イタコと方相氏にこの町は酷ですわ!!   作:鳩胸な鴨

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下ネタではありません。


怪盗キッド「イヤァァァァァァァ!!穢されるゥゥゥゥゥ!!」

「今回ばっかりはやめときなさい。いや、割とマジでやめときなさい。いや、死んでもやめときなさい」

「ど、どうしたんだよ、紅子?お前、そんな迫り方するっけ?」

 

少女…こと、小泉紅子が、普段聞かないような焦った声で、白タキシードを羽織る少年を止める。

少年の名は、黒羽快斗。

世間を騒がせる『怪盗キッド』その人であり、父の死の真相を探るために、人を不老不死にする力を有するとされるビッグジュエル…「パンドラ」と、それを狙う組織を探っている。恋に勉学に怪盗に…とまぁ、なかなかに多忙な高校二年生だ。

 

小泉紅子は、その協力者…とでも言うべき存在。赤魔術と呼ばれる西洋由来の魔術を扱う魔女であり、そういった存在にとっては魔窟である日本に住み続けている猛者。怪盗キッドとしての活動を認めている…と言うわけではないが、予言にて快斗に警告をする役目を担っている。

因みに、魔術は悪魔由来の儀式のため、方相氏は天敵である。それこそ、仲間内では『会ったら死を覚悟するか、一生を逃げながら怯えて暮らすか、魔術を捨てるかを選べ』と言われるくらいには。

 

閑話休題。

ビッグジュエルを手当たり次第に盗んでは、パンドラではない場合は返却…または、本来の持ち主に返すを繰り返している快斗。

パンドラは月に照らせば赤く輝くという特徴を持つ。それだけしか情報がなく、快斗はビッグジュエルをしらみ潰しに確認しているというわけである。

不老不死に興味があるのかと問われれば、そんなことはなく。父を葬った組織の目の前で粉々に砕くことで、組織の目的を奪うことを目的としているのだ。

 

そして今回。快斗はあるビッグジュエルに目をつけた。

その名は『月夜の涙』。月読アイが所有する、淡い紫色のアメジスト…が納められた指輪である。

 

…そう。所有者が問題なのだ。

 

世間的に認知された所有者は月読アイではあるが、本来の所有者はしがない教師。

株で儲けた金を消費するのと同時に、嫁へのプロポーズとして高そうな指輪を買ったはいいものの、嫁がそこまで高級品に興味を持たない人間だった。

見せつけるように着け歩くのも気が引けたため、仲間内で最も財力と権力を持つアイに預けることにした…というのがアイの手に『月夜の涙』が渡るまでの顛末なのだが、快斗はそれを知らない。

 

何よりまずいのは、その教師の立場である。

東北イタコ、役ついな両名も含む、約二十名ほどで構成された秘密組織『VOICE』。趣味で集まり、たまにとんでもないことをやらかす…具体的に言うとテロリストの壊滅など…大学サークルのような集まりである。

発足は凄く単純で、教師が五年に渡って担任している東北家の末妹が鶴の一声を上げ、教師に世話になった人間が集まったのだ。

 

『VOICE』は少数のため、結束力がとんでもなく強い。それこそ、誰かのピンチとなれば、SOSを発さずとも…果ては、どれだけ拒否しようが、全員が善意で圧殺するが如き勢いで助けに来るくらいには。

 

もうお分かりだろう。快斗は一部とは言え、そんな超人集団を相手にしなくてはならないのだ。

ハッキリ言えば、鈴木財閥令嬢の恋人…どう見ても人間を辞めつつある青年こと京極真の方が、まだ相手取って気が楽に思えてくるレベルである。

紅子の天敵である方相氏も、無論、駆けつけており、更にはソレすらも赤子扱いする超人が二名ほど参加している。…というより、人間ですらない。

 

予知にてその未来が見えてしまったため、紅子は持てる限りの全力で快斗を止めようとしていたのだ。

そんなことを微塵も知らない快斗は、小首を傾げながらも、着々と準備を進めている。

 

