チェスクリミナル   作:柏木太陽

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進路

 数十分くらい経った頃、ミラエラを見ると既に眠りについていた。

 そっとミラエラをベッドへ寝かし、俺は部屋を後にした。

 然程時間が経っていない事もあり、まだ太陽が明るく廊下を照らしている。

 窓へ近づき、手をかざして太陽を見る。

 眩しく、いつも変わらず光り輝くこの球体は、いつまで存在し得るのだろうか。

 ただ分かる事は、俺が生きているうちには確実に無くならない事だ。

 この球体がいなくなるのは何百何千何万年、それ以上先のことだろう。

 それに比べたら俺の人生はものの数秒にも満たない。だから何をするか。何をしなくてはならないのか。

 それを踏まえて俺はある目標を立てることにした。

 天下統一した豊臣秀吉の様に、中華統一をした始皇帝嬴政の様に。

 俺は能力者と無能力者のこの世界を統一する。

 これは一国だけの問題ではなく、この世界に存在する6つの国が関係している。

 それは前代未聞であり、未知の領域だ。

 勿論俺1人の力だけでは不可能だ。

 まずはここである程度の人材を揃えておかないと。

 しかし、そう簡単に賛成してくれる奴がいるだろうか。

 能力者と無能力者の間には深い溝がある。

 それは能力者の存在が確認されてから2009年経った今でも全く埋められず、逆に溝は深くなるばかり。

 無能力者が能力者を嫌う様に、能力者も無能力者を嫌っている。

 それで仲良く手を取ろうなど、もってのほかだ。

 しかもその第1歩がなぜ能力者では無くてはならないのだと、そう思う奴も沢山いるだろう。

 しかしだからといって、行動しない訳にはいかない。

 この長きに渡る冷戦に、誰かが終止符を打たなくてはならない。

 そうすると、やはりジャスターズへの勧誘は好条件に思えてくる。

 しかし、今はその時では無い。何かは分からないが、今では無いとは分かる。

 力を蓄え準備をし、然るべき時に出し切る。

 今はその蓄えの時だ。

 焦ってはいけない。俺にはまだまだ先がある。人生がある。

 生まれ落ちて17年と少し。誰が俺を年寄りと叫ぶのか。

 目標は高ければ高い程現実味を帯びない。

 だからこそやってやると、そう妄言できる。

 勘違いは時に人を強くする。誰かがそう言っていた気がする。

 

 部屋に戻り床に就く。

 瞳を閉じるが眠りにはつかない。と言うより、つけないのだ。

 目標が立ち、少し興奮している事もあるのだろう。

 簡単な話落ち着かないのだ。

 今まで人生の事など考えもしなかったし、考える必要も無いと思っていた。

 しかしいざ考えてみると、意外と楽しいものだ。

 これを機に、色々なことについて考えてみるのも悪く無いだろう。

 これもクリミナルスクールの影響なのか、それとも俺が流されやすいのか。

 そればかりは分からない。

 それにしても眠れないとは言え、数分目を閉じていれば眠れるくらいの疲れがある。

 先程とは違い悩みも無くなった事だし、少し寝るとするか。

 俺はそう思い、意識を深く落とした。

「おい! ストリートいるか」

 豪快に扉が開け放たれて、ナインハーズが入ってくる。

 俺は驚いて起き上がった。

「お前俺がいなかった場合とか考えないのかよ」

 うるささ極まりなかったぞ。

「確かに。けどいたからいいだろ」

「……まあな」

 部屋にいちまったからには、どうこう言う事はできない。

「それで、なんの様だ?」

「そうだ。校長にどうしても進路を聞いてこいって言われてな」

「進路……か」

「ああ。ストリートはジャスターズに行くだろうから自衛科だと思うが、他にも一応紹介しとく。これ一通り見といてくれ」

 ナインハーズから渡されたのは、1枚のA4サイズの紙だった。

 そこには、上から下までずらっと様々な科目が書いてあった。

 正直言って1番上に書いてある、さっきナインハーズが言ってた自衛科しか何を言ってるのか分からない。

 能力科とか言う能力を研究する科目も面白そうだが、やはりジャスターズへは行っておきたい。

 他には特に興味を惹かれる物は無いな。

 と言っても、元々決めておいた事だ。俺の意見は変わりない。

「自衛科一択だな」

「だろうな。じゃあ報告に行ってくる」

 ナインハーズが部屋をさろうとする。

「ちょっと待ってくれ」

「どうした」

 このままだと俺の進路がジャスターズ直行故、校長への言い訳が出来なくなってしまう。

「1つ条件がある。校長の誘いを断って、普通と同じ様に半年経ったら行くという条件にして欲しい」

「理由は」

「校長が気に食わないからだ」

「そんな理由で……って言いたいところだが、俺もあんま校長好きじゃないからな。……しょうがない。適当に誤魔化しといてやるよ」

「せんきゅ」

 まさかこんな理由で通ると思って無かったが、まあ通ってしまったからにはいいだろう。

「じゃあな。あと、そろそろ敬語にしてくれ。教師として威厳がなくなる」

「気が向いたらな」

 不満そうにナインハーズが出て行く。

 俺がロリコンとデマを流したナインハーズには、敬語なんて使う気はない。

 使ってやるものか。

 ナインハーズも去った事だし、今度は本当に寝るか。

 そう思い、数分後俺は眠りについた。


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