皆は、運命の出会いってしたこと、あるかな?
――俺は現在進行形で会ったよ。
すっと垂れた金色の頭。根元からすくすく伸びる、緑の葉。風に靡いて揺れる――稲穂。
「運命……感じちゃう……」
何故だか胸の高鳴りが抑えられない。それは稲、穂が出始めて色付く前の状態。爺ちゃんの畑で見た奴だ。
これは何かしらのお告げなのかもしれない。さっきから脳内の琵琶がベンベコ鳴り響いて止まないんじゃぁ~!
だがしかし、収穫が出来るまではあと少しと言ったところか。今の状態を持ち出すのはちょっと不安なので穂が垂れるまで待つことにして、この場所を覚えておくことにした。
――その瞬間、脳内に流れた驚異の選択肢。
俺のスキルっつーやつで、あの稲……収穫期まで成長できんじゃね?
でもすぐに爺ちゃんから「ばっかもーん! 自分で育てるからこそ作物は美味いんじゃ! 恥を知れぇ!」と声が聞こえてきたので止めた。
ごめんよ爺ちゃん。それからありがと爺ちゃん。爺ちゃんペディアはイナガミになった今でもはっきり覚えてるよ。
てな訳でちょくちょく様子を見に行くことにしよう。快適なD○SH村生活には農作物が必要やんな……。
そしてそれを育てるための畑も。
○
実に古民家的なマイホームが出来た後、ヴェルダは去っていた。なんか「人間の形を作るコツがやっと掴めた」とかなんとか。アイツもアイツで忙しそうなんで曖昧に頷いておいた。また昨日のようにしれっと来るだろうし。
ヴェルダの助けを得て雨風凌げるマイホームが手に入った俺は、まず寝た。朝に寝たら起きたのは夜中。ぼちぼち散歩してたら
そっからまた寝たら朝に起きた。日も出ていて程よい涼しさ。これはもう畑作るしかねーな。
《 農具無き 竜が意気込み 夏のあと 》
……。そうだな、農具……、鍬も鋤も鎌もスコップも無いな。
だがしかし、いつまでも煽り倒されている俺ではない。ちゃんと代用案がある。
その名も『農具が無いなら竹を使えばいいじゃない!』だ!
いやね、金づちとかはヴェルダが支給してくれたものがあるけど、それはまた追々……。今度ヴェルえもんが来た時に頼りにさせてもらうぜ。
それよりもなぜ竹なのか。それは一重にイナガミというモンスターが竹を生やす古龍だからとしか言いようがない。
竹を咥えてぐるりと薙ぐ攻撃や、竹林を蹴って方向の急転換をしてくるとか。一番分かりやすいのはフィールド中央まで歩いていくと地面から一斉に竹を生やす攻撃だ。
原理は不明だが、イナガミは竹を生やす。
竹生えろと念じただけで隣ににょきっと竹が生えた。そうこんな風にね!
Foo! これが本当の「竹生える」だぁ!
知ってるか? 竹は硬い。でも俺が格好良くシュパッと手刀で切ると柔らかい……。
違う違う、普通に竹は硬いから土を耕すくらいはできるんじゃないかって話だ。多分こんなこと考えてたら「鍬を使わんか! 鍬を!」という爺ちゃんの声が聞こえて……聞こえてきちゃった……。でもごめん、俺はそれでも畑を竹で耕してみたい!
《田夫野人~……》
そう思っていた時期が俺にもありました。
普通に苦行。
農具の大切さを知った。
体力のスタミナはあるんだよ、スタミナは。精神のスタミナが先に切れちまった。
ひたすらちまちまちまちま狭い範囲しか耕せないのでモチベーションだだ下がり。
畑予定地の半分で諦めて、島中駆け巡って遊んだ。家に帰ってきて作業途中の畑を見てうんざりした。
でもこのまま引き延ばすのも何だかという思いで半分耕して……地面に倒れた。家のすぐ近くに作ったはいいものの、家まで立って歩く気力がありまへんて。
「……いつ見ても綺麗ですなー」
《星空にこそ~ 星王竜の宮ぞありける》
「へー……。ヴェルダは空に住んでんのな。もうそれ位じゃ驚かないぞ」
《地に住まう竜とは 無様なり》
「お前ずっと悪口しか言わないのな!? 流石に傷付くぞ!」
ベンベケベンベンベンで誤魔化そうとするなや。うるさいと思うのはこっちなんやぞ。騒音で訴えてやろうか!
