さて、引き受けたはいいものの。
最近サボり気味だったから、動けるかな。
けどチープのあの目見たら、断れないからなあ。
「よろしくお願いします」
律儀にお辞儀しちゃって。ったく、新人はかわいいな。
「こちらこそ」
問題はあの2人。
能力が知れてても、底がまだ見えない。
特にチェイサーに関しては、まだまだ何かありそうだし。
参ったな。これ勝てないかも。
「ふん」
まずは軽く1人を。
俺は素早くチープに近づき、顎を殴る。
これでチープはダウンかな。
「やっぱり強いですね!」
「うおっ」
チープはややカウンター気味に反撃をしてくる。
俺はそれを軽く避け、少し距離を取った。
おかしいな。脳が揺れなかったか?
「俺たちもいる事を忘れないでくださいねっ!」
いつの間に背後に。
俺に気配を感じさせなかったのは、能力の影響か?
「忘れてたって言ったら怒る?」
俺は後ろに蹴りを入れ、トレントを吹き飛ばす。
「ぐぁっ」
気配を消したのはいいけど、殺気ダダ漏れだな。
「ふっ」
後ろからの拳に、俺は咄嗟に避ける。
はえー。そんな簡単に背後を取られる程、俺はサボった覚えは無いけどな。
「あまい!」
右肘でチェイサーの腹を打つ。
「くはっ」
それと同時にチープが走って来ていた。
いい判断だな。
今の体勢だと勢いのまま左脚で蹴るか、一旦距離を取るしか選択肢は無い。
普通の人ならね。
「うぐっ」
チープがよろめく。
俺はその隙に、3人と逆の方向に距離を取る。
「どうしたチープ」
「大丈夫か」
2人はチープに駆け寄る。
さあさあ俺の能力の考察を始めないと、分からないまま負けちゃうぞー。
「な、なぜか攻撃されていないのに、顎を殴られました」
「どう言う事だ?」
「もしかして、サンの能力かもしれないよ」
おっ。早速気付き始めたね。
なら、後は闘いながらで。
俺はまず、トレントを狙う。
「トレント! 避けろ!」
トレントの腹を殴り、突き放す。
「うぐうっ」
その後にチェイサーを右足で蹴るが。
「ふっ」
両手で防がれてしまった。
「中々やるね」
「そっちもな」
もう片方の足で頭を蹴り、その勢いのままチープに拳を振るう。
「はあっ」
チープも拳で来るか。
砕けても知らないぞ?
2人の拳が触れ合う、その直前。
俺の背筋に、凄まじい寒気が走る。
「あぶねっ」
拳の軌道を外し、それは空を切る。
「サンめ、気が付きやがったか」
声に出てるぞチェイサー。
それにしても、なんださっきの寒気。
そう言えば、チープの能力だけ分かってないな。
「考察はさせませんっ」
チープは再び俺に拳を振るう。
接近戦な辺り、何かに触れて発動する系か?
いや、この大振りさは違うな。
それなら確実に当てる事に集中させる筈。
「中々当たりませんね」
いくら連打したとしても、そんな大振りじゃ当たる訳も無し。
俺はじっくりと考察に集中出来る。
「はあっ」
急に身体が動かなくなる。
指先までガッチリとホールドされている様だ。
「隙あり!」
まずい。このままじゃあ、顔面に直で攻撃が入る。
流石にもろに食らったら、俺も耐えられる気はしない。
この症状からして、俺を拘束しているのはトレント。となると。
「がぐあっ」
トレントの腹に衝撃が走る。
よし、解けた。
間一髪でチープの拳を避け、逆に顔面に食らわせる。
「ゔっ」
血が出ない。
手加減する余裕が無かったからやり過ぎたと思ったが、どうやらその心配はない様だな。
「チープ。君は再生能力っていった所かな」
「……それはどうでしょうね」
これで謎は解けた。
道理でさっきから攻撃が効かない訳か。
傷がついた場所からすぐ再生する事で、ほぼ怖いもの無しで特攻出来る。
それに加えて、その加減なしの破壊力。
恐らく身体の壊れる心配がないから、無意識にしているタガを外す事に成功したのだろう。
「うおっ」
突然足場が崩れ、それと同時に後ろからチェイサーが攻撃を仕掛けてくる。
脆くして、体勢を崩す。
「……それはいいんだけどさ。ここは神聖な場所だぞ!」
道場の床を破壊するなんて、あるまじき行為。
俺は瞬間的に振り返り、チェイサーに連撃を浴びせる。
「うわお。サンが怒った」
足を蹴り崩し、転ぶ前に腕を掴む。
引き寄せながら腹に手を当て、発勁をする。
「かあはっ」
そして右、左と拳で連打する。
全て腹に当てるが、一応急所は外す。
「あららら。チェイサーが死んじゃうよ」
「チェス!」
