原神ふれんず!   作:コトバノ

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第3話 騎士団本部 『や、ただの葉っぱです』

 

 ──『北の明冠』、『風と牧歌の城』、『自由の国』、などなど様々な顔を持つ国モンド。

 

 その国を守るのが、アンバーも所属する防衛組織、西風騎士団だ。

 西風騎士団は、過去のイロイロが理由で王や貴族などの特権階級を持つ事をしないモンドの、事実上の統治機構でもあり、騎士団としての治安維持などに加えて他国との外交も行っている。

 

 そんな、国の中枢とも言える騎士団のその本部に、僕は今いた。

 

 といっても、スムーズにここまで来れたわけではない。道中で鍛冶屋やお花屋、レストランなどを見つける度に一々足を止める奴がいたからだ。

 

 

 

 

 ──まぁ、僕のことなんだけど。

 

 「「アンバー、お疲れ」」

 「二人もねー」

 

 そしてここまで案内してくれたアンバーは、本部入り口の守衛の人達と和やかに談笑をしていた。

 

 なんか疎外感感じる……。構ってほしいなぁ……チラッ、チラチラッ。

 

 執拗に送られる僕の視線に気付いたのか、彼らは僕のことを尋ねてきた。

 

 「ところでアンバー、そちらの方は……?」

 「見かけない顔だが……」

 「あ、えっと彼は──」

 「──アンバーの彼ピッピです」

 「なるほど彼ピッピだったか──彼ピッピ!?」

 「ア、アンバーにも春が…?」

 「ち、違うから!あんたも嘘をつかないでよね!?まったく……。──彼はユヅル。モンドへの旅人よ。ただ色々と判断に困る事情があってね……だからジンさんに聞きにきたところなの」

 「「そ、そうだったのか……」」

 「そういうわけだから入るね?」

 「「ああ」」

 

 二人の許可を得て、中へと進む。

 

 騎士団のホールは、なかなかの広さを有していた。

 床にはチェス盤のようにタイルが敷き詰められており、中央には騎士団のものかと思われる紋章が刺繍されたカーペットも敷かれている。

 壁には、盾と二本の剣が交差したオブジェが置かれていたり、また、風景画なども掛けられていた。

 

 その合間にある扉の一つに向け、アンバーは歩みを進める。

 

 「ジンさーん、入りますよー?」

 

 そして彼女はそう声をかけながら、その扉を開く。

 そんな彼女に連れられ、僕も部屋へと足を踏み入れた。

 

▼▼▼

 

 ゲームと寸分違わぬデザインの部屋、その奥にあるデスクには、書類仕事に勤しむ美女の姿があった。長い綺麗な金髪を後ろの高い所で結んだ、パンツルックの美女だ。

 

 「ん、アンバーか。おかえり」

 

 彼女は書類から顔を上げることなくアンバーにそう告げる。

 

 「ただいま帰還しました、ジンさん!それでですね、相談したいことがあるんですけど……いいですか?」

 「相談したいこと……?」

 

 そんな彼女──西風騎士団の代理団長を務めるジンは、アンバーの言葉を受けようやく顔を上げた。

 

 「相談したいことというのは……そこの彼のことだろうか?」

 「そうです!彼はユヅル、悪い人じゃないと思うんですけど……」

 「何か問題が?」

 「えっとですね──」

 

 デスクの周りで、おそらく僕の扱いについて話し合い始めた二人の姿を眺めながら、近くの椅子に腰を下ろす。

 

 ──ジン・グンヒルド。

 

 『蒲公英(ダンディライオン)騎士』の称号を授かる彼女は、モンドきっての実力者だ。その実力は、遠征に出て

いる大団長の留守を任されるほど。ゲームでは、『風と牧歌の城』の騎士よろしく風元素と片手剣にて凶悪な魔物と渡り合っていた。

 合わせて、モンドを守る西風騎士に相応しい高潔心と真面目さを持っており、正に非の打ち所のないような人物──なのだが。

 あまりに真面目すぎるが故に要らぬ仕事を背負い込んでしまい、そして彼女も自ら進んで仕事を引き受けてしまうために、過労で倒れてしまうことが度々あったそうな。つまるところ、彼女は一種のワーカーホリックということである。

 

 うーん、恐ろしい。仕事なんて、進んでやるもんじゃないでしょうに。

 

 ……しかし、これからどうしようか。一応モンドには来れたわけだし、安全は保証されているけど……。滞在を許可してもらえるかは別問題。それに加えてお金の心配もあるし……。あれ?もしかして今の僕の状況ってヤバい?

 

 そんなことを考えながらのんびりすること暫し。

 

 話し合いが終わったようで、デスクからこちらへと向かってくるジン。歩みに伴い、結ばれた一房の金がふよふよと揺れ動く。

 アンバーはデスクの近くに立ったままだ。

 

 やがて僕の目の前にきた彼女が、その口を開く。

 

 「──さて、事情はだいたい理解している。まずはモンドへようこそ、偵察騎士に連れられし旅人よ。私はジン、西風騎士団の代理団長だ。何か困ったことや解決が難しい問題があったら、是非我々騎士団を頼ってほしい」

 「あ、これはどうもご丁寧に。わたくしこういう者でして……」

 

 胸に手を当てそう告げる彼女に、僕は椅子から立ち上がると、ポケットから取り出した葉っぱを両手で丁寧に渡す。

 

 「これは……名刺、だろうか?」

 「や、ただの葉っぱです」

 「……葉っぱ?」  

 「うん、森で拾ったただの葉っぱ」

 「???」

 

