部屋の中は特に変わったものもなく、少し物が散らかってるのが気になったくらいだ。
「適当なとこに座ってくれ」
俺は散らかっている物をどかし、座る。
「でさー、さっきの話なんだけど」
「ん? クラス別何ちゃらか?」
そんなにそれが好きなのかよ。
「そうそう。クラス別対抗戦な」
「へいへい」
俺はどうでもいいとあしらう。
「ペアで参加する理由なんだが、これ、なんか怪しいんだよ」
「? 何がだよ。ってか理由知らんし」
「そうか。言ってなかったな。ペアで、つまり2人以上で参加しないといけない理由なんだが、スクール側が『良きライバルと参加することにより、互いに能力を高め合うことが出来る』って言ってんだよ」
普通じゃねえか。
普通すぎておかしいって点なら認めるけど。
「それのどこがおかしいんだよ。なんの捻りもない、つまらない理由だけど、特に変って感じるとこは無いぞ?」
「ホントか? よく考えてみろよ。さっき俺はお前に何した?」
さっきと言うと、握手? いやそんなわけないか。
理由の説明? な訳ないな。
……とすると、
「あの、部屋番号が変わってたやつか? あれは幻覚系の能力か? 俺を騙してたとか」
「そうそれ! けど残念。幻覚系の能力では無いね。俺の能力を教えてもいいけど、お前のも教えてくれるって約束できるか?」
「ああ。別に減るもんじゃ無いしな」
あと、お前の事をどうしても信用できなかったら、適当に似たような能力を伝えればいいだろ。
「おっけー。じゃあ言うわ」
随分と綺麗な環境で生きてきたんだな。
口だけの約束で相手を信用するなんて、俺にはできねえよ。
「俺の能力は超高速で動けることだ!」
「ほー。強いな。なかなか」
「だろ! 強いだろ! お前も一瞬で1311号室に運んできたんだぜ」
まあ、能力を聞いた時から察しはついてたよ。
しかし、俺が気づかないうちに運ばれるとは……。普通に1対1で負けるかもな。
「俺は物質の形と強度を変えられる能力だ」
俺はハンズに敬意を払い、素直に言う。
「おおおおお」
ハンズはどうやら感心しているようだ。
やってみせてと言わんばかりに、眼差しを向けてくる。
俺もはいはいと言いながら、そこら辺の紙を拾い上げる。
するとその紙は、瞬く間にナイフに変わる。
「すげぇ! ガチで変わった。これ素材紙? どんくらい切れるの?」
すごい興味深々のようだ。
まるで初めてみるマジックの様に。
「素材はさっきの紙であってる。強度はどんな物質でも等しく変えられる。切れ味は普通の包丁より切れるくらいだな」
「すげえなお前。感心したよ」
知ってるわ。感情ダダ漏れだったぞ。
「で、さっきの話はどうなったんだ?」
「そうだそうだ。忘れてた」
忘れちゃダメだろ。
「さっきの覚えてるか? スクール側の」
「ああ。なんとなくな」
互いを高め合うとかだろ?
「それ自体は普通なんだよ。ってか普通すぎて面白みがないんだよ。センスの欠片もなくて、普通の中の普通すぎて普通じゃないくらいなんだよ」
「お、おう。だな」
なに? クリミナルスクールに親殺されたの?
……いや、普通に有り得そうな話だから冗談にならんかもな。
発言するときによく考えるタイプでよかった。
「問題は高め合う存在なんだよ」
「というと」
「俺の能力を体感して分かったと思うけど、俺は強い方の能力者なわけなんだよ」
「まあ、そうだな。正直全然気が付かなかった」
「そこでだ。何故俺が、去年ずっと指を咥えながら、参加もできなくて寂しく過ごしてたんだ? おかしくないか?」
「もっと詳しく頼む」
もうすこしで分かりそうな域までは来ている。
「そうだな。簡単に言うと、互いに能力を高め合う、つまり能力強化が理由なのに、なんで俺みたいな強い奴が、参加する資格を与えてもらえなかったって事だよ」
なんとなく分かった気がする。
「強い奴ほどもっと強くならなくちゃダメじゃないか? ジャスターズに推薦する為とか。なのに、なんで強い奴ほど参加人数が少ないんだ?」
俺に言われてもね。
「まあ、お前に言っても仕方ないよな」
どうやら顔に出ていた様だ。
「強い奴ほどって、お前以外にも強くて参加できない奴とかいるのか?」
「そりゃもういっぱい」
「何人くらい?」
「俺含めて4人くらい」
「それ、問題児だからじゃね?」
問題児になるくらいだから、多少強い能力なんだろうな。
「いやいやいや。問題児じゃないから。真面目に授業受けてるし。面倒かったらサボるけど、行く時は行くし。1週間に最低でも2回は行ってるし。先生は2、3回殴ったことある程度で、イジメとかしてないし。なにより、俺に対して先生滅茶苦茶優しいし」
「見放されてるんだな。お疲れ」
あと、普通に2、3回殴ったって言ってたけど、バチバチの不良じゃねえか。
俺こんな奴とルームシェアかよ。
ナインハーズ。洒落にならないぞこれは。
「とにかく。俺は問題児じゃない。他の奴らは置いといて、俺はまともな方だぞ」
「そんなに残りの3人はヤバいのかよ」
「ああ。ヤバいぞ。まあ、言っても俺よりは弱いけどな」
ハンズはドヤ顔で言う。
この調子だと、ハンズと同レベルかそれ以上か。
ここには、俺より強いのが最低でも4人いるのか。
先が思いやられるぜ。これは。
特別枠とかいうやつで俺は強いと勘違いしてたが、よく考えたら犯罪起こすくらいだから、みんな強いんだよな。
調子乗ってらんねえな。
「そいつらに会えるか?」
「今? あいつらに?」
「ああ。今からだ」
一度でもいいから見ておきたい。
こいつのお墨付きな訳だからな。
「あいつらどこかなー? 生徒指導室とかか? けど、この前生徒指導室出禁食らったって言ってたしなー」
うーん。と、ハンズが考える。
まともに考えて、生徒指導室出禁はただごとじゃないな。
「あ! 今何時だ?」
「今? 今は確か……」
俺は辺を見渡し、時計を見つける。
「え。時計あるじゃん」
普通に壁に時計が飾ってある。
「あ、ホントだ」
こいつもしや馬鹿だな?
