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かつて炎で全てを失った少女は世界を渡り
奇しくも炎の力を手に入れた。
少女はその力を人々を守ることに使ったが
炎は少しづつ彼女を蝕み
やがて彼女は炎を御することができなくなった。
少女の名はシズエ=イザワ
炎系の最上位精霊イフリートを宿し
爆炎の支配者と謳われた英雄だった。
「念のために聞くぞイフリート!お前に目的はあるか!?」
ランガの背に乗ったリムルの問いかけに答えるでもなく、シズから主導権を奪ったイフリートはその腕を天へと向ける。
何かの合図かとも思われたが、空中へと浮かぶ無数の火の球。その数は数十を超え、その一つ一つがどんどんと巨大になっていく。
「気をつけろよ!自我があるかは怪しいが、俺たちを全滅させる気らしい!」
防御体制を取るランガとリムルと冒険者達であったが、両腕を前へと突き出した体制のまま、エルノアが空へと飛んだ。
『迎撃準備完了』
「
左右の五指からレーザーを照射するが、それでも数は10。イフリートの火球に比べて圧倒的に数が足りていない。
だが、エルノアの攻撃もこれで終わりではなかった。
「安心して。僕が全部、叩き落とす」
五指から一直線に伸びたレーザーは瞬時に消えてはまた放たれを繰り返し、マシンガンのような速度で放たれるレーザーは宙に浮かぶ全ての火球を撃ち落とした。
科学の力と精霊の力。二種類の熱気がぶつかり合い、周りの木々は燃えるではなく爆ぜ飛ぶように消え去り、森の中に黒い広場を作り出していた。
『迎撃完了。第二射、いけます』
「そう。でも今は、
シズの身体を乗っ取り、この世に顕現した精霊イフリートへと向けていた腕をグリンと180度方向を変え、後方へと向けたエルノア。その腕の先端にある、手の甲のコアから生まれる爆発的な吸引力は周りのものをその意思とは無関係に吸い寄せた。
「うっお!!?」
「わぁぁ!!」
「た…助かったでやんす…」
吸い寄せられ、地上へと降り立ったエルノアのそばで転がるカバルたちであったが、先ほどまで彼らの居た場所はイフリートの別の魔法により既に焦土と化していた。
だが、三人は一息つく暇もなく再度武器を構えるも、それはシロマに止められる。
『皆様には後方からの援護を要請します』
「
両手のコアから伸びる2本の赤いレーザーブレード。
その2本のブレードを巧みに操り、イフリートの攻撃を切り裂き、燃える木々を切り倒しながらもイフリートの四肢の末端を切り裂き、次の刃を振るう寸前で、高速で飛翔していたエルノアが急停止した。
「離脱」
その言葉とともに、イフリートに向かい攻勢に出たはずのエルノアは、全くの逆方向へ高速で移動する。つまり一瞬で後方へと飛んだ。自身にかかる強烈なGをものともしていない。それは機械の身体と、各コアからのエネルギーの噴射がそれを可能としたのだ。
それと同時に、眼前が火の海で埋め尽くされる。その正体は、膨大な炎熱が圧縮された"魔法"。エルノアに魔法という概念は無いが故に、まずは観察を徹底していた。
その様子を、リムルはジッと伺っていた。
エルノアの、戦闘モードか。凄まじいな……
みんなから聞いていたレーザーと言い、あのライトセーバーみたいなものといい、戦闘能力はかなり高いらしい。
(大賢者。エルノアの攻撃は有効打足りえるか?)
