感想に高評価、てんきゅー!アガるわ……!
今回はタケノコちゃんだ!
岩の国、璃月にやって来てから、そこそこの日が経つ。
初めは巻き込まれ巻き込まれと激動の日々だったが、次第にそれも、商店街でウィンドウショッピングできるくらいに落ち着いた。そう、落ち着いた。落ち着いたんだけど、その有り余る時間を日がな費やしても見飽きないくらいに、璃月の街にある代物は、趣向優良、多種多様だった。ちょー楽しい。ちょー面白い。
そんなわけで、僕は今日も商店街に赴き、店々を巡っていたのだけれど……。
「……わぁお……」
僕がアルカイックスマイルを浮かべつつ眺める先の雑貨屋、岩王帝君グッズで溢れるそのお店には、2尾の紫の髪をゆらゆらさせながらじっくりとそれらを観察する美少女──刻晴ちゃんの姿があって。
……ど、どうしよう、めちゃくちゃ話しかけづらい。節分に恵方巻きをあぐあぐ頬張ってる人に話しかけるときくらい話しかけづらい。だってあの娘、信じられないほど真剣に岩王帝君グッズ眺めてるし……。手に取ってまで、吟味してるし……。
ってかそもそも刻晴ちゃん、アンチ岩王帝君みたいなこと言ってたから、絶対こんなところ知り合いに見られたくないよね。たしかキャラストーリーあたりで記されていたけど、岩王帝君が璃月を発ってから、璃月七星がその代役を務めるようになり、それがあまりにも大変すぎて、彼女は岩王帝君の凄さを改めて確認するようになったんだとか……。うん、会社員バージョンの追放モノみたいなお話やね。世知辛さを感じる。
……とにもかくにも、諸々の彼女に話しかけてはいけない理由が挙がってしまったので、僕は今回は彼女とお喋りするのを諦めることにする。群玉閣だとあんまり関われなかったから、ここらでお喋りしてみたかったんだけどね。まぁ、また次の機会を待つとしよう。
そして僕は、店前を離れるべく、踵を返そうとし。
お目当ての岩王帝君グッズを見つけたらしく、花が咲くような笑みを携え顔を上げた刻晴ちゃんと、目が合ってしまって。
「……」
「……」
場を沈黙が支配する中、刻晴ちゃんは手に持っていた岩王帝君グッズを、ゆーっくり棚に戻すと、またまたゆーっくりとこちらへ歩み寄り──僕の隣を抜け、通りへと出て。
振り返る僕に、ツインテールをふぁさりと手で払いながら、さも通りを歩いていたところに僕を見かけた風に、彼女は言った。
「──あら、ユヅルじゃない。久しぶりね」
「いやムリがあるムリがあるムリがあるムリがありまくるよ刻晴ちゃん」
「凝光に何かされていなかったようで、安心したわ」
「だからムリがあるって刻晴ちゃん。流せない、さしもの僕もこれは流せないよ」
「…………さっきから、君が何を言っているのかよく分からないわね。やっぱり本当は、凝光に何かされていたのかしら?」
「凝光さんへの風評被害が凄いな……というか、よく分からないのはこっちの方だって。今、こっちのお店で岩王帝君グッズ見漁ってたじゃん。誤魔化すのはもうムリだよ、諦めな?」
「……」
諌めるように言うと、彼女は暫し口元をむにむに動かして、抗抵の台詞を引き出そうとし──しかし形となって現れることはなく、やがて彼女は、額に手を当て、観念したのか大きく溜め息を溢した。
「……はぁ……不覚だわ、まさか知り合いに見つかるなんて……」
「いやそんな落ち込まなくても大丈夫だって、誰かに言ったりとかはしないから」
「どうかしらね……私は君のことを、さして知らないもの。簡単にその言葉を信じられたりはしないわ」
「なるほど……つまり刻晴ちゃんは、もっと僕のことを知りたい……僕を包み隠さず丸裸にして、身体の隅々まで探りたいってことね」
「そこまでは言ってないわ」
そこまでは言ってなかったかー……早合点しちゃったわ、お恥ずかしい。
「けど……そうね、君の人柄はたしかに知っておきたいところね。私の知り合いたちとも随分と仲が良いようだし」
「あぁ、凝光さんとか甘雨ちゃんとかね。……そーいや凝光さんって元気?群玉閣、落ちちゃったわけだけど……」
「ええ、別段問題はないわ。なんなら群玉閣を再建しようと画策しているみたいだもの。まぁ、業務に追われてそこら辺にはまだ手をつけられてはいないみたいだけれど」
腕を組み組み、刻晴ちゃんが説明してくれる。しかしそうか、もう群玉閣再建の構想を練っているのか……強い人だなぁ、ほんと。尊敬しちゃう。でも再建が始まるのは、ストーリーだと間章……主人公が稲妻に向かう手前でのことだったよね。時間軸を知れる基準なので、動きには注意をしておくとしよう。
1つ考えを固めていると、刻晴ちゃんが続ける。
「ちなみに甘雨も別段変わりはないわ。いつも通り、秘書として業務に励んでくれている。……ところでこの前、甘雨が君のことを、別に恋人ではないと弁明してきたのだけれど……実際はどうなのかしら?」
「え?ああうん、甘雨ちゃんの言う通り、恋人ってわけじゃないよ。甘雨ちゃんが僕のことをダーリンと呼んでくるだけで」
「……か、甘雨……???」
ちょっとふざけて伝えれば、愕然とする刻晴ちゃん。ごめんね甘雨ちゃん、ふざけてないと僕、やっていけないから……。今度会ったら何かしてあげるから許して。だいじょぶ、何でもするよ。何でもとは言ってないけど。
「……ま、まぁ、君たちの関係に、私が口を挟むわけにはいかないし……お互いがそれでいいなら、私としても構わないわ。ええ、構わないわ」
自分を納得させるように、刻晴ちゃんが言う。この娘、思ったよりも動揺しててちょっと草。少し微笑ましいね。
「……そういえば君は、旅人たちとも知り合いだったわね。どうやって知り合ったのか聞いてもいいかしら?」
にこにこ和んでいると、気を取り直した彼女が尋ねてくる。
「どうやってって言われても……劇的な出会いとかではなかったね。僕が働いていたところに彼女たちがやって来て、そこから話すようになったって感じ」
「あら……それじゃあ付き合いの方が長いのかしら?」
「いや、そんなに長くないよ。半年も経ってない」
「そうなの?随分と親しいように見えたのだけれど……」
「えっ、マジで!!??そう見える!?やだ、嬉し恥ずかしなんだけど……!!」
そっかぁー……!親しいように見えちゃってたかぁー……!10年来の親友のように見えちゃってたかぁー……!(そこまでは言ってない) まるで家族のように見えちゃってたかぁー……!(そこまでは言ってない)
照れ照れでへでへ喜んでいると、組んでいた片方の手で口の辺りを隠しつつ、伏し目がちに彼女はポツリと呟く。
「……私も旅人とそれくらいの仲に……」
……あら?あらら?あららら?感じますね、香りますね、百合の気配が、百合の匂いが……!そういえば刻晴ちゃんって、原作でも意味不明に主人公のこと、めちゃくちゃ気に入ってたよね……!それがここでも来ますか……!ふむ、素晴らしい……!
