イタコと方相氏にこの町は酷ですわ!!   作:鳩胸な鴨

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そりゃ嫌気差すわな。


呪ン黒No.亡イto目悪 其II

「……くそッ、繋がらない」

「…駄目じゃ、小五郎くんも出ん」

 

電気が落ち、銃弾飛び交う観覧車にて。

コナンらが蘭たちに連絡を図るも、通信は繋がるものの、相手がソレに出ないという状況にある。

黒の組織も、連絡網がお釈迦になってるのだが、現在、連絡を取れるのが始末が確定したキュラソーと、特に用がない限りは連絡をしてこないベルモットの二人のため、特に気にしていなかった。

キュラソーはと言うと、「月読アイがいる時点で始末されるのは確定だから、こっちに着く」と開き直り、子供たちの盾となっていた。

 

「ついなちゃんから現状を聞きたいけど…、銃の対応で忙しそうだね。

表情を見てわかるのは…、まず『完全に想定外』ってことくらいかな?」

「想定外…?霊障が来ることは分かってるのに?」

 

アイから見えるついなの表情。

それは、普段見る余裕溢れる姿ではなく、彼女にしては珍しい、切迫したものだった。

そこから推測できるのは、「霊障が思ったよりも深刻だった場合」。つまり、想定していた被害よりも、更に深刻化する可能性があると言うことだ。

例えマシンガンで打たれようが、顔色一つ変えない彼女の表情筋であの顔を作り出す衝撃は、それくらいしか考えられない。

 

「…連絡が繋がらない…ってことは、完全に引き込まれてる。

私は素人だから基本的なことしかわからないけど、米花町からはどんな手段を使っても逃げられないって思ってくれたらいいよ」

「いつものことよね」

「いつものことじゃな」

「いつものことだな」

 

転出届がほぼ受理されないこの町で、脱出が不可能なのは常識である。

米花に染まり切った三人は口々に頷く。

と。ゴンドラのガラスが轟音と共に完全に割れ、中に白黒の衣服を纏う青年が飛び込んできた。

 

「っ、誰だ!?」

「大丈夫、知り合い。

アベルーニくん、情報ある?」

 

アベルーニ。

以前イタコから聞いたことがある、タカハシと並ぶ問題児其の2。

どうしてこんな場所に?どうやってここまで来たのだろうか?そんな疑問が浮かぶも、銃弾がコナンの好奇心を掻き乱す。

乱れ飛ぶ弾丸は、アベルーニのゆったりとした服を掠ることもなく、壁や床に着弾する。

それだけでも恐ろしい状況だと言うのに、アベルーニは悠々と佇み、アイに報告した。

 

「職員番号31358がコードネーム持ち。そこから20番かけて裏切り者だね」

「言わなきゃわからない?今はそっち求めてないよ。霊障の方、何か情報ある?」

「…あるけど、そこのお子さんたちには刺激が強いと思うよ?」

 

アイが強い口調で言うと、アベルーニは肩をすくめ、問い返す。

刺激が強いとは言うが、こちとらバラバラ死体白骨死体焼死体etc…と、ありとあらゆる惨劇を目の当たりにしてきた百戦錬磨の米花町の探偵である。今更何が来ても驚かない、と、アベルーニに視線を送ると、彼は笑みを浮かべた。

 

「そ。じゃあ、見せるよ。

コレ、イタコちゃん…正確には、負の気に当てられて出てきた荼枳尼天が撮ってる下の様子ね」

 

彼が袖から取り出したタブレット。皆はそれに視線を向け、絶句する。

 

そこには、死屍累々とした水族館の様子が映し出されていた。

 

「イタコちゃんとIAちゃんたちは、なんとか防げたけど…、地上にいる人間は、三人を除いて瘴気に当てられ、倒れてる」

 

今起きているのは、イタコとARIA姉妹のみ。

蘭や小五郎のことが頭をよぎり、不安を覚えるコナン。

そんな彼の不安を煽るように、次々と不穏な情報がアベルーニから放たれる。

 

「荼枳尼天から聞いたけど、今回のは祟り神じゃないんだと。…祟り神ではないってだけで、神様ではあるけどさ」

「…………まさか」

 

神関連の事象の中で、最悪の事例を浮かべ、アイの顔が引き攣る。

アベルーニはと言うと、心底愉快そうに笑みを浮かべながら、告げた。

 

「そ。米花町の土地神だよ」

 

