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──エルノア
今、人間よりも二回りは小さな緑色の体色をした、リムル曰くゴブリンと言う緑色の魔物を眺めているのだけど、なぜだか全てのものがリムルに対して跪いたり、祈ったりしてる。
リムルを見ても、別に何かをした様子は無い。
『これがこの世界の、もしくはあの種族の常識なのでしょうか? エルノア様も跪きますか?』
そうした方がいいなら、そうするよ。
ひとまず彼らと同じように地面に座り込み、リムルを見つめておく。
と、念話が飛んできた。
(お、おい!エルノアまで!)
違ったのかな。
『そのようです。機国であれば、軍であろうと特に作法は無いですから、難しいですね……私、頑張りますね』
というのがさっきの出来事。
今はそんなゴブリン達に連れられて彼らの村へと着いたところ。
結局跪いていた理由は、リムルの持つ魔素がこのあたり一帯で一番強く、そこから漏れ出ているオーラに怯えていたのだそうだけど、僕もリムルも、そもそもの平均を知らないからなんとも言えない。
その辺りはおいおい知っていくしか無い。
そのままリムルとゴブリンとの会話が始まり、そのまま村へと向かうこととなったのだった。
「あの、そちらの綺麗な色の眼をした魔人の方は……」
「あぁ、この子はエルノア。俺の妹のようなもんだ。よろしく頼むよ」
ゴブリン達の視線が僕へと集中している。
魔人と言うのは、魔物の中でも上位の存在。魔素から生まれた者や、魔物の突然変異種であったり、または魔獣から進化した者などの、知識を有し生殖能力を持つ者たちの総称であるとヴェルドラから聞いた。
だから、僕は魔人じゃないのだけど。
そんな事を思いながら、僕も全員を再度眺めていると。
「ほら、エルノア」
「……こういう時、どうしたらいいかわからない」
そう言った僕に、俺と同じようにしたらいいよと言うリムル。
同じように。メモリーにあるリムルの名乗りを真似て。
「はじめまして。僕は
リムルとゴブリン達は「おぉー」と言っていた。
リムルは元人間だと言っていたが、もしかして人間はゴブリンと同じような作法なのだろうか。
○・○・○
「お待たせしましたお客人。大したもてなしもできませんで申し訳ない。私はこの村の村長をさせていただいております」
「おぉーーー」
老齢で杖をついたゴブリンがリムルとエルノアへそう言った後、確か作法はこうだったかとシロマと会話をしたエルノアは、挨拶をしたゴブリン村の村長をまじまじと見つめながら、口を大きめに開いて声を出した。
「え?」
「ど、どうかされましたか?」
不思議そうな顔をしたリムルと、ゴブリン村の村長と、案内してくれた若いゴブリンに顔を覗き込まれているエルノア。
何が違ったのかもわからず、黙りこくってしまったエルノアと、それを見つめる三人という奇妙な時間が流れた。
「…………(ぷい)」
「ご、ごめんエルノア! さっきのやつだよな!? なっ!?」
『ち、違ったみたいです……すみませんエルノア様ぁ…』
そっぽを向いたエルノアを宥めるリムルとシロマ。
エルノアは頭の中で、シロマが名乗られた時の対応ですよと言うので口に出したのだったが、反応を見て違うとわかってからは、どうしたらいいかわからなくなってしまっただけなのだったが。もちろん機嫌が悪いわけでもないので、エルノアはリムルの後ろにそっと移動して、事の成り行きを見守る事にした。
会話や人との接し方の知識がゼロなエルノアをよそに、リムルへと村の現状を伝える村長。
最近、この森一帯を守護していた竜の神が消えてしまい、森中で魔物達の縄張り争いが発生。このゴブリンの村も現在牙狼族に襲われているのだと話した。
リムルはこの話を聞き、自分たちも無関係では無いからと言うことと、元来頼られれば断れない性格のリムルはエルノアへと念話を飛ばす。
(俺は、受けようと思う。エルノアは、それでもいいか?)