あー、あー! すっごくうるせぇ! 琵琶の弦切れてるんじゃないか!?
もうマジ病み……。琵琶法師つらたん……。家帰って寝よ……。毛布しかないけど……。
そそくさと立って家に入る。
若干肌寒い夜ではあるが、毛布一枚で大丈夫そうだ。
木の床は堅く、速攻で毛皮か何かが欲しい。いざとなればヴェルダにベッドの注文も辞さない。
毛布を被って寝る。もう琵琶の音も聞こえないし、絶対疲れてるので寝れる筈なのだが、眠れない。
(やっぱ死んじまったのかなぁ……。死んじまったんだろうなぁ……)
恐らく死んで? あの女神様にぐだぐだ言って? そしたらこの島にいた訳だ。
友人の佐々木がよく読んでた流行りのラノベ、異世界転生ってやつそのままなんだろうな。
ある日突然死んだ社畜のサラリーマンとか、高校生が異世界で転生して人生をやり直したり、ハーレム作ったりってやつ。
俺もよくよく考えればそんな状況な訳だ。佐々木が体験したらきっと興奮して「ステータスオープン!」とか言っちゃうんだろな……。俺もラノベは読んでた方だけど、異世界系じゃなかったし……。
(でも記憶持って転生ってつらたんな気がする)
そこが一応現代と変わらないならまだしも。ここみたいな魔素とかスキルとかが普通に横行してるような世界で、かつ……多分…………考えたくもないけど……。
ヴェルダからの言葉じゃ、まだ『人間』っていう種族はいないというか、神話で言うなら創世期近く?
そんな時代に転生しても……分かるだろ……?
(普通さ? なんの取り柄も無い俺が転生出来てんだから、もっと違う人とかが先に転生してさぁ?)
(――日本食とか開発してくれるんじゃないの?)
醤油、味噌、そして何よりも……米。
きっと記憶を持って転生したなら日本食が恋しくなる筈だ。……転生してきた人が日本で住んでる人なら、だけど。
俺より先に転生してるんならきっと開発してくれてた筈なんだよ。
でもさぁ、それが無い訳じゃん!? 俺が最初期っぽい訳じゃん!?
人間がいないってそういうことじゃない!?
しかもこの世界じゃ竜って腹が空かないみたいだし、それこそヴェルダが人間を作ってそこに誰か転生するまで日本食を…………待てないんだよなぁ! この野郎!
稲見つけちまった時に想ったんだよ!
白米食いてぇ!!!
そんな切な願いすら叶わないのがこの世である。誰も日本食を知らない……。
俺だけが日本食を知っている世界……。
あれ、なんだかどっかの漫画で聞き覚えのあるタイトルだな……。
そうじゃん。日本食に加えて漫画もゲームも無い。俺が暇な時に時間を潰していた娯楽類全てが、無い!
だからDA○H村生活とかで気を紛らわそうと直感的に考えてたんだ。それに憧れてたのもあるし…………。
……いや、それよりも。
続けようとして止めた。
○
あれから一週間は経った。ヴェルダが来ることもなく、俺は着々と畑づくりを進めていた。
畑は気合を入れてふっかふかの栄養分をたっぷりにする為にありとあらゆる肥料になりそうな物をピックアップして詰め込んだ。その隣には川から地道に竹で土を掘って作った水路。
そう水田だ。これはあの川辺の稲から種を持ってきてここの畑に植える計画である。
家から少し離れた所にも新しく畑を作った。そこは家庭菜園で手の届きそうな物を植えていく予定だ。
その為に植物が群生して生えている地帯、即ち森。そこへ出かけようとした時である。
あの圧と……琵琶の音、それから何やら妙な感じがして、ヴェルダナーヴァが家の前に降りてきた。
妙な感じは……ヴェルダの後ろにいる羽の生えてる人間からだった。なんだろう、イメージを言うなら天使的な?
「やっほヴェルダ。その後ろの人達は?」
「よく聞いてくれたね。ボクが初めて作れた種族――“天使族”さ。この子達はその始まりの七体という訳だ」
「はえー……。こんちは~」
挨拶をしたが軽く顔を傾げられただけだった。
えっ……、俺初対面からそんなに好感度低いの……? 知らない奴でも挨拶されると反射的に返さない? あ、返さない方ですか……そうですか……。
「ただ難点なのが、今はまだ自我が薄いんだ。だから、今は僕の身の回りの手伝いをさせて自我の芽生えを待っているんだ」
「自我が薄いのかー……ん?」
よっしゃ、挨拶返されなかったのは好感度が低いうんぬんの前に挨拶ということを知らない可能性が――。
しれっと言ってるけどええええええ!?!?
