魔法少女が仕えにきた……で良いのか? 作:段ボールのようなもの
私が高校生になって初めての誕生日から一日、私にとって少し大人になったという感覚が少しあるだけで至って普通の日常である。
クラスメイトの誕生日を祝うにはまだ日が浅かった為か昨日はクラスメイトの誰からも祝ってくれなかった事は高校生の間は決して忘れないが。
桜の花が散り葉桜になった季節の快晴の空の元、教師が授業をして他の生徒が黒板とノートを交互に見ている中私は眠気と戦っていた。
眠い、面白いくらいに眠い。
眠くなっている原因はもう分かってはいるのだ、だが分かったとてこの眠気への対処になりはしないのは重々承知である。
その眠気と言う名の誘惑に誘われた私は組んだ腕を机の上に置き居眠りをする体制になる。
今は物理の授業なのだが、今の時期の一コマくらい大丈夫だろうと自分に言い訳をした。
仕方ないのだ、昨日は大変だったのだから。
カーテンに遮られた強い日差しは居眠りをするのにちょうど良い暖かさとなり、窓際の私は完全に眠るまで秒読みになっている。
これもそうなるようにした環境が悪いと結論付けながら。
だが意識が深く沈み込む直前、右耳から息づかいと共に少女のか細く優しい声が入ってきた。
「寝たら駄目ですよご主人様。帰ったらいい事してあげますからね」
その声に意識は少し浮き上がり、言葉を理解した私は伏せていた顔を引き攣るしかなかった。
だが、このままだとまた眠気が襲って来そうなので対策として今思っている事を心の中でぶっちゃけて頭を回す事にする。
先程話していた事から分かるように彼女は自称私の奴隷らしい。私は断じて認めてはいないが。
これには深い訳があり、それを語るには昨日の夜まで戻らないといけない。
それはそれとして彼女の慈愛の籠もった笑みが恐ろしいのだが誰か助けてくれませんかね。
◇◆◇
私が覚えてない頃に離婚してバツイチなだけでいたって平凡なシングルファザーとなっている私の父親が16歳のプレゼントしたのは少女だった。
何を言っているのか分からないと思うが現実として目の前には第一印象が『悪の組織』な黒を基調とした胸や腰周りが隠れているとは思えない程に際どいスーツを着た私よりひと回り小さく腰まで伸びている銀髪が特徴の可愛らしい少女が私よりひと回り大きいカプセルとしか言いようが無い機械の中で眠っており、父親はそれをこの5月に16歳になる私への誕生日プレゼントだと言っているのだ。
現在起こっている事に対して混乱している私の頭で考える、『私の父親はこんなことをするような人間だっただろうか』と。
いや、私の父親は私が見ている範囲内では今まで平凡という文字を擬人化したような生活をしていた人間なのだ、これがもしドッキリだったとしてもこんな事をしないだろう。
ましてや本当に誘拐をする事などどのような理由があったとしてもするような人間では無い筈だ。
そうなってくると考えられるのは何者かが父親と成り代わっているか、父親が今まで息子である私にも本性を隠していたなのだが、前者は父親に変装してまで一般人である私に少女を渡そうとする理由がなさすぎる為ありえない。
だとすると考えられるのは一つしかないのだがそれが信じられず間違っているように願いながら父親に質問をする。
「えっと……お父さん、これって誘拐ってやつ?もしかして今まで何か後ろめたい事でもしてきたの?」
「ああ、お前が高校生になったというのに彼女の1人や2人を作ってなかったからな。お父さん頑張って捕まえて来たぞ。しかもこの娘は魔法少女だから少し乱暴に扱っても良いからな」
やはり残念ながら私の考えは当たっていたようだ。
それと同時に今までの常識が崩れる音が聞こえたような気がした。
しかしながらこの少女は魔法少女らしい。だが、魔法少女だからといって乱暴に扱っても良いと言う父親は結構倫理観がイカれている。
50年程前から現れるようになった不可思議な生物、通称魔獣。
この魔獣はこの世界の物理法則を捻じ曲げており、通常の兵器での攻撃が全く効かず人を襲う為、出現数がそこまで多くないものの被害は多く出ていた。
そして、それと同時にその魔獣を倒す為に現れたのが魔法少女と呼ばれる少女達であった。
魔法と称される物理法則を捻じ曲げる特殊能力を使い魔獣を蹴散らす姿に人々は見入り、魔法少女は研究の対象とはなっておらず現在のような一般人と同じ立ち位置にいる。
そんな普通の人間を超えた力を持っている魔法少女を誘拐する事は普通は不可能だろう。
現に誘拐しようとした人が返り討ちに合うニュースはそんなに珍しくない。
しかしそんな不可能をこの父親はやっているのだ。これは只の頭のイカれた人間ではないだろう。
そう考えながら私はもう一度少女へと向き直る。
父親は「催眠もさせておいたから柔順だぞ」などと悪びれる事も無く言っているからこそ私は不安と絶望がまざりながらも目の前少女を目覚めさせる事にした。
「初めましてご主人様。私は大神美奈と申します」
ああ……その言葉はクラシカルな服装で言うべきなんだ。