チープが近づいて来るが、顔面を掴み、思いっきり投げる。
「うわあっ」
再び振り返り、チェイサーを攻撃しようとするが、そこにはチェイサーの姿は無かった。
「くそが!」
どうやったのか上から降って来たチェイサーに、俺は打撃を食らう。
「ぐがあっ」
久しぶりに相手の攻撃を食らったな。
少し取り乱していたのが原因か。
いや、そうでなくても今のは中々いい攻撃か。
「チェス! 離れて!」
トレントの掛け声で、チェイサーが俺から距離を取る。
何をする気——。
「ドゴォン!!」
まるで至近距離で花火が爆発した様に、爆音と共に炎が広がる。
俺はと言うと、突然な事もあり、避ける事が出来ずに吹き飛ばされていた。
「……お前らなあ、いい加減にしろよ。畳が火に強いからって、限度はあるだろ」
爆発した箇所と思われる場所には、大きな凹みが生じており、少し焦げている。
原理は分からないが、どうやらトレントの仕業だろう。
「これはまずそうですよ」
「ああ。今度は本気で怒ったかもな」
「だ、だな」
「早く逃げた方がいいよー」
瞬間。俺はトレントの目の前へ移動し、2、3発打撃を食らわせる。
そして能力を発動させて、再び衝撃を与える。
「ぎぐぁっ」
俺の能力は『再発』
俺が与えた衝撃又は、過去に与えられた症状を1度だけ再発させる事が出来る。
これは俺にも相手にもを対象とし、生きているものにしか効果がない。
「まだまだ!」
チェイサーに腹の衝撃を再発させ、怯んだ所に連撃を食らわす。
「ぐがはっ」
攻撃をする度に俺の能力の材料が増え、1度攻撃を与えたらほぼ俺の勝ち。
今までセーブをしていた分、衝撃が溜まっている。
俺は一瞬の隙も与えずに、俺はチェイサーを攻撃する。
「ちょっとこれはやばいかもね。そろそろ止めないと」
「チェス!」
チープが横から攻撃して来るが、前に与えた衝撃でそれを阻止する。
「いっ」
チェイサーを吹き飛ばした辺りで、俺の標的をチープへと変える。
「チープ。本気で行くぞ」
「……はい」
俺は一瞬で距離を詰める。
殴り蹴り、外部内部、急所構わず出来る限りの攻撃をチープに食らわせる。
反撃の隙を与えない程、それは凄まじかった。
しかしチープはその全てを受け止め尚、倒れないでいる。
「根性あるなあ!」
更にスピードを上げて攻撃をする。
本来なら既に死んでいるであろう攻撃を、能力を、俺はチープに与え続ける。
しかし、突然俺の脚に痛みが走った。
「ゔぐっ」
この状況で蹴ったのか。
再生するだけで、痛みは感じる筈。
失神していても、おかしくないくらいには攻撃したのに。
それでもチープは立っていた。
「今、やっとサンの能力が分かりましたよ」
一瞬背筋が凍る。
その声は鋭く殺気を帯びており、生半可な人間じゃ出せないオーラを放っていた。
「限度が無いのは、そっちの方です!」
渾身の右ストレートが俺に飛んでくる。
これを食らったら、恐らく俺の命はないだろう。
今のチープには、それこそ限度という言葉は存在しない。
ここはやるしかないか。
「すまないチープ」
俺は今まで与えた全ての症状を、チープに解放する。
「があっ」
それにより、拳は止まってチープは立ったまま気絶する。
一気に痛みが押し寄せて来たから、仕方のない事だろう。
俺は勝負が決したと思い、踵を返そうとする。
すると、ピクりとチープの手が動いた。
「まだ、です」
トンっと俺の頭に拳が触れると、チープは崩れ落ちる様に倒れた。
その間、俺は動く事が出来なかった。
「おい、サン。チープの言う通りだ」
後ろから声がする。
振り向くと、そこにはチェイサーが凄い殺気を纏って立っていた。
「俺たちはまだ負けてねえ」
「へっ、そうかい」
スロースターターだが、やっとエンジンがかかって来た様だな。
トレントも同様立ち上がり、殺気を纏わせる。
「本気で行かないと、俺が逝っちまいそうだな」
二方向からの攻撃は容易く避けられる。
しかし、それは卑怯に等しい行為。
誠心誠意ぶつかって来る相手に、戦闘家の俺が避けられるわけがない。
「はあっ」
まずはトレントが来るか。
悪い癖だなチェイサーは。
自分が決定打を放ちたいが為に、いつも後手に回る。
そしてその時は常に無防備。
俺はチェイサーの腹に食らわせた衝撃を再発させる。
「ぐかあっ」
気を抜いていた分、かなりのダメージだろう。
俺はトレントの拳を受け止め、そのまま力を利用して投げる。
これこそ日本が誇っていた体術、合気だ!
