再びジャスターズへ
「準備は出来とるか」
次の日の朝、俺たち3人はグールに呼び出されて校門に来ていた。
「もう行くのか?」
「早いに越した事はないじゃろ。出来とるなら早う乗れい」
移動にはまた車を使う様だ。
今回こそシートなんとかを付けられるように頑張ろう。
「これって、もしかして車か?」
「あのタイヤが付いているやつですか?」
「なんだ2人とも、知ってたのかよ」
やっぱり俺は世間知らずなのだろうか。
「後ろに全員乗れるかの。まあ良い。そこは我に関係ないの」
「んな投げやりな……」
確かに車の後ろの方は、3人が乗るには狭い気がする。
上手く真ん中を使えば出来るだろうが、そんな所なら両サイドから挟まれて、かなり窮屈になってしまうだろう。
もちろんそれはごめんだ。
「なあ、誰が真ん中行くよ」
「私は狭いのはちょっと」
2人も同じ事を考えているらしく、誰が真ん中を行くか話し合っている。
俺はそれを尻目に、1人車の席に着く。
「あ! チェスずるいぞ!」
「そうですよー。私たちまだ話してたのに」
「我関係ない」
「ぬっ、我の真似をしおったな」
早く座らないのが悪いんだよ。俺は左の席に堂々と座る。
すると、どうやら2人は外で何かを話している様子だ。
どうせ俺の悪口とか言っているんだろう。
俺がそう思っていると右側の扉が開き、チープが入ってくる。
「あれ? トレントは」
「そっちです」
チープが指さした方向は俺の扉の方で、外にはトレントが扉の取っ手に手をかけているところだった。
「おいおい、わざわざこっちからじゃなくてもいいだろ」
「いやいや、こっちの方が近いのに2人であっちから入ったらおかしいでしょ」
「うっ」
上手く考えやがったな。こんちくしょう。
「ほらほらそっち詰めてくれ」
「ちょっ、待ってくれよ」
右側には既にチープが座っているので、このままじゃ俺が真ん中になっちまう。
「貴様ら早くせんか。もたもたしとると、全員屋根に縛り付けるぞい」
大声とは言わずとも、グールの声には十分圧がかかっていた。
「……分かったよ」
俺は素直に真ん中へ座り、シートなんとかをしようとする。
「あれ? ベルトがねえ」
「そうじゃ、シートベルトは真ん中に無いんじゃった。すまんの、どっかに掴まって耐えとくれ」
「俺はシートベルトを付けられない運命なのかよ」
「随分限定的な運命ですね」
「……ほっとけ」
俺はこのまま一生シートベルトを付けられないのだろうか。
なんてどうでもいい事を考えていたら、車が発進する。
「わあ、凄い、本当に置いてかれる様な感覚があるんですね」
「そうかな? 俺は別に何も感じなかったけど」
「トレントは空気を操れるからな。自然と能力が発動してるんだろ」
やはり初めて乗る奴は全員同じ反応をするな。
まあ、被検体が俺とチープしかいないんだが。
1人例外発見しちゃったし。
「ここからジャスターズまでってどんくらいなんだ?」
「1度行った事があるのに分からんのか」
「えっ! チェス行った事あんの?」
「そうなんですか?」
「そう言えば言ってなかったな」
と言うより、完全に忘れてたんだけどな。
「おかしいと思ったんだよな。なんでチェスがジャスターズの幹部と知り合いなのかって」
「言われてみればですね。なんでチェスはグールさんと知り合ったんでしょうか」
「ナインハーズに紹介されたんじゃ。なかなか骨のある新人とな。まあ、言う程でもないがな」
「……昨日は才能があるとかなんとか言ってたくせに、よく言うぜ」
サンを超えるかもしれないまで言ってたのにな。
「才能があるのは確かじゃ。しかし現段階では即戦力にすらならんぞ。それこそジースクエアに対してなら尚更じゃ」
「ジースクエア?」
「なんですかそれ」
「あっ、グールの馬鹿」
こいつ口滑らせやがった。
ジースクエアの事は上層部での機密情報なのに、まだジャスターズに入って1日も経ってない2人に教えるのは、流石にまずいんじゃないか。
「はて、とっくにナインハーズから聞いてるものかと」
「あいつは秘密にしろって言ってたぞ。まあ、話しちまったらしょうがないけどさ」
「さっきからなんの話だ?」
「私たちにも教えて下さいよ」
こりゃ面倒な事になったぞ。
グールは幹部だから、この事を俺になすり付ける権力は十分に持っている。
そうしたら俺の人生どうなっちゃうんだ。
とりあえず下手な事言わずに、グールがクソ人間じゃない事を祈ろう。
「ジースクエアは強者たちの集まりじゃ。コイン・チルズ、レイブン・ゴールデン、リン・ヲルズ、キリング・ストリートの4人が主な要注意人物じゃが、その他にも手下合わせて……大体300人くらいかの」
「そいつらってどのくらい強いんすか」
恐る恐る、トレントが質問をする。
グールのいつもとは違う雰囲気を感じ取っているのだろう。
トレントは、ジースクエアはそれ程のものと、無意識下で理解している様だった。
「4人は元の達人であると共に、負け知らずの能力者じゃ。恐らく我が3人いても勝てないじゃろうな」
キリングはグール3人以上の実力を持ってたのかよ。
比較対象がいると強さを測りやすいが、まずグールの本気を見た事がないのと、能力が分からない限りどんなに想像しても、その域を超える事はない。
「ちょっと待って下さい。もう1度名前を言ってくれますか」
「ぬ? コイン・チルズにレイブン・ゴールデン、リン・グルズとキリング・ストリートの4人じゃ」
