チェスクリミナル   作:柏木太陽

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3人の問題児

 部屋の中は特に変わったものもなく、少し物が散らかってるのが気になったくらいだ。

「適当なとこに座ってくれ」

 俺は散らかっている物をどかし、座る。

「でさー、さっきの話なんだけど」

「ん? クラス別何ちゃらか?」

 そんなにそれが好きなのかよ。

「そうそう。クラス別対抗戦な」

「へいへい」

 俺はどうでもいいとあしらう。

「ペアで参加する理由なんだが、これ、なんか怪しいんだよ」

「? 何がだよ。ってか理由知らんし」

「そうか。言ってなかったな。ペアで、つまり2人以上で参加しないといけない理由なんだが、スクール側が『良きライバルと参加することにより、互いに能力を高め合うことが出来る』って言ってんだよ」

 普通じゃねえか。

 普通すぎておかしいって点なら認めるけど。

「それのどこがおかしいんだよ。なんの捻りもない、つまらない理由だけど、特に変って感じるとこは無いぞ?」

「ホントか? よく考えてみろよ。さっき俺はお前に何した?」

 さっきと言うと、握手? いやそんなわけないか。

 理由の説明? な訳ないな。

 ……とすると、

「あの、部屋番号が変わってたやつか? あれは幻覚系の能力か? 俺を騙してたとか」

「そうそれ! けど残念。幻覚系の能力では無いね。俺の能力を教えてもいいけど、お前のも教えてくれるって約束できるか?」

「ああ。別に減るもんじゃ無いしな」

 あと、お前の事をどうしても信用できなかったら、適当に似たような能力を伝えればいいだろ。

「おっけー。じゃあ言うわ」

 随分と綺麗な環境で生きてきたんだな。

 口だけの約束で相手を信用するなんて、俺にはできねえよ。

「俺の能力は超高速で動けることだ!」

「ほー。強いな。なかなか」

「だろ! 強いだろ! お前も一瞬で1311号室に運んできたんだぜ」

 まあ、能力を聞いた時から察しはついてたよ。

 しかし、俺が気づかないうちに運ばれるとは……。普通に1対1で負けるかもな。

「俺は物質の形と強度を変えられる能力だ」

 俺はハンズに敬意を払い、素直に言う。

「おおおおお」

 ハンズはどうやら感心しているようだ。

 やってみせてと言わんばかりに、眼差しを向けてくる。

 俺もはいはいと言いながら、そこら辺の紙を拾い上げる。

 するとその紙は、瞬く間にナイフに変わる。

「すげぇ! ガチで変わった。これ素材紙? どんくらい切れるの?」

 すごい興味深々のようだ。

 まるで初めてみるマジックの様に。

「素材はさっきの紙であってる。強度はどんな物質でも等しく変えられる。切れ味は普通の包丁より切れるくらいだな」

「すげえなお前。感心したよ」

 知ってるわ。感情ダダ漏れだったぞ。

「で、さっきの話はどうなったんだ?」

「そうだそうだ。忘れてた」

 忘れちゃダメだろ。

「さっきの覚えてるか? スクール側の」

「ああ。なんとなくな」

 互いを高め合うとかだろ?

「それ自体は普通なんだよ。ってか普通すぎて面白みがないんだよ。センスの欠片もなくて、普通の中の普通すぎて普通じゃないくらいなんだよ」

「お、おう。だな」

 なに? クリミナルスクールに親殺されたの?