とはいえ、別に何かお節介したりをするつもりはない。僕は百合は眺めていたいタイプ、人工のそれは好きじゃな……いや人工の百合でも全然好きだね……。とりあえず百合だったらある程度は許せる。百合の多様性は尊重されるべきだ……!
「……ンンっ……今は君の知り合いの話は関係なかったわね。それよりも、君の人柄の方が大切だわ。幾つか質問して、試させてもらってもいいかしら?」
「ん?いーよいーよ、バッチコーイ!」
咳払いを土台に、刻晴ちゃんが話を切り替える。始まるのは人柄チェッククイズ……はてさて、彼女のお眼鏡に敵えるだろうか?
「それじゃあいくわね。まず……君はいつも、朝起きたら何をしているのかしら?」
「二度寝です」
「……それが終わったら?」
「三度寝に入るか、テキトーに街でぷらぷらします」
「……仕事は?」
「特に定職に就いたりはしていないので、基本しないです」
「今この瞬間、君は信用に値しない人であることが分かったわ」
正直に答えると、下されるなんとも冷たい結論。な、なんでだ……!?いったいどうして……!?
「ちょいちょい刻晴ちゃん、そんなのってないよ!僕のどこら辺が信用に値しないって言うのさ!」
「怠け者であるところ、時間の貴重性に気付いていないところ、計画性がなさそうなところ、堕落を享受しているところ……他にもあと数十個は述べられるけど、聞きたいかしら?」
「…………いえ……結構です……」
い、痛い……心が、痛い……正論、正論で殴られた……うぅ……。
「……そうか、僕は信用に値しない人間だったのか……今まで関わってくれたみんなも、コイツ信用ならねぇなとか思ってたのか……つらぁ……海、潜ってこようかな……」
「ちょっ、ちょっと、そこまで傷付きかなくても……私の主観でそう感じただけだし、その主観にしても少し悪い方に偏りすぎてた節もあるから、気にすることはないわよ?」
「……嘘くさい……」
「う、嘘じゃないわ……!」
「……本当に……?」
「ほ、本当よ……!」
「……刻晴ちゃんの大好きな、グッズすらも集めている岩王帝君に誓って嘘じゃない?」
「ええ、私の大好きな、グッズすらも集めている岩王帝君に誓って、嘘じゃな……べ、別に私は岩王帝君が大好きってわけじゃないんだけど!?グッズも集めているわけじゃ……!ってちょっと君!何笑ってるの!もしかして、本当はそんなに傷付いていないんでしょ!!」
ご明察、むしろ刻晴ちゃんをからかう隙を狙ってました……!顔赤くして慌てちゃって、可愛えーの、この娘。もぉ……!
「……信じられないわ!君って人はまったく……!言い過ぎたかもしれないと心配して損した!」
「……えへっ?」
「えへって何よ!」
えへっ、は何でも許される(許されない)魔法の言葉です。
「──ま、ほんとに僕は、むやみやたらと言い触らしたりとかはしないから大丈夫だよ。そこまで性格は悪いつもりはないし」
「……ふん、どうかしら。今自分がしたことを振り返ってみることね」
「からかうくらいは大目に見てよ。まぁでも、やっぱり信用ならないってんなら……そうだな、口止め料でもくれればいいよ。例えば……岩王帝君のグッズとか」
「……仕方ないわね」
言うと彼女は、不承不承といった様子で了解してくれる。けど、僕をお連れて店に入っていく彼女の横顔は、どこか満更でもなさそうで。
推しのグッズを布教するのは楽しいもんね、でもおおっぴらに岩王帝君を好きとか言えないからそんな機会はなかったんだよね、だからその機会が来てほんとは嬉しいんだよね、わかるわかる。素直じゃないんだから……。
微笑ましく思いながら僕は、刻晴ちゃんが岩王帝君グッズを選んでくれるのを待ち──5時間くらいの吟味に付き合わされることとなって、僕は過去の自らの行動を死ぬほど後悔するのだった。
この娘めちゃくちゃ岩王帝君グッズに本気じゃん……こわい……。
刻晴ツッコミ気質だから、いくらでもボケを拾ってくれるのでありがたいねぇ……。