なんでそう粘土細工作ったから見てみたいな軽い感じに種族を作るの?
ヴェルダだから? ヴェルダナーヴァが世界を作ったからですかそうですか……。
落ち着け俺。スーハー……。深呼吸だ深呼吸……。
「じゃあ改めまして、俺はイナガ……イナヴェル。ヴェルダナーヴァの……」
――あれ、俺って弟なの? 弟って認識なのか?
でも俺また弟かよ。何か癪だな。
「ヴェルダナーヴァの友じ「待とうか」なんだいヴェルダくん」
掴みかかられたので咄嗟に手を掴んだ。互いに譲らぬいい勝負――なのは俺の願望であって。
実際はヴェルダの方が力は強いので俺は押され気味だ。ぴえん。
「君はボクの兄弟、弟だって言った筈だよね」
「なんか弟って称号は癪だからつい……。それに竜の形見てもどこも兄弟じゃねーじゃんか」
「これが……悔恨と憤怒か……。キミには毎度驚かされるよ」
弟嫌です! 逆にヴェルダが弟でも嫌だけど!
だったら俺達の関係を現すに相応しい単語はただ一つ!
友人関係それだけだァ――!
「いいかい。彼はボクの弟だからね、確実に覚えておくように」
「「「了解しました」」」
「ひぃん! 外堀埋められてる気がするゥ!」
つかみ合い勝負は無事ヴェルダが勝利し、倒れそうになった所を支えられた。あらやだ紳士的。
でも弟扱いは許さんぞ。許さないからな!
無駄な抵抗もそこそこに立話もなんで、ということで家に設置された縁側に座って話す態勢に。でもあの七人の天使とやらは座らず、立ったままじっとこちらを見つめてくるばかりだ。怖いんですけど。
「あのー……、まだ縁側にスペースあるんで良かったら座って……」
一斉に首を横に振られた。ねぇ、これ本当に嫌われてない? 俺嫌われてるんじゃないよなヴェルダ??
じっとりとヴェルダを見てもそっちも軽く首を横に振るだけだった。
「ちょっと忠誠心を強くし過ぎちゃったかなって」
まるで「お菓子に砂糖入れ過ぎちゃった♡」みたいなノリで言うもんだから口を閉じた。
「天使族、今はボクの指示に忠実に従う種族だ。けど、いつかは自我が目覚めるってボクは確信している」
「自我かぁ……」
いわゆる指示待ち人間ってヤツなのか? ちょっと俺にはそういうこと分かんないから……。
そうだ、琵琶法師にパス。
《あまりにも無用ォ~》
畜生! でも分かったぞ。天使たちよりこいつの方に俺が嫌われてることがな!
《今更ァ~!》
琵琶法師に嫌われてるのは確定だが、まだ天使たちには嫌われてない。そう思いたい。
この件はそれで片付けて、気になったことをヴェルダに聞くことにした。
「それはそれでいいんだけど。この人達に名前あんの?」
「勿論あるとも。左からフェルドウェイ、ザラリオ、オベーラ、コルヌ、ディーノ、ガラシャ、ピコ、だよ」
名前を呼ばれた順に頭を一回下げた。でも無表情。
それでも一応顔付きとか髪型とか体格とか、外見はかなり違っている。だからこそ、皆同じ無表情なのが怖いんだよ。
フェルトウェイさんは白髪で、ザオリクさんは黒髪で神経質そうな顔だし、オペラ……さんは美女だし。それからコルクさんにピーノさん、ガラシャさんにピコさんも体格が良かったり、はたまた幼女だったりと個性豊かなメンバーっぽいのに全員無表情。
「フェル
「ちょっと違うかな。もう一度言おうか。フェル
あ、全然間違って覚えてた、ハズカシー。でも今度こそ覚えたぞ。
「これからボクは天使族以外の種族も作ろうと思うんだ。それで、忙しいボクの代わりに彼らを遣わせる時があるからね。間違っても攻撃しない様に」
「分かったー。今回はそれだけ?」
「いいや。君と話がしたくなって、彼らの紹介ついでにやってきたのさ」
「へぇー」
それからヴェルダと畑について話した。
そして 俺は 農具を 手に入れた!
同時に 製鉄技術も 仕込まれた!(体の節々が痛い)
団子までの道が遠い……遠くない?