チェスクリミナル   作:柏木太陽

4 / 83
クラス別対抗戦

 その後俺は職員室に立ち寄り、軽く挨拶をして帰ろうとしていた。

「おいおい。どこ行くんだ?」

 俺が出口に向かって歩いていると、ナインハーズが引き止めるように言ってくる。

「どこ行くって、帰るに決まってるんだが」

 それ以外ないだろ? のような顔で答える。

「帰るって……。ここは寮生だぞ?」

「……は?」

 寮生? それはここで衣食住を行うということですか?

「言ってなかったっけ? ってか、普通に考えたら分からなくはないと思うぞ? 犯罪をした奴をそのまま外に出すほどここは甘くないぞ」

 確かにそうだが……。説明不足すぎないか?

「ということは、俺も出られないって事?」

んー。と悩んだ後にナインハーズは口を開く。

「どうだろうな。君は犯罪をしたわけでもないし、申請書なんか提出したら出来るんじゃないか?」

「申請書……」

 思わず苦笑いしてしまう。

 俺には帰る家や場所はない訳だが、そんな事ならもう少し外で遊んどけばよかったな。

「まあ、そんな心配すんな。ジャスターズになればここに囚われる事もなくなるぞ」

 ジャスターズね。

 そういえば、そこまでジャスターズについて聞いてないな。

「そうだ、そのジャスターズってのは結局なんなんだ? さっきははぐらかされたからな」

「そうだな。話しても良いかもしれないな。君、思った以上に逸材だったし」

 ナインハーズは笑いながら言う。

 そう言われて悪い気がするやつはいない。

「ジャスターズというのは、言わば警察予備隊みたいなもんだ」

 警察予備隊というと、自衛隊の元になったやつかなんかだったっけ?