ましてや深夜のアニメに出てくるような女怪人が着てそうな服装はもってのほかだ。
私にはそういう性癖は無い。
「私はご主人様の所有物です。なので私をどのようにしても構いません。そして______」
目の前の少女はタレ目を細めて光悦とした表情で言う
「私のことをめちゃくちゃにして下さい」
私は目の前の現実が受け入れられずこの場から逃げるしか選択肢は残っていなかった。
◇◆◇
家から出て5分くらい経ったのだろう、私の足は自然と公園に向かっていたようで気付くと私は公園のブランコに座っていた。
夜の公園は人のいる昼間とは違い、濃い暗闇が所々に点在し、そこに何かが居るのではないかという潜在的な恐怖が落ち着いてきた私の心の中に現れ始めた。
その何かは魔獣なのだと子供でも分かるのだが。
「さてと、とりあえず落ち着いたし帰ってお父さん殴るか」
そう言って立ち上がった私はその威勢の良い言葉に反して身体を少し縮こませながら周囲を確認していた。
最終的に勝つのは恐怖なのだ。だからこそ数分前の私は訳がわからないという恐怖から逃げ、現在は自分が危険に晒されているという恐怖に怯えている。
そしてその恐怖から少しでも逃れようと街頭の灯りへと目を移していると、何かがキラリと光った。
街頭の様に自らが光るようなものでは無く、反射した光なのだろう。
そして気になったのがその高さだ。光った場所は私の身長よりも高い2m程だったのだ。
そこで私の直感が警鐘を鳴らす、このまま放って置くと危険になると言わんばかりに。
そこを見るのはやはり恐怖が付き纏っていた。
だがそんな恐怖は警鐘には敵わないようで、気付いた一瞬の後にバッと反射光の場所へと振り向く。
そこに居たのは鎌首をもたげた高さ2mの蛇もとい、蛇型魔獣だった。
今の高さが2mだから全長は10m以上はあるだろうなどという考えが一瞬頭をよぎったが、魔獣がこちらに気付いていない事に気付き静かに後ずさる考えに至った。
しかしながら不運だったのは
パキッ
踏みつけてしまった小枝が小気味よい音を立ててしまい魔獣に気づかれてしまったという事だ。
蛇には耳が無かったと思うのだが、本当は耳に該当する器官があったのかはたまた魔獣だから外見とは違い耳が存在するのかは分からないが、結果として残ったのは私の存在に気付いた蛇型魔獣の鋭い眼光がこちらに向かっているという現実だった。
その眼光を見てしまった私は最早蛇に睨まれた蛙のようになっており、背を向けて全力で逃げるという事すらも出来ずにいた。
そしてこうしている最中も徐々に然しながら確実に魔獣は近づき、行動さえ起こせば私を捕食する事は必然な程の距離にまで迫っていた。
そして動けずにいた私を襲おうと鎌首を後ろに下げて反動をつけようとしていたその時、魔獣の奥から二つの光が見えたかと思うと
魔獣の首が飛んだ
そしてその首からは血液の代わりらしい黒い靄を出していたが、出せる靄が無くなったのか首はまるで火を付けた紙のように急激に炭化していき地面に落ちる事なく風に溶けていった。
「大丈夫でしたかご主人様!!」
今までの光景を呆然と見る事しか出来なかった私はその声によって目の前の危機は去りもう動いても安全なのだとようやく気付くものの背後から聞こえるご主人様と呼ぶ声に一瞬頭が混乱してしまう。
魔法少女特有の運動神経の高さと先程も聞いた声にご主人様呼び、その正体は分かっていたのだが。
そう考えて心を落ち着かせた私はその声に答えようと振り向く。
「ごめん、大じょ……」
そこには絶世の美少女が存在していた。
ピンと上に立った耳、銀に見えるほどに煌めく純白のふさふさな尻尾、際どい服によって一部隠れているものの同じように全身に生えている毛並みが整った体毛に顔から突き出たマズル。
出逢うことは決して無いと思っていた私にとっての絶世の美少女が確かに存在していて、私の事をご主人様と呼んでくれているのだ。
「あらご主人様、やっぱり見惚れてしまいますよね。なんせご主人様の為だけにこの姿に変身出来るように博士に改造してもらいましたから」
男の視線は女には筒抜けだとよく聞くが、私が彼女に見惚れていた事にはすぐに気付いており彼女は私が疑問に思うだろう事を話してくれた。
博士というのは父親の事だろう。だが、魔法少女を洗脳するならまだしも改造を施すなんて事をするなんてどれだけの技術力を持っているのだろうか。そしてそんな技術力を持ってして変な事に使うなんて本当に頭がイカれているのだろう。
それはそうと、彼女は私の為だけにと言っていた。それに家から出ようとする前にも私の所有物なんて言っていたが……やはり聞くしかないのか。
「えっと、やっぱり美奈さんは私に仕えるメイドさんみたいな感じなんですか?」
「美奈さんなんて他人行儀な呼び方しなくても良いですよ。そうですね、大神美奈もとい魔法少女フェンリルはご主人様だけにお仕えします。何せ私はご主人様の所有物なのですから」
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