リムルはエルノアが断らない事はわかっていながらも、蚊帳の外にはせずきちんと確認をする。こうした対応でいずれはエルノアにも意志を持って行動してほしいと考えていた。
そして、エルノアはリムルの予想通りコクコクと首を縦に振ったのだった。
ゴブリンの言う宿命や誇り。リムルの求める見返り。ゴブリンが捧げる忠誠。そして、ゴブリンの願い。
もちろん言葉の意味は理解している。
が、エルノアはリムルと村長の会話の成り行きを見守っていても、理解できない。機国の者は通常であれば命令系統は生みだされた時から序列が存在し、決してそれに逆らう事も、命令以外の行動を取る事も無い。エルノアはそんな命令を何も受けぬまま生を受けたため、ただ疑問を浮かべるだけであのシェルターでの生を終えたのだった。
ただ、自立思考を有する一部の
だから、エルノアは考える事ができる、思う事ができる。のだが、まだそれを形にする事ができないのだ。
「怯える必要はない。
お前達の願い。暴風竜ヴェルドラに変わり、このリムル=テンペストが聞き届けよう」
リムルへと跪くゴブリン達を眺めながら、母親が父親を受け入れた時のメモリーを思い出していた。映像の中では父親が母親に膝をつき頭を下げていたし、受け入れてもらうときはああすればいいのかとまた間違った解釈をしていく。
リムルは村長と負傷者を見に行くといい、エルノアは若いゴブリンと防護柵を作る班を見ていて欲しいと頼まれたので今は二人は別行動。
離れてもいいのかと言う問いに対してリムルは、村からは出るなよと言いエルノアは柵を立てていくゴブリン達を見つめていた。
(シロマ。ゴブリンを助ける、という事?)
『そうですね。守護、と言う事はそう言う事かと思います』
わかった。とエルノアは自分でも気づいていないが、初めて自ら行動をしようとしていた。
「柵。足りない」
「ハッ。今並行して切り出しているのですが……なにぶん人手が足りず…」
たしかに、今切り出された物を見ても明らかに村を囲うほどの材木は無い。
「切り出し、僕がやる、よ。村からは、出ちゃいけないから、ここから、ね──」
そう言って、森へと向けて右腕を翳す。
掌を下にして、水平に持ち上げられた右手の甲を前へと向ける。
そこにあるのは、にぶく赤い光を放つコア。
『
「撃つ」
ピュンと言う軽い音が数度した後、木々が倒れていく音が響く。
倒れる最中にも縦に割られたり、先端を斜めに切り取ったり、後少しの加工で柵として使えそうな程に一瞬で加工されていく。
「エルノア様!?今の光はいったい!?」
「
「ハ…ハイッ! ありがとうございます!!」
驚いていた若いゴブリンは頭を下げると、他のゴブリン達に指示を出し、柵は想定されていた時間よりもかなり早く完成した。
○・○・○
──リムル
牙狼族は今夜中にも村を襲ってくる動きらしい。
若いゴブリンの兄が文字通り、命をかけて得た情報。
エルノアが手伝ったらしい柵は『粘糸』で補強し、『鋼糸』でのトラップも既に仕掛け終わっている。
エルノアが自発的に動いたと言う事は嬉しいが、この戦いに参加させたくは無いのだけど……
「エルノアって、戦えるのか?」
「可能。ただ、装備は足りない。いくつかは使えるけど、調整はまだ40%。主砲とブレード類は調整に時間がかかるから今は使用困難」
『すみませんリムル様。魔素の解析が兵器類にプログラムしきれていません……ですが、そもそもエルノア様は機国最新の装備と技術を有していますので戦闘が不可能な事はありません。が、設備も各換装用の兵器も元の世界に置いてきているので、大隊規模を落とすのは難しそうです』
わーお。
エルノアとシロマは一体何と戦おうとしているんだ?
初めて聞いたけど、主砲ってなに? しかもブレードに、レーザー? マジでSFの世界じゃないか。
「エルノア様のあの赤い光があれば楽勝スヨ!」
調子の良さそうな、小柄なゴブリンの中でも更に小さいゴブリンがそう言う。柵の一部はまるで加工場で加工したのかと言うほどの切断面だったが、アレがエルノアのレーザーで作られたものという事か。
大賢者。エルノアはどのくらいの兵器を持っているかわかる?
《解。わかりません。正確には、解析不可能な物が構成の多くを占めています。》
流石の大賢者さんでも未来のテクノロジーはわからないか……
そもそもエルノアのいた世界は地球でもないようだしな。
「ともかく、エルノアは戦わなくていい。作戦通りに俺がやるから、身の危険を感じた時だけ、ゴブリン達と逃げてくれ」
(コクコク)
本当に素直だな。
素直すぎるのも、考えものかもしれないけど。
少しだけ妹が心配になるが、今は助かるとリムルは指示を出した。