チェスクリミナル   作:ハザマダアガサ

46 / 83
アルトカンジーニャ

「もうちょっと速度落としてくれー!」

 ジャスターズを出てから数分。

 俺はまだ座席から腰を浮かせた状態のままでいた。

 直線だけなら段々と慣れるが、道路というものは厄介で、曲がり角が無い方が不自然だ。

 もちろん曲がり角の時は、曲がる方向と逆に押し出され、シートベルトをしてない俺は耐える術がなくそれに身を任せる。

 サン、絶対シートベルト壊れてるの知ってて、俺をここに座らせたな。

「そうだ! トレント、俺を空気で固定してくれ」

「くかー、がーこーがーこー」

 俺が振り向くと、トレントは明らか不自然に寝たふりをしていた。

 こいつめ、なんか俺に恨みでもあんのかよ。

「少し静かに座ってくれない? チェイサー」

「なら速度落とせ!」

 チープはキラキラした目で俺を見つめ、何か出来ることはありませんかと言わんばかりの眼差しだ。

 因みにお前に出来る事は何も無いぞ。

「後何分で着くんだよ! そのシュロープ町ってのは」

「うーん。このスピードで、相手もこっちに近付いて来てるとなると、あと5分くらいかな」

 あと5分か。

 それならこの状態でも多少耐えられるかも。

「やっぱ10分かも」

「嘘だろ!?」

 そろそろ踏ん張ってる足が限界だ。

 せめて速度を落としてくれ。

「しょうがないなあ」

 ふと身体が固定される。

 踏ん張っていた足も楽になり、座席に着く。

「やっぱり起きてたのかよトレント」

「まずはお礼じゃないの?」

 わざとらしく寝てたのは誰だよ。

「まあ、ありがと」

「それでよし」

「仲良いな君たちは。まあ、チェイサーが静かになった事だし、さっき言いそびれた最高放出元量の話でもするか」

 チープが最終兵器の原料と聞き間違えてたやつか。

「それって随分と長い名前だけど、ちゃんとした意味があるのか?」

「当たり前だろ。読んで字の如く、1度に放出できる元の最高量の事を指すんだよ」

「ちゃんと言われても、あんまよく分からんな」

「まあ聞けって。能力者には最大元量ってのがあって、使える元の量は決まってるんだよ」

「回数制限みたいなものか?」

「少し違うがそれでいいと思う。例えばチェイサーが1度の発動で使う元が100だとして、最大元量が1000なら、最大で10回は使える事になる。そして、この最大元量が多ければ多い程強いと言われている」

 概ね体力みたいなものなのだろうか。

 その最大元量の中で、能力をやりくりして闘うって訳だな。

「しかし最近になって、それは間違いという意見が出てきたんだ」

「間違い?」

「そう。それが俺のさっき言った最高放出元量だ」

「説明聞いたけど、あんまピンとこなかったぞ」

「まあそうだろうな。簡単に言えば、最高放出元量は能力の威力と考えてもらっていい」

「なるほど。なんとなく分かったっす」

「私もです」

 どうやらこの一言で2人は理解したらしい。

 俺はと言うと、未だにはてなの山から下山できないでいた。

「そうだなあ。例えばAさんとBさんがいます。Aさんの最大元量は10000で、Bさんは1000です。しかしAさんの最高放出元量は100で、Bさんは1000です。どちらも攻撃が確実に当たる場合、闘って勝つのはどっちでしょうか」

 明らかにAさんの方が最大元量が多く、Bさんは少ない。しかし最高放出元量はBさんの方が勝り、最高放出元量が技の威力だとすると、Bさんが勝つのか?

