○・○・○・○・○
まもなく正午になろうかというお昼前。
少し小高くなっている丘の上で二つの人影が寝転がっていた。
そのうち一方がその藍色の髪を大きく揺らしてガバリと起き上がった。
「……」
『人間の反応、数は4。
自身のセンサーに反応があり、それを文章としてシロマが報告してくれる。
「どうしたんすか? エルノア様」
リムルの決めたルールでは人間を襲わない。だが、この場合知らない人を知らない魔物が襲っているから、助ければいいのか、干渉しなければいいのか、考えているエルノア。
『どちらにせよ、向かうべきかと。リムル様は人間がお好きだと言いました。傷つく事を放置するよりは守るべきではないかと』
シロマの言葉には心の中でうなづき、ごそごそと靴を脱ぐ。
「え?」
何をしているのか理解できないという様子のゴブタを見つめて、裸足となったエルノアは、いつものように、小さく呟くように話す。
「少し、行ってくる、ね」
「え? ちょっ!エルノア様!? またオイラが怒られるっすよ〜!!」
そうしてエルノアは、手足のコアからエネルギーを放出し、空を舞った。
○・○・○
森の木々を薙ぎ倒しながら走る
その前を
「うおおぉぉぉおおぉぉおお!!」
叫びながら、お互いに文句を言い合いながらも走る三人。最後の一人。仮面をつけた黒髪の女は腰に下げた剣に手をかけ立ち止まる。
「私が足止めをしよう」
よせと言う仲間の声を聞き流しながら振り返り、仮面の女はその剣を抜き放つ。
「心配いらない。あなたたちを逃すくらいなら今の私にもできる。──この、"炎の力"を用いれば」
その剣には、言葉通り炎を纏わせていた。
軽く振るたびにボゥっと音をさせ、赤い炎が揺らめいている。
逃げる一方だった獲物が先頭の意思を示したことに警戒した
──パキャン
軽い音をさせて、
舞い踊るように蟻たちを斬り刻む女であったが、違和感に気づく。
空から、妙な音が聞こえてきたからだ。
「ハッ!? あなた達は下がって…!!」
──キィィィィィィィン………
甲高い音を響かせて空から舞い降りてきたのは、藍色の髪を揺らす少女。その端正な顔立ちは同性すらも魅きつけられる。
そんな実際は無性だが少女の見た目をしたエルノアの、黄金色に輝く宝石のような目が四人を捉えていた。
「……敵じゃない、から」
訳の分からない乱入者に呆然としている三人と、警戒を解かない女にそう言うと、乱入者であるエルノアは左手と右手にある其々のコアへとエネルギーを充填していく。
「Turget…Rock」
『標的全てのロックオン、完了』
小さな掌を
「何者…?」
「あんな女の子じゃ、あぶないでやんすよ!」
「大丈夫。
『
「発射」
両の掌から肩へと真っ直ぐに伸ばされた腕。
その腕から放たれた赤い光線が無数に伸びていき、それは一寸の狂いもなく
「は!?」
「魔法か!?」
「でも、魔法陣も何もなしで!?」
仮面の女以外の三人は謎の攻撃に驚いているが、仮面の女と、エルノアは地中から迫る第二波に気づいている。
「「まだ、終わってない」」
同時に声を出した二人。
そして、地上にいた
『準備できております』
「
エルノアの言葉と同時に爆ぜた。
ドムンッ!という籠ったような爆発音が響くと、エルノアは地面へと降りたった。
「戦闘状況終了。──あとは、土に還る」
『エルノア様、流石です!』
土埃一つ立てず、直径2cm程度の風穴を空けるだけで
しかも、冒険者たちからすれば、ゆったりとした毛皮のジャケットを腰元で止め、ダボっとした白いズボン、最後に裸足という格好の少女がそれを為したとは見ていたとはいえ少し信じ難い。
「何故助けたの?」
仮面の女はエルノアに対し、警戒をしたままに聞いた。
「リムルから、人間は襲わない事、仲良くした方が得、と言われている。から」
それに対して、見た目はこの中で誰よりも幼いが、無表情という事からも一番落ち着いているように見えるエルノアは淡々と話す。
「得って、どういう事でやんすか?」
「ねぇカバル、リムルって…誰?」
「俺に聞くなよっ!」
冒険者三人はその言葉に疑問を浮かべているが、仮面の女は警戒を僅かにではあるが緩めたようだった。
「貴女は、リムルと言う人の召喚者なの? 命令に、縛られているの?」
その声には、どことなく悲しげな気持ちが込められているようではあったが、エルノアにも、冒険者たちにもわからなかった。
エルノアはふるふると首を横に振ることで女の質問へと答えた。
「そう。じゃあ貴女は──」
「エルノア様!何故このようなところに一人で……それも、人間と、ですか」
女の言葉を遮りこの場に現れたのは、警備班であるリグルであった。
それも、人間に対して警戒心を全開にしている状態で。
それに対して人間四人も解きかけていた警戒をまたも強めた。
「「……え?」」
リグルと女の驚いた声が小さく漏れでた。それは、リグルからすれば守るべき対象であるはずのエルノアが、人間である仮面の女の手を握っているからであり、女からすれば全く予想外の動きだったからだ。
「人間とは、仲良く。だよ?」
そう呟いたエルノアに、リグルたち警備班は頭を下げる。
「はい! すみませんでした……ですが、今日はゴブタと村の周辺を で簡単な狩りに出ているとお聞きしましたが、そのゴブタはどこに…?」
そう言ったリグルに対して、エルノアは空いている方の左手で彼方を指さす。
「あそこ」
「エルノア様〜〜!!! 勝手に行くのはなしっすよ!! またオイラが怒られるじゃないっすか……って、人間?」
焦ってはいるが、場違いな態度と声量で現れたゴブタにより緊張は一気に霧散した。
○・○・○
──??