「ねぇ、ホントにやめといた方がいいって今回ばっかりは。暫くは夜中にトイレに行けなくなるレベルでトラウマになるわよ」

「夜中にホラー映画見て一人で寝れなくなるガキか俺は!?」

「もっと酷いことになるわよ。具体的に言えば嗅覚神経壊される」

「え!?何!?どう言う状況で俺そんな悲惨なことになるの!?逆に気になるわ!!」

 

怒涛の追い込みに、若干の不安と好奇心が芽生えた快斗。

これだけ言ってもやめないのだ。止めるのは無理と察した紅子は、深いため息を吐いた。

 

「忠告はしたわよ。どうなっても知らないからね」

「お、おう…。……どうしようなんか不安になってきた」

 

その不安は、きっと虫の知らせである。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「綺麗…。コレが、月夜の涙…」

「アイからしたら、綺麗なだけの指輪だけどね。アイの知ってる限りでは、コレでプロポーズする人も居たって話だよ」

 

現在、コナンたちは月読アイが所有する美術館に訪れていた。

美術館に展示された芸術品の数々に、皆が感嘆の息を吐く中。

蘭はアイと共に、ショーケースの中に飾られたアメジストが納められた指輪を見つめていた。

 

「……あれ、絶対先生の話やんな」

「…ちゅわ?そう言えば、つづみさんが来てないのは何故ですの?」

「デートやって」

 

無論、米花町に飾られると言うことは、イタコとついなも来ているわけで。

二人もまた、美術品にて目を癒しながら、雑談を交わしていた。

今回集まっているのは、イタコ、ついな、アイの三人に加えて二人…いや、『2体』。

尚、タカハシは現在、デート中の教師夫妻を揶揄おうとして、奥方の親友に折檻というのも生ぬるい罰を受けているので除外する。

 

「…で。聞きますけど、貴女たちは、なんでここに居ますの?」

「ソレは哲学的問題でしょうか?」

「ソレとも、今現在、この美術館に私たちがいる事への疑問でしょうか?」

「後者ですわよ。…わかっててかんせ…出会った当時のフリするの、性格悪いですわよ」

 

イタコとついなの両隣に佇む、少女二人。容貌は瓜二つだが、その色彩は真逆。

白をメインカラーとしてデザインされた姉のアリアルに、黒をメインカラーとしてデザインされた妹のミリアル。

 

成り立ちこそ人ではあるが、その実態は、有機生物ですらない。所謂、「アンドロイド」という存在だった。

 

「あれ?アホルーニどこ行ったん?」

「アホルーニならタカハシのアホと一緒にモアイのモノマネ大会に参加してますよ、ついな様」

「正式名称アベルーニですわよ」

「あのアホはアホルーニで充分かと」

「琴葉博士泣きますわよ」

 

今はここに居ないが、弟機として、アベルーニという青年型アンドロイドも存在する。

見事なまでにタカハシや水奈瀬コウなどの性格の悪い男性陣に影響され、とんでもない問題児になってしまった。そのため、彼を知る人間からは「アホルーニ」という愛称で呼ばれている。

 

二人が今日、この美術館に派遣されている理由は単純。

予告状を出した怪盗キッドを、二度と月読アイ周辺に近づけさせないためである。

彼女らの用途は多岐に渡る。それこそ、友達作りから兵器運用まで、かなり幅広い。霊的事象に対抗する機能さえも搭載されており、VOICE内では引っ張りだこなのだ。

 

彼女らの役目は二つ。一つは宝石の防衛。そして、もう一つは怪盗キッドにトラウマを植え付けることである。具体的には、取り敢えず思いつく限りの臭い食材をぶち込んでミキサーにかけて作った謎の液体に3ヶ月間浸した弾をガトリングで撃ちまくってトラウマにする。

考案者は指輪の持ち主である。

 

「…というのが作戦です」

「エッ…グいですわね…」

「エッ…グいなぁ…」

「今はこの小型ジュラルミンケースの中に封印しています。現物見ましたけど、頭ブッ壊れそうになりました」

「吐きかけました」

「そんなに酷いんですの!?」

「美術館でそんな最臭兵器使わなくても…」

「逃げた時に取り押さえて使う予定です」

 

