その後俺はトレントに連れられ、1401号室にやって来ていた。
「1401って俺の部屋と近いな」
「そうだったのか。もしかして、チェスってハンズのルームシェア相手なのか?」
「おお。ハンズから聞いてなかったのか?」
「……なにも言われてないな」
トレントは少し考えてから答える。
別にルームシェアの相手をいちいち話せとは言わないが、仲良い奴にはちゃんと話しとけよ。ハンズ。
「とりあえず入りましょうか」
チープがそう言い、部屋の中へ入っていく。
トレントも続き、俺も後を追った。
中に入ると一般男子(元犯罪者)らしからぬ部屋の綺麗さで少し驚いた。
「随分と片付いてるな」
「癖でね。この方が落ち着くんだよ」
トレントが過去にどんな犯罪を犯していようが俺には関係ないが、もし元の性格が荒いものだのだとしたら、クリミナルスクールの目的である社会復帰というのは上辺だけではないようだ。
よく考えたらここにいる奴ら全員元犯罪者なんだよな。
別に疑いの目を向ける訳ではないが、なぜこんなにも他人に優しく出来るのだろうか。
「お茶淹れますね」
そう言いチープが台所へ向かう。
その間に俺らは適当な場所に座り、別段何かをする訳でもなくチープのお茶を待っていた。
「お待たせしました」
数分後、チープの声が合図となり俺たちは今日までのことを話し始めた。
「そうだ。トレントたちはあの時どうしてたんだ」
「あの時って3日前の集会のことですか?」
「それならあのサイレンが鳴るまで、俺たちはただただ先生の話を聞いてただけだね」
「サイレンが鳴った後は?」
「まず校長にここで待機するようにって言われた様な気がする」
「ここでってのは集会場のことか?」
「そう。朝8時半までに全校生徒……、大体3400人のうち2000人くらいが集まるんだよ。マイクが壊れてる日とかは後ろの方が全然聞こえないから、後ろの席はかなり人気なんだ」
「なるほど。だからスウィンは人を殴ってまでも席を横取りしてたんですね」
前言撤回。クリミナルスクール、スウィンの性格が直せてないですよ。
「それにしても、聞いた事も無い様なサイレンだったね」
「なんて言うんでしょう。雛鳥の様な高い声や、鯨の様な低い音が混ざり合ったみたいな。それでいて人が出している様な意思を感じました」
「チープは能力者が出した音って思ってるんだな」
「はい。上手く言えないんですが、なにかこう……意思を感じました」
今同じ事を2回言ったな。
しかし、言われてみればその様な気もしなくは無い。
人工的にすれば、あの意図の分からない音を鳴らす必要が考えられない。
もっと混乱させる様な、あれ以外の適正な音があっただろう。
「なるほどな。とすると、そこからキューズの攻撃は始まっていたのか」
「恐らくそうですね」
「そうだ! キューズと言えば、チェスは闘ったらしいね。あの幹部と」
トレントは興味津々な姿勢で聞いてくる。
そういえばトレントたちは、あの戦闘厨のスウィンの友達だったな。
闘ったとなれば、興味を示すのに無理もないだろう。
「闘ったけど全然歯が立たなかったぞ。結果は知っての通り惨敗。俺もスウィンも完敗した」
毎回の様に聞かれるこの出来事。
幹部と戦ったという肩書きは大きいが、こっちとしては負けた話を毎回する事になる。
あまりいい気分で話せる話題では無い。
「惨敗ですか。ならよかったじゃ無いですか」
チープの一言が俺を刺激する。
「どこがよかったんだよ。俺は3日眠ってスウィンは手術中。これの何がいいって言うんだ」
少しイラッとしてしまう。
いくら天然といっても限度はあるだろう。
フォローしろと言う訳では無いが、逆の事を言われるのはごめんだ。
「何を言ってるんですか。貴方も生きててスウィンも無事。これのどこが悪いと言うのです」
チープは変わらないトーンで話す。
考え方によったらそうかもしれないが、事実それで納得しろと言われて納得する奴はいない。
それこそチープの様な天然な奴くらいだろう。
「チェス、怒らないで聞いてほしい。チープが言いたいのは、生きているなら結果オーライという事なんだよ。スウィンはともかくチェスは完全回復。まだまだチャンスはあるという事なんだ」
「チャンス?」
最近やたらとこの言葉を聞く気がする。
もしかしたら俺の人生のキーワードなのかもしれないと、そう思う時がある程に。
「そうです。その幹部さんはロール先生に負けましたが、貴方は負けてません。負けというのは相手が生きてて此方が死ぬという事です。負けない限り人は挑戦し続けられます」
チープの言葉は自然と胸の奥に沁みる。
俺が今まで1番言って欲しい言葉を、今言われた様な気がした。
「そういうものなのか?」
「そういうものですよ」
チープは相変わらずの笑顔で答える。
俺はその顔を見て申し訳なくなった。
「さっきはすまなかった。少しカッとなって、チープの気持ちを考えていなかった」
「いえ、私も自分の意見を押し付けてしまいました。謝るのは今日で終わりにしましょう。素直な意見を言えるのが友達ですよ」
チープは一見何も考えていなそうだが、1番友達の事を考えているんだな。
こんないい奴に俺は怒りを向けてしまった。
素直が1番だが、やはり人を傷つけたりするのはいい気分では無い。
今後は考えてから発言をしよう。
「ありがとう。……トレントたちはサイレンの後、何も無かったのか?」
俺はさっきの話の続きをする。
「俺たちが黙って待ってる訳ないじゃないか。もちろんすぐに行動したさ」
「集会場から出たって事か?」
「はい。待機の号の後すぐですね」
「とんだ行動力だな」
ただの不良生徒だけど。
「そうだ。スウィンが言ってたんだが、チープの言う通りかもってどういう事だ?」
「私の言う通り。ですか? ……スウィンに言ったのは、これがキューズの仕業では無いかと。それだけですね」
「チープはサイレンの段階で気が付いてたのか」
「はい。なんとなくですが、こんな事をするのはキューズだけかと思いまして」
まあ、クリミナルスクールに自ら捕まりにいく馬鹿はいないからな。
「その後にスウィンの姿が見えなくなりましたね」
「見えなくなった?」
「そうなんだよ。急に神隠しに遭ったみたいに、気付いたらぱって」
「神隠しか。スウィンは幻覚とか言ってたが、結局のところどうなんだろうな」
今地獄にいると言うスウィンの言葉。
最初はふざけていると思っていたが、今振り返るとスウィンに嘘をつくメリットがない。
事実、ある男を倒したら幻覚が覚めたと言っていたし、真偽は定かでは無いが能力者の仕業なのは間違いないだろう。
「……そこからですね。私たちが闘う事になったのは」
「そうだね。中々手強い相手だった」
「お前らも闘ってたのか! キューズの奴らと」
今までキューズの幹部と闘ったからって毎回俺が話を訊かれていたが、別に他の人が闘ってないとは限らない。
驚きはしたが、実際は普通の事なのだ。
それに先生の話を聞かない不良生徒なら尚更の事だろう。
「言ってませんでしたが、私たちも一応闘っていました」
「流石に幹部では無かったけど、それでも強いのは確かだったね。チェスの話は大方聞いてるから、今度は俺たちの話をするよ。ゆっくりお茶飲みながら聞いてくれ」
「そうですね。チェスに比べたら緊迫した闘いという訳ではありませんからね。リラックスしてていいですよ」
そう言い、2人は襲撃当日の事を話し始めた。