俺はあの後、ナインハーズに連れられてクリミナルスクールにやってきていた。
歩いて5分のくらいの所にあると言っていたが、25分は歩いていた気がする。
少し文句を言ってやろうと思ったが、
「でけぇ……。何だこれ」
その気も失せる程、その建物は大きかった。
「どうだ。すげーだろ」
ナインハーズも自慢げだ。
まあ確かに、かなりデカい。今は建物の中心であろう門にいるんだが、端がギリ見えるくらいだ。かなりの距離があるな。
門といっても神社の鳥居の様ではなく、どちらかというと学校の正門に近い気がする。そして横に広い。
壁は道に沿う形で続いている。かなりの高さがある。3、4メートルはありそうだな。少し灰色がかっているが、コンクリートではない様だ。なんだ、見たこともない素材だな。
ってか、ずっと同じ道歩いてると思ったらこのバカ長い壁のせいか。ここ20分くらい同じ景色でおかしくなる所だった。
しかし、少し気になることがある。
「何で門の前に見張りとかがいないんだ?」
これだけセキュリティ万全なのに、警備員の1人もいない。
明らかに何かに対してのこの設計と思ったんだが、何か理由でもあるのか?
「ああそれは、ここに侵入しようとするバカなんていないからだよ。」
「?」
「さっき君が言っていたじゃないか。犯罪を犯せば強制で収容されるって」
ん? ……あ、都市伝説のことか。
けど、それにしたって無用心やしないか?
俺が理解に悩んでいる事に気が付いたのか、ナインハーズは仕方ないと言わんばかりに付け足す。
「ここは一応、国が扱っている施設なんだよ。だからここに侵入したら、そのまま収容されるから誰も来ないんだ。それと、侵入しても中の能力者達に逆に追い返されるからな」
確かにそれなら納得だ。見た感じ、あの壁を登るのはかなりキツそうだし、能力者が中にいるとなれば侵入する奴もいないな。
話が終わるとナインハーズは歩き出し、門を通って中に入っていった。
俺も後に続き、門を通る。
門を通ってすぐの所に昇降口らしき入り口があり、ナインハーズはそこで靴を脱ぎ、上履きに履き替える。
ここで靴を脱いで上がるらしい。
俺は来客用のスリッパを使う事にした。
やけに学校を意識していると思ったが、そこまで気にする事は無いか。なんせクリミナルスクールっていうくらいだしな。
昇降口の横に職員室があり、そこにナインハーズが入っていく。
「君はここで待っててね」
言われた通り、職員室前の廊下に立って待つ。
ここには教師がいるのか。
そういえば、名刺にも教育者って書いてあった気がする。
何を教育しているのだろう。やはり社会復帰のための矯正か? それともさっき言っていたジャスターズとかいうやつか?
そんなことを考えていると、ナインハーズが戻ってきた。
「よし。入学手続きがすんだ」
「もう!? 流石に早くねえか?」
入ってから1分も経ってないぞ? どんだけ緩いんだよ。ここ。
「細かいことは気にしなくていいんだよ。さっ、外に行くぞ」
「外?」
また戻るのかよ。なら、俺は外で待っててよかったじゃねえか。と思ったが、戻るわけではないらしい。ナインハーズは入り口とは違う方向に歩き出している。
「? どこに行くんだ」
「外だよ。こっちに別の出口があるんだ」
なんだそういうことか。
ナインハーズはついてこいと言い、また歩き出す。
しっかし中も広いな。この調子だと、外って相当広いんじゃないか? 学校のグラウンドとは比較にならないくらい。
ここまで大きくする理由は、やはり収容人数が多いからなのか? ここなら3~4000人は入りそうだな。
しかし、その人数に見合わないほどここは静かだ。
物音ひとつとまではいかないが、4000人、少なく見積もって2000人以上人がいるとは思えない。
勿論静かなのは悪いことではないが、少し不気味な雰囲気を漂わせているのは確かだった。
少し歩くと、普通より少し大きな扉があり、扉の上に『岩』と書いてあった。
何故大きいのか不思議に思ったが、ナインハーズがなんの躊躇も無く開ける姿を見て、特に気にしなくていいものだと分かった。
ここではこれが普通のサイズの様だ。
「よし。着いたぞ」
扉の先には大きな岩石地帯が広がっていた。
地面は少し歩きづらい程度にゴツゴツしており、聳え立つようにして連なる15から20メートルの岩。
「何でこんなにも岩場なんだ?」
「色んなことを想定していてね。岩場以外にも、市街地や森林、荒地などがあるよ」
それは分かったが、何故ここチョイス?
「ここで何をするんだ?」
「能力のテストだ」
「能力のテスト?」
そんなのしてどうする? と顔で訴えるようにして聞く。
「ああ。クラス分けテストと思ってくれていい」
クラス分けテスト……。もしかして、ここで能力の素質を見極めるのか。
ということは、ナインハーズは俺の能力を知らないってことか?
そんなんでよく特別枠なんかにできたな。
……待てよ。それだと何で俺が能力者だと分かったんだ? 能力者は世界で極少数しかいないわけだから、当てずっぽなんかで当たるわけがない。
能力者と見極めることができる何かがあるのか?
