此方は、偉大なるタイプムーン様の作品群、Fateの二次創作。
オリ鱒オリ鯖でのオリ聖杯戦争となります。
当然、原作設定の元に作られた創作なので、
原作の設定に出来る限り従って物語を進めて行こうとは考えていますが、
原作設定との相違等が起こっても生暖かい目で見ていただければ幸いです。
「……ふむ。」
イギリス。魔術協会の総本山、時計塔の地下施設にて、
慌ただしく魔術師たちが駆け、その『想定外』の対応に追われている中。
男は一人、赤いランプの明滅を見つめて、顎をさすった。
「ミスター。どうかしましたか。」
慌ただしく駆けていた男の部下が、様子の変化を読み取って、背中から声をかける。
「いや…何。既に出た疑問が、今一度頭を過っただけだ。」
視線だけ声をかけた部下に寄越し、今一度顎をさすって、部下の問いへの答えを返す。
「6人では、やはり『聖杯戦争』には足りないのではないか。ってな。」
幾度となく聞いた問いに、部下は幾度となく男の耳を通った言葉を今一度、口にする。
「……ロードの話に依れば、このような『亜種聖杯』であれば、
マスターの数が少ないことも起こり得るのではないか。と。
…今は、その異常より『観測』が利かなくなった方が問題です。ミスター・デイヴィス。」
「……分かってる。が、見ての通り俺にはどうしようも無いんでな。
……聖杯戦争の正体について、思いを馳せる程度は許してくれ。」
男…魔術師、ジョン・デイヴィスは、仕方ないだろ、と言った風に両手を振って、
部屋の中央に設置されたモニターへと目を移す。
モニターは白黒の砂嵐しか映して居らず、『何故接続が切られたのか』。
この場にいる誰も分かっていない、と言うのが現状だ。
部下は既に諦めているデイヴィスの顔を恨めしい目で睨んでから、その原因の究明へと今一度駆け出した。
「……此処まで用意周到に意図を隠したんだ。……んな中途半端な儀式でお前は終わらせないだろ。」
ぽつりと、そう呟いて。画面の先の世界。否、世界を支配する『神』へと、
デイヴィスは自分の『確信』を投げかける。
…が、此処までその結果が予測出来なかったのは事実であり。
その言葉すら、デイヴィスなりの負け惜しみであった。
「………さて。どうしたもんかねえ。」
─────────────────────────
極東の地の地方都市、冬木にて。
『聖杯戦争』なる大規模な儀式があったらしい。
『座』より来たるは七騎の英霊。
各々の時代にて名を馳せた彼らによる覇を競い合う殺し合い。
生き残った陣営には、万能の願望器、聖杯が与えられる。
……幾度となく繰り返された、その聖戦は。
一度の勝者も出すことなく。静かに終わりを迎えたと言う。
階層都市トウキョウ。
人口は30万人程。
位置するのは。
─────『東京都上空200m』。
巨大な資源供給エレベーターと10本の柱によって支えられた巨大な円柱の中に配置された都市だ。
内部は合計3つの階層に分かれており、
1層は居住区。大量の民家がその巨大空間を占め、
2層は商業区、学園都市を大半とし、中心部に高級住宅街を持つ。
3層は貯水湖、また森林や畑、農場が占めている。
足りない資源は資源供給エレベーターにて補給され、
30万の人が何不自由なく暮らしている、SFに登場するような近未来都市。
そんな都市の一角にて、掲げられた『近未来』の看板に正面から泥を塗るような噂が語られた。
曰く、都市が寝静まる丑三つ時、大量の幽霊が天蓋近くを飛んでいる。と
曰く、居住区にて、人がいつの間にか消える『神隠し』が起こっている。と
曰く、夕日に照らされる学園都市にて、青い人魂が舞っていた。と
曰く、『燃える男』が商業ビルの屋上に見えたのだ。と
…既に被りが見えたが。
似たような噂が1つ2つ4つと並び。
誰が呼んだか『階層都市の七不思議』。
噂に語られる丑三つ時の幾らか前にて、
1人の女が。その中の一つとの会合を遂げていた。