【解。イフリートへのダメージは皆無。ですが、再生に魔素を消費しているようです】
大賢者からの問いに驚くこともなく、リムルは考える。
そもそもエルノアがダメージを与えようとしている気が感じられなかった。
攻撃している場所は四肢の先を切り落としているだけ。森が火の海にならないように江戸時代の火消しのように、燃える木々を切り倒しているエルノア。
『各部異常なし。ターゲットの魔素の低下を確認。あと4時間も戦闘すれば相手の魔素が尽きると想定』
「………こちらの戦闘行動継続可能時間を算出」
イフリートの切り落とされた指は炎と共に再生し、何事もなかったかのように攻撃を繰り出す。エルノアは空を駆け、爆撃を撃ち落とし切り落とし、カバルたちを始め、森へと燃え移る炎を減らすよう立ち回る。
おそらく、今は探っているのだろうとリムルは考えていたが、先の会話から相手の魔素が尽きるのを狙っている事に気づく。
膠着状態であった二人の戦闘であったが、イフリートに変化が訪れる。その身から立ち昇る炎はその勢いを増し、範囲もどんどんと広くなる。その炎が解けた先には、分身したイフリートが辺りを取り囲んでいた。
「………分裂?デコイ?」
『センサー上は熱反応、魔素共にどれも同一、分裂に近いものかと推測します』
エルノアは極力シズを傷つけないよう立ち回っていたため、攻撃の手は完全に止まった。リムルの水刃による攻撃は意味を成さず、エルノアは攻撃を加える気がない。
防戦一方になるかと思いきや、エレンの魔法は効果があったようだった。
その魔法をリムルは『捕食』し、解析、新たな魔法として打ち出す事でイフリートの分裂体の複数撃破に成功した。
「リムル……攻撃は、ダメ。だから、僕に任せて」
エルノアの考えをわかっているリムル。だがそれまでシズがもつかもわからない。だからもっと早く、シズを解放する術が、リムルにはあった。
「エルノア。イフリートを弱らせるのは大丈夫だ。いざとなっても俺には回復薬がある。シロマ、エルノアが負ける要素はあるか?」
『全てにおいて、エルノア様の能力が優っております。その心配は必要ありません』
リムルの問にシロマが答える中、バッと振り向いたエルノアはリムルへと向かってコクリとうなづくと、ジャケットの中に来ていたシャツを引き裂いた。
そこにあったのは、陶器のように透き通ったきめ細やかな白い肌と、異質な物体。それは他のコアよりも大きく、形状も違う腹部のメインコアであった。
『戦闘レベル把握。エネルギー充填開始。完了まで15秒です』
「弱らせたら、いい? それでシズは、助かる?」
正直なところ、母体となっているシズが無事かはリムルにもわからない。だが、やるしかないのだ。
「あぁ。俺がイフリートを『捕食』する。安心しろ。エルノア!」
○・○・○
──エルノア
シズが助かる。
シズを助ける。
なんで、僕はこんな思考を巡らせているのだろう。
人間と争わない。
今のシズはコレには当てはまらないはずなのに。
『エルノア様、このままの戦闘状況が続けばこちらが先にエネルギー切れを起こします。打開策が必要かと』
(リムルの水刃も効果なし。切断時の再生に魔素の消費を確認してるから、このまま皮膚を抉り続けたら、どう?)
『残念ながら、戦闘モードの活動限界は2時間程です。手足の切断まで試してみればどうかはわかりませんが』
(それはダメ)
カメラもセンサーからも、シズがあのイフリートと言うものに変貌した事は間違いない。
やりすぎると、シズに影響が出るかもしれない。
(だから、ダメ)
僕にとってのシズは何だというのか。
わからない。あの時と同じ、エラーが僕を埋め尽くす。出来の良いシステムにより思考は加速し、より奥まで、自分の中にあるのに理解できない脳の中へと沈み込む。
だけど、答えはでない。
こんな姿のシズを視界に収めるくらいなら、仮面の方がいい。
また、声を聞かせてほしい。
僕が造られた意味も、この世界にいる意味も。そして、この謎の違和感の事も。僕にもっと教えてほしい。
「エルノア。イフリートを弱らせるのは大丈夫だ。いざとなっても俺には回復薬がある」
リムルの言葉に、意味はないのに顔を向けてうなずく自分がいる。
戦闘コードELを起動している今、ターゲットからメインカメラを外すというその行為は通常であれば起こり得ないはずなのに。
『エルノア様。念のため、主砲スタンバイします』
シロマすらも、戦闘中というのに"念のため"などと、使用を前提としないエネルギーを回すと言う行動に出ている。
だというのに、僕はそれを止めるでもなく、ましてや肯定するように衣服を自ら切り裂いた。
わからないわからないわからない。
『戦闘レベル把握。エネルギー充填開始。完了まで15秒です』
「弱らせたら、いい? それでシズは、助かる?」
どうしたら正解なのか、僕に教えてよ。シズ……リムル……
「あぁ。俺がイフリートを『捕食』する。安心しろ。エルノア!」
リムルの、捕食……
イフリートを、アレだけを捕食するって事……?
『リムル様には大賢者様がついています。それが最適解なのでしょう。エルノア様。主砲の調整完了しています』
「限界まで、最低限に出力を調整して」
『もちろんです。抹消以下に抑えております』
シロマの言葉に、僕は初めて自身最大の武装を再度分裂しその数を増やしたイフリート達へと解放した。
「任せたからね、リムル……」
「あぁ、任せろ」
僕にはどうする事もできない。
ただ、
『変質者』と『不変者』
いま思えば、リムルに「スキルの名前も正反対だし、エルノアは無意識かもしれないけどシズさんに惹かれてるのかもな」と言われた時は否定したけど、今思えばその通りだったのかもしれない。僕にないものを持つシズから、人間のように学びたいと思えたのかもしれない。
リムルも僕に色々と教えてくれた。そう。リムルが教えてくれた通り、僕は僕にできることをすればいい。
リムルが任せろと言うのだから。
「バスター拡散」
『かしこまりました。出力修正。全てのターゲットのロック完了しています。エルノア様』
「
腹部のコアがまるで生き物が口を開くかのように、縦に大きく割れた。そこから放出されるのは、この世界で取り込んできたエルノアの動力源である魔素の塊。
拡散してもなおひとつひとつが極太の白い光線の波は弧を描きながら高速で放たれ、全てのイフリート達を光の奔流で包み込んだ。