 とりあえず国を守る的な感じか。

「主に、能力者、無能力者関係なく、犯罪が発生した時に、警察と協力して動く組織だ。警察と違うところは、能力を酷使できることだな」

「なるほど。……ん? 能力者が能力を使うのは犯罪じゃなかったか? ジャスターズってのは犯罪者の集まりなのか?」

「もちろん、普通の能力者が敷地外で使ったら犯罪だよ。けど、ジャスターズには特別なライセンスがあるんだ。」

「ライセンスか。それの取得方法とかは?」

「まぁ、そんな催促するな。ここでしっかりと生活してて、成績が良ければ資格は取れる。だから最低でも半年はかかるんだ」

 半年……ね。そんな長くもないけど短くもない。

 能力を強化、洗練するには丁度いい期間か。

「その資格ってのは、何か試験みたいなのがあるのか?」

「ああ。1ヶ月に1度のペースで試験が行われてる」

「なかなかスパンが短いんだな」

「まあ……な。色々とあるんだよ」

 ナインハーズは少し暗い顔をする。

 おおよその予想はつく。

 恐らく、それだけ死亡率が高いのだろう。

 警察には対処できない危ない任務とかも行うから、それだけ上がるものだ。

 能力者の対処は能力者じゃないと無理だもんな。

 そりゃ1ヶ月に1度のペースになるのも納得だ。

 これについてはタブーなのだろう。ナインハーズの反応が物語っている。

「そこは触れないでおくよ。聞きたいんだが、1ヶ月に1回と言うと、1回の応募者数はそこまでなのか?」

 ナインハーズは曇らせた顔を元に戻し、俺の問いに対して答える。

「そうだな。そんなポンポンとジャスターズに送り出すわけにはいかないしな。それに、皆が皆応募するわけでもない。普通に社会人となるやつもいるからな」

「あくまで社会復帰が目的なんだな」

「そゆこと」

 ジャスターズについては大方知れたし、そろそろ俺の住むところへ案内して欲しいんだが……。

 先程までのように察してくれないかと、俺はナインハーズをじっと見つめる。

「ん? なんだそんな見て。俺の顔に何かついてるか?」

 流石に分からないか。

「いや、俺の部屋とかはあるのかなーって思って」

「ああ! 部屋ね。忘れてた。はい、これ」

 ナインハーズは俺に鍵を渡してくる。

 鍵には番号が書いてあった。

「1311?」

「部屋番号だ。あ、それと言い忘れてたけど」

 また言い忘れかよ。多すぎだろこの人。

「ルームシェアな。ここ」

 ……ルームシェア。あんまり他人と話すのは得意じゃないんだが……。

「ちなみにどんなやつだ?」

「えっとー」

 ナインハーズは何処からか取り出した紙を見る。

「ハンズ・バンスだな」

「ハンズ・バンス?」

「ああ。君と同い年くらいだよ。少しおかしなやつだが、能力だけは一流だ。仲良くしといて損はないぞ。ってか仲良くしとけ。訓練するときはルームシェアしてるやつと組むことになるからな」