女の名前は五十嵐 ナナ。相対するは七不思議が一つ、遥かな亡霊。のちに『百鬼夜行』と語られる一騎の使い魔。
如何に逃げるか如何に倒すか。或いは語らう仲となるか。
─────遥か過去に消えたはずだった大儀式。
『聖杯戦争』が、今一度幕を開けた。
─────────────────────────
階層都市トウキョウ、第2層南西部。
トウキョウ内唯一の図書館の中に、彼女は居た。
伸ばしっぱなしの癖っ毛で目線がほぼ隠れ、
服装も体のラインが見えないダボついたセーターとスカート。
見るからに人付き合いが苦手そうな雰囲気を纏った女は、
テーブルの上に大量の読了済みの本を置いて、巨大な山を築いていた。
女の眼は青く輝き、手元の一冊の本を器用にパラパラとめくりながら、それを注視して。
暫くしてから、ぱたん。と本を閉じて、眼前の本の山にまた一冊、重ねる。
一冊を『読み終えた』ので。女は小休止として窓の外を一瞥する。
外はすっかり天蓋と天蓋の間から差し込む夕陽に染まっていて、
今からこの山を片付けなければ、閉館の時間に間に合わないと言うことを、
女は自らの経験から察していたので、すっと席から立ち上がり、
5冊ずつ山から掬って、記憶を頼りに本棚へと戻していくことにした。
テーブルの上の本が粗方片付いた頃には夕陽も見えなくなり、
街灯のみが商店街を照らしていた。
この時間になれば、商店街の店は大抵が暖簾を下げて、1層の居住区へと皆戻り始める。
代わりに2層に残る店の灯りは居酒屋であったりキャバクラであったり。所謂夜の店程度のもので、
昼間とはまた違った喧騒が街を包むようになるのだ。
この変遷は女にとっては見慣れたもので、多少の安心感さえ覚える物であった。
女は静かに司書へと礼をし、図書館を後にした。
トウキョウの夜は肌寒い。
秋めいて来た今日と言う日には、吐いた息が白くなる程度には冷え込んでくる。
今年もそのような時期かと、女…五十嵐ナナは手と手を擦り合わせる。
早いところ家に帰らなければ、風邪でもひいてしまうと、
駆け足で2層南西部から1層へと移動するエレベーター広場へと向かった。
─────────────────────────
「ただいまーーーーーー。」
家の玄関に駆け込み、靴を脱いで暖房の効いたリビングへとアクティブに入り込むと同時に、
一気に空気が抜けたように木の椅子に腰かける。
その一連の動作を見て、夕飯の用意を終えていた母親は苦笑し、
「おかえりなさい。また一日図書館に居たの?好きね。貴女も。お父さんに似たのかしら」
「それはそうだけど、絶対母さんにも似てる。
速読は母さん譲りだもん。しっかり私は母さんと父さんの娘だよ。」
「ふふ、そうね。」
そこまで会話した辺りで、玄関から扉の開く音が聞こえ、
「ただいまー!」
と父の声がする。母と私はリビングから顔を一緒に出して
「おかえりなさい」
と二人重ねて言った。
ナナの家族は父親、母親の2人と、兄が1人。
合計4人の一般的な家庭だ。
兄は別件で地上に降りている為、現状はこの3人が家に暮らしている全員となる。
ナナが図書館に入り浸り、その図書館の館長たる父はナナの少し後に家に帰る。
すると、丁度7時半くらいの時間になるので、その時間に全員で夕食を取るのが日常である。
その後はシャワーを浴びて、眠りにつくだけなのだが……今日は少し事情が違った。
10時、シャワーを済ませて、髪を乾かした辺りで、ナナは異変に気付いた。
(………あれ。スマホが無い)と。
何処にあるのか、と暫く思案し、候補を一つ思いつく。
図書館だ。つい数時間前まで居たのだし、今日は其処以外には行っていないのだから、
当然と言えば当然なのだが。
普通であれば、図書館には既に鍵がかかっているので諦めるのだが、
ナナは少し事情が違った。
「父さん、図書館に忘れ物しちゃったんだけど、鍵って借りれる?」
父は片手に持ってた本を机の上に置き、此方に目を合わせ
