団子食えよ   作:一億年間ソロプレイ

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スゥ~~~、イナガミ、ま~だ復活しませんかねぇ……?(サンブレイク)


閑話 とても楽しい日々

 

 生まれてから、そちらへ行ってはいけないと予感のする場所があった。

 どうして行ってはいけないのか、大人達に聞いても顔を横に振るばかりで、誰も行ったことがないのだという。いや、そもそも絶対に行ってはいけないと口うるさく言われた。

 

「あそこにはリュウシュ様がいるから行っては駄目よ」

 

 リュウシュとやらがいるから行ってはいけないと、大人たちが言う場所。

 

「気にならないかニャ?」

「止めておいた方が……」

「おみゃえだって気になってるんだろ?」

「……まぁ」

 

 隣接する村で同い年でよく遊ぶようになったメラルーと翔蟲にそう言えば、二人とも気になるという。

 よしよし、気になるのは自分だけじゃないことに気を良くしたボクは早速二人を連れて行ったのだ。

 

「じゃあ行こう! もしこわ~い奴がいたって穴掘って帰ればいいにゃ!」

 

 その発言を、出会った当初はすごく後悔した。

 行ってはいけない場所にいたのはヒト――の形をしたリュウシュだった。リュウシュなんて初めて見るのに、一目見ただけで、体の奥が「リュウシュ」だって判断していた。

 手で土をいじくっては何かを埋めて、水をやっている。攻撃的な姿勢では無かったけれど、ボクらはその存在の大きさに腰を抜かして動けなくなってしまった。

 

 隠れていた茂みが音を立ててしまい、リュウシュ特有の金色の目がこちらを射抜く。

 それだけで息が止まった。恐ろしい、怖い、――殺される。体が酷く冷えきって震えて、近付いてくるリュウシュの姿がゆっくりと迫ってきていた。

 

「わぁっ、アイルーだ! アイルーじゃん! メラルーに翔蟲もいる!」

 

 体に暖かい力のようなものが入ってきた。目は相変わらず怖いが、よくよく見れば――喜んでいるような顔をしていた。そう思った瞬間、金色の瞳と目が合いやっぱり息が止まる。気のせいだ。

 

「こ、」

「こ?」

「ころさないで、くださいにゃ……」

「えっ。なんでなんで!? 俺殺さないよ!?」

 

 これがリュウシュ様――イナヴェル様と初めて出会った頃の話だ。

 

 

 

 初め見た時は怖いと感じたけれど、イナヴェル様はなんだか話しやすい方だった。

 名前も――、恐らく初対面の時に種族名も付けてもらっていた。そんなにぽんぽん名付けをしても大丈夫なの? と思ったが、イナヴェル様は平気そうだった。

 ……とまぁ、ボクたち改め、アイルー族、メラルー族、翔蟲族はイナヴェル様の眷属となった。全員が全員とまではいかなかったが、大方はイナヴェル様の下に行くことを選んだ。

 

 イナヴェル様は不思議な方だった。わざわざ土を耕し、そこに植物の種を植えて育てる。水を引き、稲を育てるなど……農作というものに力を入れていた。

 これこそお役に立つ時にゃ! とボクたちが奮起してイナヴェル様から農作の方法を教えてもらった。鍬や隙といった農具の扱い、季節の移ろい、作物を育てるに適した土の創り方といった技術に、――なによりも皆で何かを育てるということの楽しさを。

 

 ほんの小さな種を土に植える。日々面倒を見て、水をやって、肥料をやって。種から出た若芽を初めて見た時の感動、若芽が逞しく育ち、根を張りぐんぐん育っていく。

 まっすぐ育つようにと支柱用に加工された竹を刺し、育った作物の茎を結び、葉を増やしていく。

 小さな緑の蕾が出て、そこから小さな黄色い花が出る。

 花から実が成る。水を多く含んだまんまるとした実が。

 

「い、イナヴェル様! 実りました! 実がなりました!」

「おお! これは立派になったなぁ! すごいぞぉ!」

 

 田では特にイナヴェル様が力を入れている稲が育ち、畑は様々な作物を育てていた。

 ボクたちが力を入れて育てた作物が美味しいのは勿論だが、イナヴェル様の稲を加工して作られた「おだんご」や「ごはん」というのは格別に美味しかった。ほんのりと甘く、大体のお野菜を加工した料理に合って、食事の時間はいつも楽しかった。

 

 一魔物の喜びに共感し、共にご飯を食べ、喜んでくれるような竜種なんてイナヴェル様だけなのだ。

 恐れ多くもヴェルダ・ナーヴァ様やヴェルザード様を少しでも知った今、改めてそう思う。

 ボクたちはそんなイナヴェル様が好きなのだ。

 

