○・○・○・○・○
──リムル
「お前なぁ……」
「アレはないですよ」
「………(ギロリ)」
「せっかく、エルノア様が……」
「お、オイラが悪いんすか〜!?」
エルノアから放たれた、空気砲? のようなもので吹っ飛ばされたゴブタを俺とハルナ、リグルドとリグルで取り囲んでいた。ちなみに、当のエルノアは直ぐに小屋を出て何処かへと行ってしまったが、大賢者さんによると村と外の境界線ギリギリにいるらしく、俺との約束を守ってくれている事が少し嬉しい。
久しぶりに会ったエルノアが、いつもの無表情を崩して微笑みを浮かべていた事に驚いてしまったのだが、ゴブタの詰め寄り方は完全に間違いだ。
エルノアに芽生え始めている感情というものは大事に、丁寧に教えていかなきゃいけないものだと思っていたのに。
「ゴブタさん。あんな言い方されたらエルノア様も戸惑ってしまわれます!」
「貴様……我らが主の妹君に嘘だなどと……!!」
ハルナとランガ、無言で威圧しているリグルドに詰め寄られているゴブタだが、不憫とは全く思わない。
俺も、ちょっとムカついてるから。
ゴブタへの折檻もそこそこに、ハルナが話しかけてくる。
「リムル様にお会いできて嬉しかったのですよ。お二人で、お話になられてください」
なんでも俺がいない間にエルノアの世話役になると言い出したらしいハルナはそう勧めてくるが、今は少しだけそっとしておこうと思うと伝えておく。
エルノアにはシロマがついてる。
あの二人で考え、気持ちと感情を整理するには時間がかかるだろう。
だから、先にカイジン達を紹介することにしたのと……
「なんか、ゴブリン達が増えてないか?」
さっきからゴブタに殺気を向けている者たちが気になった。
それは知っている数よりもずっと多いゴブリン達。しかも進化前の。
「それなのですが、リムル様がお出かけの間にですね────」
なんだかものすごい大所帯となってしまった。
大賢者によれば、このゴブリン達はヴェルドラの加護を失ったこの森の生存競争には勝てず、滅びるだろうとの事。それを知ってか知らずかはわからないが、俺が帰ってから決定されるとは言え、このゴブリン達のために村を拡張し、簡易のテント住居を数多く作っていたのだとか。
エルノアに世話をかけたが、彼女はうまく動いてくれたらしい。ハルナが嬉々として話すそのライトセーバーみたいな装備の話は良くわからないが、夜には二人で話してみよう。
「…わかった。来たい者はこい。エルノアの意思を尊重しよう。ただし、裏切りは許さんからそのつもりで!」
はぁ。
また名前考えなきゃだな……
○・○・○
──エルノア
ゴブタを吹き飛ばし、村の隅で一人呆然としていた時。
仲間同士争わない事。
エラーとは言え、ルールを無視してしまった。
『いえ、エラーではないです。エルノア様のご命令通りにしただけですよ?』
そう言うシロマに少し首を傾げる。
少し、そんな気はしていたけど、じゃあなんでルールを破ってゴブタに攻撃命令をしたんだろう。
あと、笑ってないと思うのだけど。人工の筋肉が誤作動を起こしたのかな。
『エルノア様は
感情って……僕にもあるんだ。
『はい。なんとなく、だとか。とりあえず、だとか。通常の機国の者では持ち合わせていない思考回路です。そもそもエルノア様は
シロマの言う通り、人間の脳というのは不思議だ。
解明しようにも意図のわからない領域が多く存在し、それが何の役割を果たしているのか50%もわかっていない。
感情だの、ゼロの可能性に賭けるだの、どれだけ考えても理解できない。
リムルなら、残る50%もわかるのかな。
「あれ? エルノア様?」
「どうかしたの? こんなところで」
「……なんでもない、よ」
狩猟班である二人のゴブリンと出会ったことにより、村の中心部へと戻る事にしたのだけど、そこではまたもリムルが200人近いゴブリンに名付けを行なっていた。
「あ、エルノア様!!我らもリムル様より名を頂きました!」
