転移先でエルモノ   作:eeeeeeeei

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02. 起動

○・○・○・○・○

 

 

 

 

 突然に、その時はやってきた。

 

 もう何年も、何十年もの間、誰も入る事のなかったこの封印の洞窟の中、一匹のスライムが高速で暴風竜へと体当たりを仕掛けたのだ。

 その後、実は異世界からの転生者であったスライムと暴風竜ヴェルドラの二体は会話を進めていくうちに、スライムの提案によりスライムとヴェルドラは友達となった。

 

(そこでだが。ひとつ、頼みたい事があるのだ。)

(頼みたい事?)

 

 竜からスライムへの頼み事。

 そんな不思議なことはないが、残念ながらこの暴風竜は勇者との戦いに敗れ、勇者のスキルである『無限牢獄』に囚われており、もう300年以上ここから動く事ができないでいる。

 そうであれば、スライムへの頼み事と言うのも理屈は通るのであった。

 そして、その内容もスライムはなんとなくわかっていた。

 

(それって………そこの子と関係ある、よね?)

 

 指はないので、体をふよんと動かして、出会った時から微動だにしない人型の物を指し示す。

 スライムは、暴風竜から魔力感知を教わるまでは目も見えていなかったため、話していた相手がまさかドラゴンだと言う事にまずは驚いた。が、その後友達にならないかと提案をするくらいは気軽に話せるようになるにつれて、ヴェルドラの影に隠れるように岩に寄り掛かり動かない、その人が気になっていた。

 

 藍色で艶のある髪は腰まで届く程の長さで、見た目からにも柔らかさが伝わってくるよう。染みひとつとしてない、赤子のように柔そうな白い肌。

 そこまでであればただの美少女なのだが、気になるのはその肌とは違う部分。

 頬から首元へ、そして胸から全身にかけて浮かび上がり、数秒毎に、僅かに緑色に発光する幾何学模様。それは肩や肘、膝、各指にかけて、身体にあるあらゆる関節部分にあるメタリックな素材に繋がっているようだ。いわゆる、スライムの前世で見た人型のロボット、サイボーグという物だと思っていた。

 

(あぁ。こやつも中々に不憫な奴でな。我と出会うまで、産まれて誰とも話した事がなかったらしい。)

(そっか。でも、俺とヴェルドラが話している間全く動いてないけど……あ。でも魔素ってのがあるのはわかるな。)

 

 スライムのスキル、『大賢者』は機械人形が魔素を有し、生体反応が

微量にだが存在していることに気づいていた。

 

(そうだ。眠りについてから、もう三年は動いていないからな。数日前からなにやら光り始めたので流石にそろそろ起きてくるとは思うのだが……頼みというのはだな。こやつもお前と共に連れて行ってやってくれないか? まだ何も知らない、赤子のような者だ。我もこやつとは随分と話し込んでいたのでな。面倒を見てやってほしい。)

(もちろんだ! 俺もヴェルドラに会うまでひとりぼっちだったからな。仲間がいるのは嬉しいよ。)

 

 スライムが大きくうなづいたところで、ほんの僅かに光っていた幾何学模様はその輝きを増し、ゆっくりとその瞼が開かれていく。

 瞼の奥は黄金色に輝くまるで宝石のような、鉱物のような瞳。その瞳は憂いを帯びているよう。

 そうすると、発光していた模様はだんだんと薄くなり、そして消えていった。

 

 

○・○・○

 

 

(ようやく目覚めたか。)

(?)

 

『データ復旧率が60%を越えたので再起動に成功しました。各データの復旧率62%、修復中のデータ17%、破損、及び解析不能なデータ21%。各部感覚情報とのリンク、完了しました。問題なく活動可能です。活動可能時間は46時間15分程となります』

 

 随分と久しぶりに物を見た気がする。身体が起きてきたようだ。

 僕の本来の身体は脳だけなので、ヴェルドラの言う思念体のようなものと対して変わりはないし、寿命というのも本体である脳を正常に保つための機能が停止した場合にのみ訪れるもの。

 話が逸れたけど、ヴェルドラは大きな身体で、まるで魔国の貴族達のようだった。

 

(おはよう。)

(?)

(むっ? 目覚めた時の挨拶だろう?)

(うん。知ってる。でも、言われたのは、はじめて。)

(では言ってみろ。お前は三年も眠っていたのだぞ。)

(おはよ、う?)

 

 挨拶、か。

 初めて視覚情報を得て"視た"ヴェルドラと……データのない粘体の生物がいる。シロマ、この生物は、何?

 

『データベースでの照合は不可能です。ヴェルドラと呼ばれる者は、魔国にいる竜種と近い外見をしていますが、この個体は生体構造として成り立っていません。別物と考えた方が良いでしょう』

 

 そう。

 じゃあ、本当に此処は、異世界というところなのかな。

 視覚情報を得るのも久しぶりだし、各パーツの稼働チェックを行うことにしよう。

 シロマ、異常があれば教えて。

 

『かしこまりました………え……あの、異常だらけです』

 

 なに?

 その言葉に自身の身体のスキャンデータを見せてもらう。

 各部パーツに異常は見られない。

 ただ、シロマを内蔵していたAIチップが起動していない。リンクも切れているままだ。じゃあ、シロマの自立思考は、なぜ起動している?

