魔法少女が仕えにきた……で良いのか?   作:段ボールのようなもの

2 / 2
魔法少女が転入してきたんだが

健康的な朝の日差しで沈んでいた意識が浮上する。

昨日は玄関に着いたと共に意識を失った筈だが。というよりか昨日のあれは本当に現実だったのか?

そんな事よりも、と現在の時刻を知ろうと目覚まし時計のある枕元へ視線をやる……よりも早くベルがなった、6時になったらしい。

今日は金曜日だったなとか明日と明後日は休みだななんて考えながらモソモソと制服に着替えた後、鞄を持ち自室から出て1階に繋がる階段を降りて……一瞬躊躇う(ためらう)も誰も居ないであろうリビングへのドアを開けた。

 

「あっ、おはよう御座いますご主人様。朝ごはんできてま」

 

ドアを閉めた。

腰まで伸びている銀髪に私より一回り小さい姿、それに黒の隠れているのか分からない程に露出の多いボディスーツ。昨日見た彼女は夢でも幻でもなく確実に現在私の家に居るのである。

だが彼女はコンロの前に立って何をしていたのだろうか。

そんな事を考えているといきなりドアが開けられる。

 

「おはようございますご主人様。朝ごはんできましたから一緒に食べましょう」

 

どうやら彼女は朝食を作っていたらしい。それを聞いて視線を彼女からテーブルに移せばご飯に味噌汁、ウインナーと目玉焼きという『これぞ朝ごはん』と言わんばかりの朝食が置かれていた。

 

「さあ、早く座って座って。ご主人様の為に作ったんですからね」

 

彼女に手を引かれた私は手の柔らかさに鼓動が早くなりつつも椅子に座る。

自分の正面に座った彼女は可愛らしく、期待している彼女の視線に恥ずかしくなり視線を手元の朝食へと移した。

目の前の箸置きに丁寧に置かれている箸を手に取ると手を合わせてから白いごはんを口に入れた。

 

「普通に美味い」

 

つい口に出てしまったが普通に美味しいのである。これが普通の少女ならば料理が上手なんだなで済むのだが作ったのは変な服を着た催眠されている魔法少女という怪しさ満点の少女なのだ。

安全だと確認出来たのは口に出る程嬉しかった。

そんな安全だと確認出来た朝食を食べながらこんな状況に慣れ始めた私はふと思っていた事を口に出した。

 

「朝早かったけど作るの大変じゃ無かった?」

 

その言葉に微笑み続けていた彼女はその微笑みを絶やさないまま、

 

「ううん、この位だったら大丈夫ですよ。それにご主人様と6時間24分14秒も一緒にいられなかった方がとっても辛かったです」

 

と言いつつ朝食を食べ始めた。

うーん、これは愛が重いというやつなのか?少なくても普通の関係なら会えない時間を覚えている事は無いだろうし。それに昨日の発言からもそんな気がしていたのだ。これはいわゆるヤンデレとかいう奴で確定だろう。

そんな思考を止めて時計を見ると家を出る時刻の15分前である6時半になっておりそれに気付いた彼女は急いで朝食を口の中へ押し込んでいた。

 

「ご主人様のお見送りをするのは私の役目ですからね。顔を洗っている最中に片付けますのでご主人様は気にせず行って下さい」

 

そう言って二人分の食器をまとめて流しに運ぶと食器を洗い始めた彼女に甘えて私は返事をした後顔を洗う為にリビングから出るためにドアを開ける。

それと同時にゴンという何かとぶつかった音と硬いものに当たった感触がしてドアの向こう側を確認する。そこに居たのは父親だった。

父親は額を擦ると涙目になりながらもこちらへと視線をやってきて、

 

「お、おはよう康介。昨日は災難だっただろ、だけど美奈さんが居て助かったな」

 

「まあ、そうなんだけど中身があんなのだし、心配なんだよ」

 

そんな軽い話をした後顔を洗いに行ったのだがどうしても顔をぶつけた父親の姿が忘れられず何度か思い出し笑いをしていた。

 

 

◇◆◇

 

 

玄関で美奈さんが行ってきますのキスを求めたりしていたがなんとか断って家を出たが、それからはいつもと変わらない日常が続いていた。

いきなり襲ってくるような人間も居なければメイドのように側でお世話をするような人間も居ない。先程まで非日常を経験していた私のような一般人とってはこのような日常が一番安心できるのだ。

