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──リムル
エルノアと洞窟を探索して10日も過ぎた頃。
俺のユニークスキル『大賢者』先生は本当に優秀なので、先日俺の身体にエルノアが頭を埋めた時に、エルノアの中の『
シロマとお呼びくださいとの事だったのでそう呼ぶが、シロマはユニークスキルでありながら、元は自立思考型のAIだそうで、張り切った様子で自分でやりますと言っていた。シロマの声は元気な女性のような声で、AIとは思えないほど、というかエルノアよりもよっぽど人間らしい。
『解析できました!』
そんなシロマが解析が完了したらしく、洞窟散策中の中突然声を上げた。
『エルノア様のスキルの詳細ですが──
『不変者』・・・精神攻撃無効・状態異常完全無効・自然影響無効
『換装』・・・任意で身体を別のモノと取り替える事ができる。
という感じですね。あと、エルノア様はもともと電撃・熱は吸収してエネルギーにできますし、痛覚はそもそもありません』
「精神系の攻撃に、状態異常無効に、耐性はかなり充実してるなぁ」
『えっへん。エルノア様ですからね。ちなみに、共依存である私は、高速分割思考・並列予測演算・感覚共有・データバンクを持ち合わせてますので、考え事はお任せあれです』
このシロマってすごいな。
まるで昔見たSF映画に出てくるような超高性能AIだ。
「シロマも、これからよろしくな」
『はい!よろしくお願いしますね』
エルノアにも、頼りになる相棒がいるようで安心した。
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──エルノア
かなり自分の機能を把握してきた。
昔は全く使っていなかったけど、外に出るのであれば確かに必要なモノだったらしい。
閉じこもっていた時とは違って、センサー類をフルで使うのは初めてだったけど、便利、かな。
洞窟の外ももうすぐ。大きな扉の前に来たところで、センサーに引っ掛かったものがある。それは、リムルも気づいていたようだった。
「エルノア、気をつけろ」
(コク)
そうしてリムルと岩場に身を潜めていると、どうやら人間のようだった。
「でも、封印の洞窟を調査しろなんて、ギルドマスターも無茶振りよねぇ」
「安心しろ。竜なんて所詮大きなトカゲだろ」
この脳の遺伝子提供者と同じ種族、人間か。実物を見るのは初めてだ。
倍率を上げてよく見てみよう。
「エルノアは裸だし、俺はスライムだからいきなり襲われるのもあり得る。一旦様子を見よう」
身を乗り出そうとしたのだけど、そう言ったリムルにうなづき返して、三人の人間を視覚の隅に収める事にする。
でも、三人のうちの一人が隠密技術を発動させると言ってから、視覚センサーから消失・・・サーモセンサーには反応がある。
「なんというドリーム術…」
『あれくらいなら、エルノア様も可能ですよ?』
リムルの呟きに答え、光学迷彩を勝手に起動させたシロマ。「もしかして光学迷彩!?」とリムルは声を上げるが、まだ人間たちは離れてない。
「なんの声っすか!?」
「え、なにかいるの!?」
三人が戻ってきて、こちらへと近づいてきている。
シロマに言われるままに、リムルを抱きしめて身体で覆った。
それと同時に表面温度を周囲と合わせておく。
(わーわー!エルノアごめん!)
胸の中でリムルが念話を飛ばしてくるのにうなづいておく。
「何もいない……な」
「なんだか怖くなってきたよー。パッと見て帰ろー!」
「そうっすね!早くかえりやしょう!」
三人はこちらに気付く事なく、洞窟の中へと歩みを進めた。
「ごめん!」
「大丈夫。あれで、よかった?」
「あぁ。俺も気をつけるよ。これから外に出ることになるから、警戒はしていかないとな!」
コクリとうなづくと、僕の胸からリムルはぴょんと飛び出ると、扉の前に立つ。
「俺もこの世界では初めて。エルノアにとっては産まれて初めての外だな。じゃあ、行こうか」
初めての外。
何をしたらいいのか尋ねたら、何をしてもいいと言ったヴェルドラ。
意外に知識に深く、僕のデータにない多くの情報をくれた存在。
「ほら、行かないのか?」
リムルと二人で見てみるよ。
もしかしたら、次は僕の話をしてあげられるかもね。
そう思い、扉から漏れ出ている光に向かって進んでいく。
「行く」
──その扉の外は。
初めての景色。
光度が異常に高い、アレが太陽。
柔らかく、足がほんの少しだけ沈むような感触が、地面。
緑に揺れる葉を生い茂らせたものが、木。
全部が全部初めて見るものばかり。
酸素濃度も、こんなに高いんだ。
「どうだ? 俺もこの世界では太陽を見るのは初めてだ。随分と懐かしい気がするよ」
「……悪くない、ね」
熱を取り込んでエネルギーへと循環させるには足りないが、身体に付いている熱感知から伝わる温度も、木々から聞こえてくる葉音も、悪くない。
リムルは満足そうにうなづいている。嬉しいや、楽しい、寂しいとか、感情というモノはよくわからない。
だから今、僕が感じているモノは、悪くないと思えるモノだった。
○・○・○
憂いを帯びた瞳はいつも通りなので、普段と表情は変わらないが、キョロキョロとあたりを見て、触って、嗅いで。
本当に、産まれたての子供のようだ。
「悪くない」と言ったエルノアの表情は変わらないが、その声はほんのわずかだけど綻んでいる気がして、俺も嬉しくなった。
と、それより先に!