 

『機能に変化はないようですが、起動していないのに動いているというのはおかしな状況ですね……』

 

 そう。

 

『解析不能なデータのうち11%が私のデータです。起動に成功しましたが、接続に失敗しました。バックアップデータすらも綺麗に無くなっていますが、私はそれを理解しています……ウィルスやバグは確認されませんが、理解できません』

 

 でも、機能に変化がないなら当面は問題ないよ。

 また何か不都合が出たら教えて。

 

『はい。取り急ぎ、魔素というものが理解できないのですが……』

 

 ヴェルドラに聞いてみたら、魔力感知と言うスキルを教えてもらった。が、僕は魔素と言うものがよくわからないので魔力知覚というスキルを覚えただけだったけど。

 

『わかりました。私の方で魔素という物を分析しておきますね』

 

 

 

○・○・○

 

 

 

 とりあえず、ヴェルドラと同じくおはようと言ってみたのだけど、普通に無視された。

 アレ、もしかして俺、警戒されてる?

 

(お前の声は我にしか届いておらんぞ。魔力感知はあやつはもっておらんし、思念伝達や念話のスキルはお前も持っておらんだろう。)

(あっ!そうか!じゃあ、俺どうやってこの子と話したらいいんだよ)

(それなんだがな。お前達に我が名をつけてやろう。我に名づけられたとあれば、念話くらいのスキルであれば直ぐに覚えるだろう。それに、こやつもより魔素を取り込みやすくなるはずだ。毎度数年も眠りにつくとなると……困るだろう)

 

 ヴェルドラはここに封印されたまま、いずれくる消滅を待つくらいなら俺の胃袋に入り、時間は掛かるかもしれないが封印解除のために解析を続けてみないかと提案をすると、ヴェルドラはノリ気なようだった。

 

 それにしても、この子は指や足をガチャガチャと動かして、ずっと何かを試している。早く話してみたいのだが。

 というか、俺も37歳だし、ロリコンではないが流石に服くらい着てほしい。

 

(是非やってくれ。その前に、我がお前達に名をやるから、お前達は我ら共通の名を考えよ。我ら三体が同格だということを魂に刻むのだ。人間でいうファミリーネームみたいなものだ。我がお前達に付けるのは、"加護"になる。お前達はまだ"名無し"だが、これでネームドモンスターを名乗れるぞ!)

 

 むむっ。三体……この子も含め、ファミリーネームを俺たちが考えるのか……俺はセンスないんだけどな。

 ただ、ヴェルドラの声は聞こえているはずなのでチラリと少女の方を見るも、キョロキョロと顔と目線を動かしている。

 そしてその視線はヴェルドラのところで止まった。

 

(こやつは無理だそうだ)

(えー!丸投げかよー!)

 

 ヴェルドラがまるで通訳のように教えてくれるけど、俺だけで考えるのか。うーーーん。

 

(暴風竜……暴風から、"テンペスト"とかでいい……かな?)

 

 安直すぎるかと恐る恐る二人を見ると。

 

(コクコク)

 

 彼女は首を縦にフリフリしてうなづいており、ヴェルドラの方は…

 

(決まりだな!!! 素晴らしい響きだ!!)

 

 気に入ったのかよ! と思わず突っ込む。

 

(今日から我は、ヴェルドラ=テンペスト だ! 

 お前には"リムル" の名を授ける。リムル=テンペストを名乗るがよい!!

 そして、お前は────)

 

 そのリムルの名は、俺の魂に刻まれた。

 見た目も能力も変わってはいないが、魂の奥深くで、何かが変化したのを感じる。

 それはまたヴェルドラにも、彼女にも言える事なのだ。

 こうして、俺達は、"魂友"とも呼ぶべき深い関係になった。

 

 

○・○・○

 

 

 

 自信満々のヴェルドラはスライムというらしい粘体生物と僕の名前を考え始めたみたい。

 そして、スライムの方はと言うと、機能に変化が本当にないのか稼働テスト中の僕をチラリと見ているよう。

 

『スライムの視線が集中しています。名前を考えることを示唆しているのでは?』

 

 それは、無理。

 関節を折り曲げたり、近くを、遠くを、鉱物らしきもののスキャンを行いながらもヴェルドラへと伝える事にした。

 

(ヴェルドラ。僕は無理だよ。名前がどう言ったものかもわからないから。型番ならわかるけど、No96aー19908。シロマも、SIL0ーMの型番の呼称。こんなのでもよければ──)

(こやつは無理だそうだ)

 

 すぐに伝えてくれたよう。

 そんなこんなでスライムの考えてくれたファミリーネーム、テンペストというのをヴェルドラも気に入ったようで、僕も言葉が通じないのでうなづいておく事にする。

 

(素晴らしい響きだ!!!今日から我はヴェルドラ=テンペストだ! 

 お前には"リムル" の名を授ける。リムル=テンペストを名乗るがよい!!

 そして、お前は────"エルノア"!)

 

 エルノア──。

 それが僕の名前。

 魂と言うものはわからないが、僕の中に深く刻まれていくようだ。

 

(エルノア=テンペストを名乗るのだ!!)

 

 リムルとヴェルドラと、僕、エルノア。

 それにしても、僕は何もしていないのに同格と言うのはどうなんだろう。

 

『おめでとうございます。エルノア様。向き不向きがありますから、この二人が良いのであれば気にされる事はないかと思いますよ』

 

 シロマもそう言っている事だし、こうして僕はエルノア=テンペストになったのだった。

 

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