そんな安心を噛み締めながら歩いて登校していると黄緑色の髪をなびかせた少女が目に入る。

魔法少女にして私のクラスメイトである秋風優香(あきかぜゆうか)、そんな彼女が魔法少女として変身した姿で空を駆けているのだ。

とりあえず挨拶をすると彼女は空中に留まりながらこちらへと大きく手を振ると

 

「おはよう康介くん、また学校でね」

 

なんて言うと学校とは逆方向へと飛び立って行く。

彼女は新米とは言えど市民の平和の為に魔法少女の少ないこの地区を魔獣の脅威から守っている魔法少女なのだ、人一倍他人を気にするという訳ではない自分でも彼女には頑張って欲しいなんて気持ちが浮かんでくる。

だがそんな事は恥ずかしいからか心の中に留めておきながら歩いていると人が殆ど居ない校門へと着いていた。

誰も居ない玄関で靴を変え、寂しい程に静かな廊下を抜けて広く感じる教室へと入る。

鞄を机の横へと掛けるとその中から文庫本を取り出した。

題名は『魔法少女に干渉するにはどうすれば良いのか』。題名だけを見て魔法少女の精神構造と関係性の構築についての本かと思い買ったのだが中身は物理的な干渉方法の研究に関する本だった訳だが。

そんな本のページをめくる度に魔法少女に対して普通の人間による悪意のある攻撃が効かない事とそんな魔法少女の洗脳を成功させた父親がどれだけおかしな事をしていたのかと頭を痛めてしまう。

そして本の四分の一程読み進めた所で背後から声をかけられる。

 

「よう、康介。いつも早いよな」

 

声で誰か分かっているものの確認の為にその声のする方向に振り返ってみると、そこには私が想像したのと同じショートヘアーでガタイの良い男子生徒が居た。

 

「おはよう大輝。寝癖付いてるぞ」

 

多々良大輝。外見に違わず運動神経抜群で女子から一目置かれているムードメーカーだ。そんな彼が私にこうも懇意にしている理由はどうという事は無い、ただ彼の席が前だったというだけである。

そんな彼だが、私が寝癖の事を話すとすぐに自身の髪をペタペタと触り寝癖を見つけると手櫛で梳かし(とかし)ながら

 

「なんだか疲れてそうだな、何かあったか?」

 

なんて質問してくる。

ここで昨日あったことを全て話す事は簡単だが話した後が大変な事になってしまう。具体的に言えば自分よりも年下の少女を従えるような変態としてこれから生きていかないといけなくなるのだ。

かと言って話さないのも怪しまれて大輝との関係が悪くなりかねない。

そうなると一部だけ話してどうにか美奈さん関連については触れないようにするしかないだろう。

 

「実はだな、昨日の夜に家を出たら魔獣に襲われたんだよ」

 

なんて話すと彼は興味があったのだろう、しっかりと話を聞くために身体を前のめりにして詳しい内容を催促してくる。

まあ、基本的には魔獣に襲われたという話には魔法少女に助けてもらったという話がセットなのだ。そして魔法少女はもれなく美少女揃いである。

そこで彼が興味あるのは魔法少女なのだと気付いた時に私は後悔した。その時に助けてもらったのは話したくない部分の中心である美奈さんなのだ。ここからどうすれば彼女の事を話さずに済むのだろう。

と、どのようにお茶を濁すか悩んでいたところで助け舟となるホームルームのチャイムがなった。それが鳴ると彼は仕方がないといった感じで自分の席に戻る。

それに私は安堵してため息を吐したと同時に教室のドアがスライドされた。

そして入ってきたのは担任である若めの女性教師、彼女は何故かドアの方へチラチラと視線を移している。普段とは違う担任の行動は気になるものの今の私の心中は悩みのタネである美奈さん関連の話をどう濁すかで支配していた。

 

「えっとですね、実は今日は転校生が来ています」

 

唐突にそんな事を言われ驚きによって教室中はざわめきに包まれる。それは私も同じで驚きや期待感によって先程までの悩みは紛れて高揚とした気分になっていた。

 

「皆さん静かに。それでは入ってきて良いですよ」

 