 ……いや、普通に有り得そうな話だから冗談にならんかもな。

 発言するときによく考えるタイプでよかった。

「問題は高め合う存在なんだよ」

「というと」

「俺の能力を体感して分かったと思うけど、俺は強い方の能力者なわけなんだよ」

「まあ、そうだな。正直全然気が付かなかった」

「そこでだ。何故俺が、去年ずっと指を咥えながら、参加もできなくて寂しく過ごしてたんだ? おかしくないか?」

「もっと詳しく頼む」

 もうすこしで分かりそうな域までは来ている。

「そうだな。簡単に言うと、互いに能力を高め合う、つまり能力強化が理由なのに、なんで俺みたいな強い奴が、参加する資格を与えてもらえなかったって事だよ」

 なんとなく分かった気がする。

「強い奴ほどもっと強くならなくちゃダメじゃないか? ジャスターズに推薦する為とか。なのに、なんで強い奴ほど参加人数が少ないんだ?」

 俺に言われてもね。

「まあ、お前に言っても仕方ないよな」

 どうやら顔に出ていた様だ。

「強い奴ほどって、お前以外にも強くて参加できない奴とかいるのか?」

「そりゃもういっぱい」

「何人くらい?」

「俺含めて4人くらい」

「それ、問題児だからじゃね?」

 問題児になるくらいだから、多少強い能力なんだろうな。

「いやいやいや。問題児じゃないから。真面目に授業受けてるし。面倒かったらサボるけど、行く時は行くし。1週間に最低でも2回は行ってるし。先生は2、3回殴ったことある程度で、イジメとかしてないし。なにより、俺に対して先生滅茶苦茶優しいし」

「見放されてるんだな。お疲れ」

 あと、普通に2、3回殴ったって言ってたけど、バチバチの不良じゃねえか。

 俺こんな奴とルームシェアかよ。

 ナインハーズ。洒落にならないぞこれは。

「とにかく。俺は問題児じゃない。他の奴らは置いといて、俺はまともな方だぞ」

「そんなに残りの3人はヤバいのかよ」

「ああ。ヤバいぞ。まあ、言っても俺よりは弱いけどな」

 ハンズはドヤ顔で言う。

 この調子だと、ハンズと同レベルかそれ以上か。

 ここには、俺より強いのが最低でも4人いるのか。

 先が思いやられるぜ。これは。

 特別枠とかいうやつで俺は強いと勘違いしてたが、よく考えたら犯罪起こすくらいだから、みんな強いんだよな。

 調子乗ってらんねえな。

「そいつらに会えるか?」

「今? あいつらに?」

「ああ。今からだ」

 一度でもいいから見ておきたい。

 こいつのお墨付きな訳だからな。

「あいつらどこかなー? 生徒指導室とかか? けど、この前生徒指導室出禁食らったって言ってたしなー」

 うーん。と、ハンズが考える。

 まともに考えて、生徒指導室出禁はただごとじゃないな。

「あ! 今何時だ?」

「今? 今は確か……」

 俺は辺を見渡し、時計を見つける。

「え。時計あるじゃん」

 普通に壁に時計が飾ってある。

「あ、ホントだ」

 こいつもしや馬鹿だな?

 いや、薄々気付いてはいたんだけどね。

「3時か。なら、あそこにいるな」

「あそこ?」

「そうそう。この時間だと、試練『森林』にいると思う」

 試練? 森林?

