チェスクリミナル   作:柏木太陽

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能力について

「おー、チェイサー。また来たのか」

 ジャスターズの入り口には偶然にもサンがいて、俺に手を振って近づいて来た。

「おおサン、丁度良いところに来たの。此奴等の世話頼まれてくれんか」

「えっ、グールさん。どうしたんですかこんな所に」

「こんな所て、ここはジャスターズで我は幹部じゃぞ。いて当然じゃ」

「ま、まあそうですけど。って、え? チェイサーの他に2人いるじゃん。友達?」

 うーん、友達と答えていいものか。

 俺的に友達だが。それで違ってたら嫌だし、それになんか恥ずいしな。

「あ、友達のチープです。よろしくお願いします」

「同じくトレントです。よろしくです」

「あ、うん。友達」

 普通に言うのね。

 チープたちの純粋さを見ると、俺だけ恥ずかしがってたのが馬鹿に思えてくるな。

「はぇー、よろしくね。俺はサン・ウッドって言うから、サンとかでいいよ」

 サンは相変わらず人当たりが良く、この調子なら1日も掛からずに仲良くなれそうだな。

「うむ、後は任せたぞ。サン」

「ちょっ、何すればいいんですか」

 急いでサンが引き留めると、グールは振り向いてニヤリとする。

「貴様流の鍛え方をしてやれい。上限はつけん」

「ま、マジすか」

「サン流の鍛え方?」

「そう言われると、なんか三流みたいでカッコ悪いな。けど、本当にいいんですか?」

 サンが質問しようとすると、既にそこにはグールの姿が無かった。

「行っちゃったよ。まあいいか、暇だったし」

 暇だったって、ジャスターズの組織としての株が下がりそうな事言うなよ。

「サンさんはお強いんですよね」

 チープが興味津々にサンに聞く。

「サンでいいよ。俺ほどさん付けが違和感の奴はいないと思うし」

「じゃあ、グールさんがサンの事強いって言ってたんですけど、どのくらい強いんですか?」

 凄い積極的だなチープは。

 スウィン程じゃないにしろ、かなりの戦闘マニアだな。

「うーん、強いっちゃ強いんだろうけどね。そんな言われる程かな」

 サンは困った様に答える。

 まあ、幹部に推されて期待外れだったら嫌だから、保険かけてる言い方って言い直してもいいな。

「俺たちの世話って事は、これから鍛えてくれるのはサンって事ですか」

「そう言う事らしいね。俺もよく状況把握できてないんだけど、とりあえず部屋とか分かる?」

『部屋?』

 2人は声を揃えて首を傾げる。

「こりゃ聞いてなんだな。とすると、俺の隣の空き部屋使いなよ。なぜか俺の周りの部屋は空いてんだよな」

 お前もジャスターズ立場で言う問題児かよ。

 そう言えば、『戦闘面に関しては』優秀とも推されていたな。

 どうやら俺の周りの人間は全員、問題児かそれに酷似した奴らだけで構成されてる様です。

「部屋って言っても、俺たち特に何も持って来てないぞ」

「まあ、寝床くらいで考えればいいっしょ。どうする? 今から訓練でもする?」

「サン流訓練?」

「違ってねえけどやめろって。せめてウッド流にしてくれ。弱く見える」

「あの、訓練する場所とかあるんですか?」

 チープが目を輝かせて質問する。

「おお、君は積極的だな。確か名前は、チープだったっけ」

「はい」

「チープはどうやら強くなりたいみたいだけど、能力についてどのくらい知ってるのかな?」

「元とか系統とか相性とかです」

「まあそんなもんだよな。よし。詳しい事は、訓練場に移動してからにしよう」

『はい』

 2人は声を揃えて返事をする。

 凄い熱心だな、2人。

 

 入り口から左に曲がり、1つ目の角を右に曲がってから右に行って……、地下に行って……、左に曲がって……、右……。

 歩いて10分程度の地下にサンの言う訓練場があり、そこはクリミナルスクールと違って少し狭く感じた。

「ここが訓練場なのか?」

 端の壁が目で捉えられ、天井も然程高くなく、床一面はよく分からないツルツルザラザラとした素材だ。

「あっちと違って少し小さいけどね。どう? 和風な感じでいいだろ」

「ワフウ?」

「それって日本の文化でしたっけ。タタミだったりセンスだったり」

 トレントはどうやらワフウについて知っているらしい。

 日本? なんかどこかで聞いた事ある様な気がするな。

「そうそう、よく知ってるね。俺大好きなんだよね。忍者とか」

「分かります。カタナとかカッコいいですよね」

「タタミ? センス? カタナ?」

 チープが横でクエスチョンマークを飛び交わせている。

 俺も正直なに言ってるのか理解出来てない。

「ま、まあ、それは置いといて。ここはさっきトレントの言った通り、床が畳で出来ている。普通の床とは違い、滑りにくくて戦いやすい。それと、靴は脱いで上がりなよ。汚いから」