なるべく、二人の正体がバレないように、言葉を選ぶイタコ。

コナンはと言うと、小五郎や中森銀三警部率いる警察と共に、怪盗キッドが寄越した予告状の暗号を解くのに夢中になっていた。

今回呼ばれたのは、コナン、小五郎、蘭に加え、鈴木園子と世良真純。園子は恋人である京極真も呼ぼうとしたのだが、「その日はテレビ番組の収録がある」とやんわりと断られた。幸い、展覧会は明後日まで続くので、次の日に合流する予定だそう。

 

鈴木園子は、特に問題ない。問題があるとすれば…。

 

「ねぇ、オーナーさん。

コナンくんたちは兎に角、なんでボクたちの他にも、高校生や中学生…果ては幼稚園児くらいの子までここに居るのかな?

今日って、怪盗キッドと対決するための場所を整えたって言ってたから、気になってさ」

 

今しがた、イタコをオーナーと勘違いして話しかけた世良真純である。

彼女は奇跡的な確率で、イタコたちとの接触がこれまで微塵も無かったため、彼女らが抱えてる秘密の危険性を全く知らない。

コナンのように、イタコやついなの能力を目の当たりにしたわけでもなく、アイの多才さを知らない彼女からすれば、当然のことであった。

また、この場にいる人間の見た目から、宝石の持ち主を完全にイタコと勘違いしている。

印象としては、発展途上な探偵…と言ったところだろうか。

イタコは笑みを浮かべながら、淡々と答える。

 

「月夜の涙の持ち主…というか、この美術館のオーナーは、貴女の言う幼稚園児くらいの子ですわよ。

私と貴女の言う中学生の子も、キッド対策として、お呼ばれしてるだけですわ」

「オーナーの月読アイだよ。分からないことは探る姿勢、アイは好きだね。

はい、飴ちゃんあげるよ。コーヒー味」

「へ!?…あ、ありがと……って、え?え!?どういうこと!?」

 

まさか、自身の母やコナンと同じく、薬によって幼児化した人間だろうか。

そんな疑念を抱く真純だが、残念ながらアイは幼児化を一度たりとも経験していない。

後で探りを入れるか、と思いつつ、真純はアリアルとミリアルに目を向ける。

 

「じゃあ、その二人は?」

「おや、私たち疑われてますね、ミリアル」

「疑われてますね、姉様。アイ様の優秀なボディガードなのに」

「とっても優秀な警備員なのに」

「自分で言うかなぁ?まぁ、優秀なのはアイが認めるけどさ」

 

流石は双子。息ぴったりである。

…因みに。完成したのはほぼ同時であるため、どちらが上か製作者ですら判別は付かないが、雰囲気が姉らしいと言う理由だけでアリアルが姉になっている。

イタコ曰く、最近はシンギュラリティを引き起こし、魂すら取得しているらしい。神も驚きの所業である。

 

「いやぁ、誰がキッドか分からないからさ」

「まだ侵入してませんわよ」

「……へぇ?それまたなんで分かるの?」

 

イタコが告げると共に、目を細める真純。

ソレも無理はない。イタコはキッドからの暗号の解読に付き合っていたわけでもなく、ただ美術品を眺めていただけなのだ。

ソレなのに、どうして分かるのだろうか。

真純は、疑いの目をイタコに向ける。

 

「魂が体に釣り合ってる人ばかりですもの。いやでもわかりますわ」

「……………えっ…と、え?」

 

しかし、その疑いは一瞬で吹き飛んだ。

コナンであれば、「あ、イタコさん本物だ」と判断するのだが、そんなことを知らない真純は、パチクリと目を丸くした。

 

「イタコさんは、コナンくんみたいに体と魂が釣り合ってへん人がおらんから、まだやと思うでって言うとるんやけど」

「……………………んんー…???」

 

それ、コナンくんの正体バレてない?

というか、魂と体が釣り合うってなんだ?そんなの見える器官って、人間にあったっけ?