土地神という存在は、其の土地を守護し、住まう人々に加護を与える神のことである。

神の位で言えば、下から数えた方が早いのだが、力は絶大。

領域から出られない、領域外の信仰は微弱なものしか受け取れない等、多少の欠点はあるものの、土地に利益をもたらし、土地を平和に保つ役目を果たしている。

 

では、米花町はどうなのか。

 

実はこの土地神が、米花町が循環するように、形骸化しかけている平穏をギリギリ保っている最後の砦であった。

生真面目な性格で、他の神なら即高飛びを決めているだろうこの世紀末の町を管理し、守り、人々に安寧を与えるべく奔走していたのである。

 

が。運命とは残酷なもので。

20年間の爆発的な犯罪率の増加…すなわち、人々の悪性の暴走について行けず、愛した町は犯罪都市に成り下がった。

ただでさえ燻っていた不満が、今年に入って…正確に言えば、コナンが活躍し始めてから爆増した殺人によって大爆発を引き起こし、土地神の理性を吹き飛ばしたのだ。

何より厄介なのは、その善性が全く失われていないことである。神が今、地表に出ようとしているのは、救済のため。

壊れた精神でなにを救えるかは分からないが、ただ一つ言えることがある。

 

この救済で、米花町の事態が好転することは絶対にない。寧ろ、犯罪率が高いだけの町として存在していた時の方が平和というディストピアになる可能性すらあるのだ。

 

「…つまり、今回の霊障の原因は…」

『この町に住む人間全てですにゃあ。

あの土地神は、この町に住む人間そのものを憎んでるのですにゃあ』

 

画面の奥の荼枳尼天が、怪しく笑う。

つまり、負の気に呑まれたのではなく、土地神自らが負の気に身を任せた結果、生まれたのが、今回の霊障。

その負の気の源は、米花町に夥しく巣食う悪意。神はただ、その現状を打破するために動いているだけに過ぎない。

悪いのは全て、人間なのだから。

 

「それって、ワシらも含まれとるんかの?」

『余裕で含まれてますにゃあ。アリの巣キットってあるでしょう?

アレで飼ってるアリを一匹残らず把握してる人間なんて、普通居ませんよね?』

 

その理屈を出されて、阿笠は押し黙る。

霊障の狙いはわからないが、少なくとも人間に危害を加えるのは確定なのだ。

早くついなかイタコに対応してもらうよう、コナンが口を開こうとする。

が。それを予想していたのか、正気を取り戻したイタコが申し訳なさそうに視線を下げた。

 

『その、非常に申し上げにくいのですが…、善性の土地神相手だと、ただ倒すだけと言う対処はできないのですわ』

「な、なんで!?」

『アレは土地を循環する「利益」そのものですの。下手に倒せば、米花町はあっという間に衰退し、ゴーストタウンになりますわ』

 

今、米花町に住まう人々を害そうとしてるのは、あろうことか、人々の住まう土地の加護そのものである土地神。

加護がなくなった土地は、ありとあらゆる利益を失う。

土地神を倒すことは、土地にある全てを奪うことと同義であった。

 

「…その、ついて行けてないんだけど…、なんの話をしてるのかしら?」

「アンタは信じられんかもしれんが、霊障じゃよ。ワシも50年近く生きて、今日初めて存在を知ったわ…」

「……月読アイがこれだけ恐れてるなら、事実なんでしょうね」

「アイちゃんマジで何者なの?」

「ただの幼稚園児だよ」

 

少年探偵団を除き一人、話題に取り残されたキュラソーも協力的な態度である。

始末されるのが確定したのだから、いろいろと吹っ切れたのだろう。懐から銃の一つや二つ取り出したり、ここから飛び降りたりしない様子から、こちらに与する気満々らしい。

コナンと灰原にしては複雑な心境だが、この際贅沢は言えない。

 

「何はともあれ、まずはここから出なきゃいけない。…くそッ、赤井さんが居れば…」

「赤井…、ああ、ライね。

…暗視スコープでもあの距離はキツい…いや、ライなら出来るか」

 

まずは、未だにこちらを襲うオスプレイをなんとかする必要がある。

いよいよ痺れを切らしたのか、空に咲く火花が苛烈になっている。どうやら機関砲を使い始めたらしい。

ついなが弾丸を槍を駆使してなんとか防いでいるが、限界は近いと見た方がいい。

 

と。その時だった。

一閃が、オスプレイの片翼を貫いたのは。

 