「靴脱ぐの? なんか特殊だな。そのワフウってのは」

「マナーだからな。だが、今はカルチャーショックを受けてる場合じゃなし。これからは慣れてもらうよ」

 サンが靴を脱ぎ、俺たちもそれに続く。

「さて、まずは基本から行こう」

 俺たちと向かい合い、腰に手を当てて、サンは話し始める。

「能力には、発動系、自然系、オート系、フルオート系、代償系の5つの系統があり、それぞれの特徴を持っている。それはもう知ってるよね」

「最初の方に、ナインハーズに説明された」

「さんな。それで、なぜ系統を分けると思う。チープ」

 まじか。これ名指し制なのね。

「えっと、相手と自分の能力の相性を見極める為ですか?」

「合ってるからもっと自信を持っていいよ。チープの言う通り、能力には相性がある。トレント、発動系に強いのは?」

「オート系っす」

「そう。じゃあチェイサー、フルオート系に強いのは?」

 げっ、やっぱり俺に回って来るよな。

 フルオート系は、確か発動系に? それとも代償系? いや、違ったっけな。やべえ分からない。

「すまん分からん」

「自然系な。まずはこの系統相性を覚える。それが基本中の基本だ。戦闘中に相手の系統が分かっても、これが分からなかったら意味がないだろ?」

「けどそれって、同時に発動した時だろ? そんな一瞬の事を気にして闘うのか?」

 フルオート系に関しては常に発動してるから、同時にとか無くないか?

「能力者同士の闘いは、一瞬の気の緩みが勝敗を分けるんだ。もちろんそれは能力者に限らず、スポーツや真剣勝負などでも同じだし、それは昔から変わってない」

「……よく分からんけど、まあ大事なのね」

 スポーツなんて初めて聞くカタカナだし。

「そゆこと。それと、その前にもう1つ、大事な事があるよね」

 能力の系統相性の前に?

「相手の系統を見分ける事ですか?」

「そう。さっきのは基本中の基本で、こっちはもっと基本。言わば、準備運動をする為の準備運動みたいなものだ」

 また意味の分からない例えを。

 チープなんてポカーンとした顔してるぞ。

「例えばそうだな。トレント、俺に攻撃を仕掛けてみて」

「えっ、俺すか? ……分かりました」

 トレントが構えると、周りの空気がより一層重くなる。

「ストップ。今ので2つ分かった事がある」

「えっ、今のでですか? ただ構えただけなのに」

 流石に無理があるだろ。ただ空気が重くなっただけで、能力で攻撃はしてないぞ。

「1つ。トレントの戦法は中距離、遠距離なのにも関わらず、攻撃する時は近距離という事」

 確かに相手を拘束したり、空を飛んで距離を取る事はあるけど、攻撃する時は常に直接やっている。

「2つ。空間、重力、又は空気のどれかに影響を与える能力という事。そしてそれは、オート系に属する能力を持っているという事。全部で3つだったかな」

「……なんで分かるんすか」

 トレントは驚いた様にサンに聞く。

 俺も正直トレントと同じ気持ちだ。

 あの一瞬で相手の能力と系統を絞り込み、見事に推測しやがった。

「慣れだよ慣れ。まず、俺に攻撃を仕掛けてって言った時、返事したのにも関わらずに、すぐに攻撃を仕掛けてこなかったのは、常に距離を取って戦っている証拠。だけどそれなのに、あんなに深く腰を落とすって事は、動く気がない。つまり、攻撃の時は自分から近づくって事。そうなると、相手の動きを拘束したり、遅くしたりする能力な訳で、空気が少し重くなったから、空間か重力か空気に影響を与える能力って事だから、オート系なのは確実って事」