「ん。何を忘れたんだ?」
「スマホ。取りに行きたいんだけど。」
「ああ。分かった。暗いから気を付けるんだぞ。」
す、と棚から鍵の束を取り出し、差し出してきた。
父の図書館は存外警備が緩いので、偶にこう言った融通を利かせてくれる。
「ありがと。それじゃあ行ってくる。」
鍵を受け取り、寝間着の上からコートを羽織って外へと出た。
……この判断を、私は強く後悔することになるが。
…回避しようがなかった。とあえて言おう。
非日常の危険なんて、私には想像しようがなかったのだから。
─────────────────────────
図書館のガラス扉に触れ、暗い中でどうにか鍵を差し込み、くるりと回す。
かちゃ、と音を立てて、ガラス扉は素直に開いて、その隙間から図書館の中へと入り込む。
やはり、と言うか、当然というか。
図書館の中の電灯は全て消え、暗闇がその空間を満たしており。
カーテンは閉じていて、月明りすら差し込まない本当の闇が其処にはあった。
流石にこんな闇の中探索は出来ない。と思いたいが、あいにく私は電灯の位置を知らない。
なので仕方なく。その暗闇の中で自らの夜目だけを頼りに歩き出した。
瞼を閉じて、『本を開く』イメージを脳内で想起する。
皮の表紙がテーブルへ付くのと共に、身体中の神経が大きく切り替わった感覚。
…瞼を開けば、先の闇は嘘であったように。
暗くはありながらも置いてある物全てがしっかりと認識できるようになる。
ナナはこれが『それ』だと認識出来てはいないが、
所謂『暗視魔術』。眼の中に魔力のフィルターを作ることで、瞳孔に入る情報をより精密に判別出来るようになる。
その他にも視力の増強、意識の任意加速等、様々な要素を同時に内包するその魔術を、
ナナは『速読モード』と称し、無意識下にて行使している。恥ずかしいので口には出さないが。
それを用い、どうにかこうにかナナが本を読んでいたテーブルの元まで辿り着く。
机の上にはスマホがそのまま放置されており、自分の予想が正解であったことに安堵しながら、
拾い上げ、持ってきたポーチに入れた。
その辺りで、違和感に気付く。
暗視魔術のせいで見にくかったが、本棚を5,6つ挟んだテーブルから、温かな光が見える。
所謂ランタンであったり、ろうそくのような炎特有の暖色の灯り。
そして、人の
この図書館の中に、ナナ以外の人間が居るはずが無く。
もしも誰かがいるならそれは泥棒であったり、押し入った強盗であったり。
『そう言った類の相手』であることが確定的な訳で。
流石に見つけたのであれば、注意の一つや追い払いでもするべきなのだろうが、
残念ながら此方に居るのは運動不足の女一人だ。
相手がそう言った類なのであれば、此方が危うい。
冷静に考えれば、逃げるのが正解だ。静かに息を殺して、
入口を音を殺して開けて。そのまま出ていくのが一番だ。
でも、振り返れば、この時の私は冷静じゃあなかった。
夜の図書館へ入ったと言う事で、少し気分が高揚していたのかもしれない。
一人の人間としての恐怖心に好奇心が打ち勝ったのかもしれない。
……何を思ったのか、私は近付いてしまったのだ。
足音を殺して、息も潜めて。ゆっくりとその灯りへと。
本棚の影から、顔を覗かせて、その灯りの正体を探らんと目線を走らせた。
……驚いた。
中世のヨーロッパからそのまま持ってきたかのような古ぼけたランタンの灯りを頼りに、
一人の男が。一冊の本を読んでいた。
如何にも強盗や夜盗と言った目立たない服装ではなく、
まるで劇場に立つ役者のような。かつて栄華を極めた貴族のような、黒いスーツに身を包んでいる。
それだけでも、現代…トウキョウ内ではかなり目を引く格好なのだが。それ以上に。
─────赤く濡れ、狂ったように笑った仮面と、異様に伸びた、鋭い爪に意識の大半が持っていかれる。
それは……まるで、舞台や伝承に語られる『怪人』のようであり。
