チェスクリミナル   作:ハザマダアガサ

17 / 83
それぞれ

 その後俺はトレントに連れられ、1401号室にやって来ていた。

「1401って俺の部屋と近いな」

「そうだったのか。もしかして、チェスってハンズのルームシェア相手なのか?」

「おお。ハンズから聞いてなかったのか?」

「……なにも言われてないな」

 トレントは少し考えてから答える。

 別にルームシェアの相手をいちいち話せとは言わないが、仲良い奴にはちゃんと話しとけよ。ハンズ。

「とりあえず入りましょうか」

 チープがそう言い、部屋の中へ入っていく。

 トレントも続き、俺も後を追った。

 

 中に入ると一般男子(元犯罪者)らしからぬ部屋の綺麗さで少し驚いた。

「随分と片付いてるな」

「癖でね。この方が落ち着くんだよ」

 トレントが過去にどんな犯罪を犯していようが俺には関係ないが、もし元の性格が荒いものだのだとしたら、クリミナルスクールの目的である社会復帰というのは上辺だけではないようだ。

 よく考えたらここにいる奴ら全員元犯罪者なんだよな。

 別に疑いの目を向ける訳ではないが、なぜこんなにも他人に優しく出来るのだろうか。

「お茶淹れますね」

 そう言いチープが台所へ向かう。

 その間に俺らは適当な場所に座り、別段何かをする訳でもなくチープのお茶を待っていた。

「お待たせしました」

 数分後、チープの声が合図となり俺たちは今日までのことを話し始めた。

「そうだ。トレントたちはあの時どうしてたんだ」

「あの時って3日前の集会のことですか?」

「それならあのサイレンが鳴るまで、俺たちはただただ先生の話を聞いてただけだね」

「サイレンが鳴った後は?」

「まず校長にここで待機するようにって言われた様な気がする」

「ここでってのは集会場のことか?」

「そう。朝8時半までに全校生徒……、大体3400人のうち2000人くらいが集まるんだよ。マイクが壊れてる日とかは後ろの方が全然聞こえないから、後ろの席はかなり人気なんだ」

「なるほど。だからスウィンは人を殴ってまでも席を横取りしてたんですね」

 前言撤回。クリミナルスクール、スウィンの性格が直せてないですよ。

「それにしても、聞いた事も無い様なサイレンだったね」

「なんて言うんでしょう。雛鳥の様な高い声や、鯨の様な低い音が混ざり合ったみたいな。それでいて人が出している様な意思を感じました」

「チープは能力者が出した音って思ってるんだな」

「はい。上手く言えないんですが、なにかこう……意思を感じました」

 今同じ事を2回言ったな。

 しかし、言われてみればその様な気もしなくは無い。

 人工的にすれば、あの意図の分からない音を鳴らす必要が考えられない。

 もっと混乱させる様な、あれ以外の適正な音があっただろう。

「なるほどな。とすると、そこからキューズの攻撃は始まっていたのか」

「恐らくそうですね」

「そうだ! キューズと言えば、チェスは闘ったらしいね。あの幹部と」

 トレントは興味津々な姿勢で聞いてくる。

 そういえばトレントたちは、あの戦闘厨のスウィンの友達だったな。

 闘ったとなれば、興味を示すのに無理もないだろう。

「闘ったけど全然歯が立たなかったぞ。結果は知っての通り惨敗。俺もスウィンも完敗した」

 毎回の様に聞かれるこの出来事。

 幹部と戦ったという肩書きは大きいが、こっちとしては負けた話を毎回する事になる。

 あまりいい気分で話せる話題では無い。

「惨敗ですか。ならよかったじゃ無いですか」

 チープの一言が俺を刺激する。

「どこがよかったんだよ。俺は3日眠ってスウィンは手術中。これの何がいいって言うんだ」

 少しイラッとしてしまう。

 いくら天然といっても限度はあるだろう。

 フォローしろと言う訳では無いが、逆の事を言われるのはごめんだ。

「何を言ってるんですか。貴方も生きててスウィンも無事。これのどこが悪いと言うのです」

 チープは変わらないトーンで話す。

 考え方によったらそうかもしれないが、事実それで納得しろと言われて納得する奴はいない。

 それこそチープの様な天然な奴くらいだろう。

「チェス、怒らないで聞いてほしい。チープが言いたいのは、生きているなら結果オーライという事なんだよ。スウィンはともかくチェスは完全回復。まだまだチャンスはあるという事なんだ」