この子は、なんなのだろう。
見たこともない力を使い、簡単に魔物を倒してしまった。
リムル、と言うのが命令をしている召喚主なのかとも思ったけど、話を聞くに兄だと言うことだからきっと違うのだろう。
それに、このホフゴブリン達からも、狼の魔物達も慕っているようだけど、その様子は魔物の親玉と言うよりは完全に人間に近い。
この人形のようなエルノアさんよりも、ずっと。
だから、私はリムルという人に少し会ってみたくなったのだけど……
「それ、今」
装備もダメになり荷物も置いて逃げ出したので、彼らの村に案内されたのだが、この子達がお腹が減ったというので今はお肉をご馳走になっていた。
そして、なぜかエルノアさんが肉奉行様になっている。
「うまぁー!!焼肉の神様でやんすねーー!」
「ギドひどぉーーーーい!それアタシのぉ!!」
盗賊であるギドが盗賊らしくエレンの目の前にあった肉を奪い口に含んだところで、法術師のエレンが文句を言うもエルノアさんはすぐに次のお肉を指差していた。
「こっちも適正温度」
「わぁーいありがとぉ!!」
この冒険者組のリーダーである重戦士カバルはジッとお肉を見つめていたが、サッとお肉を取った。
「それ、もう適正。だよ?」
「俺はこのくらいが好きなんだ。ありがとよ」
「うん。シズは食べない、の?」
そう言うエルノアさんの言葉に、私もまだ食べていない事とお腹が空いていた事を思い出す。串を肉へと伸ばし、いつも通り仮面の隙間から食べる。
うん、美味しい。
「……仮面。取れない、の?」
「うんん。そうじゃないけど、大丈夫だよ」
私の隣に正座をしているエルノアさんがじーっとこちらを不思議そうに見つめる様子に、なんだかあの子たちの事を思い出す。
「エルノア!!」
と、声がしたが姿が見えない。
敬称を付けていない事からも、リムルという人だとは思ったのだが、その姿はずっと下にあった。
「リムル。ただいま」
「あぁ、おかえり。って! 危ない事はしちゃダメって言っただろ?」
「人間と仲良く、わ?」
『リムル様。危険とは思えませんでしたが、今後ルールが重複した場合はどちらが優先されるのでしょうか?』
リムルというのは人ではなくスライムであり、口うるさくも優しくエルノアさんに言い聞かせている。
それに、エルノアさんから別の声が聞こえてきたことにも驚いたが、仮面があるのでどうやら誰にも気付かれてはいないらしい。
「あぁー。そういう事か……今回はシロマから見ても危なくなかったのか?」
『はい。あと1,000体もいればエネルギー枯渇の可能性はありましたが、今回は全くです』
「そうか。 今回は良かったとしても、知らない人についてっちゃダメだぞ」
「うん。シズたちは、もう知らない人じゃない。からいいの?」
1,000体の魔物の群れまでなら対処できるということだろうか……
それにしても、かわいいこと言ってくれるな。
本当に、教師をしていた時を思い出しちゃう。
「リムルって……スライムが、エルノアちゃんのお兄さんなの!?」
「エルノアさん、騙されてるっすよ!」
「スライムが街のボス? 怪しい……」
と、隣で繰り広げられる二人の様子を眺めていると、三人はお肉を口に含みながらも驚いた様子。
「俺はスライムのリムル。 "悪いスライムじゃないよ!"」
「ぶっ」
思わず吹き出してしまった。
でも、今のでわかった。
スライムさんも、エルノアさんも、悪い人じゃないって。