 

 

 

 ある日、イナヴェル様はボクと、あの時初めて出会った面子を連れられて南の山に登った。

 道は険しいけれど、不思議と魔物たちはイナヴェル様を目にすると襲ってこなかったので楽に登れた。こんな時、翅で飛べる翔蟲……たけしが羨ましくなるも、これまでやってきた農作のおかげでそんなにひいこら言わずに山頂へ辿り着いた。

 

 そこから見えた景色は圧巻、の一言に尽きた。

 イナヴェル様は夜明けの時間帯に連れ出した。行きは暗かった道が、薄明りで照らされている。

 日が海平線の向こうから出ようとしている。日々作物を照らす太陽がこんなにも綺麗に思えるなんて。これもきっとイナヴェル様のおかげだ。

 

「……あのさ、近々ヴェルダが創った場所に行こうかなって思ってるんだ」

「「「!?」」」

「そ、そんな島を捨てられるのですか!?」

「どうかお考え直しを……!」

(動揺している)

 

 イナヴェル様のいない島なんて――!?

 と思ったが、

 

「あ、いやいや違う違う! 最近新しい妹と弟が生まれたらしいからさ見に行こうかなって思ってるだけ! ちょっと見たら帰ってくるから!」

 

 その言葉にほっとした。体に走った緊張が抜けていく。

 新しくお生まれになった妹君と弟君に会う為、島を少しの間出られるとのことだ。

 イナヴェル様がいなくてもボクたちアイルー族は生きていたけれど、もうその生活には戻れないだろう。イナヴェル様の側にいるというのはこの上なく安全で、心から休める場所なのだ。

 

「だからさ、その間留守にしちゃう訳だからね? 是非とも君達に田畑や皆のことを任せたいんだ」

 

 イナヴェル様がしゃがみ、黒い目と視線が合う。優しい色がありながら真剣な眼差しだった。

 ボクたちは身を正し「拝命しました!」と、その命を受けた。

 あぁ信頼してもらえている。心を許してもらえている。そのことがなんだか嬉しい。

 

「まぁ、何が起こっても大丈夫なように結界を張っておくから安心して!」

 

 イナヴェル様が立ち上がり、朝焼けを見つめ笑う。

 

「皆をよろしく頼むよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――焼ける。草木が焼ける臭い。肉が、仲間が焼ける臭いがする。

 

 目の端に火の粉がちらつく。……あぁ燃えている。収穫をして干した稲草が。皆が頑張って耕した田畑が、汗水たらして育てた作物たちが。

 そんなもの、無駄な行いだとばかりに燃やされていく。

 

 立たなければ。ボクは、ボクは任された。ボクたちはこの島を任されたのだ。

 イナヴェル様がいない間、仲間たちを守るように言われたのだ。

 

 突然、轟音がしたと思ったら、空を飛ぶ煤けた赤い鱗の魔物がボクたちの家を、畑を、稲を焼き払った。

 爆風の余波で火の手が燃え広がる。逃げきれなかった仲間たちが涙を流して燃えていく。

 

 体の骨が折れている感じがする。左足がダメそうだ。右足になんとか力を入れて、立つ。……咄嗟に持っていた鍬で魔物を殴ろうとしたけど、その鱗はすごく硬くて、翼を軽く一薙ぎされただけでボクの体は吹き飛んでこうなってしまった。

 ……一体、どうして、こうなったのだろうか。イナヴェル様の結界が、壊されるなんて。

 

 咄嗟に出した「逃げろ」という声は聞こえたかな。ネリーとたけしは皆を逃がしているかな。

 立ちはしたものの、視界が薄暗い。耳もぼやけて聞こえてくる。

 

 でも、底から震えあがる……唸り声ははっきりと聞こえてきた。

 

 

 

 守れということは、ボクは皆を守ればいいんですよね。

 でも、守る力が足りなければ……皆を逃がせということですよね。

 ボクたちは皆を守り、魔物と対峙すればよかったんですよね。

 

 

 

 ねぇイナヴェル様。ごめんなさい。ごめんなさい。折角の力を上手く使えなくてごめんなさい。貴方から教わった術を、違う用途で使おうとしてごめんなさい。

 貴方が折角作ってくれたものを、魔物に振るってごめんなさい。その上で負けてしまってごめんなさい。

 

 

 

 ――なによりも。

 

 

 

 貴方の帰る場所を守れなくて、ごめんなさい。

 

 

 


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