ぐるぐると疑問が頭を駆け巡る中、アリアルが真純の肩に手を置いた。

 

「分かりやすく言うと、二人ともガチの方の巫女さんなのです。人を見分けるには、最適だと判断します。ね、ミリアル」

「そうですね、姉様」

「あー……、えっと、その………、あの……、そうなの…ね……?」

 

ガチの方の巫女ってなんだ。アレ、ガチとかあるのか。

知ってはいけないことを知ったかもしれない、と冷や汗を流す真純。

この業界は、霊的事象への対抗手段を持たぬ素人が踏み込みすぎると、漏れなく霊障で死ぬので、危険を感じた時点で手を引くことが賢明である。

 

そうこうしているうちに、暗号が解けたのだろう。警官たちがゾロゾロと配置につく。

指示を出し終えた中森警部が、アイへと駆け寄り、敬礼した。

 

「怪盗キッドが現れるのは、午後八時頃!

あと一時間後です!!」

「んー、分かった。ミリアルちゃん、アリアルちゃん、スタンバイよろしくー」

「「かしこまりました」」

 

アイは新しいロリポップの包み紙を開け、口に含む。

その口角は、弧を描いていた。

 

「今夜は鳩煮込み地獄釜仕立てだね」

「…アイちゃんって、こういう時は性格悪いですわよね」

「ウチら皆、性格悪いやろ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ひゃっはー。汚物にしてやるぜー」

「ボコボコにして真冬ジェットスキーのボードにしてやるぜー」

「抑揚のない声でンな物騒なこと言うなァあああああくッッッせェェェェェェエエエエッッ!?!?」

 

現在、怪盗キッドは猛烈に後悔していた。

トランプ銃で応戦してはいるが、正直、まだ水鉄砲の方が役に立ったと思う。

ミリアル、アリアルの二人がこれでもかとカラーボール…中身は先ほど述べた最臭兵器…を、マシンガン型の射出機で撃ちまくる。

美術館内は最早、惨状というのも生温い、屎糞所と化していた。

あまりの臭さに、既に美術館内には人はいない。

というのも、「後で消臭できるから」と好き勝手を許可したアイが、臭いでノックアウトする人間が出ないように計らったのである。

特に狐が取り憑いているイタコにとっては、地獄以外の何物でもない。

 

では、怪盗キッドはどうなのか。

侵入コースをアイに先読みされ、ミリアル、アリアルに出くわしたキッド。

女二人ならなんとかなる、と高を括ったのが運の尽き。二人が何処からか取り出したマシンガン型の射出機で、スカンクもビックリな臭さを誇る弾頭を撃ちまくったのだ。

無論、ミリアル、アリアルは臭い対策も万全で、十全に動ける。

対するキッドは、嗅覚が破壊されると言う前情報から、鼻栓は用意していたものの、ほぼ意味を成していなかった。

 

「なんだこれくっせ!?トイレの便器に頭突っ込んだ時みてェな臭いする!!」

「おらー、待て待てー」

「1ヶ月は外に出れない体にしてやるー」

「イヤァァァァァァァアアッッッ!!!穢されるゥゥゥゥゥウウウウッッッ!!!!」

 

抑揚のない声で迫る二人に、キッドは絶叫を上げた。

 

その後、なんとか逃げ切れたものの、1ヶ月は学校に行けなかったらしい。




アリアル…多機能型アンドロイド第一号。生みの親は琴葉姉妹。VOICE陣営にいろいろ吹き込まれた結果、愉快な性格になった。
普段は犯罪抑制には何が必要かを学ぶため、米花町でアイちゃん支援の元、高校生をしている。

ミリアル…多機能型アンドロイド第二号。アリアルと同じく。真っ黒なため黒の組織かと真純とコナンに疑われている。
黒の組織のことは微塵も知らない。知れば多分、今回の最臭兵器ガトリング持って本拠地に乗り込む。同じく、普段は高校生をしている。

アベルーニ…多機能型アンドロイド第三号。別名アホルーニ。男性陣の性格の悪さを学んでしまった結果、姉二人にもアホ呼ばわりされるくらい残念なことになった。今回はタカハシと一緒に、モアイのモノマネを六時間やらされた。普段は大学生をしている。

怪盗キッド…今回の被害者。1ヶ月嗅覚が破壊された挙句、染みた匂いが取れなかった。学校への代打を寺井さんに頼んだ際、あまりの臭さに顔を顰められたという。二度と月読アイの所有する宝石を狙わないと誓った。
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