「それを今の一瞬で……」

 トレントは辛うじて口にするが、俺はチープ同様声が出ないでいた。

「そゆこと。一瞬の気の緩みってのはこう言う事。分かった? チェイサー」

「お、おう。分かった」

 ジャスターズの奴らは、これを普通にやってのけるのかよ。

「で、因みに当たってた? 能力」

「殆ど正解です。俺は空気を操れます」

「やったー。俺の観察力もまだ衰えてないなあ」

 本当にこれがグールの推す、戦闘面に関しては優秀な奴かよ。

 なんか見た感じそんな風には見えないんだけどな。……それと、少し子供っぽいし。

「他の2人は推測してもいいんだけど、普通に教えてもらった方が早いね」

「私はフルオート系の超再生能力です」

「フルオート系か。珍しいね。チェイサーは?」

「俺は物質変化でオート系だ」

「物質変化……? ちょっと見せてくれ」

 そんな珍しい能力じゃないと思うけどな。と、思いながら俺は髪の毛を1本抜く。

 それに能力を付与し、瞬く間に髪の毛は剣へと形を変えた。

「はぇー、器用だな。どうやってるんだそれ」

「適当に伸ばして強度上げてるだけ」

「強度も変えられるの?」

「おん」

「とすると2つ持ちか? いや、けどなぁ」

 サンが何か悩む様にして腕を組んでいる。

 俺なんか言っちゃいけない事でも言った?

「チェスって、脆くするだけじゃないんですね」

 チープが肩をちょんちょんとして聞いてくる。

「あんまり詳しく話して無かったな。俺は物質の長さと強度を変えられるんだ」

「意外と便利そうだね。それ」

「まあね。俺もそう思ってる」

 自分の好きな形に物を変形出来るのは、案外楽しいしな。

「なあチェイサー。これって重さはどうなんだ?」

「重さ?」

 そう言えばそんなの考えた事なんて無かったな。

「多分変わらんと思う。ほら、持ってみ」

 俺はサンに髪の毛で作った剣を渡す。

「うおっ、軽。本当に形だけが変化してるんだな」

「重さって変わるもんなのか?」

「大いに。長さを短くして、重さが変わらないってのはまだ分かるけど、長くしたら普通重くならないとおかしいんだよね」

「それはどうして」

「小石より、ある程度重さのある石の方が投げやすいでしょ? 能力は自分に有利に働く様になってるから、軽過ぎると逆に威力が下がると思うんだよね」

 確かに、軽いと簡単に弾かれる可能性があるな。

 けどその分、俺は強度を上げて相手を脆くしながら切れるから、あんまり気にする事が無かったのか。

「さっき強度も変えられるって言ってたけど、そっちの方でカバーしてるのかな。だとしたら同時に2つ発動してるから、効率悪いと思うけどなあ」

「いや、脆くしながら切ってるから、実質3つだぞ」

「3つ!? だとすると、チェイサーは2つの能力じゃなくて、4つの能力が2つに見えてるって事?」

「ややこしいな。けど、やろうと思えば同時に発動も出来なくはない」

 グールの試験の時に、脆くしながら地面を伸ばしてたからな。

 あれはなかなか神経使ったけど。

「ますます分からなくなってきたな。これは専門家に頼むしか、チェイサーの能力の解明は出来ないかも」

「そんなにか?」

「かなり高度な使い方してるよ、チェイサーは。正直1つしか持ってない俺らからしたら、未知の世界だしね」

「あまり気にした事ありませんでしたが、チェスは複数の能力を使っていたんですね」

「なんか手が4本あるみたいだな。俺たちもサンと一緒で全然分からないよ」

 俺ってそんな特殊な能力を持っていたのかと、今の今まで気が付かなかった。

 だってこれが普通で生きてきた訳だし、それ以下でもそれ以上でもない。

 確かに少し他の人より複雑だと思ってたけど、まさかサンですら分からないとは。

 俺の能力、一体どうなってんだよ。

「一応連絡はしといたから、後5分くらいで来ると思う」

 サンの方を見ると、左手には何か四角い機械の様な物が握られている。

 ツールと似ている気もするが、少し形が違うな。

「連絡ってだれに」

「だから専門家。俺、気になったら調べ尽くす派なんだ」

 ドヤァとサンが言うが、正直どうでもいい。

 まあ、自分の能力が詳しく知れるのはいい事だし、別にいいか。

「来るまで適当に時間潰してていいよ。あ、因みに専門家って言っても俺と同期だから、そんなかしこまんなくていいよ」

「なるほどね。タメでいいと」

「……そう言う訳じゃないんだけどな。まあいいか、許してくれると思うし」

 専門家か。

 以前ナインハーズがジャスターズは脳筋の集まりじゃないって言ってたな。

 とするとその脳筋の奴ら以外の人が、今から来るって事か。

 少し楽しみだな。

 どんな感じの人なんだろ。

 俺の心は、少しばかりウキウキしていた。


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