○・○・○・○・○
「おはよう、エルノア」
「……おはよう。 ────?」
スリープモードの予定時間は20時間だった筈だが、明らかにそれよりも早い。
今の時刻は、リムルが目覚め、逆にエルノアが眠りについてから10時間後の夕暮れ時だった。
「リムル。僕に、なにかした?」
怪訝そうな、ではなく無表情のままでそう尋ねるエルノアに、リムルは満足そうに話した。
「魔素の譲渡ってやつをやってみたんだ。 エルノアの身体は機械だろ? なら、燃料タンクみたいなものがあるんじゃないかと思ってさ」
そう得意げに話すリムルだが、実際のところは大賢者からの提案であり、リムルはYESと返事をしただけなのだが、それをエルノアが知る由はなかった。
『成程。それでエルノア様にある13のコアへとエネルギーを充填をしたという訳ですね』
「13? エルノアの燃料タンクってそんなにあるのか? そういえば、エルノアはエンジンみたいなもので動いてるのか?」
詳しい事はわかっていなかったので、コアと言うのがバッテリーのような物であろうと受け取り、その数の多さに驚いたリムル。
そんなリムルを不思議そうに眺めるエルノアだったが、シロマは丁寧に説明を続けた。
『はい。エルノア様は光、熱、運動、機国ではテスラ粒子、この世界では魔素をコンバート、コアにある極小のテスラリアクター反応路からコンデンサに蓄積してエネルギーとしています。
他にも有機物を取り込む事で、分解や燃焼によって起きる熱エネルギーを変換させることもできます。今まではそちらがメインのエネルギー源でしたが、リムル様から魔素を充填して頂いた今ではそちらの方が効率が悪いので魔素を取り込むことが最良かと思います。
あの……ご存知だったわけではないのですか?』
リムルは少し焦った様子で、そもそもシロマの答えには横文字や専門用語が多く、正直あまりわかっていなかった。
「お、おぉ!詳しくは知らなかったな! ただ、もちろんなんとなくわかっていたさ!」
「そう。リムルの魔素が理由かは、わからないけど、活動可能時間が、伸びてる。テスラリアクターの、魔素からのエネルギー変換効率があがっている、かな」
『そのようですね。各コアにも学習機能は搭載されています。今後は使用兵装にもよりますが、通常モードであれば活動限界はほぼ無いものと考えて問題ないかと思います』
機国での地下深くに隠されたシェルター内でのような、エネルギー切れによる停止も起きない。
魔素は随分と万能なものだと改めて実感をしたエルノアはリムルを見た。
「兵装……(そういえば、レーザーとかもあるんだもんな…)」
「リムル。 ──ありがとう」
「……あぁ!どういたしまして!」
思っても見なかったエルノアの言葉に、リムルはピョンと、嬉しそうに飛び跳ねた。
○・○・○
──リムル
「エルノア様がお目覚めになられた。皆、宴の準備はできておるな?」
筋骨隆々になったリグルドの言葉で、ではなく俺の『乾杯』の音頭で、でもなく、乾杯とはこうやってやるんだと説明をしながらぐだぐだと宴は始まった。
宴が始まったが、味覚の無い俺は特にやることも無いがひとまず飲む。
酒でもなんでもなく、旨くもなんともないが、俺に合わせてエルノアもコクコクと時折口にコップを運んでいた。
エルノアが眠っている間に考えていた事を、俺は伝える事にした。
大所帯となった皆が、なるべくトラブルを起こさないように生活していく上でのルールを。
「一つ、仲間内で争わず、助け合うこと。
二つ、他種族を見下さないこと。
三つ、人間を襲わないこと。
以上だ。最低この三つは守ってもらいたい」
さて、反応はどうだろうか。
側にいるエルノアもちゃんと聞いてくれているようで、切り株に鎮座する用にいる俺の斜め後ろに立って相変わらずキョロキョロしている。
左にはリグルド、右には
「宜しいでしょうか?」
おっ! 良かった。意見があるほうがただ従いますと言われるよりも、ずっといい。
「なんだねリグルくん」
「何故人間を襲ってはならないのでしょうか?」
「リムル様のご意思を……!!」
と、質問したリグルに対してなにやらリグルドがギリギリと怒りを露わにしているが、疑問を持ってくれる方が俺は嬉しい。
「簡単な理由だ。俺が人間が好きだから──以上!」