オスプレイが煙を上げて、落下していく。

と。コナンの携帯から着メロが響く。コナンが画面と見ると、そこには、先程名を出した赤井の文字。

コナンがすかさず通話ボタンを押し、携帯を耳に当てる。

 

『ボウヤ、無事だったか?』

「あ、赤井さん!?」

『バレる前に離れるぞ、さっさと銃を車内に入れろ』

「安室さんまで…」

 

この二人が共にいて、協力していることに一種の感動すら覚える。

どうやら、危機は去ったようだ。

ついなも猛攻が終わったことに気が抜けたのか、ゴンドラの上で尻餅をついた。

と。コナンは連想的に、あることに気づく。先程の狙撃が、『オスプレイの上から放たれた』のだ。

 

「い、今、上から…?」

『あー…。まぁ、そこにはツッコまないでくれると助かる』

「わ、わかった…」

 

世の中には知らない方がいいこともある。

赤井が非常に困った声音で言うあたり、口頭での説明が難しいのだろう。

コナンは取り敢えず、今迫っている問題を赤井に説明しようとする。

 

瞬間。彼らの目の前に、『巨大な掌の影』が現れた。

 

『はハHA覇ハはロROロロろ炉ooooおぉおぉぉぉおoOO0!!!

愚カナ….人類、showクン!!』

 

叩きつけるような奇声と共に、手のひらが海を叩く。

ずずず、と地響きのような音が響き、その眼が、ゴンドラの中を捉える。

そこに居たのは、神とは思えぬ冒涜的な姿をした、ただのバケモノだった。

 

「な、なんです、あれ…?」

「お、大きい…、怖いっ…!!」

「怖ぇよ、母ちゃん…!!」

 

子供たちがその要望の恐ろしさに震え、身を抱く。キュラソーは庇うように前に立つも、その風貌の恐ろしさに、今にも気を失いそうだ。

阿笠と灰原も、身体中から冷や汗を流し、カタカタと奥歯を鳴らす。

その中で顔色を変えていなかったのは、コナンとアベルーニ、ついなとアイの四人だけだった。

 

『ワ堕シは.あ亡タたちヲ巣食烏、Mono!!

サあ、救ッて揚ゲま傷!!』

 

観覧車の直径などゆうに超えている手が、彼らに襲いかかる。

救うとは言うが、明らかに殺しにきている勢いだ。

このまま直撃するとまずいと判断したついなが、その腕を拳によって拒絶した。

 

『ェっ…?』

「ウチらにアンタの救いなんかいらん」

 

ついながハッキリと拒絶すると、バケモノがぱちくりと目を丸くする。

と。バケモノはそのまま沈黙し、だらりと両腕を下げ、俯いた。

 

「……ぁん?なんや?」

『こノま魔、町ハ、滅ビる…?

違うちガうチガうチガウ絶対IIソレは違Aァァ@@ぁ、あううううっ!!!!!』

 

バケモノが怒号と共に、壊れたカラクリのように動き始める。

その目はどこを見ているのか定かではなく、右往左往と動かし、視界に入る全てを睨めつけているようだ。

バケモノは早口で捲し立て、ついなに迫る。その早口に限っては、なぜか普通に聞き取れる発音であった。

 

『その昔この土地に住まう住人は皆純粋だった気高く生き死にゆく人間が多くひしめき合う理想郷だっただと言うのに140年前に生まれたある人間に呼応するように人の悪意が暴走したソレが全てのケチのつけ始めだああ忌々しい人間どもめが私がどれだけ苦労してこの土地に加護をもたらしたと思う私の愛した町はこんな悪意に穢された瘴気溢れる泥濘の底ではない私の愛した町は人が人を支え合い人が人を認め合う理想郷だったはずなのだなのに貴様らはなんだ互いを咎めあい互いを蔑め合い互いを凌辱し合う生物的な本能に囚われているなんと嘆かわしい世界を作り出した神は土塊から作った貴様らに進化を促すための心を与えたというのに貴様らの生き方はまさにそこらの畜生そのものだであれば私が今すぐ作り替えてやる私が作った人間は貴様らのような穢れに穢れきった木偶ではない煌々と輝く希望溢れる生命体なのだ今すぐ作ろう我が理想郷今すぐ消えろ穢れた魂どもそして迎え入れよう我が理想のニンゲンたちよこの町に祝福を理想郷に永遠の平和をぉぉぉおおお!!!!』

 

