書きたくなったので書いちゃった……。
時系列は璃月行く前。だから何日かしたら前章に移動させます。
「──ねぇユヅル!前々から思ってたんだけど、ユヅルは飛行免許を取ったりはしないの?」
「およ?いったい何かな、藪からスティックに」
「ス、スティック……???」
──ある晴れた日の昼下がり、鹿狩りの店前に構えられたテーブル席にて。
郊外の見回りを終えてきたらしいアンバーと、和やかに茶飲み話をしていると。
突然彼女がそんなことを訊ねてくる。
いきなりどうしたのかしらん?と思っていると、僕の言葉に引っ掛かりを覚えて頭をコテンと傾けていた彼女は、まぁいっか!とすぐさま
「やっぱりさ、モンドに居るからには絶対にユヅルも飛行免許を取った方が良いと思うの!だって『風の翼』を使えたら、自由に空を飛べるんだよ!?身体を優しく撫でてくれる風に、悩みがふっと消えちゃう高揚感、見たことのない上からの景色……!とっても気持ち良いんだから!」
「おぉ、ダイレクトマーケティング……素晴らしい売り込みだね。訪問販売員としての素質を感じるよ」
「ダイレクト……???ホウモン……???よく分かんないけど、どうかなっ?」
琥珀の瞳をキラキラと輝かし、テーブルに身を乗り出して、アンバーは詰め寄ってくる。
自分の好きなものを他の者にも好きになってもらおうと、一生懸命布教するその姿に微笑ましさを感じつつも、僕は言葉を濁す。
「飛行免許ねー……いや、僕も空を自由に飛べるのはいいなーと思ってるよ?けどさぁ、『風の翼』って、安全性がちょっと……アレじゃない?」
「そこはこう……慣れだよ!」
「アバウトな答え来たなぁ、おい。言っておくけど、僕は君の想像の3倍は貧弱だからね?雑魚だよ雑魚。ジャッコじゃねくて、ザッコ」
「うっ……」
すると、先までの勢いをなくしてたじろぐアンバー。
いやはや、ケチをつけるようでこちらとしても申し訳ないけど……この辺りはちょっと譲れない。ややもすれば、僕、『神の目』持ちの人たちはおろか、テイワットに住む大半の一般人よりもフィジカルが弱い気がするからね。
というのもこの前、クインやブルース、ネルソンといった酒場の常連と一緒に呑んでいたときのこと。
その内の1人であるニムロドが、押しかけてきたお嫁さんのユーリさんに、禁酒の約束を通算100回破ったとのことで、酒瓶でめっためたに殴られてたんだけど……その威力が、瓶が粉々に砕けるほどのものだったにも関わらず、ニムロドは血すら流さないでピンピンしてたの。いやまぁピンピンっていうか、半泣きではあったんだけどさぁ……そこら辺抜きにしても、ユーリさんの膂力は異常だしニムロドの丈夫さも異常じゃない?あまりの過激さに事件性感じて、騎士団呼ぼうかと思っちゃったもん。
ところでニムロドみたいな酒クズにもあんな美人のお嫁さんがいるって、テイワットってどうなってんの???僕も美人のお嫁さん欲しい。
「──で、でもでもっ!充分に気を付けていれば、『風の翼』で事故を起こすことなんてそうそうない筈だよ!わたしはせっかちだから、アレだけど……!」
「なるほど……たしかに、常に落ち着きのある大人な僕だったら、事故を起こすことはないかもしれないね……」
「ユヅルに、落ち着き……?大人なユヅル……?……ごめん、やっぱりちょっと危ないかも……」
「あれれ?」
変だな……アンバーったら、ここで発言を撤回するなんて、まるで僕が落ち着きのない子どもみたいな人ってことになっちゃうじゃないか。
「まぁ安全性云々は置いておくにしても、飛行免許を取るのに勉強しなきゃいけないってのも嫌なんだよね……僕、楽して楽しく生きたいから」
「ダ、ダメな人の考え方だ……!」
「うーん、微塵も否定できない」
「……むぅー……空を飛ぶのって、ほんとに気持ち良いのになぁ……」
「あはは、ごめんね」
やんわりとお断りすれば、アンバーはぐでーっと姿勢を崩してテーブルの上に顎を置き、不満げに唇を尖らせる。
そのあどけない仕草に、可愛いなー……と見惚れていると、卒然。
閃いたっ!と、一転表情を明るくし、ガタリと椅子の音を立てながら、彼女は立ち上がって。
「良いこと思いついた!ユヅル、案内したい場所があるから、一緒に来てちょうだい!」
僕に向け、高らかにそう告げた。
▼▼▼
──ビュウビュウと唸りを上げて、強風が身体を吹き付ける。髪や服がバサバサとはためくのを感じつつ、僕は、目の前に広がる景色に感動の声を上げた。
「おぉ……!!すごっ、モンドの街が一望できるじゃん!!絶景、絶景かな!!テンション上がっちゃう!!」
「ふふーん、でしょでしょ!?わたしのお気に入りの場所なんだからっ!」
今僕が、隣で得意気にしているアンバーと共にいるのは、西風大聖堂の上部にある時計塔の外に出た部分だ。そこまでの広さはないものの、眼下の光景を眺めるのには充分な空間を有している。なお、本当は一般人は入っちゃダメらしいんだけれど……今回は、西風騎士団のアンバーのツレということで、特別に通して貰えた。ラッキー!