この出来事が、怪談として語れるような『非日常』であることを私に伝えるには、十二分な衝撃であった。
此処に居てはダメだ。あの怪人は。関わっていいものでは無かったと。
私は出来るだけ静かに、怪人から視線を外し、足音を立てずにその場から離脱しようとする。
が、それは叶わなかった。肘が本棚に当たり、がた。と音を立ててしまったのだ。
血の気が引くのを感じる。心の底からの恐怖と、先の決断への後悔が溢れ出る。
「─────」
息遣いが聞こえた。
怪人が私に気付いた。
私は本棚の後ろに隠れているが。
確かに今、怪人は此方の存在を認知し、此方へと視線を投げている。
ざ。と。床に敷かれた絨毯と椅子が擦れ合う音。
それに続いて、革靴の足音がどんどんと近づいてくる。
まずい。まずい。まずい。
心臓が高鳴る。身体中の神経が警報をあげる。
魔術によって加速した意識の中で、自分がどうするべきかの結論を得ようと必死に思考を走らせる。
結果、得た結論は。普通に考えれば、当たり前のことであった。
「………ッ」
息を吸って、立ち上がり。怪人に背を向けて走り出す。
此処は2層、商業区だ。外へ出て少し走れば、繁華街へと辿り着ける。
幾ら日の終わりが近いこの時間と言えど。繫華街まで行けば人はいるはず。
そう考えて。私は必死に駆けた。
その私の姿を見て。怪人は仮面の下の口を開き、呟いた。
「─────嗚呼。見て。見てしまったのか。」
怪人は俯き。わなわなと肩を震わせて。
「いけない……いけない。醜き我が姿を見た者は最早………」
続く言葉を口にする前に、怪人は凄まじい膂力で此方へと迫ってきた。
人間の域を超えた跳躍。文字通り人外の速さでの突進。
後ろ目にそれを確認した私は。迫り来る『死』に対し、
一歩横へと跳躍することで、寸でのところで、振り下ろされた爪を回避する。
空を切った凶刃は絨毯を大きく裂き。その下に敷かれたコンクリートへと突き刺さる。
……如何にしてその爪で本を傷つけずに読んでいたのか。と。下らない思考が頭を過るが。
続いて身体を走った痛みがその思考を根本からひっくり返す。
腕を掠めた爪によって、気付かないうちに浅い傷を受けていたのだ。
幸か不幸か。その痛みが私の思考を走馬灯から現実へと引き戻した。
跳躍から着地すると共に、身体中のバネを用いて前へと駆ける。
怪人は突き刺さった爪をどうにか抜き。走る私の後を追う。
が。爪を抜くまでのタイムラグは大きく。
どうにか私は入口の扉を押し開け。外に出ることに成功した。
…そのまま駐車場へと躍り出るが、周囲に人間の気配はない。
ならば此処では止まれない。息を整える暇も無く。私は必死に門の場所まで駆け抜ける。
息は途切れかけだが。このままなら間に合う。
門さえ出れば大通りだ。人の眼に私の姿を入れられる。
こんな悪夢とも、それでさようならだ。
………だが。その時。私の動きは、まるで全身に糸を巻き付けられたかのように。停止する。
一瞬、原因が分からなかった。私は必死に逃げようとしたはずだし、全身全霊を以て駆けていたはずなのだ。
なのに。『何かに引き戻されることなく、自分からその場で立ち尽くすことを選択した』ことに驚愕した。
立ち止まった私に。ゆっくりと怪人が近づいてくる。
そこで、ようやく私の脚を止めた物の正体に気が付いた。
─────歌声だ。
「【La──────────】」
…それは。人の理を越えた、余りに。余りに美しすぎる歌声だった。
聞いている私の心に、違和感なく入り込み。掌握し。
『もっとその歌を聞きたい』と言う欲と『早くこの場から逃げ出したい』と言う理性を乖離させた。
その結果がこの止まった足なのだろう。幾ら命令しても、足はそれに答えようとしない。
「…………ぁ………」
恐怖心と憧憬が入り混じった異様な感情が心臓を支配し。脳髄を揺らした。
…動けない。冷や汗が頬を伝い。地面に落ちる。
怪人は一歩一歩。ゆっくりと私に近付いて。歌を止めて呟く。
「【君は二度と歌わないのだ。……ならばせめて。微睡む君へ私は歌う。】」