「それ、最後のキリング・ストリートって、苗字がチェスと一緒じゃないか」
トレントは厄介な所に気が付いた様だな。
「まあ、そうだな。だが、俺はあいつを兄と認めない」
「チェスってお兄さんがいたんですか?」
「俺も知らなかったよ、会うまではな」
「貴様会った事があるのか。よく生きてたものだの」
「ジースクエアってのは問答無用で殺してくる奴らなのか?」
「一種の快楽殺人鬼みたいなものじゃ。自分が強い故に道を踏み外しておる」
「チェスが生きててよかったです」
「ああ」
この話題はあまりしたくないものなんだが、そんな事は皆に伝わる筈もない。
だからと言って、自分から止めてくれと頼む事は出来ないな。
もう以前の独りの俺じゃない。
仲間がいて、友達がいて、それを崩したくない自分がいる。
俺はそんな自分を甘いと思いながら、どこか心地いいと感じてしまっている。
だからこそ、言えない。
「まあチェイサーよ、そう深く考えるでない」
ふと、グールが俺に話しかけてくる。
もしかして俺の気持ちを読んだのか、そう期待してしまった。
「我もそんなに馬鹿ではない。此奴等が適任と思ったから言ったんじゃ」
一瞬頭がフリーズする。
「……な、なるほどね」
全く想像していたものと違かったので、俺は言葉を返すのに数秒掛かってしまった。
「それって、俺たちにジースクエアと闘えっていう事すか?」
「いきなりとは言わん。じゃが、後々そうなるじゃろうな」
「私たち、そんなに強くないですよ?」
「能力者の対決に、強さは4割しか関わらん。他の6割は全て相性じゃ」
「チープとトレントはその6割を満たしてるって事か?」
「今は3割程度じゃがな」
恐らくあの会議の時にいた人たちも、そういう適任の人間だったのだろう。
ナインハーズが入れようとしてたって事は、俺も一応適任だったって事か?
「トレントは空気を操れ、チープは異常な再生能力じゃ。チープは言わずもがな、トレントに関しては弾道を変える事も可能かもしれん。となれば、サポートも攻めも守りも出来る訳じゃ」
トレントの能力が、キリングの能力よりも強ければ出来るかもしれない。
しかし、弾丸なんて速過ぎて目に見えないんじゃないか?
それも一斉にやられたら勝てっこないし、上手くいくもんなのか?
「そんなに上手くいきますかね」
トレントも俺と同じ事を思ってたらしく、代わりに聞いてくれる。
「上手くいかせる為の入隊じゃろ。今から弱音を吐いてどうするんじゃ」
グールなりの気合いの入れ方なのだろうか。
そう言えば、ナインハーズがグールは試験官の他にも、教育係をやってるって言ってたな。
という事は、俺たちの面倒を見るのもグールなのか?
「あっちに着いてから、俺たちはどうすればいいんだ? まさかそこまで投げやりとはいかないよな」
「そうじゃの、手続きは我がやろう。貴様らはサンにでも就いておれ」
よりにもよってあいつかよ。
「そのサンって人は、昨日グールさんが言ってた人すか?」
「うむ。彼奴はなかなかやるぞ。よーく鍛え込んでもらうんじゃな」
「サンの能力ってどんなのか分からないんだよな。そんなに戦闘向きなのか?」
「戦闘向きではないがの、それを上手く使いこなすサンが強いみたいなもんじゃ」
「能力に頼ってないんですね。そのサンって人は」
「うぬぬ、そう言う訳じゃないんだがの。……会うのが1番早いじゃろ。聞くより見るじゃ」
回答に困ったグールは、またも投げやりに話を止める。
チープの天然と理解力を持ってすれば、あのグールでさえ狼狽えるのか。
「それで、本気で俺たちを使えると思ってるのか」
俺は今の正直な気持ちを口にする。
「確かに鍛えればもしかしたらって事もあるかもしれない。だが、それまでにキリングが死んだり、ジャスターズが壊滅されられたり、或いは命令が取り下げられたらどうするんだよ」
「……最初の2つはまず有り得ん。キリングは死なんし、ジャスターズは幹部の1人でも生き残っておれば再構築可能じゃ」
「最後のは有り得るって事かよ」
「そうじゃの。頃合を見て再び命令が下る可能性はあるが、それはいつになるか分からん」
「それじゃあキリングは倒せないじゃねえか」
「チェイサー、気持ちはわかるがの。気持ちだけでは人は殺せん」
「それは分かってるよ……」
キリングが死んだり命令が取り消されるなら、ジャスターズとしても喜ばしい事ってのはよく分かってる。
しかし、それではこの心の底から湧いてくる怒りを放って置かないといけない。
俺はまだ、そんな事を出来る程大人じゃない。
「……なんか、私たちが口を挟んではいけない事なんですかね」
「そ、そうだな」
トレントとチープが少し縮こまる。
「いや、もう気にしなくていい。それより、そろそろじゃないか?」
「そうじゃの。ほれ、見えてきたわ」
遠くに大きい建物が数個見えてくる。
前は話に集中してて気にしていなかったが、遠くからでも相当でかいな。
「……あれが、ジャスターズの本部ですか」
「デケェ……」
「ちょっ、せ、狭い」
2人は窓に張り付く様にして、ジャスターズを見つめている。
チープに関しては、俺の事を物ともせずに身を乗り出している。
「賑やかじゃの。まあよい、着くまではそうしておれ。地獄の日々が待っておるぞ」
「えっ」
トレントとチープはあっちに夢中で聞こえてない様だが、俺にははっきりと聞こえた。
そしてちらっとだが、今グールが笑った様な気がしたのは気のせいだろうか。
俺は背筋に寒気が走るのを感じた。