あまりに早口すぎて聞き取れなかったものの、言葉の節々には尋常でない恨みつらみが込められていた。

 

「…成る程。ソレが本心か。

なんちゅうか…、ホンマ同情するわ」

「聞き取れたの?」

「要点だけな」

 

灰原の問いに、ついなが淡々と答える。

どうやら現在の町の人間に嫌気が差し、魂ごと作り替えて悪さできないようにする…というより、悪行そのものを思考から消すつもりらしい。

 

「…話だけ聞くと、良さそうだけど…、何か問題があるの?」

「大アリや。あんな理性のかけらもない状態で魂作り替えるっちゅうのは、ハッキリ言うて不可能やで。

出来上がるのは、マジにそこらの畜生と同じ獣やろうな。

…まぁ、神様からしたらそっちのがええのかもしれんけど」

 

ついなは知らぬことだが。

魂を作り替えるということは、アイデンティティそのものの崩壊を意味し、今まで接してきた人間全てが別人に変わるようなもの。そのため、基本的に管理者たる神々の間ではタブーとされている。

今回、ソレを犯そうとしている土地神が罰せられないのは、米花町の改善案がもうソレくらいしかなく、他の神々も放置を決めたからという単純明快な理由があった。

わかりやすく言えば、米花町は神に見捨てられたのである。

 

「呑まれたのは、持ち前の善性が半端に出んようにしたんやろな。

ここまで狂って善性が滲み出とるって、相当いい神様やったんやろうなぁ…。この町じゃなけりゃあなぁ…」

「そんな神様でさえ嫌気が差すレベルなのね、この町って…」

 

もしかしなくとも、自分たちはとんでもない場所に暮らしてるのではなかろうか。

今更すぎる懸念が頭をよぎるも、バケモノの暴走は止まらない。バケモノは墜落したオスプレイをつまみ上げ、中に入った人間を取り出そうと手当たり次第に振り回す。

既に搭乗員は避難していたものの、捨て駒として残っていた下っ端が、その掌の上に落ちてしまった。

ついなが即座に助けようと動くも、バケモノの体から放たれた衝撃波により、派手に吹き飛ばされる。

『生まレ河RE!!悪の恩賞カら、木亡ノ使徒に!!』

「う、うわ、わぁああああっ!?!?」

 

バケモノが掌で男を覆う。

握り潰すと言うには優しく、包み込むと言うには荒々しい所作。

ソレを固唾を飲んで傍観していたコナンは、思わず携帯を床に落とした。

 

「……は?」

 

出てきたのは、先程の男ではなかった。

作り替えられた男は虚空を見つめ、だらしなくあらゆる体液を流している。

その様はまるで、ただ佇む獣のような、人間としての最低限の知性すら見られない、哀れな姿だった。

 

「……間に合わんかったか。ごめんな」

「………何、あれ?」

「…アレがこの町の末路や。

あと一時間もせんウチに、この町におる人間は、ウチらみたいな特例中の特例除き、みーんなああなる」

 

想定していたよりも斜め上の被害だ。

戻ってきたついなは、コナンの前にしゃがみ込み、その双眸で彼の瞳を見つめた。

 

「やめさせる方法はひとつ。説得するしかあらへん。

あの神様に、人を信じる心を取り戻してもらわなあかん。その役目は、神様の力使うとるウチらやと出来へん。

コナンの坊っちゃん。こん中で1番、人の醜い部分も美しい部分も見てきとるアンタがやらなあかん。覚悟、できとるな?」

 

ついなの有無を言わせぬ迫力に負けそうになるも、コナンは怖気付くことなく頷く。

肯定を受け取ったついなは、コナンを抱き上げ、割れた窓の側に立った。

 

「えっ…?えっ?」

「しっかり捕まっててぇや!!」

 

瞬間。ゴンドラに凄まじい衝撃が走った。




土地神…めちゃくちゃ我慢してたけどとうとうブチギレた。普段は慈悲深いため、その性質が出ないように自ら狂い果てる。140年前…。一体何丸何耶なんだ…?狂い方のモデルはハイネス。

東北イタコ…全てを察してた人。取り敢えず最後の防波堤として、ARIA姉妹らとステージに立て篭ってる。尻尾を駆使して倒れた人たちをステージに運び込んだ。ベルモットも蘭たちもいる。

江戸川コナン…今回のキーマン。土地神と対等に話せる材料が揃ってるのが彼しかいなかったという理由で選ばれた。このあと6回くらい三途の川を見る。

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