 けど手数はAさんの方が多いし、一撃で仕留められなかったらBさんの負けは目に見えてる。

 どっちの勝ち負けも想定できるな。

 俺が悩んでいると、ゆっくりとサンが口を開く。

「チェイサー、それが正しい考え方だ。能力者の闘いで勝ち負けは予測できない。少し意地悪な問題を出してすまなかった」

「てっきり私はBさんが勝つものかと思ってました。チェスは気付いてたんですか」

「俺もBかと思ってた。凄いなチェス」

 ただ沈黙してた。考えがまとまっていなかっただけなんだけど。とは言えなかった。

 この不安定さが、能力者同士の闘いで必要な考え方なのだろうか。

「2人も一概に間違ってるとは言えないんだよね。最高放出元量は防御値に直結する訳じゃ無いし、短期戦ならBさん。長期戦ならAさんとも考えられるからね」

 難しいな能力者ってのは。

 今まで能力を使えるだけの人と思っていたが、元だったり最高放出元量だったり、最大元量だったり。

 種類がありすぎて覚えられないな。

「その最高放出元量って、どうやって確かめられるんすか?」

 確かに。自分の最高放出元量とかが分からなかったら、意味がないな。

「確かめる方法はあるはあるけど、今は少し難しいかな。まあ、そんなに気にしなくていいと思うよ。いちいち考えながら闘ってる訳じゃないし」

「そうすか」

 一応確かめる方法はあるんだな。

「ってかそろそろ着くぞ」

 窓の外を見ると、そこには小さな民家の様な建物が沢山並んでいた。

 さっきまで町を走っていた気分だったが、内とは違い外は変化していた。

 1つ1つが古く、人が住んでるのか住んでいないのか、分からない家すらもある。

 一体何年前からここにあるんだ?

「サイコスにもこんな所があったんだな」

 外を見つめながらそう呟く。

「シュロープ町はもう少し綺麗だけどな。ここはそれより手前のアルトカンジーニャって場所だ」

 また随分長い名前だな。

 まあ、覚えなくていいだろうから覚えないけど。

「シュロープ町には行かないんすか」

「あっちもこっちに近付いて来てる訳だし、ここが丁度合流地と思うんだよね」

 合流地って……。川みたいに言うんだな。

「少し時間あるだろうし、適当に外歩くか」

 サンが急ブレーキをかける。

 しかし俺はトレントに固定されているので、全くその影響を受けなかった。

 今度から車に乗るときはトレントを連れていこう。

「じゃあ行くか」

 そう言いサンが車を降りる。

 俺も降りようとするが、まだ固定されたままだ。

「あ、トレントもういいぞ」

「じゃあお先に」

「私も」

「おいこら待て」

 ここで置いてかれるとか、どんな拷問だよ。

 身体の拘束がとけ、俺も車を降りる。

「少し曇って来たな」

 空を見ると太陽が雲に隠れ始めており、段々と辺りが暗くなって来ている。

「誰だ貴様ら」

 突然の聞き覚えのない声に、俺は異常なまでの反応を示す。

 声とは反対に2、3歩飛び退き、腰を落として構え、チープとトレントは俺と同様、既に行動していた。

 その声は低く殺気は纏っていなかったが、明らか俺たちに敵対している声だった。

 そんな中サンだけは、その声の主を見ていた。

「誰って……、多分名前言っても分からないでしょ。逆にお前は誰なの?」

 初対面にも関わらず喧嘩腰で話すサンに、俺はこの状況を僅かだが理解した。

 少し外を歩いて待とうとしていた、奴が既にそこには居たのだ。

「我らはリストなり! 貴様ら罪のない市民を殺戮する為、キューズから送られてきたのだ」

 男は大声でそれを響かせ、それにまた2、3歩引く。

 そしてやはりキューズか。

「我らって言う割には1人なんだな」

「貴様には我らが1人に見えるのか。可哀想な」

 男は背丈190センチメートルくらいの、肩幅の広い中年で、拳は常に握ってあり、まるで石みたいにでかい。

 髭や髪の毛は無く、しかも病気みたいにさっぱりだ。

 剃っただとかの次元では無く、生まれつき髪がないように、毛穴すら見当たらない。

「貴様らどこから湧いて出た。先はいなかったが」

「チェイサーちゃんと聞けよ」

 小さくサンがそう呟く。

「2人を連れて逃げろ。ここから東、後ろに走ってけば町がある。そこの人たちにもこいつのこと報告して、そのまま逃げろ」

「なんで——」

「湧いて出た訳じゃないぜ? 生憎俺もジャスターズから送られて来たんだ。お前を倒すようにってな」

 サンにはもう俺たちは見えていなかった。

 目の前の敵、この男にしか意識を集中させていなかった。

「ジャスターズ……」

 男がその言葉に過敏に反応する。

「我らの敵。キューズ様の最大の敵であるジャスターズ。憎きジャスターズ。許すまじ」

 男がこちらに歩き出し、俺たちはそれをじっと見つめていた。

 急に背中に衝撃が走る。

 それと共に、俺は我に帰る。

「トレント、チープ。逃げるぞ」

「何言ってんだ。俺たちも闘うぞ」

「そうですよ。逃げる事なんて出来ません」

「早くしろ!!」

 俺の大声はサンとその男には届いていなかった。

 2人は互いに互いを見つめ、臨戦態勢に入っていたからだ。

 トレントとチープは俺の余裕のなさに気が付き、俺が後ろに走り出した時に、もうサンを見ていなかった。

「こいつは強えな」

 最後にそう聞こえた気がした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。