「なるほど! 理解しました!」
俺の単純明快な答えに、リグルは即座に納得してしまった。
軽いな。それでいいのか。
とりあえず、もっともらしい理由を付け加えおこう。
集団で生活している人間に手を出したら思わぬ反動が来るかもしれない、こちらから手出しするのは厳禁で、仲良くする方がずっと得だという事を伝えると、リグル以外のホフゴブリンもゴブリナもうんうんとうなづいていた。
もちろん本音は俺が人間を好きだって方なんだけどな。
ちなみに、後ろの子は俺が話し始めてからはピタリと動きを止め、微動だにしていない。けど、いつも通りあまり興味はなさそうだ。
俺は、お前にも言ってるつもりだったのだけど。
その後は村での役割を決めよう。
警備担当や狩猟担当など……うん、めんどくさい。
「リグルド、君をゴブリン・ロードに任命する。村を上手く治めるように」
リグルドをゴブリン・ロードに任命して丸投げすることにした。
俺は基本口だけで番長でいい。
いずれは人間がいる街にも行ってみたいし、俺のような召喚者と言うものにも会ってみたい。
俺がいなくても、村が周るようにしておかないと困るのは彼らだ。
警備班や食糧調達班は元から行っていたこともあり機能はしているようだが、建築関係になると、ゴブリン達では技術が足りないようだ。それは衣服、道具類の製作に関しても同様だ。ゴブリナたちは進化して女性らしい体格と肉付きをしているので、衣服もそろそろ困る。
モノづくりのノウハウがないのはキツいな。
「建て直してこれか。もう崩れそうだな」
「……強度不足。重心のバラつきも、多い」
エルノアは建て直したばかりらしい小屋の柱をメキメキと音をさせながら動かした。その様子を見て、早速助け合うことのルールを守っているだけかもしれないが、エルノアが自主的に動いている事に思わず笑みが溢れる。スライムだからあんまり変わらないが、そこは心の問題だ。
「これなら、崩れない」
うん。
流石は最強のAIを搭載したサイボーグだ。ただ、そうじゃないんだ。
安定は取れたのだろうが柱は多少斜めだったのがより斜めになり、もはや三角形に近い形になっている。
「エルノア様……これだと人数があんまり入れないっすよ?」
「? いっぱい、建てたらいい。さっきの方が、倒壊の可能性は60%も高い」
ゴブタとそんな会話をしているエルノアは置いておいて、自分達だけではどうにもならないなら、外部からノウハウを学ぶのが一番。
技術者を探さなければ……ということで、リグルドから聞いたところ、過去に取引をした事もあるらしい、大河沿いにあるドワルゴンという国へ取引に行くことにした。
なんとそこはドワーフ達の王国で、英雄王の治める武装国家として有名らしい。ゲームや映画と同じく、この世界でもやはりドワーフは鍛冶の達人らしく、ワクワクが止まらない。
最低でも物資や技術の調達を、欲を言えば、技術を持った指導者を連れて帰って来られたら最高なんだがな。
「俺が直接ドワルゴンに行ってくる。エルノアは……残ってもらえるか?」
悩んだ。
それはもう悩んだが、取引をした事が有るとはいえ何が起こるかわからないところにエルノアを連れて行くのもどうなんだという結論に至った。
もっと経験をして、ドワルゴンが安心できる街だと言う事がわかれば、連れていこうと思う。
そんなエルノアの反応は。
「……離れないルールは、終わり?」
「いや、終わりじゃないんだが…村にいるときは、村のルールを守ってくれたらいい。俺と行くよりも危険は少ないだろ?」
エルノアは少し考えた素振りで、またもゆっくりと口を開く。
未だに会話になれていないエルノアはゆっくりと話すので、そこがまた可愛い。
「リムルと村の外だと、ルール壱。村の中だと、リムルの有無に関わらず、ルール弐が適用される。あってる?」
「あぁ、今はそんな感じでいいぞ」
『こちらの世界にはルールと言うものが随分と多いのですね。エルノア様、私の方でルールをまとめておきます』
捉え方が極端というかなんというか。
「みんなの言う事を聞くんだぞ、エルノア」
「うん」
俺がいない間、エルノアを頼むとみんなに言い、なるべく早く帰って来ようと思いながら、俺は数人のお供を連れて、ドワルゴンへと向かった。