考えても答えは出ないな。
俺はナインハーズに直接聞く事にした。
「1つ質問いいか?」
「ああ、いいぞ」
「何で俺が能力者って分かったんだ?」
ナインハーズは少し考えたようにして、口を開いた。
「能力者の見分け方があるんだ。しかし、君の場合はそれとはまた別でね」
やはり見極める何かがあったのか。
けど、俺は別だと? 何か他に理由があるのか。
「俺は別ってなんだ?」
「今言ってもいいけど、一旦能力のテストをさせてくれるか? 一応規則でね。テストをしないと、無関係者扱いになっちゃうんだよ」
「……分かった」
焦らされた。という気持ちは残るが、自分から言い出したところを見ると、特に隠している様子でもない。
ここは素直にテストをするか。
「テストって何をすればいいんだ?」
「何でもいいよ。君の能力をある程度知れればいいからさ。適当にそこの石でも使ってくれ」
「あいよ」
俺は転がっている石を1つ拾い上げた。
「……やっていいか?」
「好きなタイミングでいいぞ」
俺は一呼吸を置いて、能力を発動させた。
発動させると同時に、全身に力が入るのがわかる。
そして、瞬く間に石が剣の形に変わっていく。
「おお! 物質の形を変える能力か」
「いいや、強度も変えられる」
現時点での最高強度はダイヤモンドの一歩手前くらいだが、それをやると少し疲れるから今は鉄程度でいいだろう。
「強度も……これはすげー。ビンゴだ。……そうだ、何か斬れるか?」
「おう」
俺は近くの岩に近づいて、剣をゆっくりと横に動かす。
ナインハーズは俺のスローな動きに少し違和感を覚えたのか、文句を言ってくる。
「……何してんの? 遅くね? それじゃあ斬れなくねえか?」
「これでいいんだよ。この方がよく斬れる」
「?」
ナインハーズはサッパリわからないと肩をすくめ、やれやれとしたポーズをする。
「まあ見てな」
剣が岩に段々と近づく。
「……」
ナインハーズはじっと見ている。
変わらず俺は剣を動かす。
…………数秒後、何か普通ではない事に気がついたナインハーズが声を上げた。
「おい、なんかおかしくねーか。何つーかその剣、岩にめり込んでるのにずっと動いてねえか?」
「お、やっと分かったか」
ナインハーズが驚くのもそのはず。俺が作り出した剣は、刃が岩にめり込んでも進み続けているのだ。
しかも、勢いをつけているわけでもないのにこの切れ味。明らかに異質な物を放っている。
「どういうカラクリだ?」
ギブギブと言いながら、ナインハーズは俺に聞いてくる。
しょうがないな。少しだけヒントをやろう。
「さっき俺の言っていたこと思い出してみろ」
「さっきといえば……」
ナインハーズは腕を組みながら考える。
「この方がよく斬れるか?」
「惜しいな。その辺だ」
「じゃあ……あっ」
何か閃いたように言葉を漏らす。
「強度を変えるってことか」
「正解」
もしやこいつ意外と頭いいな? てっきりネタバラシすると思ってたから、フリップ出して、
『ジャジャーン。正解は強度を変えるでした!』
『な、なに~!?』
を想像していたんだか、その必要はないようだ。
「でっ、何で強度を変えると切れ味が良くなるかわかる?」
流石に当てずっぽじゃないだろうが、念のために聞いておく。
「ああ。さっき俺が遅いと茶化した時に、この方がよく斬れるって言ってたことから、恐らく斬る最中に何か別の操作をしていると仮定したんだ。そしてその仮定から、強度を変える能力もあることを思い出して、もしかしたら、岩の強度を変えながら斬っているのではないかと思ったんだ。そしたら、この現象も納得できると思ってね」
ナインハーズは、ペチャクチャペチャクチャと長ったらしい説明をする
しかし、正解だな。俺は剣を通し、岩の強度を弱くして斬りやすくしていたのだ。
それにしても、散りばめられた少ないヒントから、よく答えを見つけ出せたな。
そして、かなり頭の切れる奴のようだ。あの短時間で、見たことのない現象に納得するのは容易ではないだろう。
「愚問だったかな? 意外と頭いいんだね」
「まあね。これでも教師やってるから」
教師ね。どんなことを教育するのかは大体予想つくが、大方礼儀とか、最低限の知識とかだろうな。社会復帰とかが目的な訳だからな。
何にせよつまらなそうなことこの上ない。
家庭……いや、色々あって学校には殆ど行ってなかったわけだから、掛け算とかギリギリできるレベルなんだよな。
けど、特別枠って言う位だし、少し他と違うの期待しても罪じゃないよな。
……ってか、能力テストなんちゃらとかはどうなったんだ。この結果でクラス分けされるんだろ? というより、採点基準が不明な以上、予想もつかない。
直接聞いた方が早いな。
俺はめり込んだままの剣を石に戻して聞いた。
「そういえば、テストとやらの結果はどうだ?」
「ああ、文句なしのAクラスだ」
「Aクラス?」
アルファベット順か?
「そうだ。Aクラスだ。ここではAが最高クラスで、最低がDだ」
成程。1番上か。まあ、多少特別枠の特権とやらも加点されているのだろうがな。
てっきりSとかあるのかと思ったが、そうではないらしいな。
まあ1番だから文句はない。
それにしても採点基準は何だ?
自分で言うのもアレだが、そこまで珍しくて、特殊な能力ではないと思うのだが。
「なあ、別に不満とかじゃ無いんだが、採点基準とかは何だ? いまいち分からないんだが」
「あー採点基準ね。採点基準は、強さ、早(速)さ、正確さ、そして、種類だ」
「種類?」
俺が聞くと、ナインハーズは答えてくれた。