 ……。ああ。あの扉の上に『岩』って書かれてた奴みたいなとこか。

「それってどこら辺だ?」

「連れてってやるよ」

「いや、俺は自分で」

「はい到着」

 気付くとそこには、上に『森林』と書かれた扉があった。

「話聞けよ」

 お前に運ばれるのはなんかやなんだよ。

 負けた感があって。

「まあまあ、いいじゃねえか。ほら、ここにいると思うぞ」

「はいよ」

 俺は渋々扉を開ける。

 そこには、見渡す限りに木が立っていた。

 そして、目の前には、恐らく問題児である3人がジャンケンをしていた。

 扉の開く音が聞こえたのか、3人はこちらを振り向く。

「なんだ? お前誰だ?」

 少し細く、高身長の男が話しかけてくる。

「どうでもいいだろ。ってか、ハンズじゃねえか。何してんだここで。お前も混ざりたいのか?」

 もう1人のガタイのいい男が、ハンズを何かに誘う。

「……いや、いいよ。俺は」

 話しかけられたハンズは、少し躊躇ったように言う。

「まあ、ほっときましょう。あまりしつこく言うのもなんでしょう。さて、先の続きといきましょうか」

 やけに色白な男が話を戻す。

 ……何か知らんが、少しやる価値はあるかもな。

「おい。その遊び、俺も入っていいか?」

 隣のハンズから、馬鹿という声が聞こえる。

 しかし、俺は構わずに続ける。

「何やってるのかは知らないけど、面白そうじゃん」

 少し態度をでかくして言う。

 こうでもしないと、震えが収まる気がしない。

 何かは分からないが、こいつらにはそういうオーラがある。

「ぷっ。こいつ強がってんじゃねえかよ」

 ガタイのいい男が笑う。

 そしてなんだこの男。

 何故俺が強がってることに気が付きやがった?

 そんなにバレバレだったか?

「そりゃあ驚くよな。いきなり図星言われたら」

 やはり。

 こいつ、人の心が読めるのか?

「やめとけスウィン。困ってんだろうが。入りたいって言ってんだから、入れてやれよ」

「そうですよ。来るもの拒まずと言うでしょう」

「それもそうだな。よし。ルールはそいつから聞いたか?」

 そいつとは、恐らくハンズであろう。

 特にハンズからは説明は聞いていない。

 なにせ、急いできたからな。

「いや、聞いてない」

「そうか。なら、説明してやる。ルールは簡単。相手に参ったと言わせた方の勝ちだ。簡単だろ?」

「参った?」

「そう。参っただ。方法は問わない。もちろん能力ありだ」

 なるほど。これがハンズの恐れる理由か。

 能力をフルに使い、言ってしまえば、拷問して参ったと言わせるゲームってことか。

「それは、ある程度制限するのか? 殺しちゃダメだとか。怪我を負わせないとか」

「えっと、殺しは無しだ。たが、怪我は全然いい。腕の1、2本くらいなら」

「1、2本!? まじかよ」

 今すぐ参ったと言いたいぜ。

 早々にこのゲームに参加したことに後悔を覚える。

「では、早速始めますか」

「だな」

 すると、3人はジャンケンをしようとする。

「ジャンケンしてどうするんだ?」

「そりゃ、チーム決めだろ。2対1だと数がな。お前が入ってきてありがたいよ」

 そうだよな。2対1だと、1人が不利だからな。

 ジャンケンで決めてたってことか。

「さいしょーはぐー」

 色白な男が掛け声をかける。

「じゃーんけーん」

 俺たちは一斉に手を出す。

「ぽい」

結果は、長身はチョキ、ガタイはパー、色白はチョキ、俺もチョキだった。

 1人だけ負けだな。

 この後どう決めるのかよく分からないので、アクションを待つとする。

「よし! 決まったな」

 ガタイのいい男は喜ぶ。

 一瞬何を言っているかは分からなかったが、他の2人が落ち込んでいるのを見て、これが普通なのだと気づく。

「またお前が1人かよー。さっきもそうだったじゃねえかー」

「ここは一つ、私に譲ってくれませんかね?」

「だめだね。3対1はスリルがあってたのしいんだよ」

 どうやら、さっきの『数がな』というのはこういうことらしい。

 恐らく、2対1だと物足りなかったのだろう。

 ハンズを誘っていたのもこれが理由のようだ。

 あいつは1人の時に少しトラウマになったから、あんなに躊躇っていたのか。

「3対1だと、かなり不利じゃないか? ここは2対2とかでいいんじゃないか」

 ハンズの様子を見るに、相当1人はキツいのだろう。

 ここはフェアに闘おうと思ったが

「いやいや、それはないだろ」

 ガタイのいい男を始め、他の2人もその意見を肯定する。

「とりあえずやってみようぜ。その方がどんな感じか分かるだろ」

「……まあ、そうだな」

 渋々承諾をする。

 俺たちが本気で襲うってことは、相手は本気で殺しに来るんだよな。

 俺、無事に帰れるかな。

 

 

 

 

 

 

 


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