チェスクリミナル   作:柏木太陽

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急展開

 俺は車という画期的な技術に乗り、ジャスターズへ目指していた。

 なんとも言えない乗り心地で進むそれは、新鮮の一言で表すには十分だろう。

「そうだナインハーズ。スウィンの容態はどうなんだ」

「さっき連絡が来て、回復しつつあるってよ。だがこの事は内密にな」

「なんで。トレントたちにはいいんじゃないか」

「いいや駄目だ」

「理由は」

「前も言ったがキューズの目的は不明だ。だが唯一分かってる事は、キューズがスウィンを狙っていたって事だ。たった1人からでも情報は広がる。もちろんキューズ側にもな」

「キューズがスウィンを?」

「ああ。生徒は全員集会場にいて、例外は勝手に外に出たトレントとチープ、スウィンの3人と寝坊したストリートのみ。幹部に接触したのはスウィンと君だけで、君はつい最近入ってきたばかりの新人だ。襲う理由はないし、メリットもない。スウィンと行動を共にしていたから狙われたと考えるのは妥当だ」

「言われてみればって感じだが、それだけで狙われてるとは限らないだろ」

「それはそうだが念の為だ」

「それなら運転手に聞かれちゃまずいんじゃないか? 身近にスパイがいるかもしれない」

「安心しろ、彼は信頼できる俺の部下だ。しかも視覚も聴覚も無い」

「ちょっ、ちょっと待て、目が見えなくてどうやってこれ動かしてるんだよ」

「そりゃ詳しくは言えないが、彼の能力が関係してるに決まってるだろ」

「それは分かってるけどさ、あんま安心出来ねえよ」

「まあそう言うな。実力、実績共にジャスターズの5本の指に入る程だぞ。それでも安心出来ないってか?」

「5本の指に? それは凄えな。疑って悪かった」

「気にしてませんよ」

「聞こえてんじゃねえか!」

「聞こえてませんよ」

「聞こ、え? 聞こえてないの?」

「彼は聞こえてないぞ。さっきも言っただろ」

「え、俺がおかしいの?」

 聞こえてないのにどうやって返事したんだよ。

「まあ気にするな、直に慣れる。それよりストリートは今、ジャスターズの見学に行こうとしてるんだぞ。もう少し喜ばないのか?」

「喜ぼうにもなにも、俺はジャスターズには詳しくない。どんな活動をしてるかも知らないんだぞ」

「だからだ。知らない事を知れる機会なんてなかなか無いぞ。それと、活動くらいは知っとけ」

「じゃあ何をしてるんだよ」

「そうだな……。ジースクエアの事を教えてやるか」

「ジースクエア?」

「いいんですかライムさん。その情報は上層部しか知らない事ですよ?」

「別にいいんだよ。それくらい」

 それくらいって、ナインハーズはジャスターズでどんな立場なんだよ。

 まあ上層部しか知らない事を知ってるから、ある程度地位があるんだろうが。

「それで、そのジースクエアってのはなんなんだ」

「そう急かすな。スクエアは四角と意味は知ってるだろうが、ジーは何の事か分かるか」

「ジー? グレートとか?」

「残念不正解。ジーはある民族の言葉、グーズの頭文字だ。グーズは強き者たちって意味」

「強き者たちの四角って事か? 意味が分からん」

「そうじゃない、直訳はしない方がいいぞ。馬鹿に思われる。ジースクエアは、世界で最も強い能力者4人って意味だ」

「最も強いのが4人もいるのか」

「そこは気にするな。日本人みたいな事言うなよ」

「日本人? 聞いた事ない人種だな」

「ああそうだった、歴史は学んどけ。いくら絶滅した人種でも、日本人というのは面白いぞ」

「……まあそれはどうでもいいや。で、その4人がどうしたんだ」

「そいつらに対しての抑止力が存在しないんだ。ジャスターズが能力者専門の警察だとしても、武力と人員が少な過ぎる。やろうと思えば1人くらいは止められるが、何人死ぬか分からない」

「そんな強い奴等なのか」

「ああ。化け物だ」

 ジャスターズですら止められないって、ひょっとしてあのキューズすら恐れる4人なんじゃないのか?