いや、薄々気付いてはいたんだけどね。
「3時か。なら、あそこにいるな」
「あそこ?」
「そうそう。この時間だと、試練『森林』にいると思う」
試練? 森林?
……。ああ。あの扉の上に『岩』って書かれてた奴みたいなとこか。
「それってどこら辺だ?」
「連れてってやるよ」
「いや、俺は自分で」
「はい到着」
気付くとそこには、上に『森林』と書かれた扉があった。
「話聞けよ」
お前に運ばれるのはなんかやなんだよ。
負けた感があって。
「まあまあ、いいじゃねえか。ほら、ここにいると思うぞ」
「はいよ」
俺は渋々扉を開ける。
そこには、見渡す限りに木が立っていた。
そして、目の前には、恐らく問題児である3人がジャンケンをしていた。
扉の開く音が聞こえたのか、3人はこちらを振り向く。
「なんだ? お前誰だ?」
少し細く、高身長の男が話しかけてくる。
「どうでもいいだろ。ってか、ハンズじゃねえか。何してんだここで。お前も混ざりたいのか?」
もう1人のガタイのいい男が、ハンズを何かに誘う。
「……いや、いいよ。俺は」
話しかけられたハンズは、少し躊躇ったように言う。
「まあ、ほっときましょう。あまりしつこく言うのもなんでしょう。さて、先の続きといきましょうか」
やけに色白な男が話を戻す。
……何か知らんが、少しやる価値はあるかもな。
「おい。その遊び、俺も入っていいか?」
隣のハンズから、馬鹿という声が聞こえる。
しかし、俺は構わずに続ける。
「何やってるのかは知らないけど、面白そうじゃん」
少し態度をでかくして言う。
こうでもしないと、震えが収まる気がしない。
何かは分からないが、こいつらにはそういうオーラがある。
「ぷっ。こいつ強がってんじゃねえかよ」
ガタイのいい男が笑う。
そしてなんだこの男。
何故俺が強がってることに気が付きやがった?
そんなにバレバレだったか?
「そりゃあ驚くよな。いきなり図星言われたら」
やはり。
こいつ、人の心が読めるのか?
「やめとけスウィン。困ってんだろうが。入りたいって言ってんだから、入れてやれよ」
「そうですよ。来るもの拒まずと言うでしょう」
「それもそうだな。よし。ルールはそいつから聞いたか?」
そいつとは、恐らくハンズであろう。
特にハンズからは説明は聞いていない。
なにせ、急いできたからな。
「いや、聞いてない」
「そうか。なら、説明してやる。ルールは簡単。相手に参ったと言わせた方の勝ちだ。簡単だろ?」
「参った?」
「そう。参っただ。方法は問わない。もちろん能力ありだ」
なるほど。これがハンズの恐れる理由か。
能力をフルに使い、言ってしまえば、拷問して参ったと言わせるゲームってことか。
「それは、ある程度制限するのか? 殺しちゃダメだとか。怪我を負わせないとか」
「えっと、殺しは無しだ。たが、怪我は全然いい。腕の1、2本くらいなら」
「1、2本!? まじかよ」
今すぐ参ったと言いたいぜ。
早々にこのゲームに参加したことに後悔を覚える。
「では、早速始めますか」
「だな」
すると、3人はジャンケンをしようとする。
「ジャンケンしてどうするんだ?」
「そりゃ、チーム決めだろ。2対1だと数がな。お前が入ってきてありがたいよ」
そうだよな。2対1だと、1人が不利だからな。
ジャンケンで決めてたってことか。
「さいしょーはぐー」
色白な男が掛け声をかける。
「じゃーんけーん」
俺たちは一斉に手を出す。
「ぽい」
結果は、長身はチョキ、ガタイはパー、色白はチョキ、俺もチョキだった。
1人だけ負けだな。
この後どう決めるのかよく分からないので、アクションを待つとする。
「よし! 決まったな」
ガタイのいい男は喜ぶ。
一瞬何を言っているかは分からなかったが、他の2人が落ち込んでいるのを見て、これが普通なのだと気づく。
「またお前が1人かよー。さっきもそうだったじゃねえかー」
「ここは一つ、私に譲ってくれませんかね?」
「だめだね。3対1はスリルがあってたのしいんだよ」
どうやら、さっきの『数がな』というのはこういうことらしい。
恐らく、2対1だと物足りなかったのだろう。
ハンズを誘っていたのもこれが理由のようだ。
あいつは1人の時に少しトラウマになったから、あんなに躊躇っていたのか。
「3対1だと、かなり不利じゃないか? ここは2対2とかでいいんじゃないか」
ハンズの様子を見るに、相当1人はキツいのだろう。
ここはフェアに闘おうと思ったが
「いやいや、それはないだろ」
ガタイのいい男を始め、他の2人もその意見を肯定する。
「とりあえずやってみようぜ。その方がどんな感じか分かるだろ」
「……まあ、そうだな」
渋々承諾をする。
俺たちが本気で襲うってことは、相手は本気で殺しに来るんだよな。
俺、無事に帰れるかな。