「チャンス?」

 最近やたらとこの言葉を聞く気がする。

 もしかしたら俺の人生のキーワードなのかもしれないと、そう思う時がある程に。

「そうです。その幹部さんはロール先生に負けましたが、貴方は負けてません。負けというのは相手が生きてて此方が死ぬという事です。負けない限り人は挑戦し続けられます」

 チープの言葉は自然と胸の奥に沁みる。

 俺が今まで1番言って欲しい言葉を、今言われた様な気がした。

「そういうものなのか?」

「そういうものですよ」

 チープは相変わらずの笑顔で答える。

 俺はその顔を見て申し訳なくなった。

「さっきはすまなかった。少しカッとなって、チープの気持ちを考えていなかった」

「いえ、私も自分の意見を押し付けてしまいました。謝るのは今日で終わりにしましょう。素直な意見を言えるのが友達ですよ」

 チープは一見何も考えていなそうだが、1番友達の事を考えているんだな。

 こんないい奴に俺は怒りを向けてしまった。

 素直が1番だが、やはり人を傷つけたりするのはいい気分では無い。

 今後は考えてから発言をしよう。

「ありがとう。……トレントたちはサイレンの後、何も無かったのか?」

 俺はさっきの話の続きをする。

「俺たちが黙って待ってる訳ないじゃないか。もちろんすぐに行動したさ」

「集会場から出たって事か?」

「はい。待機の号の後すぐですね」

「とんだ行動力だな」

 ただの不良生徒だけど。

「そうだ。スウィンが言ってたんだが、チープの言う通りかもってどういう事だ?」

「私の言う通り。ですか? ……スウィンに言ったのは、これがキューズの仕業では無いかと。それだけですね」

「チープはサイレンの段階で気が付いてたのか」

「はい。なんとなくですが、こんな事をするのはキューズだけかと思いまして」

 まあ、クリミナルスクールに自ら捕まりにいく馬鹿はいないからな。

「その後にスウィンの姿が見えなくなりましたね」

「見えなくなった?」

「そうなんだよ。急に神隠しに遭ったみたいに、気付いたらぱって」

「神隠しか。スウィンは幻覚とか言ってたが、結局のところどうなんだろうな」

 今地獄にいると言うスウィンの言葉。

 最初はふざけていると思っていたが、今振り返るとスウィンに嘘をつくメリットがない。

 事実、ある男を倒したら幻覚が覚めたと言っていたし、真偽は定かでは無いが能力者の仕業なのは間違いないだろう。

「……そこからですね。私たちが闘う事になったのは」

「そうだね。中々手強い相手だった」

「お前らも闘ってたのか! キューズの奴らと」

 今までキューズの幹部と闘ったからって毎回俺が話を訊かれていたが、別に他の人が闘ってないとは限らない。

 驚きはしたが、実際は普通の事なのだ。

 それに先生の話を聞かない不良生徒なら尚更の事だろう。

「言ってませんでしたが、私たちも一応闘っていました」

「流石に幹部では無かったけど、それでも強いのは確かだったね。チェスの話は大方聞いてるから、今度は俺たちの話をするよ。ゆっくりお茶飲みながら聞いてくれ」

「そうですね。チェスに比べたら緊迫した闘いという訳ではありませんからね。リラックスしてていいですよ」

 そう言い、2人は襲撃当日の事を話し始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。