「まじかよ。いやでも仲良くならないと駄目なのか」

「そうだ。じゃあ、1311号室に行ってこいよ。挨拶でもしてこい」

 ナインハーズは俺の気も知らずに話を続ける。

 挨拶も何も、ルームシェアだろ。

 まあ、俺もごねてる暇はないな。

「分かったよ。あ、そうだ。起床、就寝時間とかはあるのか?」

「ないない。基本的に自由だからな。その代わり、次の日にたるんでたら指導だけどね」

「へいへい」

 中々自由な場所だな。ここは。

 入って間違いでは無かったかもな。

 ルームシェアって点だけあれだがな。慣れればどうってことないか。

「じゃあ俺は職員室に戻ってるから」

 そういうと、ナインハーズは踵を返して職員室に戻っていった。

「さて、1311号室いきますか」

 部屋番号が分かったんだが、場所はよく分からん。

 地図とかはないのだろうか。

 あたりを見渡すが、それらしき物は見当たらない。

「どうするか」

 1311と書かれているあたり、1階の可能性が高い。

 とすると、とりあえず見学がてら部屋探しでもしますかね。

 俺は昇降口の正面にある通路を進む。

 両脇には、理科室や視聴覚室、研究室がある。

 本当に学校のようだ。

 その先に進むと、どうやら部屋のゾーンに入ったようだ。

 1001や1002と、部屋札が振り分けられている。

 おいおい。1001って、1311はまだまだじゃねえか。

 相当歩くなこれ。

 俺は先のことを考えると気が病みそうなので、適当に別のことを考えて紛らわすことにした。

 ……ふと、視線を感じる。

 俺は後ろを振り向く。が、誰もいない。

 気のせいか? 今誰かに見られていた気がしてたんだが。

 俺は立ち止まり、耳を澄ます。

 ……特に音はしない。

 気のせいのようだ。

 俺は再び歩き出す。

 部屋札は1014、1015と続いている。

 すると、また視線を感じる。

 しかし、今度は気づかないふりをすることにした。

 このまま気づかないふりをして、何かアクションを起こしてくるのか伺う。

 少し歩いて俺は立ち止まる。

 未だに視線は感じる。

 流石にここまでくると気になる方が勝つ。

 思わず俺は声を出す。

「誰だ? 俺をつけてるやつは」

 ここで誰もいなかったら恥ずかしいが、やはりと言うべきか、返事は後ろから聞こえてきた。

「すまんすまん。別につけてたつもりはなかったんだが」

 俺は振り向き、そいつの姿を目視する。

 そこには、背丈170後半くらいのニコニコとした1人の男がこっちに歩いてきてた。

「いやね? お前1311号室だろ? なのになんで1001号から1050号のところに入ったのかと思って、可笑しくてな」

 男はクスクスと笑っている。

 失礼なやつだ。

 初対面で馴れ馴れしく、なにせ、ストーカーが趣味なやつだ。

 きっと変なやつに違いない。

 俺は男の言ったことに対し、反抗するように言う。

「何でここが1001号から1050号までって分かるんだ?」

「何でって、入り口に書いてあったろ」

 まじか。全然気づかなかった。

 これは普通に恥ずかしいな。

 俺は戻るために、出口の方向へ歩き出す。

「おうおう、どこ行くんだ? ここが1311号室じゃねえか」

 男は横にある扉を指さす。

「は? お前何言って」

 その指の先を見ると、1311と書かれた部屋札がある。

「え!? あれ? どういうことだ? さっきまで違かった」

 男の方を見ると、顔を手で押さえて肩を揺らしている。

 こいつ笑ってやがる。

「お前、何かしたな?」

 少しキレ気味に放つ。

「すまんすまん。お前反応面白いな」

 男はまだ笑っている。

「まあまあ、気にすんな。とりあえず中に入ろうぜ」

 そうすると、男はポケットから鍵を取り出して扉を開ける。

「え、てことは……」

 嫌な予感がする。

「そう。俺がお前のルームシェアの相手」

 はい的中。

 終わったー。こんなやつと半年以上過ごさないといけないとかクソだな。

「まじかよ」

 思わず声が漏れる。

 それが聞こえたのか、男は励ますように俺に言う。

「元気出せって。俺もルームシェア初めてだから、不安な気持ちはわかるよ。お互い頑張ろうな」

 とんだ勘違い野郎め。

 原因はお前だっつーの。

 だが、男の元気さに思わず呆れてしまう。

「はぁー。そうだな。よろしく」

 俺は手を出して握手を求める。

 男も手を出し、俺と握手をする。

「こちらこそ宜しくな。いやー、お前がきてくれてよかったよ。危うく、クラス別対抗戦に出られないところだった」

「ん?」

 初めてきく単語だなー?

「何だそれ」

「はぁ!? お前知らないのか? クリミナルスクールといったらクラス別対抗戦だろ! クラス別で能力を競い合うって言う、非公式の祭典だよ」

 知らねえから聞いてんだろうが。

 何だ? とりあえず体育祭みたいな感じか?

 ってか非公式なのかよ。ここやっぱやべえんじゃねえか。

「……ん? クラス別なら、特にルームシェア関係ないんじゃないか?」

 部屋別だったら話は変わってくるが、そんな馬鹿馬鹿しい祭典聞いたことないしな。

「それが違うんだよ。ルームシェアの相手とペアを組んでエントリーしないと、参加出来ないんだよ」

 また面倒な仕組みだなクリミナルスクールよ。

 そこで俺はあることを思いついた。

「……あ! じゃあ、俺が参加しないって言ったら、お前も参加出来ないのか?」

 これで、馬鹿にされた仕返しができ

「ルームシェアしていて参加しなかったら、卒業するまで毎日居残りと、特別試験に半年に1回しか応募出来なくなるぞ?」

「やります」

 やります。

「よかったー。俺も去年から見てて、参加してみたいと思ってたんだよ」

「はぁ、そうですか」

 面倒な事になったな。

 ……だが、自分の力を試せるチャンスかもな。

「ちなみに、そのクラス別なんちゃらってのはいつなんだ?」

「えっと、確か1週間後だな」

 1週間後というパワーワード。

 期間短いなー。

 全然心の準備とか出来てないんだが……。

 俺が落ち込んでいると、男が再び手を出してくる。

「短い間だけど、これからよろしくな。ハンズ・バンスだ」

「あ、ああ。よろしく。チェイサー・ストリートだ」

 先程より気が進まないよろしくだが、まぁいいだろう。

 ハンズは部屋に入っていく。

「はぁ」

 ハンズの後ろ姿を見て、思わずため息が出る。

 ナインハーズ。少しじゃなくて、結構おかしなやつだよ。こいつ。

 後で会ったら、少し文句を言ってやろう。

 そう思いながら、俺もハンズに続いて部屋に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。