 ジャスターズとキューズに敵視されても、未だに存在し続けられるって事は、逆に言えば仲間にすればこれ程に心強い味方はいない。

「そいつらをジャスターズに引き込む事は出来ないのか」

「出来たら苦労しないし、とっくにキューズがやってるだろ。そういうのはあっちの十八番だ」

「じゃあチャンスだ。キューズが動く前に俺たちが動けばいい」

「簡単に言うな。何不自由無い生活を送っているのに、わざわざ制限された生活を選ぶ奴は変人だ」

「因みにそのジースクエアはどんな事をして、そんな注目されてるんだ」

「ほとんどの犯罪に手を出している。命を狙う者は多いが全員返り討ち。住所もバレているにも関わらず、誰1人として行こうとしない。もちろん俺たちも」

「けどそいつら能力者なんだろ? 無能力者のこの社会で、どうやってそんな堂々と出来るんだ」

「単純に強過ぎるからだ。さっきも言った通り抑止力が無い。最初は俺らに声が掛かっていだが、いつしかそれも無くなった。国もお手上げって事だ」

「マジで化け物だな」

「その通り。一応国際指名手配だが、ほぼ無しと同じだな」

「……ちょっと待てよ。この話ってジャスターズの活動について聞いたから始まったんだよな。て言う事は」

「ああ。残念な事に再び声が掛かった。と言うより命令が下った」

「なんて」

「ジースクエアを殺せ」

「……無理じゃね?」

「ああ。無理だ」

 さっきの話を聞いてる限り、ジースクエアを狙った奴らは全員死んでる。

 と言う事は死にに行くようなもの。

 そんな無理難題を国は、ジャスターズは受けなくてはならないのか。

「何か作戦はあるのか?」

「命令が下ったのは昨日の11時。それも相まってストリートを見学に連れて来た訳だが……」

「それってどう言う事だ。……もしかして俺にその作戦に参加しろと」

「簡潔に言えばな。いい機会だ、これを機に社会を学べ」

「社会を学ぶ前に俺が死んじまう。そんなのごめんだ」

「誰がジースクエアと闘えって言った。ストリートは下っ端も下っ端。そんな重大な任務は任せられない」

「ならなんで俺をスカウトしたんだ」

「……まあそれは」

「着きましたよ」

 車が停止し、上半身が前に押し出される。

「うおっ」

「シートベルトをしてなかったのか」

 なんだそれ知らん。

「とりあえず本部に着いた。詳しい話は中で」

 そう言いナインハーズは車を降りる。

 それに合わせて運転手も降り、続いて俺も降りた。

「うわぁお」

 目の前に広がっていたのは、クリミナルスクールなんて比にならない程でかい建造物の集まりだった。

 1つ1つが何かの役割を果たしているんだろうがこの大きさだ、スケールがでか過ぎて想像もつかない。

「どうした。行くぞ」

 ボーッとしていた俺はナインハーズの言葉で我に帰る。

 ナインハーズは入り口らしき所に歩き始めており、運転手も付いて行っている。

 俺も遅れまいと小走りで追いつき、はぐれたら一生出られないと思いナインハーズから目線を離さない様に集中する。

「ナインハーズだ。ケインはいるか」

 中へ入り、受付に何かを尋ねている。

 ケインってのはナインハーズの同僚か?

