてきた罰として、ちょっと驚かせてやろっと。
○・○・○
──エルノア
「エルノア様、やはりリムル様がいらっしゃらないと、寂しいですか?」
昼も過ぎ、今日もゆっくりしていてくれと言われ、小屋で何をするわけでもなく、得意のゴロゴロをしていると話しかけられた。
「寂しい……そんな事はない、よ?」
そう。寂しくはない。
リムルがいないと、みんなに指示を出すものがいないから、僕よりもみんなの方が困るんじゃないだろうか。
「そうですか。ずっと、考え事をなさっているようでしたので。私は寂しいです。早く帰ってきてくれませんかねー」
そう言って外を眺めているハルナ。
『考え事、されてましたか? すみません気づきませんでした』
してないよ。
メモリーももう見れないし、見るものもないので擬似スリープモードだったし。
でも、ずっとでは無いけど、たった今考え事をしたのは本当だ。なんとなく、理由なんてないけど、リムルが帰ってくる気がする。
『高速で近づいてきている反応が有ります。距離は600、500。かなりの速度ですね。魔素の数値からして──』
「「「うおぉぉぉーーー!!!おかえりになられたぞぉー!!!」」」
ビリビリと大気を揺らす程の声。これだけの声量を感じたのは初めてだ。
リムル様であったりお帰りなさいであったり、様々な声がどんどんと近づいてくる。ここに向かってきてる。一直線に。
「ただいま!エルノア!」
リムル・・・実際の経過時間よりもずっと長い間見ていなかった気がする。
もちろん、その容姿もなにも、変わってなどないのだけど。
ただ、リムルが側にいる。
「……おかえり。リムル」
あの洞窟の時のように。初めて、見知らぬ場所へと向かった時のように、悪くない、気分。
「────!!?」
「エルノア様が・・・」
「これは・・・」
「あ!」
「「「わらったぁーーーーー!!?」」」
・・・・・ん、なに。この反応。
「笑って、ない」
わからない。わからないけど、顔を見られたくない。俯いておこう。
フヨンと動いたリムルが下から覗き込んできてるのがわかる。
不明な感覚。これ、ウィルス?
『いえ、違います。ウィルスなど私が入り込ませるはずがありませんし、スキャンを行いましたが確認も取れません』
そう。じゃあこれは……
「エルノア、あのな───」
「笑ってないって嘘はダメっすよ!! エルノア様めっちゃ笑ってたっスよーーー!!!」
「シロマ。
瞬時に右腕のコアにエネルギーを充填させる。
意識しているはずのに、半ば無意識なのはなんでだろう。
わからない、わからない。これが、バグなのかエラーなのか。わからないけど、この身体は勝手に動く。自分では命令したつもりもないのだけど、きっと命令通りにこの機械の身体は動いているんだろう。
無駄に口角を上げて近づいてこようとするゴブタへと、右腕を翳した。