 困惑した様子のジン。呆けた顔もまた可愛いね。ちなみに葉っぱを渡したことについては、特に理由はない。

 

 「あ、それでさジン。早速困ったこと、っていうかお願いがあるんだけどいいかな?」

 「あ、ああ。だが、あまり無茶なお願いをされると流石に厳しいが……」

 「いやいやまさか、そんな高望みするつもりはないよ。ただお金と美味しい食事と可愛い女の子とそこそこ大きな屋敷とあと面白い本とかがある生活を送れれば、僕は全然問題ないから」

 「高望みはしてないかもしれないが、望みが多すぎるのではないか……?」

 「お気になさらず。……まぁそんな生活を送りたいから、手始めに滞在の許可と職の紹介状を頂きたいんだけど」

 

 顎に手を当て、彼女は少しの間黙考する。

 

 「ふむ……。そうだな、特に悪意などはなさそうだし、当然滞在は許可しよう。ただ職となると……少し厳しいかもしれない」

 「む!……そらまたなんで?」

 「すでに君の耳にも入っているかもしれないが、モンドには未だ風魔龍襲来の爪痕が残っている。モンドの皆は今、その復興のために忙しいのだ。おそらくだが、新しく人を雇い入れる余裕はないと思う」

 「なるほど……」

 

 ──これはゲームでは語られなかったモンドの状況であり、現実的に考えれば当然といえば当然の状況でもある。

 風魔龍の襲来というのは、いわば大規模災害の様なものだろう。となれば当然、その影響は一過性のものではない。建造物や商業の復興はもちろんのこと、人々には風魔龍がいつまたやってくるやもしれない恐怖や不安の気持ちが残る。他人を気にしている余裕はないだろう。それが余所者となれば尚更だ。

 

 「もし君が一定の実力を持っていたなら、冒険者になるのも勧めたのだが……ユヅル、君はどれくらい戦える?」

 「猪とタイマン張ってボロ負けするくらいかな」

 「それは……なんというか…」

 

 僕の実力に口ごもるジン。けど平和も平和な日本じゃ、大抵の人は争いとは無縁なのだ。仕方ないだろう。だからそんな目で見ないでほしい。興奮する。

 

 「あ、でもジン。戦うことは無理でも、書類仕事ならいけると思うよ?騎士団の資料の整理や帳簿付けとかにどう?人手、欲しいんじゃない?」

 

 騎士団の大半のメンバーは現在、大団長に連れられ遠征に出ていたはずだ。なればこそ当然、人手不足の問題も──。

 

 「……その、気を悪くしないでほしいのだが、流石に国に来たばかりの相手に機密を触らせるのはあまり……」

 「うーん、ぐうの音も出ない」

 

 僕のバカ、ちょっと考えたら分かることだろうに。

 

 しかし騎士団でも雇ってもらえないとなると、本格的にまずいな……。コネもツテもないから他に雇ってもらえそうなところなんてないし……。

 

 「そう不安そうな顔をしないでくれ」

 

 そんなことを考えていたのが表情に出てしまっていたのか、苦笑まじりにそう声をかけられる。

 

 「遠くからの客人をもてなすのも我々騎士団の責務だ。流石にこの先ずっとというわけにはいかないが、君が生活の基盤を得るまでは支援しよう」 

 「えっ」

 

 続く言葉に思わず声を漏らしてしまう。

 棚から牡丹餅──とは違うかもしれないがしかし、これは有難い申し出だ。や、マジで有難い。正直もう、街行く人々にに土下座してお金を借りるくらいしか手段はなかった。プライドなどないに等しい僕でも、流石にそれは堪える。

 

 「取り敢えず、一週間分のモラを君に渡しておこう。その間に観光がてら職を探してみてくれ。大丈夫、すぐに見つけられなかったとしても西風騎士団は決して君を見捨てたりはしない。気楽にでいい」

 

 そう言うとジンは、たんまりと金貨──モラが入った袋を僕に渡してくれた。

 受け取ると、ずっしりとした重みが手の平に広がる。

 

 「これだけあったら働かなくて大丈夫そうだな……」

 

 あまりの多さについそんな言葉が口から漏れてしまう。

 

 「ちょっとユヅル?ちゃんと仕事を探さないと駄目だからね?」

 

 その言葉を聞きつけ、腕を組みながらこちらを注意してくるアンバー。

 

 「じょ、冗談だよ冗談……」

 

 そんな彼女に右手をひらひらさせて冗談をアピールする。

 いくら僕でも流石にそんな真似は──する気しかしないな……。僕の座右の銘、楽して楽しむ、だし。

 

 い、いやいや、そんな恩を仇で返すような真似をしていいのか、僕。恩には恩を返すのが当然だろう?なればこそ、しっかり職を見つけて恩とこのお金を返さねばッ!!

 

 「ところでモンドに賭博場とかあったりする?」

 「働いてよね!?お願いだからちゃんと働いてね!?」

 「……」

 「ちょっと!?」

 

 アンバーの言葉を聞き流しながら袋をしまい、改めて二人に向き直る。

 

 「ジン、アンバー、何から何までありがとう。色々大変なことはあるだろうけど、頑張ってみるよ」

 「ああ、期待してる」

 「……はぁ、しっかりね?賭け事なんてやっちゃ駄目だからね?」

 

 そう言って二人にお礼を告げると、僕は執務室を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ──そして、一週間が経ち。

 

 「──ゴメン、仕事探すの忘れてたわ」

 「ユヅル……」

 

 執務室で僕は土下座をかましていた。

 

 

 

 

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