木を数本捕食して……
首を傾げるエルノアは一旦置いておいて、捕食した木を解析。
(大賢者。繊維と粘糸で布を作れるか?)
《解。可能です。個体名エルノアを覆えるほどの布を作成しますか?》
(やってくれ!できれば着れるような形で!)
これでようやく、裸の少女を連れまわさなくて済むな。
「ほら、エルノア。これを着てくれ」
(?)
まるで音として聞こえるのではないかと言う、小首を傾げたきょとん顔。
まぁ可愛い。
って、そうじゃなくて!
「着て!この世界では衣服を着るのが普通なんだ!」
「? でも、上に被せると、光学迷彩、効果なくなる」
「俺が守るから大丈夫!大丈夫だから!」
やばい魔物が来たら速攻でエルノアを担いで逃げよう。
姿を消す光学迷彩の効果は自身の皮膚にしか及ばない。
それを知ってからは、首から下の皮膚の色は髪と同じ藍色に変えてもらっていたのでウェットスーツのようで裸感は若干薄れたけど、ボディーラインは完全に丸出しなので目に毒だ。 毒は毒でも良い毒だけど。
「これで、いい?」
木の皮と繊維を使って作った、ポンチョのようなものを頭から被ったエルノアは裾を捲り上げてそう言った。
下半身は丸出しで、皆が思うようなものはどちらもついていないのだが、はたから見たら完全に大事なところが出ている。ようにしか見えない。
「そこは捲っちゃダメだって!隠してるのに見えちゃうだろ!」
「動きづらい」
「あぁ…それはわかるけど、しばらくは我慢してくれ。その内ちゃんとした物を用意するから」
(こくり)
お願いすればうなづいてくれるのだけど、なんだか不安だなあ。
そうだ、頼れる味方がいたじゃないか!
「シロマ、エルノアに教えてあげてくれよ?」
『え? 何をですか?』
ダメだったー!!
シロマにも人間の一般教養のようなものはあるようでないらしい。
流石は機械しかいない国生まれのなかでも異質な出生方法らしいエルノア。
機械と人間とのハーフのようなものとのことだったが、元々は擬似機人なんていう完全に機械寄りの種族だったと言うのは本当らしい。
ここは、俺が頑張らないとな。
「じゃあ、いくつかルールを決めよう。
ひとつ。俺の目の届かないところには行かないこと。
ふたつ。周囲の様子は常に伺い、少しでも危険があればすぐに離れること。
みっつ。危ないと思ったらすぐに俺に知らせること。
あとは追々決めていこう」
このくらいで良いかな。
いくら耐性があるサイボーグとは言え、得体の知れない魔物と戦わせるわけにはいかない。
何か言われるかとも思ったが、素直に受け入れてくれたようで、勝手にウロウロすることは無くなり、常に俺の側をウロウロとするようになった。懐かれているのかはまだわからないけど、こうして見ていると可愛いもんだ。
俺は眠る必要はないが、エルノアはエネルギーの充電が必要なそうで、夜の活動は控えて、俺は眠ったように動かないのエルノアのそばでスキルの練習に勤しんだ。
取り決めから数日経ったが、全く魔物は現れなかった。洞窟では散々襲われたと言うのに。
一度だけ狼のような魔物と遭遇したが、すぐに逃げて行ったのはなんだったのか。
そうして二人で森を散策する事数日。
「熱源反応多数。こちらに接近中」
「アレは……ゴブリン?」
貧弱そうな身体とボロボロの装備。
エルノアもいるから逃げても良いのだが、なんだか怯えているような。
「グガッ。強き者よ……この先に何か用事がおありですか?」
丁寧に、ゴブリンはそう言った。
敵意は無いのか。何に怯えてるのかはわからないが、一応、渾身のスライムスマイルと自己紹介をしておこう。
エルノアも俺を見て、初対面での対応という物を覚えてくれれば良いが。
「初めまして。俺はスライムのリムルという。そしてこっちが──」
俺がエルノアも紹介しようとしたところで、ゴブリンたちはガタガタと震え出した。
武器を置いて跪く者。腰が引けて動けなくなっている者までいる。
そんな様子を興味深そうに、ゴブリンと俺を交互に見つめているエルノア。
おい、俺なんかしたか。