そう言いながら彼女が手招きすると転校生が入ってくる。それがどんな人なのか確認しようと視線を移し……絶句した。

入ってきたのは少女だった。雪のように太陽光を反射する銀髪を腰まで伸ばし、この高校指定の制服を着た私よりも背が低そうな少女。

他の人はその可愛さに絶句していたのだろう、だが私が絶句したのは別の意味だった。

 

「では名前と簡単な自己紹介をしてくれますか」

 

担任が自己紹介をするように促す件の転校生は頷きながら返事をした後白魚のような指で黒板にチョークを使い名前を書いていく。一文字書くごとに人違いではないかという淡い希望は徐々に絶たれていき、彼女が名前を書き終わりクラスメイトへと振り返る頃には絶望が心を染めていた。

 

大神美奈

 

一時間程前に一緒に朝食を食べた昨日からの同居人である。

そんな彼女は少し息を吸い込むと緊張した様子も無く自己紹介を始める。

 

「皆さんはじめまして、大神美奈と言います。私は魔法少女なのですが最近は此処で魔獣の発生が多いらしいので国からの要請でこの高校に転校する事になりました」

 

そう言うと彼女はおもむろに右手を上げる。そして上がった右手は光に包まれると人間のものから少しデフォルメされた肉食獣の肉球の付いたものへと変化した。

その事象を見ていたクラスメイトを盗み見ると凄いや可愛い等の感歎の声が聞こえる中、同じ魔法少女である優香さんは真剣な表情で変化した右手を凝視していた。もしかして魔法少女だけが分かることがあるのだろうか。

そんな事を考えていると美奈さんは右手を元に戻すと話を続ける。

 

「今は親戚の康介さんの家に居候しています。私の魔獣対処地域のほぼ中央にあるので結構助かっているんですよ」

 

そんな事を私に視線を合わせながら言う。やめてくれ、面倒事は家の中で十分なんだ。

そんな事を思いながら頭を抱えていると当然の事だがクラスメイトからの視線が集まってくる。

その視線は何か言ってくれと言わんばかりの圧力があった。

そしてこんな現状を楽しんでいるのか、一瞬悪戯気が混ざったような笑みを見せた後話を続ける。

 

「魔法少女の仕事で学校に居る時間は短くなってしまいますが、それでも皆さんと仲良くしたいです」

 

そこまで言うと美奈さんは自己紹介を終えたようで、一礼すると担任は少し考えた素振りをすると私の方に指を指す。

 

「では、大神さんの席は三上君の隣にしましょうか。それじゃあ多々良君から後ろの人は一つ後ろに席を動かして下さい」

 

初めての場所で美奈さんをできるだけ心配させないようにするにはこうするのが最適解なのだろう。まあ、私としても怪しさがまだ消えない彼女を野放しにさせないようにできるから良いのかもしれないが。

そして移動によって空席となった私の隣の席に座ると周囲のクラスメイトに挨拶を交わす。

そこでホームルームの時間が終わるチャイムが鳴った。

それを聞いた担任は1時限目が他のクラスである為軽く声を掛けると少し急ぐように教室から出ていく。その姿をクラスメイトは見ることなく興味の対象である美奈さん、そしてついでの自分に視線を移していた。

美奈さんの自己紹介もあり次の1時限目まで5分もない程に短く、その間でできるだけ彼女の事を聞き出そうと自分と美奈さんの周囲には人だかりができていた。

そしてこんな状況で最初に口を開いたのは美奈さんの後ろの席の長い髪をポニーテールにした少女だった。

 

「大神さんちょっと良いですか」

 

「はい、美奈と呼んでもらって大丈夫ですよ」

 

「それじゃあ美奈ちゃん、美奈ちゃんって転校する前は何処に住んでたの?」

 

「前は東京に居ました。けど此処は前から毎年夏祭りの時に遊びに来てましたよ」

 

ちょっと待て、その情報は自分も初耳なんだが。

 

「へえ、それじゃあその時から康介君は美奈ちゃんの事知ってたんだ」

 

そこで期待の目を向けてくるのはやめてくれ。この情報は多分嘘だろうし。それに美奈さんもそんな期待の眼差しで見ないでもらいたい。

 

「あ、ああ。そういえば美奈さんは甘いものが好きで夏祭りだと綿あめとかよく食べていたな」

 

その時流れ出した存在しない記憶……なんてものは同然出てこない為その場しのぎのデタラメで会話を回していく。

 