「チェイサーさん、そうまじまじと見ずとも置いて行きはしませんよ」

 運転手に話しかけられて、俺はナインハーズから視線を外す。

「いやすまん。少し肩の力が入ってた」

「気にしないでください。私はサルディーニ・カステルです。どうぞお見知りおきを」

「どうも、チェイサー・ストリートだ」

 握手を交わし、サルディーニの顔を見る。

 目は開いておらず本当に視覚が無い様だ。

 しかし聴覚はどうなんだろうか。会話は出来ているし、聞こえている様にも見える。

 だが嘘つく理由が見つからない。もうさっぱり分からん。

「何してる、ケインの所に行くぞ」

「分かりました。チェイサーさん、今日はついてますね。ケインさんはここの最高責任者ですよ。滅多に会う機会はありませんよ」

「最高責任者……」

 それを呼び捨てって。マジ何もんだよ。

 迷い無い足取りで歩くナインハーズに付いて行き、ある部屋へと着いた。

 そこの扉は見た感じ分厚く、横にパスワードを打ち込む用のボタンがある。

 ナインハーズはそこに番号を打ち込むのかと思いきや、ポケットから鍵を取り出してそれで扉を開けた。

「え、パスワードは?」

「ん? ああフェイク。何打ち込もうが警報鳴るから気をつけた方がいいぞ」

「セキュリティ万全だな」

「当たり前だ。とりあえず中に入れ」

 扉の先にはおよそ40畳程の部屋があり、真ん中に細長い机が置いてある。

 椅子が左右にずらっと並べられていて、奥の真ん中には恐らくケインと思われる人物が座っていた。

「久しぶりだなナインハーズ。調子はどうだ」

「相変わらずだ。それであの件はどうなった」

 あの件とはジースクエアの事だろう。

 それにしても2人は友達なのか、久しぶりに会って嬉しそうに見える。

「断れる訳ないだろ。遂に俺たちが動かなくちゃならなくなったな」

「まあそうだな。あんまり暴力は好きじゃないんだが」

「嘘つけ、若い時は凄かったろ。サルディーニも久しぶりに本腰入れなきゃだな」

「そうですね。皆さんも呼びましょうか」

 皆さん? 他にも呼ぶ人がいるのか。

「そうしてくれ、10分後だ。そこに立ってるお前も参加するのか」

「え、俺すか? ナインハーズに連れられて状況が理解できて無いんですけど」

 急に話しかけられて驚いたが、よく考えてみたらなんで俺はこんな所にいるんだ。

「ナインハーズの連れなら資格は十分だ、こいつは人を選ぶからな。そこに座れ」

 なんか受け入れられちゃったよ。

 俺は指示に従い1番近い椅子に座る。

「なあナインハーズ、なんで俺はここにいるんだ。ってかここにいていいのか?」

「そうだな、今からジャスターズの偉い人たちが沢山来る。間違えてもタメ口を使うなよ。変わった奴が多いからな」

「お、おう。肝に銘じとく」

 それから丁度10分後、本当にずらずらと人が入って来た。

 数にして6人程で、全員何かしらのオーラがあり、その中にはロールもいて俺に手を振ってくれたが、それに反応する事は出来なかった。

「集まったな。では今から会議を始める」

 ケインの掛け声で、全員の気が引き締まるのが分かる。

 ここにいるのは全員上層部の者たちだろうか。

「で、ジースクエアの誰を狙うんすか」

 態度の悪い比較的若そうな男が口を開く。

「ここに集まったメンバーで大体察しがつくだろ」

 ケインが返答し、その男は鼻で笑う。

「キリングすか。俺はこの歳で死にたく無いすけどね」

「やれと言われたらやるしか無い。この仕事に就いた以上、その覚悟は出来てただろ」

「そうすけど、それよりこいつは誰なんすか? まさかこいつも参加するとか言いませんよね」

 男は俺を中指で指して来る。

「ナインハーズの連れだ。それ以外に質問は?」

 それを最後に男は黙り、いかにもつまらなそうな顔で俺を睨んでくる。

 俺のせいなの?

「では気を取り直して。国からジースクエアを殺せと命令が下ったのはもう耳に入っているだろう。さっきラットが言った様に、狙いはキリング・ストリートだ」

「え、キリング・ストリート?」

「どうしたナインハーズの連れ。なにか心当たりでもあるのか」

「ああ! 気付かなかった!」

 ナインハーズが急に大きな声を上げて立ち上がる。

「今度はなんだナインハーズ」

「ケイン、ナインハーズの連れじゃ無くてチェイサー・ストリートだ。言いたい事分かったか?」

「ストリート……。お前、キリングの兄弟か?」

「え、いや、ちょっと待ってください」

 急展開過ぎて頭が追いついてない。

 まずの話俺って兄弟いたんだっけか。

 だとしたら、俺の兄弟暴れ過ぎだろ。


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