「いやぁ、それにしても、本当に良い見晴らしだね、ここ!風神像が見えて、モンドの街並みも見えて、遠くには星拾いの崖やドラゴンスパインも見える!この展望加減、最早スカイツリーかも……!?よく見つけられたね!」
「えへへっ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」
「欲しがりさんめ……任せなさい!よっ、流石アンバー!慧眼が光ってる!飛行チャンピオンは伊達じゃない!モンド1の偵察騎士!ってかモンドで唯一の偵察騎士!つまりぼっちの偵察騎士!寂しい!」
「後半褒め言葉じゃないよ!?」
あら?しまった、ついうっかり、勢いだけでいった弊害が……。
「まったくもうっ、これだからユヅルは……はぁ……まぁ、いいや。それよりも本題、本題にいこう!」
「本題?え、この絶景を見せるのが目的だったんじゃないの?星屑の散らばるこの夜景を君にプレゼント……的なロマンティックなやつ。うっかり僕、ときめいてたんだけど」
「あはは、違う違う、全然そんなのじゃないよ」
「なーんだ……じゃあ、本題って?何するの?」
アンバーはにこやかに笑って僕の言葉を否定する。そして、軽やかな動きで僕の前に立ち、くるりと振り向いて──ぶつかる視線、彼女は笑顔のまま、くいっと親指で背後を指し、明かした。
「何って……飛び降りるんだよ。こっから」
「飛び降り……え???飛び……???ぼ、僕が???」
「……?うん」
「いやっ、うんじゃないがっ!?ど、どゆこと!?なになにイジメ!?」
「……?大丈夫だよ、わたしも一緒だから」
「いっ、一緒!?ますますなんで!?ヤンデレ!?ヤンデレってこと!?病ンバーってこと!?」
慄き慌てまくる僕に、きょとんと不思議そうな表情を浮かべるアンバー。その様子に僕は、どこか話が噛み合っていない感覚を受ける。
暫しの思案、そこでようやく僕は思い至った。
「──あ、待って?もしかしてアンバー、『風の翼』の話してた?」
「え?うん、ずっとそうだよ?」
「……っはぁーー……なんだよもー……そうよね、そらそうよね……焦ったー……ビビったー……」
変わらずのきょとんとした顔で肯定するアンバーに、ほっと胸を撫で下ろす。
いやー、慌てた慌てた。コミュ強の元気っ娘が実はヤンデレとかいう衝撃展開かと思っちゃったよ。ぶっちゃけそれはそれでアリだけど、流石にいきなりはね……。
「ンンっ……でもさ、アンバー。それってつまり、君に運んでもらう形で飛行体験するっていう話なんだろうけど……問題があるよ」
「問題?なんだろう……?」
咳払いをして気を取り直し、提起する。それを聞き、おとがいに人差し指を当てて疑問符を漂わせるアンバーに、僕は告げた。
「問題っていうのはね──運び方だよ」
「運び方……?」
「そう。聞くけど、君は僕をどうやって運ぼうとしてる?」
「どうって……こう、横抱きに……?」
「はいっ、そこに問題があります!」
手をわやわやさせ説明するアンバーに、僕はビシッと指を突きつけダメ出しをする。
「モンドではどうなのか知らないけど、君の言う横抱きは、僕の故郷ではお姫さま抱っこって言ってね!付き合ってたり結婚してたりする間柄の男が女の子にする行為なの!それを女の子のアンバーにされるっていうのはさ……色々恥ずかしいっ!!」
「ええっ!?な、なんで急にそんな、照れ屋さんみたいなことを言い出すのよ!いつもはふざけてるのに……!」
「シャイボーイなんだよ!」
「シャイって、うーん……わ、分かったわよ、それじゃあ普通に、後ろからぎゅって抱え込んで……」
「もっとダメだよっ!身体が密着しちゃうでしょ!もっと自分を大事にしなさいっ!」
「め、めんどくさい……!!」
小姑のごとく次々注意をしていくと、むむっと眉を寄せ困惑するアンバー。
でもこれは、大切なことなのだ。だってテイワットに住む人たちは皆総じて顔が良く、プレイアブルのキャラは更にそこから群を抜いている。そんな美形さんに、至近距離でアレコレされたら……ドキドキしちゃうでしょ!