声そのものが魔術であるかのように。歌で無くとも。怪人の紡ぐ音は私の身体を縛り付けた。
死の覚悟等出来てはいない。何故図書館に怪人が居たのかさえも分からない。
彼が何故私を殺さんと迫るのかすら。分からない。
私はただ目撃しただけだ。私はただ知っただけだ。
だが。生き残る術はない。
……残酷な事実が。目の前に迫る。
そう自覚してしまうと。どうしようもない感情が心の奥底より表出する。
「…………ぅ……ぁあ………あああ……」
嗚咽が漏れる。何故私が。何故。何故。と。
力が抜ける。叫びたいが。異形の感情がそれを抑え込む。
怪人は。咽ぶ私を正面から見下ろしながら。見守っていた。
絶望の淵。心が壊れる瀬戸際。
……焔が走った。
『─────少女よ。好奇心と探求心にて我が身滅ぼさんとする少女よ!』
頭の中に、声が響く。何処からかも分からない、誰かの声。
怪人のそれとも、他の知っている人間の誰ともつかない。男の声。
『私の名を呼べ!さすれば君に私の力を貸そう!!』
右手の甲より、凄まじい熱を感じる。
じゅう。と言う皮膚が焼ける音と共に。其処に『何か』が刻まれた。
凄まじい痛みが身体の芯を襲い、怪人への魅了を一時的に塗り返す。
「…………っぅ」
怪人は、私の右手の『何か』を見て、息を吞んだ。
何かを警戒したのか、跳躍し、私から距離を取りながら。
『契約の準備は終わった!今君の中に浮かんだ私の名を!叫ぶといい!』
■■■■。脳内に流れたその単語の意味に意識を向ける余裕なく。
最後の希望に縋るように。叫んだ。
「─────セイバー!!」
『─────応とも!』
その声を皮切りに、ナナの周囲を炎が包む。
視界が赤く、赤く染まった後。その中に佇む一人の男の姿に気が付いた。
たなびく、茶色の長髪に、隆々の肉体を持った偉丈夫。
その右手には白色の短剣、否、骨で出来た片刃の剣が握られており、
一見『原始的』と言った印象を抱かせる、一人の戦士が其処に居た。
「…確かに。契約は為された。」
男はその身体を怪人の方へ向けたまま。目線だけ此方に寄越し。
「今は私にその身を預けよ。必ずや君を救って見せる。」
怪人は、男へと恨めし気な視線を向けて、重心を落とす。
男…セイバーは、その視線に笑みを返し。
──────────爆ぜた。
そうとしか表現しようのない爆音。
同時にナナの全身を襲う熱と衝撃。
それが、純粋な『膂力』を用いた跳躍であることに気付いた時には、既に決着はついていた。
セイバーの踏み込みは、一歩で怪人との間合いを無に帰し、駐車場のコンクリートを砕いた上で。
圧倒的な怪力を以て無遠慮にその骨剣を振るい、
怪人の身体を数十メートル先のブロック塀に叩きつけたのだ。
振り切った腕の先で、街路樹が揺れ、木に留まっていた烏がばさばさと飛び立ち、その一撃のすさまじさを物語る。
「……ふむ。今の一撃であわよくば霊核を砕いてしまおうと思ったが。」
セイバーは骨剣を自らの肩にとんとんと当てながら、少し思案する素振りを見せ
「…逸らすでも無く。受けるでも無く。直撃したと言うのに耐えたか。……如何なる術だ?」
舞った粉塵が晴れ、コンクリートの欠片に身体を埋められた怪人が姿を現す。
纏った貴族の装束はボロボロに破け、肌が露出しつつも。その身体には目立った傷は無いように見える。
「…………あ……ァ………私は見つけた……私は救われた……私の……歌姫。」
がらり、と瓦礫の中から立ち上がりながら、怪人はそう呟いて。
夜の暗闇に溶けるように、その姿を消した。
「……………倒…………した?」
恐怖から解放された安心感から、全身から力が抜け、膝をつく。
「残念ながら倒せてはいない。霊体化して逃げられた。一先ずの勝利とは言えるかもしれないがね。」
私を救った男は、振り返り、しゃがんで私に手を差し伸べながら。
快活な笑顔と共に、言葉を放つ。
「改めて問おう。……君が私の、マスターか?」