「ふっ」
トレントは壁際に倒れ、俺はチェイサーの方へ走る。
少しよろめいているチェイサーに2、3発打撃を入れ、それを再発させる。
「いっでえな!」
それでも怯まず、チェイサーは俺に拳を振るう。
右右左右左右右右左左右。単純な攻撃が俺に当たる筈もなく、全て体術で受け流す。
やはり甘い。
これが試合で無く、殺し合いなら俺はチェイサーに上を取られた時に死んでいた。
しかし殺す気で来たにも関わらず、そこで躊躇うのがどれ程の危険を招くか教えるのが俺の役目。
それにしても、殺気は凄いが体力的には限界らしいな。
それでも攻撃する度に速度が上がってきている。
戦闘の中で成長する、天才型か。
チェイサーの拳が俺の頬を擦る。
「やるなあ。だが」
チェイサーが一瞬呼吸をした時、俺は顔面目掛けて、本気の拳を叩き込む。
しかし拳の当たる瞬間、なぜかチェイサーの顔が笑った様に見えた。
「んがっ」
急に目の前が揺れる。
それと同時に地球がひっくり返る様な感覚。
まともに立つ事が出来ずに、幾度も手をつきそうになる。
「ト、トレント……」
「サック!」
俺が顎を蹴られたと気付いたのは、何かをされてからの後だった。
「ゔっ」
再び身体の自由が奪われる。
今の状況ではかなりまずい。
頭がぐわんぐわんとし、まともに思考が働かない。
とりあえず、トレントに衝撃を。
「ぐゔっ」
——解けない!
さっきとはまるで覚悟が違う。
俺を確実に殺すと、そう覚悟をしてトレントは能力を発動している。
俺を縛りつけている薄い空気の膜は、まるで真空パックの様に段々と密着してくる。
指先が動かなくなり、腕、肩、遂には息すら吸えなくなる。
「こ……これは、マジ……で……死……ぬ」
俺は意識が朦朧としていき、そして気絶した。
それとほぼ同時に、トレントもチェイサーも気絶する。
サン対チェイサー、トレント、チープ。
ほぼ同時に気絶した事により、引き分け。
「ありゃりゃあ。どうすんのこれ」
同刻マンタスト。
「キューズ様」
「なんだまたかサザン」
各地の幹部を呼び集めに行った筈のサザン・オールドが、まだ首都ガンジを離れていなかった。
「実は、サイコス、シュロープ町を拠点としていた幹部、エッヂ・ラスク様が単独行動を致しまして」
「具体的には?」
「はい。自らをリストと名乗り、市民を惨殺しながら移動しております」
「どこに」
「……ジャスターズ本部です」
「あら。随分と大胆な行動をするお方でしたっけ。エッヂは」
「適当に幹部にした覚えはあるけど、結構行動力のある奴だったんだなー」
「キューズ様の見る目があったという事ですね」
「そうとも言う」
2人は笑い、サザンはやや後ろへと下がる。
「で、それがどうしたの。中々面白い事やってるじゃん、あいつ」
「ですが——」
「なに? なんか言いたいの?」
キューズはサザン、自分の部下に容赦なく殺気を放つ。
それは常人のレベルを遥かに超えたものだった。
「い、いえ。滅相もございません」
「忘れてないだろうけど、後半月だからね? お前の命」
「も、もちろんでございます。しっかりと、この肝に銘じております」
「分かったなら行っていいよ」
「では」
サザンは急いで踵を返す。
いなくなった頃、キューズが口を開く。
「エッヂねー。今度会ったら、食事に誘ってやるか」
「お優しいですね。またグロックですか?」
「まあねー」
「キューズ様も飽きませんね」