そうして僕は、尚も注意を言い募ろうとして──近付いてきたアンバーに、ガシッと腕を掴まれる。
「………アンバー?」
「ユヅル……ちょっともう、ゴチャゴチャうるさいから……とりあえず飛ぼっかっ」
「ちょっ──!?」
勢いよく引き寄せられ、崩れる体勢。甘い匂いが鼻孔をくすぐったかと思えば、ふわりと身体が抱き上げられ。
次の瞬間には、酷く強い風切り音と浮遊感が僕を襲う。
「ぬおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!??アンっ、アンバーっ!!ちょっとアンバーっ!!ああぁぁぁぁぁっ!!」
「そんなに叫ばなくても、聞こえてるよー」
生涯味わったことのなかった、生身での空中浮遊。初体験のその恐怖に、無我夢中でアンバーの名前を叫びつつ、首に腕を回して絡ませれば、彼女はのほほんと笑って答える。なにわろとんねんっ!
「それよりさ、ユヅル。ほら、下を見てみなよ!これが──わたしの見てる景色だよ!」
促されて。
首を捻り視線を下に向ければ、そこにはモンドの街が広がっていた。ゲーム内でしか見れなかった、風神像の頭頂部に手のひら。それを囲む半円状の回廊に、広場に点在する現在は小さな人影たち。
向こうには灰の石畳に家々の赤茶色の屋根、風車、噴水も見える。
──飛んでいた。
僕は今、アンバーにお姫さまのように抱えられながらも。
空を、飛んでいた。
「……ははっ。あははははっ!すごっ、すごいよアンバー!!最高だよコレっ!!ちょー楽しいっ!!」
「えへへっ、そうでしょ!?」
恐怖を押し退けた先にある、得も言われぬ高揚感に爽快感。思わずはしゃいでいると、アンバーもまた訳知り顔で同意を示してくれた。
「百聞は一見に如かずとは、よく言ったもんだよ!『風の翼』で空を飛ぶのが、こんなに気持ち良いなんて思わなかったもん……!」
「どう?飛行免許、取りたくなった?」
「うん、取りたくなっちゃった……!」
「ふっふっふー、それならわたしの狙い通りだね……!」
答えれば、アンバーはニヤリとほくそ笑んでみせる。さ、策士だ……!
その後も僕は、アンバーと会話を続けながら空の旅を行き──段々と下がっていく高度、地上が見えてくる。
「それじゃあそろそろ降りるね?」
「もう終わりかー……名残惜しい」
「あはは、そう思ってもらえたなら嬉しいよ!……ほっ、ふっ……よっと!」
きちんと宣言してから、身動ぎや姿勢を使った細かな操作で、アンバーはまばらに人が行き交う通りへと、見事に着地せしめてみせた。
「──ふぅっ、お疲れさまっ」
「うん、アンバーこそね」
優しく腕から下ろしてもらいつつ、言葉を交わす。ってか僕、結局お姫さま抱っこされちゃってたな……恥ずい。
照れ照れしながら、久しぶりの地面にちょっとした安堵を覚えていると、アンバーが口を開く。
「ふふっ、これでユヅルにも、空を飛ぶ魅力が充分に伝わったでしょ!」
「めちゃくちゃ伝わりました……!いやもう僕、ちょっと本気出して飛行免許取っちゃうわ。空飛ぶのごっつ楽しい」
「おおっ、やる気だね!よし来た、わたしがみっちり指導してあげるよ!」
「アンバー先生……!」
飛行チャンピオン直々に指導してもらえるって、とても幸運なのでは?と、期待に胸を膨らませていれば、まずはこれを読んでねと、彼女がウエストバッグより取り出された1冊の本を渡される。緑の装丁に、翼のマークの入った本だ。タイトルは、『飛行指南』。
受け取った僕は、ペラリとその本の表紙をめくって、高まった気持ちのままにそれを読んでいき──ある程度進んだところで、さる一文が目につく。
すなわち──。
「──飲酒後は『風の翼』の使用は絶対禁止……!?」
「……?それがどうかしたの?」
「いや、さ……よく考えたら僕、お酒飲んでない日とかないから、いざ『風の翼』を使おうにしても、常時飲酒飛行みたいになっちゃうんだけど……」
「…………」
「…………」
「……ユヅル」
「……何かな?」
「お酒……辞めよっか?」
「ぜっっっっっっったい嫌です」
沈黙を破って放たれたアンバーの忠言に、僕は全力で拒否の姿勢を見せて。
「──ダメだよっ!!ユヅルは絶対飛行免許を取るのっ!!だからお酒は今日から禁止だよっ!!」
「嫌だっ!!飛行免許を取って空は飛びたいけど、僕はお酒も飲みたいんだっ!!」
「ダメっ!!」
「嫌だっ!!」
「ダメっ!!」
「嫌だっ──!!」
──かくして。
僕に飛行免許を取らせたいがために禁酒をさせようとしてくるアンバーと、飛行免許は取りたいけどお酒も飲みたいワガママな僕と、争いに必ず巻き込まれるダークライとの戦いが始まったのだった。
感想と評価、ちょくちょく頂いています嬉しいです!
でも稲妻編は、大まかな構想はできてるけと、微塵も書けてない……。多分夏くらいには始められると思うけど、気長に待ってて♡