其々、この村に来た時に僕に挨拶をしてきた他の村の村長たち。それぞれルグルド、レグルド、ログルド、リリナと言うらしい。他の村のゴブリン達は全員リムルに受け入れられて、この村の住民となったようだ。
『前回同様、名付けられた者達には魔素の乱れが見えます。また眠りにつくのでしょうね』
そう。
じゃあ、教えてあげないと、ね。
「うん。みんなも、進化の眠りにつくだろう。でも安心して。僕が見守ってるから。ね」
「「「「あ、ありがとうございます!!!」」」」
これで、他のゴブリン達が眠りについても彼らがみんなを落ちつかせてやれる事だろう。
その夜。
リムルからドワルゴンでの話を聞いたり、この村での事をシロマが話したり。
「そういえば、ゴブナや狩猟班の奴らがエルノアと狩りに行く許可が欲しいって言ってたな。明日名付けが終わったら、村の移転先を探しながらにでも行こうか」
「うん」
村の外に出るのは久しぶりの事。
明後日か。
特に何も思うことはないけど、何故だか表面温度が少しだけ上昇している気がした。
○・○・○
「おはようございますっす。エルノア様!」
「おはよう」
リムルから貰った就寝時用の衣服というのを脱ぎ捨てて、ゴブリン達と同じように新しく作られた服に着替えたエルノアの元にゴブタがやってきた。
「今日はリムル様からちゃんと許可をもってるっすよ! オイラと狩りに行くっす!」
「うん。リムルがいいならいい、よ。本当だったら、ね」
新天地を切り拓き、新たに村を建設し始めて数日が経った。
ハルナと共にドワーフ達の様子を見に行ったり、ゴブルと共にきのみを採取したりとしている。
今は、エルノアが外に出るのは3日に一度。それもリムルから許可を得た者であれば。という新たなルールができていた。というのも、ゴブタはそのルールができる前に、リムルがいいならと言ったエルノアに対し、「リムル様なら大丈夫っすよ!」と言ってエルノアを連れて外に出たところ、突然エルノアの行方がわからなくなったと村が騒然となったことがあったのだった。
「本当っすよ! 確認してもらっても良いんすからね!」
「うん。なら、大丈夫」
というわけで、朝食を終えた後、エルノアはゴブタと共に村の外へと出た。
「風がきもちいーっすねぇー!」
「うん。……狩りは?」
狩りに連れていかれることはもう何度も経験している。途中脱線したり、休憩したりはあれど、始めからサボるというのは初めての事。
狩り、と言ってもエルノアは見学だ。他のものと出る際は、自分の仕事ぶりを見て欲しいと言う者が多くおり、エルノアは見学ばかりだった。
その理由は、其々の進化の眠りを見守る立場にあったエルノアだが、感情が表に出ることのないエルノアが笑った事があると言う噂を聞き、自分たちもみたいという思いからだったのだが、本人がそれを知る事はなかった。 ただ、それは今日までの事。
「エルノア様は、もっと笑ったら良いと思うっすよ! あの時いたみんなも言ってたっすよーまた見たいって!」
「・・・・笑ってない」
「んー、リムル様にも怒られるからもう言わないっすけど。今が楽しくないってことは、ないんすよね?」
ゴブタ自身単純な性格をしているし、リムルにもエルノアにも他のゴブリン達よりもフランクに接しているのだが、決して慕っていないわけではない。
むしろ、エルノアが自分たちといて気を張ってほしくないという思いから、二人きりの今、こうして話しを始めたのだった。
「楽しい…? あまりよく、わからない。僕は、感情というものが、理解できない。から」
「………そうなんすか」
「でも、悪くない。そう思ってる、よ。ダメ?…かな」
そう言ったエルノアに、ゴブタは満面の笑みで応えた。
「なら良いっす! オイラ達も頑張って、エルノア様が楽しいって言えるくらいのスゴイ街を作るっすよ!」
そう言ったゴブタとエルノアは、狩りも忘れて二人で丘に寝転んでいた。