「へえ、美奈ちゃんは甘いもの好きなんだ」

 

「そうなんですよ。あっ、そういえば綿あめを食べながら歩いていて転びそうになった時に抱きしめて転ばないようにしてくれた事もありましたね」

 

おい、どうしてそんな自分に敵ができそうな発言をするんだ。正妻アピールがしたいなら残念だが元から見せつけるような相手は存在していない、なんせ入学してから1ヶ月程しか経っていないからな。

そして男子共は自分を睨むのはやめてくれないか。昨日の事も合わせて胃が痛くなりそうなんだ。

そして睨んでいる全員がとても何か言いたそうにしているから本当に困る。

そしてその中の一人、痩せ型の男子が意を決して口を開こうとしていたその瞬間、まるで自分に助け船を出すかのように一限目のチャイムが響いた。

 

「授業も始まりますし席に戻りましょうか」

 

そう言った美奈さんの声に従うように一人、また一人と自身の席に戻ってく。

これで今はなんとか助かったけどこれが何日かは続くと考えると気が滅入ってしまう。

 

「遅れてすみません。ちょっとホームルームが長引いてしまって」

 

それから数分が経ち、クラス中が少し騒がしくなり始めた所でようやく30代の少し横幅の広い男性の数学教師が扉を開けて入室してきた。

そして数学教師は号令をかけさせることなくプリントを配り始める。

 

「では5分経ったら答え合わせをするからそれまでで解いて下さい」

 

数学の授業では始めはいつも前回の授業の復習として小テストが行われる。

内容としては前回の授業をしっかりと聞いていれば難なく解ける基礎レベルのものなのだが、美奈さんがこのレベルのだろうかと気になりながら問題を解き終わると5分経ったようで教師が生徒を指名してプリントと同じ問題を黒板で回答していた。

そして最後の問題を解く人を指名する所でこちらの方へと視線を向けてくる。いや、正確には私の隣に座っている美奈さんを見ていたのだろう。

 

「大神さん、今回の問題は解けましたか?」

 

教師は転校初日である美奈さんが解けているか心配だったようで優しげな口調で質問してきた。

 

「はい、前の学校でちょうど習った所だったので解けました」

 

だが、その心配は無用だったようでそう答えると黒板の前へと歩いていきスラスラと解答していく。

やはり美少女だからだろうか、こんな何ともない動作でも様になっていてつい見惚れてしまっていた。

そして解答を書き終えるとそのまま席に戻って来る。

その姿を視線で追う男子も多いものの私は体裁を気にして黒板に注視していた。

 

「はい、正解です。途中式もきちんと書かれてますし、授業にもちゃんと付いていけそうですね」

 

教師がそう言うと黒板に書かれた問題を消していき授業を始めようと教科書を開く。そして内容を話そうとした時だった。

遠くから聞こえるサイレン音、それと同時に携帯の着信音が隣の席から聞こえた。

携帯の着信音が気になり音のする方へと視線を移すと美奈さんが携帯の画面を無表情で眺めていたが、私が見つめている事に気づくと私に朗らかな笑みを浮かべ咳を一つする。

 

「すみませんが魔獣討伐に行ってきますね。距離はあるみたいですが皆さんは一応逃げれるように準備して下さい」

 

そして美奈さんが落ち着かせるような口調でそう言うと目を瞑りたくなる程の激しい光に包まれて変身をする。だがその姿は昨日見たあの美しい姿ではなく、手足が手袋やブーツのようにデフォルメされた狼のものとなり新たにフサフサとした尻尾とピンと立った獣耳が生えただけというあまり興味をそそられないものだった。

そして窓際へと移動し窓枠に足をかけ、

 

「ではすぐに戻ってきますからね」

 

その言葉が聞こえた直後には美奈さんの姿は消えており、残されていたのは凹み使い物にならなくなった窓枠だけだった。

その光景を眼の前にして私達は呆然としていたが美奈さんと同じように変身していた秋風さんだけは変身時の衣装の一つである軍帽を抑えながらため息を一つつくと

 

「後で注意だけはしておかないと」

 

と言って風の力で浮かび上がった後まるで見えない足場があるかのように軽やかな足取りで空中を駆けていく。

そして残された教師が呆れた口調で一言

 

「逃げる準備だけはしてくださいね」

 

とだけ告げ1時間目は自習となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。